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異世界残酷冒険物語  作者: モンゼツナカチョー
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1話 フィルアニア大陸

書き貯めが50000字ほどあるので、それに手直しをして1500文字前後を毎日投下していきます。

フィルアニア大陸の北部にあるマニスタン帝国南部の街シーロン市郊外にて、(くら) 鞍馬(くらま)は来る日も来る日も薬草採集していた。




この世界フィルアニアにおいては、薬草と言っても、食べれば一度に傷病が癒えたり筋力が跳ね上がるといったことはなく、滋養や強壮、栄養価に優れた食材となるものや、所謂漢方薬の様な物がほとんどで、稀に若干の興奮作用のあるものが存在する程度である。


そういった、謂わば取るに足らない植物を如何に大量に集めたところで、得られる代償も雀の涙程であった。




しかし武具防具がないばかりか、戦闘のノウハウもあるはずのなく、所属している冒険者ギルド内でのステータスもかけだしの鞍馬はバウンティハンティングや害獣駆除、護衛、リージョンと呼ばれる不可思議な地域での仕事等実入りのいい任務のお鉢が回ってくるはずもない。

よって鞍馬は冒険者ギルドへのアドミッションフィーとその際の手数料、ギルドに斡旋された宿の賃料を含む生活費、上記の仕事を請け負いに必要な信用と武具防具の購入資金のために、薬草集めや荷積み、農家の収穫の手伝いや工事建設の作業員といった丁稚じみた仕事を休みなしで行う他選択肢がなかった。




ギルドに所属したばかりの鞍馬でも請け負うことのできる仕事の内、薬草集めは鞍馬が最も得意としている仕事である。


なぜなら地球で生活している時に、見たことのない草はその多くが何らかの効果のあるフィルアニア特有の薬草である場合が多く、幾つかの雑草の種類さえ覚えてしまえば、直ぐに価値のある薬草を見分けることが可能になり、即戦力となり得たのであった。




鞍馬に毟られた薬草は、ギルドに納められると、食品や医薬品等に加工するため、然るべき施設に送られ、加工されたものは鞍馬の住むシーロンの街や周辺の村に輸送されていく。




空が赤くなりかけていることを認識した鞍馬は、ここ最近の草毟で痛めた腰を抑え、中腰から、身体を真っ直ぐに伸ばすと、手に着けていた革の手袋を外し、背負っている、薬草と思しき植物で一杯になった篭に放り込むと、踵を返して帰路に着く。




くたびれた身体にむち打ち、辺りが暗くなっていく中、街の明かりを便りに約二時間程歩くと、シーロンの街へ到着する。



シーロンの街はマニスタン帝国でも5本の指に入る大都市であり、皇居程の広さの城塞の内部に領主の住む城と、約5000人が暮らす市街地がある。



城門が閉ざされるギリギリに城塞内に帰り着くと、人気の疎らになったシーロン城と城門を結ぶ大通りを横目に、脇道に逸れて貧民街の方面へと歩を進める。


貧民街は、木製のあばら家がせせこましく並び、通りの真上には洗濯物が干しっぱなしとなっている。狭い道の脇には物乞が眠り、酔客が伏し、ごろつきのグループがたむろしている。


また石畳で舗装され、掃除夫が毎朝掃除をする大通りとは違い、貧民街方面の路面は未舗装であり、雨や家畜たる牛馬の糞、生活費排水や家庭ゴミ、窓から撒かれる糞貯めの中身で常に泥濘み、強烈な異臭を発し続けている。


大雨の時などは、シーロン地方特有の水捌けの悪い土地柄もあって、泥濘(ぬかる)みが建物の一階に浸水することすらある。





そんな通りを真っ直ぐに通り抜け、ギルドに到着してから、小一時間程、報酬受付にて仕事を終えた冒険者達の長い列に並ぶ。



ポリバケツより一回り程大きい篭一杯の薬草の報酬査定は言うまでもなく非常に長時間を要する、そのため痺れを切らした後ろに列ぶガラの悪い男達に恫喝され、何度も列の一番後ろに列び直すことも少なくはない。


今日は運よく、後ろに列ぶ冒険者たちからは罵声が飛ぶのみで、実力行使に出てくる者はでてこなかった。


今日の報酬は銅貨三十枚。銅貨には、国教の預言者たるサジュードのもったいぶった笑顔が刻印されている。


ギルドの斡旋する宿が一泊につき銅貨十五枚、ギルドに内接した酒場での食事が一食銅貨五枚であることを考えると、ほとんどその日暮らしにしかならない代償である。


更にその中から、ギルドのアドミッションフィー、手数料と、それを分割払いにして支払うための手数料延べ銀貨三枚、つまり銅貨三百枚を工面し、武具防具を買うために貯金もしなければならない。


