1話 再会
その後はエリナにシーロンの街を案内してもらったが、案内されるのは、自炊が基本であるコミュニティで当番が食材を買い集めるための市場や乗り合いの馬車の停留所、薬屋や診療所など、今後の生活に必要な施設の紹介が主であった。
その道中立ち寄った鞍馬とエリナであったが、エリナは何も言わずに鞍馬用の靴や服をエリナ持ちで買い求める。店内で立ち尽くしていた鞍馬は、武器屋での値段交渉を始め、エリナの強気な交渉術にただただ感心すると共に、外堀を埋められ、もう完全にエリナの属するブラックアイのコミュニティに参加せざるを得なくなったことに気付いたのだった。
日が暮れると、エリナがよく行くという大通りにある酒場に連れていかれた。その酒場は、ギルドに併設されている酒場とは違い、店内も綺麗で、客層も悪くなく、出される料理も調理法や味付けこそギルドのものと変わらないものの、完成度は抜群に違っていた。
地球の料理には遥か及ばないものの、フィルアニアに来てからは間違いなく一番の出来だろう。
鞍馬もそのころにはすっかりエリナの巧みな話術に翻弄され、この世界に来て初めてのエールビールを気分よく飲んでいた。
しかし、食事に舌鼓を打ちながらエリナとの会話を楽しむ鞍馬に、ほろ酔い気分を一気に覚ます様な思いがけない事態が起こった。
鞍馬がひだりてに持ったエールの木製のジョッキを傾けていると、突然右肩を叩かれた。
ふと振り返ると、その瞬間右頬に強い衝撃が走った。
エリナの悲鳴と同時に鞍馬は体勢を崩し、椅子とテーブルを吹き飛ばしながら地面に倒れこむ。
恐怖と驚きで硬直する鞍馬が頭を上げると、そこには左手で右手の手首を握り、手首から先をプラプラを振るソーンの牢屋の看守、デイビーが立っていた。
「てめえ、こんなところで女連れで酒飲んでるとは随分度胸のある逃亡犯じゃねえか。」
デイビーは蹲る鞍馬の髪を右手で掴むと、壁まで引きずっていき、鞍馬の頭を壁に打ち付ける。
そして壁に押し付けたまま片手で鞍馬の首を掴み、デイビーの目線まで持ち上げる。
「おいブラックアイのゴキブリ野郎、あのときはよくもやってくれやがったな。テメエらを絞首刑にしてやる。」
「デイビー、生きていたのか……?」
首を絞められ、掠れた声でなんとか声を出す。
「おかげさんでな、あのときはてめえらのぶちまけた糞で手が滑ったのか、気を失っただけだったぜ。
それでも傷口から入ったてめえらの糞のせいで病気して最近まで寝込んでたんだ。
シリアルキラーのトラスティー相手であの幸運は、てめえらを殺せっていうサジュードの思し召しだぜ。」
「ま……待ってくれ……チュークが……シリアルキラー……?……あいつはこそ泥じゃ…なかったのか?」
「あ?あいつがこそ泥?あいつはここらじゃ誰もが知ってる凶悪犯だよ。捕まえた時だってすぐに殺せばよかった。裁判を待つからこんなことになったんだ。」
鞍馬に捲し立てるデイビーの後ろで、エリナが剣を構える。
「やめなさい、これ以上の一方的な暴行は許されないわ。」
「なんだてめぇ、こいつは無宿人の逃亡犯だぞ?庇うってのか?」
「この人は無宿人ではありません。冒険者として身分証も持っています。それでも不当逮捕監禁するというのであれば、ギルドに報告します。」
「何いってんだこのクソ女!」
デイビーが振り返った瞬間、エリナは剣の柄をデイビーの腹に突き立てる。
デイビーが呻き声を上げながら床に崩れ落ちると、エリナは鞍馬の手を握る。
「今の内に逃げましょう!」