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異世界残酷冒険物語  作者: モンゼツナカチョー
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1話 交渉

「仲間に鞍馬のことを話したら、みんな歓迎していたわ。一人で生き抜いてきたのはすごいって。」


鞍馬はフィルアニアで決して一人で生き抜いてきた訳ではない、しかし今後仲間になる可能性のあるものにこの事を話すメリットはないだろう。


「草むしりをしてただけさ。」


「でも、強盗やモンスターに襲われたり、病気にかからないのはすごいよ。」




事実、鞍馬は衛生面には極力気を付けていた。食事はギルドの酒場でしかとらないし、水も飲料水をギルドの酒場にて購入していた。

ギルドの酒場は、内装も綺麗とは言い切れず、客層も最悪だが、提供する食事の火はよく通り、水も比較的清潔で、宿でも掃除、マメな換気、手洗いうがいを徹底した結果、シーロンについた直後は衰弱しかけていた鞍馬の健康状態も回復していた。




「うん、まあラッキーみたいなものだよ。事実死にかけたことは何度かあるし。君らこそすぐに冒険者になって仲間を集めて、立派としか言いようがないよ。ただ乗りするのは申し訳ないくらいだ。」


「全然気にしなくていいよ。私達も仲間が増えることにはメリットがたくさんあるし。」




二人は大通りに出る。大通りはギルドのある貧民街とは違い、路面は石造りで舗装され、立ち並ぶ建物も石やレンガの造りのものが多い。しかしゴミやたむろする人々も多く、舗装され、また下水道ももちろん完備されておらず、水捌けの悪い道路には腐った水溜まりが散見される。


「そうならいいんだけど、そうだ、その集まりに俺が入ったら何をすることになるんだ?料理なんてできないし、お使いかノロマな家の掃除がいいとこだぞ。お金だってなぁ、銀貨がこれだけだ。」


「それだけあれば十分よ。一人で頑張ってよく溜めたわね。ショートソードと肘当てでも買いましょう。」


「仲間になってくれたら、まずは他の仲間と戦闘訓練ね。私達はシーロンから2日くらいの、リージョンの大外にある遺跡を探索したいの。ゴブリンがたくさんいるそこに行くために、しばらくはゴブリン狩りね。」


ゴブリンとは、見た目の雰囲気こそ鞍馬が初日に合ったオークの様に緑色で鋭い牙を持ち、二足歩行をするものの、大きさは半分近い120センチメートル程で、知能もオークに比べると著しく低く、言葉もなく群れで生活するが社会は形成されていない。


頭が大きく、手足が短く餓鬼のように腹も出ているため、筋力も弱く与し易いという。


鞍馬も薬草採取の途中に何度かみかけたが、戦闘こそしなかったもののオークの時のような威圧感は一切なく、与し易いというのも間違いではないと思った。


「なるほど、それは心強いね。仲間はみんな強いの?」


「えぇ、私達はほぼ全員一ヶ月半くらい前にアドミッションフィーは完済しているし、ずっと戦闘訓練をしているから。それに、地球でいいものを食べていたからかわからないけど、なぜかブラックアイはフィルアニア人より一回り強いの。」




牢屋でチュークと揉み合いになった際、人生で人を殴った経験のなかった鞍馬が、アウトローのチュークに油断を付かれながらもほぼ互角であったのはそのせいであろうか。





「なるほどね。なるべくブラックアイだけで遺跡を探索したいから、そちらとしても戦闘員の頭数が必要な訳か。100%善意よりよっぽど信用できるよ。」


「もちろんそれだけじゃなくて、フィルアニアは物騒だし、いつだって仲間は多い方がいいの。」


喧騒のなかしばらく歩き、鞍馬はエリナに従って一本逸れた通りに入る。


「武器屋っていうのは商店の多い大通りじゃないの?」


「鍛冶屋は判官半民の大きなものがあるけど、武器屋はシーロンには一つしかないの。そもそも武器を必要とする人が少ない上に、戦時には毎回徴用されるから。」




そうこう話している間に、武器屋へ着いた。武器屋は大通りに多い石造りの綺麗な雰囲気はなく、貧民街と同じく木造のあまり大きくはない店だった。商品の武器を飾るマネキンやケースがせわしなく並ぶ店内には、大柄で小太りの店主らしき男と、脇に用心棒らしき男一人、店の外に番兵一人の計三人であった。大きいとは言えない店に大柄で強面の男が三人、少し異質な感じがあった。


「なんていうか、迫真だね……。」


鞍馬は呟いた。


エリナはしばらく店内を物色したあと、鞍馬から財布を引ったくると、店内の隅にある、剣先が丸くなりかけている、鉄製の長さ60~70cmのショートソードを指差し、店主にこういった。


「あの剣を銀貨8枚で売って。」


「ブラックアイの嬢ちゃん、値札がみえてえのか、こいつは銀貨10枚だ。」


鞍馬の所持金は銀貨10枚には満たない。かといって武器を買うために他人に貸しを作るつもりもなく、他の商品を探すべきだと思ったが、エリナは粘り強く交渉を続け、ついには鞍馬の所持金丁度で買い求めた。




店主から、ショートソードとサービスの鞘を受け取りながら、鞍馬は考えた。そもそも交渉で浮いた銀貨1枚程度、何日か働けば簡単に稼ぐことができる。それをわざわざ交渉で浮かせたのは、エリナが自分に恩を売るためか、それとも単なる守銭奴根性か。それとも自分を有能な人物であると思わせて仲間に引き入れるためか、そう考えたところでハッとした。


「エリナ、俺の金全部使っちゃったよね?」


「そうね、もうギルドの宿舎にも泊まれないし、行くところなくなっちゃったわね。もしよかったら私達の仲間に入る?」


エリナの笑顔を見ながら、なるほど、ブラックアイ相手であっても油断はできないと、鞍馬は思った。



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