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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第七十五話

 城から竜車で、一時間ほど……。

 途中魔物に襲われることもなかったし、何より城にいる竜は体が頑丈で、素早かった。

 前よりもはるかに早く移動できたのは、御者をつとめた騎士の腕が良いのもあるだろう。


 アスタリア迷宮近くで竜車から降りるが、レベッカがつれてきた二名の騎士がその竜車を見張ってくれる。

 ぴっと敬礼をしながら俺たちを送る姿に、侮蔑などの色はない。

 ただ、一人が俺と目があい、がたがたと震えている。


 ……そんなに怖かったか? これからその視線が増えることも考えながら、迷宮へと向かう。

 アスタリア迷宮は……何もかもが懐かしい。

 第一階層で、しばらく昔を思い出してから背後にいたレベッカに声をかける。


「レベッカの移動で、第何階層までいける?」

「え? 一度だけ、第三十階層にまで行ったことはあります。けれど、あ、あそこは魔境ですよ!」

「いいから。俺の実力はわかっているだろ?」

 ゆっくりと説得する時間も惜しい。自慢するような口ぶりでいってみるが、それでも彼女は首を振る。


「い、いくらなんでも無理ですよ! 聞くところによると、アキト様たちが選りすぐりのメンバーで行っても勝てなかったんですよ?」

「その選りすぐりよりも、俺とアーフィが組んだほうが強いだろうさ」


 落ち着かせるために自信にあふれた顔で伝える。


「……ほ、本当ですか?」

「ああ、本当さ」

「……うーん」


 渋っていたレベッカであったが、腕を組んだ後に頷いた。ただ、危険だった場合すぐに帰ることを約束させられた。

 三十階層に降りてもらい、まずは俺、竹林、明沢の三人だ。


 一般的な森系の迷宮であり、第三十階層でも恐怖をかきたてるような景色がないのが救いだな。

 とはいえ、遠くから聞こえる遠吠えには明らかに力がこもっている。


 ……人数がレベッカ含め、九人いるため二度にわけないとだ。俺が周囲に敵がいないのを確認したところで、レベッカが残りの回収に向かう。


 がたがたとパーティメンバーが震えているなか、レベッカも俺にくっつくようにして周囲をみやっている。

 まるで小動物のようだ。

 俺の背中に張り付くようにしていて、俺としては照れくさい部分があった。

 けれど、彼女の気持ちも理解できないではない。だからこそ、指摘はしなかったのだが――。


「レベッカ、離れてくれないかしら」


 アーフィが黙っていられなかったのか、きっと睨む。

 アーフィの美しい片目に射抜かれ、レベッカの体が跳ねる。

 ぶるぶると首を振った。


「こ、こんな場所で一人にしないでくださいぃぃ……っ。怖くて死んじゃいますよ!」

「悪いアーフィ、少しこらえてくれ」

「……むぅぅ」


 アーフィが頬を膨らませている。

 ……可愛い、と思ってしまい、もうちょっと見ていたいとも思ったが、あまり彼女を放置して後で仕返しをされたら命に関わる。


「よしレベッカ。もう役目は終わりだ。また、後で迎えに来てくれればいいぞ」

「そ、そんな! 騎士としてあなた方だけを殺すつもりはありません!」


 ……勝手に殺すなよ。

 騎士のそんな反応を見てしまったからか、絶望に染まった顔で渇いた笑いを浮かべている竹林たち。


「さて、とりあえず魔物でも探しに……」

「行かなくていいです、帰りましょう! 度胸試しはもう十分ですから! まずは、アキト様たちが攻略できた二十三階層にとりあえず降りましょう!」


 「そこも怖いですけど……」と付け足す。

 俺にすがりついてきたレベッカを、ぱしっと振り払う。


「それじゃあ、ちょっと離れててくれ」

「ま、魔物……! 逃げましょう! 今ならまだ間に合います。逃亡!」

「くっついていると、うっかり斬っちゃうかもしれないけど、いい?」

