2話 奮戦
「なんだよあいつ!?」
鞍馬が口を開くか否かというタイミングで、鞍馬とユミコと、発火を恐れて剣を振れないエリナ以外のメンバーは巨大ゴブリンに斬りかかっていた。
しかし巨大ゴブリンの強さは想像を遥かに絶する物で、腹に突き刺したソンヒョンの細い剣はそのボディビルダーの様に異常に発達した筋肉に守られ、かすり傷を負わせただけでポキリと折れてしまった。
「え……!?」
驚くソンヒョンは、巨大ゴブリンの前蹴りで、反対側の壁まで吹き飛ぶと、そのまま意識を失った。
続いてマサトの振りかざした戦闘斧を軽々と左手で受け止める。しかしマサトは戦くばかりか微笑を浮かべた。
「今だっ!!!」
マサトの叫びと同時に、素早く後ろに回り込んだテツヤが、巨大ゴブリンの両ふくらはぎを斬る。切断はできなかったが、これでフットワークを奪える。
しかしゴブリンは、振り向き様にバックブローでテツヤを殴る。テツヤは、部屋の中央辺りまで吹き飛ばされてしまう。
振り向いた勢いで膝をついたゴブリンに、マサトが後ろから飛び付き、両腕で首を締め上げる。鞍馬には、体躯に秀でた、身長180センチで100キロ近いマサトが、父親におぶられる子供のように見えた。
「生きてる奴を連れて逃げろ!早く!」
マサトはそう叫ぶが、鞍馬たちは呆然としていたり気を失っていたり、広間の入口付近のゴブリンをすり抜けて脱出する余裕のあるものはいない。
「きゃああああああ!!!」
「やめろ!やめるんだ!」
鞍馬の静止を振り切り、半狂乱になったユミコが入口目掛けて走り出す。装備や荷物を全て置いて、全力で走る。
しかし、ゴブリンは、背後に抱きつくマサトを苦にもせず、空いた両腕でユミコを捕まえると、容易く首を捻折る。
鞍馬は、剣を抜くと、足を斬られ、身動きこそ俊敏ではなくなったゴブリンに斬りかかる。しかし、仲間のこれまでの惨状を目の当たりにしたため、無意識的に長い間合いを取り、所謂へっぴり腰での攻撃しかできなかった。
ただでさえ踏み込んで強く斬らなければいけない強靭なゴブリンには、切り傷を付けることしかできない。
そして案の定、ダメージというより鬱陶しさに苛立ったゴブリンに張り手をくらい、壁にぶつかると膝から崩れ落ちてしまった。
そして背中から思い切り壁に何度も体当たりをすると、その何度目かに壁を突き破り、露出した廊下に、事切れたマサトが倒れ落ちる。
鞍馬とエリナは震えていた。便り甲斐のある、百戦錬磨と言ってもいい仲間が、簡単に殺されてしまったのだ。
鞍馬はダメージ自体は軽い脳震盪であるが、戦意を一切喪失している。エリナは恐慌状態で、ガクガク震えている。ソンヒョンは気を失い、テツヤは部屋の正面向かい側に這って移動し、ユミコが残した荷物を漁っている。ボウガンを探しているのだろうか。
巨大ゴブリンは鞍馬とエリナを一瞥すると、足を引き摺りながらテツヤの方へ歩き出す。鞍馬が逃げるにはもってこいのタイミングだが、先程のダメージでフラフラして立ち上がれない。
巨大ゴブリンが目の前に来て、テツヤに手を伸ばそうと姿勢を低くすると、横たわったままの姿勢でユミコの毛布を被り、左足だけを出してゴブリンと椅子を挟んで反対側に横たわる、人間の死体を蹴り飛ばす。
鞍馬は、グィホンの言葉を思い出した。
「罠は左右対称にある。」
「奥の方にある人間とゴブリンの死体だけは争った形跡がない。」
広間に、二度目の爆発音が響いた。




