0話 収監
後頭部に強い殴打の鈍痛を残しながら……。
目が覚めるとそこは石造りの質素な牢屋の中だった。
鞍馬は周りを見回すと、鞍馬のいる牢屋の房は広さ八畳程、片面の壁には足元に30cm四方程の鉄格子のかかった窓があり、反対側の廊下に面している部分も施錠された鉄格子が立ち塞がり、廊下にある松明の灯りを縞模様に漏らしていた。
そして、生活臭と言えば上品に聞こえる、錆びと生物の腐った腐臭が、この上なく鼻をつく……。
激臭の元を辿る様に、辺りを見渡すと房の床には剥き出しの便器が一つ、煎餅布団とも言えない、質の悪い毛布が二枚。
そしてその内の一枚の上に、随分と前時代的な、薄汚れた、いかにも質の悪そうなチュニックを着た、30歳くらいであろうか、髭面の西洋人の男が座っていた。
その男はこちらに気付くと、
「ようやく起きたか。俺はアミジアのチューク(模範囚)・ザ(の)・トラスティ(チューク)。風変わりな格好をしてるお前さんは何て言うんだ?」
「倉と申します、ここはどこですか?都内ですか?」
チュークは理解できないという表情で、ただただ顔をしかめる。
鞍馬は当惑した。とっさに返答したものの、西洋人にしてはやけに流暢な日本語だ……。しかし、会話は成り立つものの、意思の疎通は出来ていない……。
しばらく無言が続くと、チュークは思いついたように、廊下を挟んで向かい側の房を指差し、こう言う。
「やっぱりあいつらはお前さんの仲間か?」
チュークの指の先、向かい側の房には普段、街で見かけるようなカジュアルなファッションの東洋人二人がいた。
「おい、あんたら、こいつはお仲間か?」
チュークは、廊下の先にいる番兵を煩わせないよう、小声で二人を読んだ。
こちらを向いた東洋人は、鞍馬に気付くとこう話しかける。
「おぉ!死んでるのかと思ったぜ。さっき衛兵にどつかれてたやつだな!俺は剛、あんたも気づいたらこの世界に来てたのか?」
そう話しかけて来たのは東洋人の一人、赤いスウェットに派手なロン毛の青年、剛、彼は鞍馬が殴られた際馬上に捕縛されていた青年だった。バイト帰りに友人の家で酒を飲んでいたところ、ウトウトとしていたら突如郊外の森に座り込んでいて、辺りをさ迷っていたところを、騎兵に拿捕されたという。
「俺は鞍馬、この世界ってどういう意味だ?」
釣られて下の名前を答える。
「私はクワンウンと言います、剛さん、私が説明します。」
デニムシャツに坊主頭の、名前から恐らく韓国人なのだろう、彼は自家でネットサーフィンをしていたところ、強い衝撃を感じ、目の前が農地に代わった途端、近くにいた農夫に取り押さえられ、身柄を騎兵に渡されたという。
続いてクワンウンが、騎兵や番兵、チュークに聞いたという話を順に説明する。
彼が言うには、この世界は地球とは違うフィルアニアという世界で、鞍馬達がいるマニスタン帝国というのは800年程昔の中世ヨーロッパの様な国でありフィルアニア大陸三分の一を占める、最も大きな人間の国家である。
マニスタン帝国民は名称こそ違うものの、その全てが地球で言うヨーロッパ系の白人、ゲルマン系、アングロサクソン系、スラブ系とほぼ同様の人種で構成されている。
またフィルアニアにはエルフ、オーク、ゴブリンと呼ばれる非人種族がそれぞれ社会的な秩序を形成し、マニスタン帝国と絶えず戦争をしているという。
先刻鞍馬を拿捕したのは、マニスタン帝国の領地を見張る衛兵であったらしい。