「も、もう……どうなっても知りませんよ!?」


 ちょうどこちらへ向かってきたサル――その体は動物園で見たサルと比較して、同じくらいのようだ。

 だが、そのサルの牙はサメのように鋭い。尻尾の先にはナイフのようなものがついている。


 爪は、人間の体なんて簡単に突き刺さりそうだ。薄い鉄くらいならば、貫けるのではないか? と思うようなほどだ。

 レベッカがぶつぶつとそのサルの危険性についてあれこれ説明してくれる。


 魔法の使用はないが、その素早い動きと異常な攻撃を仕掛けてくることから、バイオレンスモンキーと呼ばれているらしい。

 精霊語で、危険なサルという意味だそうだ。

 彼女の解説通り、軽快な動きとフェイントをあわせてくる良い魔物だ。

 サルの尻尾、爪、牙による攻撃をかわし、軽く手で掴んでみる。


「キキー!」

「おまえ、仲間にならないか? こんだけ強かったら、災厄のときに役に立てるだろうぜ? うまいもん食わしてやるよ」

「キー!」

「おっと、怒らせちまったか」


 笑いながら、サルとたわむれる。

 別に本気で遊んでいるわけではない。……まあ、言葉を理解し、俺の手下になってくれるのならば嬉しい限りではあるが……難しいだろうな。


 そういえば、純也の奴が魔物を召喚していたな。

 魔物使いとしての能力か? 賢い魔物だったな、と思い出しながらサルが飛び掛ってきたのを片手で掴み、地面に叩きつける。

 

「ぴぎゃぁ!?」


 サルの声を聞きながら、剣を振り下ろす。

 加減のない一撃が、胴と頭を分断し、その場に素材だけが残る。

 くるっと剣を回し、鞘へとしまう。技術が高いから、ちょっとした見世物のようなものもできる。


「どうだ? これでまだ、不安なのか?」

「……ほ、本気ですか今の? 夢……? ああ、夢ですね」


 そういってレベッカは自分の頬を抓っている。

 痛かったのか、目元に涙を浮かべて蹲る。


「現実だろ? よかったじゃないか、俺の戦いをみれたことを城の人たちに自慢できる。まずは竜車に残っていた人たちと話を楽しむといい」

「……も、戻っちゃいますよ? 大丈夫なんですか?」

「心配しないでくれ。最悪、自力で戻る手段も用意してあるしね。帰りの迎えは、午後六時ぴったりにしてくれ。もしも、俺たちが第三十階層入り口にいなかったら、すぐに戻るように。無駄に探そうとかしないでいいからね」

「……わ、わかりました」


 水分も食料も十分にある。だから、今から四時間ほど狩りを行っても問題はない。

 レベッカは敬礼を残してから、即座に消えた。

 ……あれだけ言っておいて逃げるの早いな。なんて思いながら俺は竹林たちを見る。


「……おまえ、あのサルの動きによくついていけたな。フェイントにオレ何度も騙されちゃったぜ?」

「そりゃあ、なれるしかないよ」


 経験値は戦闘での活躍具合によって、分けられる。

 ただ、トドメを刺したという点は高く評価されるというのはわかっている。


 俺とアーフィで限界まで弱らせ、トドメをさしてもらう。ただ、俺の場合はステータスを所持しているため、経験値の分配が発生してしまう。けれど、アーフィにそれはないため、討伐したクラスメートにまるまる経験値が入ることになる。


「それじゃあ、とりあえずは優先してレベルをあげていく奴を指名する。まずは竹林だ」

「お、オレかい?」


 ステータスを確認して、一番レベルが高かったからな。どれだけ効率が良いかはわからないが、とりあえずはもう一人近接で戦っていけるようになれば効率がまた変わってくる。


「そういえば、職業レベルってのはどうやってあげるんだ?」

「普通に戦ってればあがるらしいぜ。オレは、まだ一だけどさ」


 ……となると、やっぱり俺は職業の数だけ経験値が分配されてしまっているのかもしれない。ものまねの弱点なのかもしれない。


「職業技ってのはその人の性格や環境によって別々のものが取得できる。レベル2で攻撃魔法を獲得できる可能性を上げるために、みんな攻撃的な思考を持つようにしてみてくれ」


