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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第七十八話


 しばらくそこで時間を潰していた俺たちだったが、アーフィが思い出したようにぽつりと呟いた。


「そういえば、騎士たちがハヤトのことで色々言っていたわよ? みんな、あなたがかなり強くなっていることに期待もしているし、疑いの目を持っている人もいたわ。……何か、危険なことはないかしら?」

「大丈夫だよ。あれはむしろ、撒き餌だよ」

「撒き餌? それは、おいしいの?」

「俺からすればおいしいね。……俺が強いということを広めることによって、確かにアーフィの考えるようなデメリットもあるよ。けど、メリットもある」


 アーフィが小首をかしげる。

 ……あまり話したくはなかったが、アーフィならばいいか。


「俺が強いっていうのが城のみんなに知れ渡れば、それだけ敵側を追い詰めることになるだろう?」

「つまり?」

「焦って敵が行動を起こすかもしれない、って考えているんだ」

「……その場合、ハヤトが危険になるかもしれないでしょう?」

「……まあ、ね」


 ぐっと握る手に力がこもり、顔が近づく。


「あまり、危険なことはしないでね。……死なれたら嫌よ」

「……わかってるよ。その代わり、アーフィもだよ。死ぬような危険な真似はしないこと」

「……そう、ね。それじゃあ、約束よ」


 笑顔で頷く彼女に、俺も首肯を返した。

 と、しばらくアーフィが俺の横顔を見つめてくる。

 ……どうしたのだろう。気にしないでいたのが、さすがに突っこまずにはいられなかった。


「……何か、顔についている?」

「……その、わがままを頼んでもいいかしら?」

「何?」

「私を……その抱きしめてくれない? あと、いやならいいのだけど……」


 それこそ、ラスボスにでも挑むような決意を目に宿したアーフィが、俺を見てきた。


「もっとだ。もっとぎゅっとしてくれない?」

「えーとその、これ以上は……恥ずかしいというか」

「うーん……」


 上目遣いに見てくるアーフィが、急かすようにたたいてくる。駄々をこねる彼女の叩きは、俺でなければたぶん骨がいかれているほどの強さだ。

 仕方ない。男らしく、思いっきり抱きしめようか。

 ぎゅっと彼女を力強く抱きしめる。……柔らかさと彼女の香りで、頭の中がおかしくなりそうだった。


「……落ちつくわね」

「人肌には落ち着くかもしれないけど、慣れない状況にさっきから心臓が痛いよ」

「凄い、どくどくいっているわ。照れているのかしら?」


 からかってきたアーフィだが、彼女の顔も真っ赤だ。


「それはアーフィもじゃないか?」

「……ふふ、そうかもね」


 あんまり慣れていないのはお互い様だ。

 俺だって彼女がいた経験はないし、アーフィだってそれは同じだろう。

 お互いに体を近づけ、お互いの体温を感じる。

 抱きついてきたアーフィの心臓の音が聞こえる。

 ……緊張はしたし、恥ずかしい。けれど、この時間は凄く嬉しく、貴重なものだった。



 ○



 次の日の朝。あまり夜は眠れなかったが、それでも一度起きられれば眠気はすっと消えていく。

 朝食をとったあと、すぐに竜車に乗ってアスタリア迷宮へと移動する。

 竜車に揺られながら、俺は御者台のほうへと声をかける。


「レベッカ。御者は他の騎士に任せて、こっちに来てくれ」

「な、なんでしょうか?」


