0話 対話
クワンウンの提案する脱獄案とは、外に面した鞍馬とチュークの房の窓の鉄格子を、食事に出されるスープの塩分で錆びさせ、破壊する。
そして監視の目を盗んで剛の持っていた針金でチュークが鞍馬とチュークの房と剛とクワンウンの房の鍵を解錠し、四人で鞍馬の房から脱獄する、という物だった。
この計画にはタイムリミットがあり、現在から約一ヶ月後の来月頭に領主・聖職者の裁きによる裁判が待ち受けており、その際に即座にチュークの死罪の宣告、鞍馬達の隷属先、徴兵先が決まり当日中に移送されるため、一ヶ月以内に脱獄しなければ四人の命はないと考えていいという。
またチュークによると、フィルアニアの暦は360日で一年間であり、30日で1ヶ月になる。ただし4年に一度21日間で1ヶ月の閏月がある、閏年を設けているという。
一年間が地球と同じ約365.25日と解明されていながら、所謂太陰太陽暦のままであるのは、宗教的なしがらみが強いからである様だ。
文化の発展、自然植物や建築・農耕文化の相似から地球と似た公転周期、恒星との距離であることは想像できたが、どうやら全く同じと言っていい様子であった。
鞍馬は、電車の線路、車の表面、標識等、現代技術を駆使して作ったはずの物が潮風を浴びると簡単に忽ち錆びてしまうことを知っていたため、それは特別浮世離れした話ではないと確信した。
「ところで剛はどうして針金なんか持っているんだ?」
鞍馬の問いかけに剛が答える。
「俺は家で寝てるところをフィルアニアに連れてこられたから、睡眠中に髪が邪魔になんねえ様にヘアピンで留めてるんだ。持っていてよかったぜ。」
鞍馬はそのとき、自分のポケットにまだ重みがあることに気付いた。すぐにポケットをまさぐると、自分の携帯電話と、遭難中男の死体から拾ったタバコ とライターがあることに気付いた。
「あ、俺ライターとタバコを持っているんだ!もしかしたらライターで炙れば鉄格子を焼けば少し柔らかくくらいはなるかもしれない!」
「そりゃあいいな。ところでタバコを持ってるんならくれよ。こっちに来てから一本も吸っていないんだ。」
剛はそう言って鉄格子から手を出して投げてくれとジェスチャーする。
「俺はタバコは一切吸わないから好きにしてくれ。」
タバコとライターくらいの大きさなら鉄格子の隙間を簡単に通る。そう言うと鞍馬も房の鉄格子から手を出してタバコとライターを投げる。
「お前さんたちの話してることはさっぱり理解できないな。」
自身の計画が前進したというのにチュークは顔をしかめているままであった。
「おい中南海って見かけないタバコだと思ったらパッケージもライターの注意書きも全部中国語じゃねえか。鞍馬はなんでこんなもの持ってんだ?」
「これはこの世界に来てからオークに襲われた死体から取ってきたんだ。韓国人のクワンウンがいるんだから中国人が来ていてもおかしくはないだろう。」
よくわからない理屈である。
「確かにそうだな。しかし俺らは日本人二人に日本語ペラペラのクワンウンでよかったぜ。」
「何を言っているんですか?私はこの世界に来てから全て英語で話しています。あなたも鞍馬さんもチュークさんも英語で話しているではありませんか。」
ここで一同顔を見合わせた。