 これは本の知識だ。

 こくりと頷き、みなが顔を険しく怒りを前面に押し出す。これが正しいのかはわからないが、色々やってみないとな。


 川端がぐっと手を上げる。彼はにへらと気の抜けた表情とともに口を開く。


「僕はさ、いま仲間の防御力をあげる魔法覚えてるし、比較的体力のステータスが高いんだよね。だから、仲間のサポート系の魔法覚えようとしても、おーけ?」

「ああ、全然構わないよ。まだ完全には把握していないし、自分で目指す像があってそれがはっきりしているなら、俺も何も言わないよ」


 全員がそれぞれステータスを取り出し、自分を見つめなおす。

 ……俺としては、長所を伸ばしてくれればそれで良いと思っている。

 けれど、あくまでこれは個人の問題だ。俺がこのようにしろ、といったところで伸びやすさが変わるわけでもないだろう。


 全員が終わり、いざ出陣、といったところで、ひょいと手があがる。

 明沢だ。眼鏡をかけた彼女は長く伸びた髪で顔は隠れている。


「私は、その……魔物を探知する魔法を所持しています」

「本当か?」

「は、はい!」


 俺の反応が大きかったからか、びくりと身を竦ませてしまう。

 ……さっそく彼女に使用してもらうと、びくりと体を震わせる。


「ま、魔物がたくさんいます!」

「だろうね」


 迷宮の一階層あたりの魔物の数には限界がある。基本的に冒険者がいるときにその限界に達することはない。


 魔物の復活よりも冒険者が狩るほうが早いからな。

 だが、ここは人が訪れない階層だ。魔物が減ることはないだろう。


「とりあえず、三十一階層を目指しながらレベル上げだ」

「えぇ?」

「そっちのほうが効率よいだろ?」

「そうかもしれないけど……オレたち生きてかえれるかな」

 

 竹林の言葉に苦笑しながら、魔物と戦っていく。

 竹林たちが一撃で仕留められるように弱らせる必要がある。


 バイオレンスモンキーを弱らせながら、他の人に攻撃をさせる。もちろん、俺が猿を捕まえたままだ。


「力は五割くらいかしら」

「アーフィはそんなものか?」

「そうね……ただ、魔物ごとに少し違うようだから、細かい調整も必要のようだわ」


 アーフィが弱らせた魔物を仕留めた川端が、顔を見開く。


「れ、レベルあがった……」


 だろうね。経験値全部もっていけるのだから、効率を考えるならアーフィ一人に任せたほうがよい。

 俺も竹林に弱らせた魔物を処理してもらいながら、迷宮を移動していく。


「ま、魔物の反応がもうほとんどありません……」


 一時間くらいだろうか。ようやく第三十一階層への階段を見つけたところで、明沢がそういった。


「竹林、レベルは?」

「11だ……なんつーか、効率よすぎじゃね?」

「職業レベルはまだか?」

「ああ、けど、これでオレ一人でもどうにか身を守ることくらいはできそうだな」


 ……まあ、低階層ならば魔法使いの彼でも問題ないだろう。職業レベルはやはり自分で戦わないとあがりにくいのだろうか。


 ならば、ある程度までレベルをあげたら、個人で戦闘を行い、少しでも経験を積ませるのも良いかもしれない。

 第三十一階層へと降りながら、途中休憩を挟む。


 竹林はずっと彼の武器である杖を振り回していただけに、疲れているようだ。

 そんな感じでさらに下の階層を目指しながら、レベル上げを行う。第三十四階層までついたところで、五時半をすぎてしまう。


 今日の狩りはこのくらいにしないとだな。

 一応、全員のレベルあげはでき、彼らの平均レベルは11となっている。

 ステータスはだいぶマシになってきたし、何より魔法使いの割りにそれぞれのステータスの伸びが面白かった。


 近接での戦闘も必要になる可能性がある……そういった意識が根底にあるからか、彼らのステータスでは筋力や技術もあがってきている。

 補助魔法には、防御力を向上させるものもあるし……あとは職業レベルがあがり、お互いの補助や魔法攻撃などを覚えてくると面白いチームになるかもしれない。


「それじゃあ、第三十階層に戻ろうか」


 ためしに第三十四階層に出現する巨大ヘビと彼らだけで戦闘させてみたが、やはりまだまだきつかったみたいだ。

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