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異世界残酷冒険物語  作者: モンゼツナカチョー
10/42

0話 展開


鞍馬が房に来て10日程経過すると、スープをかけて削り続けた鉄格子は、元々の劣化もあってか、かなり見た目に変化が出てきた。


というのも、まず穴や赤錆が明らかに目立つようになってきた。


残りは空洞になっている鉄格子の裏、つまり牢の外に面した部分だけになったのだが、鞍馬達はここで慢性的な問題に悩まされていた。


一つは栄養失調、勾留中のひどく質素な食事に加え、肝心な塩分補給の源であるスープを5人分全て鉄格子にかけるために使ってしまい、朝晩パン2つとスープの具である僅かな野菜と、薄い燻製肉ではどの栄養分も満足に取れるはずがない。


鞍馬達は常に活力の無い状態で、だらりと寝そべり日中を過ごす。特に剛は肌が荒れはじめてきた。


次に腹の具合である。勾留中に出される水は言うまでもなく、ミネラルウォーターでも水素水でもない。ソーンの村を流れる川か井戸からの汲み置きであり、すなわち雑菌の繁殖した状態にある。浄水処理されていない水に慣れていない鞍馬達は昼夜を問わず激しい下痢に悩まされた。


房内での排泄は、水洗式で温水洗浄機などついていれば理想的だが、現実(フィルアニアでの出来事を現実と認めるべきか鞍馬達には葛藤があった。)は簡易便器、つまりおまるの様な木製の箱に排泄し、溜まったら看守に取り替えてもらうシステムである。

言うまでもなく特別に不潔であり、音も臭いも拡散を防ぐ手段などはなく、隣の房からは日に何度も慟哭が聞こえた。


衰弱している鞍馬達に更に追い討ちをかける出来事があった。


鞍馬が収監されてからというもの、看守には住み込みで働いているバーデン所長、夜番として交代で来る若く新米のベイル看守の二人であったが、二人共に食事や毛布の要求の実行こそしないものの、鞍馬達には同情的で甘く、見張りの目を強くすることはほとんどなく、居眠りをしたり牢屋を留守にすることも多かった。


しかし近くのシーロンへの報告と休暇を終えてソーンに帰ってきたデイビーが看守の仕事に戻ると、事態は一変した。


デイビーが初めて鞍馬達の元に表れたのは鞍馬の収監から2週間程経った午後であった。


突然の近付いてくる足音に、鉄格子を削る作業を中断した鞍馬達が目にしたのは、スキンヘッドに口ひげ、男性でも小柄が多いと聞くフィルアニア人にしては大柄、175センチ程であろうか、それにこれもフィルアニア人には珍しいらしい肥満気味の体型。大袈裟に地面を踏みしめ、ブーツの足音を響かせながら房の前を通り、その吊り上がった青い目での一睨みは鞍馬の達に恐怖を与えるには十分であった。


「バーデン所長は休暇を取ってご家族のおられるシーロンへ帰られた。代わりの看守が俺様、デイビーだ。俺はバーデン所長の様に甘くないから覚悟しやがれ。」


鞍馬は直感的に理解した。鞍馬がフィルアニアに来た初日、出会い頭に鞍馬を殴り付け、有無を言わさず拿捕した甲冑姿の男と同じ声・同じ背丈だ、と。


「てめえがあのチュークザトラスティか。」


そう言うとデイビー看守はどこから持ち出したのか、温厚なベイル看守とバーデン所長が見せたこともなかった懲罰用とみられる棒切れで、鉄格子の隙間越しにチュークを殴り付けた。鈍い音をたてながら肩を殴り付けられたチュークは、痛みに呻き声をあげながら房内で蹲る。


「なにしてんだてめえ!」


剛が自身の房の鉄格子を掴み、声を上げる。


デイビーは振り向き様に懲罰棒で鉄格子を握る剛を指を叩く。


「ぐあぁあぁぁあああああ!痛え!」


痛みにのたうち回る剛の右手の指は折れ曲がり、血がにじんでいる。


「ソーンにもブラックアイの黒いゴキブリ野郎が四人もいやがるのか。」


棒で叩かれた二人が蹲ってうなり声を上げるなか、デイビーは冷静に話した。


「裁判の後奴隷か兵隊になる我々を痛め付けて価値を下げてもいいのですか!?」


房の隅に避難したクワンウンが、怯えながら反抗する。


「ブラックアイにはてめえみたいに屁理屈を捏ね回す野郎が多いと聞いている。てめえは飯抜きだ。」


話しながら房の奥へ歩いていたデイビー看守の足音が止まる。


「一人は女じゃねえか。しかも中々の上玉だ。ブラックアイの女はいいと聞くが、おまえはどうなんだ?」


デイビーは一度棟から出ると、どこからか持ってきた鍵を使って扉を開け、セーラの房に入る。


ボゴ、と懲罰棒の鈍い音が鳴った。


・・・


デイビーが去った後、セーラの泣き声、剛の呻き声を聞きながら、鞍馬は立ち尽くして自分だけ何もされなかった安堵と、恨みのあるデイビー看守に対して恐怖から自分だけ何も反抗できなかった悔しさが、交互に噛み締めた。


交代後、クワンウンはデイビー看守の虐待をベイル看守に報告したが、新米の自分には何もできない、すまないと思っている。と、申し訳なさそうにするのみであった



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