 訝しむような、怯えるような顔だ。別にとって食べたりはしないっての。

 彼女にも今日は手伝ってもらうことがある。

 内容を伝えた途端、彼女は竜車から飛び降りようとした。


「なにしてんだ!」

「嫌です! 無理です! 死んじゃいます!」

「竜車から飛び降りても危険だろ!?」

「でも死にません! 無理ですよ! 私も戦闘に参加する!? しかも三十五階層の!?」


 ……そうだろうか。

 レベッカのステータスを聞いたところ、彼女はレベル14という高ステータスであった。

 騎士団長はレベル21あるらしいのだが、レベッカは他の騎士よりも頭一つぬけている。


 レベルの上がりやすさというのは人それぞれであり、その成長も様々だ。

 レベッカは比較的ステータスの上がりもよく、後はもう少し落ち着きをもちさえすれば、小隊を任せられるような優秀な人、だそうだ。騎士団長がそう言っていた。


 だから、レベッカには魔法使いしかいないこのパーティの盾役を頼んだのだが……彼女は涙を振りまくように首を振っている。


「助けてくださいぃぃ、アーフィさん!」

「わ、わかったわ。ピンチのときは私が助けにいくわ!」

「今助けてくださいよぉ!」


 いまいちかみ合っていない彼女たちに、俺は割り込む。


「落ち着け、あくまで敵をひきつけるための囮としてだね」

「し、しんじゃいます!」

「頑張れ」

「そんな言葉だけでどうにかなると思っているんですか!?」


 と、いっても今日の俺はあくまで彼女たちを見守る、予定だ。

 竹林たちも、青い顔をしている。


「おいおい勇人。オレたち確かに成長しているけどよ、さすがにきつくね? オレ腹痛くなってきたんだけど……」

「けど、職業レベルをあげるためには、こっちのほうがいい。そうだろ、レベッカ?」

「えと、その」

「朝聞いたことをこいつらにも伝えてくれ」


 今日は、職業技を覚えるために、彼らにも積極的に戦闘を行ってもらう予定だ。


「あまりしっかりと調べたことはありませんし、個人差なのかもしれませんが……例えば、貴族の子どもは雇った冒険者たちにレベル上げを手伝ってもらうことがあります。……けれど、なかなか職業レベルはあがらない、というのは良くある話です。実際、私もそうでした。それに、ステータスは自分で戦ったほうが上がりやすい、というのも聞きます。……試練を乗り越えてこそ、という感じです」

「つまり、これからおまえたちには試練を乗り越えてもらうってわけだ。もちろん、戦闘の経験をある程度つんで、危険だと判断したら俺が助太刀に入る。だから、安心してくれ」


 彼らの職業レベルをあげるためにも、少しでも自分たちでの戦闘時間を増やしてもらうほうが良い。

 だが、基本ステータスをさらにあげておくことも大切だ。

 現在の彼らは、魔法使いのくせに、騎士たちにも負けないステータスだ。

 レベッカは、彼らに比肩するステータスを所持している。

 

 ……まあ、俺としては騎士団長クラスにきてほしいというのが本音だし、黒羽が暇ならきてほしかったが、彼と騎士団長は城のほうで色々と作戦をたてている。

 災厄はいつ来るか分からないため、防御を固めること、当日の精霊の使いたちの動きについて話しているらしい。

 城の周りにはたくさんの罠魔法が設置され、今も防御を固めている状況だ。

 

 それがうまくいってくれればよいのだが……。

 そんなことを考えながら、アスタリア迷宮に到着した。

 レベッカの絶望顔とは打って変わって、竹林たちはそれなりに力強い顔をしている。

 

