2話 帰還
その瞬間、背後に回り込んだソンヒョンがゴブリンの首に両手を回し、そのままへし折る。
危なかった、すまない、と身振り手振りで伝える鞍馬。
一難去ったものの、テツヤの出血とエリナの手の火傷の具合を考慮すると、今すぐにでも脱出して本格的な治療を受けるべきである。
しかし足音は半日ほど鳴り止まなかった。
周囲の安全を執拗に確認しながら地下二階へと進んでいく頃には、テツヤはだいぶ衰弱していた。
地下二階を歩く途中、足元の暗闇にもつれ、鞍馬が肩を貸していたテツヤが転倒する。テツヤは起き上がろうとせず、地面の一点を見続けていた。
「テツヤ、すまない、早く捕まるんだ。」
鞍馬が再び手を貸すが、テツヤは上の空だった。
「足を1本失って、豚の糞まみれの檻に囲まれてビクビクして、そこまでして……。」
テツヤがブツブツと呟いている。鞍馬とエリナで励ましの言葉をかけるも、聞く耳を持たない。
地下一階への階段に差し掛かる。先導するソンヒョンが先行し安全を確認する。エリナが続く。あと少しだ、辛抱しろと激励する鞍馬が、テツヤと共に階段を上がる。エリナとソンヒョンには少し距離がある。
「鞍馬、この遺跡の意味、わかるか……?」
「なんだいきなり?わかるわけないだろう。」
「フィルアニア人の名前、おかしいと思わないか?」
「頼む正気を持て!あと少しで地上なんだ!安静にしてからいくらでも話を聞く!」
「違う、気付いたんだ……。おかしいと……思ってた。こいつらの名前……。地名もだ……。」
テツヤは正気だ。何かを伝えようとしている。
「テツヤ!もう少しよ!フィルアニア人も手伝いなさい!」
エリナの声で、テツヤの声は遮断された。
エリナに命じられたアレスが渋々といった表情でテツヤを背負う。
地下二階と一階は入った時と同様、ゴブリンの姿は見られなかった。意外にも簡単に脱出することはできた。
地上への階段を上がる、強い光に目を覆う。今は昼間だったのか。
「なんとか、生きて帰れた……。」
「チカ達は後で弔いましょう……。」
「今は、本部に報告しないと。」
キャンプまでの短い道のり。再び鞍馬ができた。に肩を貸すが、安心仕切っているテツヤは眠りについていた。鞍馬は何度も呼吸を確認する。
キャンプが近付く。騒がしさを感じるが、酒を飲んで騒いでいるのか。鞍馬達は楽観視していた。
森を抜け、キャンプが見える。
そこでは、テントは炎に包まれ、冒険者やギルドスタッフが賊と殺し合いをしていた。