そのためアドミッションフィーを完済できない冒険者は多く、又ギルドの仕事の実態は、その8割以上は所謂日雇いの単純労働がほとんどである。




長い査定を終え、報酬を受け取ると、鞍馬はギルドに内接する酒場に向かう。


酒場はいつも賑わいを見せており、フィルアニア人冒険者が騒々しく騒ぎ立てる傍ら、店の隅に、数人のブラックアイと呼ばれる、鞍馬の様に地球から転移してきた者たちが静かに食事をとっている光景は定番となっている。


鞍馬はそれらのどの卓にも混ざらず、空いているテーブルに腰を下ろし、ウェイターを呼ぶ。


ウェイターに銅貨七枚を先払いして定食と酒を注文すると、酒場の隅にいる男に近寄る。


男は、マントに黒いフードを被る、如何にも怪しい出で立ちであるが、荒くれ、ならず者の吹きだまり、犯罪者の隠れ蓑になっているギルドでは誰も気に止めない。


鞍馬は男の隣に腰を下ろすと、懐から取り出した麻袋を男に渡す。


男はそれを受け取り、袋に手を突っ込み中身を軽く確認すると、袋の重さや大きさを目分量で計る。


「兄さんはそこいらの奴と違って雑草を混ぜて量を誤魔化したりしない。ビジネスのわかる奴だ。」


と言うと、鞍馬に銅貨五十枚を渡す。


「まいど、明日からも頼むぜ。」


鞍馬は金を受けとると特に返事もせずに自分の卓へ戻る。




鞍馬とこの素性のわからぬ男の出会いは、草毟ばかりしている新入りがいるとギルド内で話題になり始めた頃、この男の方から接触してきた、この男が言うには、ギルドから雑草と認定され、正式な査定では廃棄される植物の中に、興奮作用と軽い幻覚作用を持つ植物があるといい、ギルドを通さない個人的な売買を申し出てきたのだった。


鞍馬ははじめの頃こそ悩んだものの、性急に金が必要なこともあり、渋々申し出を受け入れた。


鞍馬が渡した植物が、どのように加工され、どのような人々に売り捌かれ、その結果彼らはどうなるのかは、考えないようにしている。




鞍馬が自分の席に戻るとすぐ、丁度いいタイミングで定食と酒が出てきた。


定食はパンとスープとラム肉の単純な組み合わせである。


その全ての味付けは単純且つ質素で、鞍馬がこの世界フィルアニアに来てから食した全ての食べ物同様、美味とは言い難い代物である。


しかしながら男所帯の冒険者ギルドに隣設しているため、主な客層をほぼ冒険者で占められているこの酒場の食事はかなりのボリュームであり、量に不満を持つことはなく、毎食安上がりに満腹になることはできる。


そして酒は、恐らく小麦と芋を浸して発酵させただけであろう、質の悪い自家造酒であり、こちらの味わいも最悪の代物である。


この世界にも、エールやワイン、ブランデーのような物もあるが、そういったものは高価であり、鞍馬は少なくとも負債がなくなるまでは手を出そうとは思わない。




早々と食事を済ませ、酒場の上階にある宿に帰る。


宿は、風呂なし、全ての一般客間共同のトイレ代わりとなる汚物入れからは吐瀉物と排泄物の悪臭が漂い、明かりはランタンが有料でレンタルという、はっきり言って非常に粗末な物であるが、値段のリーズナブルさとギルドへの近さから、我慢する他なかった。


最も、リーズナブルさにおいては銅貨五枚で泊まれるプランもあるが、それは四人部屋にすし詰めとなり、得体の知れないならず者と同室する度胸は、鞍馬にはなかった。


鞍馬は自身の部屋に入ると、テーブルに財布の中身をばら蒔く、全財産銀貨十枚に銅貨数十枚。


鞍馬は、恐らくこれだけあればギルドの負債をチャラにして、簡単な武具を買い求めることができるだろうと考えた。



明日は仕事を休んでギルドへの支払い、装備の買い物に費やそう、鞍馬はそう決めると、床についた。




鞍馬が荒いベッドに入る頃にはもう夜更けであり、毎日の目覚めである日の出前の時刻からの行動によって溜まった疲れから泥のような眠りにつく。


深い眠りに落ちる最中、鞍馬が思い出すのは、今から二月程昔、この世界に来てからの一ヶ月間の出来事であった。



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