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異世界残酷冒険物語  作者: モンゼツナカチョー
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0話 遭遇

初心者ですが、投稿するだけで閲覧が結構多いことに驚き。思っていたより全然規模の大きいサイトなんですね。


もちろん銀幕やテレビ画面の外の死体を見るのは初めてであったが、生存本能的というべきなのか、鞍馬は意外にも狼狽えることなく、自然と冷静に男の分析に移った。


体の状態、体温から死亡してからそう時間は経っていない。


大きな裂傷は、深さや鮮やかさからナイフの様な鋭利な刃物による切り傷ではなく、近くの地形から転倒や滑落によるものでもないとわかる。


地面には森の奥から体を引き摺った後がついており、恐らく熊の様な獰猛な野性動物の爪で引っ掛かれ、体を引き摺りながら逃走してきたのか。


そしてそれならなぜ捕食されていないのか、この森の奥にカジュアルな格好をして倒れているのか、ということは彼も自分同様誘拐されてきたのか、等と鞍馬の疑問は増えるばかりである。




男のズボンの前ポケットをまさぐると、ライターとタバコが見つかった。


このまま人里離れた森の奥をさ迷うなら、必要になるだろうライターをまだ少し温の残る男の手からもぎ取った。


タバコには中南海と書かれている。


一瞥すると、鞍馬は喫煙者ではないが、煙が虫除けかなんかになるかもしれないとタバコも一応自分のポケットに入れた。




そして男の足のサイズを確認すると、男から靴と靴下を脱がせ、自分の足に履かせた。


仏さんから物を取るのは誉められた事ではないが、こっちも命がけだ、そう鞍馬は心の中で自分に言い聞かせ、行為を正当化した。




死体漁りを続け、男のズボンの尻のポケットには何も入っていなく、切り傷を負った後、ここに逃げつくまでに財布等落としたのかもしれないと考えた鞍馬は、地面に積もる落ち葉についた血の後と、身体を引き摺った痕跡を辿ろうと視線を男から外した。


視線を上げると、緑がかった肌色で、異様に筋肉質な二足歩行の怪物が、血糊のついた戦闘用の斧を抱えてこちらに歩いてくるのが見えた。


怪物は腰みのの様な物を着用してこそいるが、豚の様な鼻からは荒い息が漏れ、口からは牙を覗かせ、黒目しかない目は血走っている。


およそ話せばわかり合える文明的で交和的ではなく、両手に抱える血糊の付いた戦斧はホームセンターで購入した日曜大工用品ではないだろうということは、錯乱する鞍馬にも用意に推察できた。


「山岳救助隊の方ですか。」


呟いた瞬間、即座に鞍馬は怪物と反対方向を振り向き、小川の川下の方向に脇目も振らず一目散に走り出した。


怪物も、釣られるように同じ方向へ走り出し、追いかけてくるのがわかった。


多くの前足の短い野性動物は下りの走行が苦手とも言われるが、原則的には川下に逃げる鞍馬の行為は間違いである。


なぜなら、勾配を走って下ることはブレーキが効かなくなり、段差やスリップによる転倒の危険性が増え、沢が途切れた際に道路への復帰が困難になるからである。


しかし鞍馬にそんなことを冷静に考える余裕はなく、怪物の正体はなんなのかという疑問、男を呼ぶために大声を出して怪物を誘き寄せてしまった事への後悔、などといったことで頭がいっぱいであった。




傾斜が緩やかなためかあまりカーブしておらず、直線に近い小川をしばらく走り続けた後振り返ると、怪物はかなり後ろの方にいた。


遭難していたとはいえあまり体力を消耗しておらず、水分を補給してすぐに命の危険を感じて必死で逃げた鞍馬は、筋肉質で巨大な身体を持つものの両手に大きな戦斧を抱えた怪物より早く走る事ができたのだろう。


怪物は鞍馬が振り返っていることに気付くと、大きな、野太い声で怒鳴った。


「マテ!キズツケナイカラトマレ!」


流暢とは言えないが、確かに日本語であった。


とはいえ、もちろん本当に敵意がないのであれば、武器を持って散々追いかけ回した結句、引き離され始めてからそのような発言をする意味はない。

鞍馬はスピードを緩めず、逃げ続けた。怪物も、追いかけ続けた。




鞍馬は闇雲に走っていただけであったが、しばらくすると小川は舗装されていない道路と交差した。奇跡的とも言うべき幸運であった。


振り返ると、怪物は見えなくなっていたが、恐怖心からスピードを緩めることはしなかった。




小川と道の交差点には橋などはかかっておらず、水に濡れ体温を奪われることを危惧した鞍馬は交差を右折し、道路に乗り換え、小川を背に走り続けた。


しばしば振り返ってはいたが、怪物が見えなくなり気配も消えてから暫くすると、緊張の糸とアドレナリンが切れ、自身の途方もない疲労感に気付き、立ち止まると両ひざに手をつき肩で息をした。


一連の動作によって視線を下げると、足元の道路が目に入った。道路幅は大きな車が一台通れるくらいであったが、自動車の車輪の跡等はなく、人と動物の足跡、自転車の車輪程の細い轍があるのみであった。




空の明るさから夕方だろうか、多くの疑問に頭を抱えながら鞍馬が道を暫く歩いていると、正面からこちらに向かって進んでくる奇妙な一団と遭遇した。


そもそも彼は、現在歩いている道に足跡がある時点で人との接触の予測はしていた。


更に言えば、足跡の数や種類、乗り物とみられる轍の後から、少なくとも獣道や私有地でなく、ある程度の人の往来は予感していた。


それでもここに来て始めて、生きている、肌が緑色でない人との遭遇への安堵と疲労、眠気から、完全に警戒を緩めた。


その奇妙な一団は馬2頭に人3人、片方に1人跨がっている、その内の2人、それぞれ馬の手綱を握っている者は、フルフェイスの兜に鎖帷子(くさりかたびら)の鎧、腰に刀剣を差し、背中にバックラーを背負っている。


もう一人、片方の馬の後ろに乗せられている青年は、鞍馬や死んでいた男と同じように普段よくみるカジュアルなファッション、赤いトレーナーにスウェットパンツ、足元は裸足と森の中にはラフすぎる出で立ちであった。


怪しむのが必然的であるが、仮にこの一団を隠れてやり過ごして1人のまま日が沈むと、先程の怪物が分布している森で睡眠や食事を取る必要が出てくる。鞍馬は即座に大声出して保護を求めた。


一団の騎士の格好をした者は武装をしているものの、生きのいい馬に乗り、同じ色・種類の武具を見に纏っているため、何らかの秩序のある集団の一部と判断できる。ということは、何らかの共同体の一員であろうことが想像できる。



一団の騎士の格好をした2人の内、後ろに青年を乗せていない方は馬から降りるとこちらに歩いてきた。


「貴様も無宿人か、身分を明かせ!」


「それより助けてください!あっちに緑色の怪物が!…」


鞍馬がしゃべり終わる前に強い衝撃を感じる。


騎士の格好をした者に腹部を刀剣の鞘で叩かれた。


「………!」


ゴン、と鈍い音が鳴り、更にもう一度衝撃が走る。今度は後頭部を強打された様だ。


薄れ行く意識の中、鞍馬はもう一人の騎士の後ろの青年が、縄で捕縛されている事に気付いた。




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