 決意に満ちた顔だ。諦めて開きなっている、という人もいるかもしれない。


「レベッカ、それじゃあ三十五階層に移動しよう」

「……わかりましたよぉ」


 すっかり肩を落としている。そういえば騎士団長は、彼女のこういった部分を治してほしいとか言っていたな。

 常に一番ではなく二番を狙うスタイル。無茶なことはせず、状況を見てすぐに諦める……らしい。

 悪いことではない思うんだけどね。

 ……つーか、騎士団長は、俺をこいつらの師匠と考えているらしい。


 別に俺が教えられることはない。ただ、彼らの手伝いをしているだけなのだから、そういう目でみるのはやめてほしいものだ。


 今日でもっとも大事なのは、とにかく職業レベルをあげ、戦闘に役立つ技を増やすことであった。

 そのために、数名での戦闘を繰り返してもらう。

 第三十五階層に全員が集まり、二つのグループに分ける。

 まずは魔法使い六人組みだ。


 彼らのうち、竹林を除いた六人とレベッカでチームを組む。

 六人パーティを組み、俺は彼らを後ろから見守る。

 そうしながら、アーフィは竹沢と一緒に経験値稼ぎだ。


「いやぁ……こんな美女と一緒にレベル上げができるなんていいねっ」

「おい、竹林。下手なことしたら、おまえのレベル上げは二度と手伝わないからな?」

「いやぁ、お二人さん仲いいな」


 俺の反応が楽しいようで、竹林が笑う。

 ……アーフィは美人だ。俺には不釣合いなほどにな。

 だから、少し心配でもある。彼女が他の誰かに心が移るのではないか、と。

 そんな目を向けていると、アーフィが俺のほうを見て、笑った。


「……なんだ?」

「いえ、なんだかいつもとあなたの表情が違うみたいだから、少し嬉しいのよ」


 ……意味が分からんが、アーフィは何か嬉しさを感じたようだ。

 そんな場面あったか? 首をひねりながらも、魔物がやってきて竹林とアーフィによるレベル上げが始まる。


「ああ、もう……帰りたいです」

「そんなレベッカに朗報だ。今日はなんと、全員分の昼食も持ってきている。これで、一日中狩りができるぞ」

「いやぁ!」


 俺たちはある程度離れた場所で戦闘を始める。

 アーフィたちのほうはまるで心配ない。

 レベッカも文句をつけながらも、第三十五階層の魔物であるゴブリンの色違いと対峙していた。


 人間の血を彷彿とさせるような真っ赤なゴブリンは、げらげらと笑いながら近づいてくる。

 そのゴブリンは……もはや低階層のゴブリンとは比べ物にならない動きと力だ。

 六人全員でゴブリンを取り囲んでいたが、ゴブリンはその状況を意にも介さない。

 ゴブリンの攻撃に弾かれるようにして、土山が下がる。


「エンチャントアース!」


 土山が現在覚えている魔法は、武器に土属性を付与させるものだ。

 まあ、これを発動することで多少武器が頑丈になり、攻撃力もあがるらしいのだが、その効果が素晴らしいと実感した場面はない。


 土山がロッドを持って突進する。もともとは野球部であったためにガタイが良く、その振りぬかれた一撃は白球ならばバックスクリーンへと放り込まれていたかもしれない。

 ゴブリンはしかし、それを片手で止めた。馬鹿にするようににたりと笑い、土山の顔が強張る。


 そこへ、川端が駆け込む。男二人は、それなりに前線で戦うのになれているが、女性陣は今も一歩ひいた場所にいる。

 ……まあ、ステータスは男性たちのほうが筋力、体力が高い。といっても、20程度しか違わないため、女

性陣ももっと戦闘に参加してもらいたいものだ。


 ゴブリンは土山のロッドから手を離し、川端を見る。川端は、土山に比べ軽そうなロッドを振り、敵の注意をひいたところで下がる。


「アクアバリア!」


 そして、川端は全員に水のバリアを張る。あれはダメージを抑えるための水のバリアだ。

 川端が後退したところへ、海峰と安光がヒールを放つ。それによって、川端が消費した水のバリアの分の霊体が回復したようだ。


 そして、海峰と安光は戦線から離れて、霊体を解除する。自然回復によって、回復できる回数を増やすという作戦だろう。

 ……バランスはいいんだよな。せめて、川端と土山が前衛系の職業ならば。

 明沢は、探知魔法しかないため、敵の注意をひきつけるくらいしか役目はないのだが……戦闘への恐怖か体を硬直させてばかりだ。


 レベッカが、ゴブリンへと剣を振りぬく。しかし、なかなかあたることはない。たまにあたったとおもえば、ゴブリンが持っている何かの骨で受けるのだから、レベッカの顔は顰められる。

 返しに振りぬかれたゴブリンの骨を受け、大きく弾かれる。……ゴブリンの小さい体からは信じられない強さだ。


「レベッカ、剣を使うときにもっと技術を意識しろ。力で負けているんだから、受け流して回避に専念しろ」

「そ、そんなこと急に言われてもですね! うわっきゃお!」


 さらにゴブリンがもう一体出現する。さすがに二体の相手をさせるわけにはいかない。

 俺が飛び出し、そのゴブリンを捕まえる。首を絞めるようにすると、ゴブリンの鳴き声が周囲へ響く。


「ば、馬鹿! ゴブリンといいますか、魔物の悲鳴というのは別の魔物を呼び寄せるのですよ!?」

「レベル上げが簡単だね」

「それはあなただけです!」


 弱らせたゴブリンを抱えるようにして、土山に近づけ彼がごつんと頭を殴った。

 それによって体力がゼロになり、素材だけが残る。

 さて……明沢をみると、彼女の体がびくんと跳ねる。顔がどんどん青ざめていく。

 ……探知に魔物が引っかかったのだろう。アーフィたちのレベル上げも捗るといいね。

 

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