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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第七十四話

「明人……。おまえはこの世界に残るのかもしれないが、言っておくが過去の精霊の使いは誰一人としてこの世界に残っていない。つまり、全員はどうしてかこの世界を去っているんだ。わかるか? おまえも残っていられると思っているのか?」


 俺が出した結論はこれだ。大精霊は俺たちをこの世界に残すつもりはないのではないのではないか、ということだ。


「そいつらは元の世界に未練を残しているからだろう? そいつらは残る選択をしなかっただけだ」


 ……さあ、どうだろうな。

 定かではないが、過去にだって力に溺れ、この世界に残ることを決断した奴らはいるはずだ。

 ……大精霊は、この世界を守るために行動している。


 大精霊がその考えを基本にしているのならば、この世界に害を残すかもしれない明人たちをそのままにするだろうか?


 俺なら送り返すか、別の世界へと放り投げる。あの大精霊は、この世界のことしか考えていないだろうからな。 


「どうする? そっちは八人でかかってくるのかい?」


 挑発するように明人がいう。


「いや、俺一人で十分だ。ケジメをつけてやるよ」

「……ケジメ? それはこっちの台詞だよ」


 怒りが頂点に達したのか、明人が地面に剣を振り下ろす。

 瞬間、強い光が地面を飲み込み、その一箇所に小さなクレーターが出来上がる。


「……何がだよ」

「桃がどうしておまえに入れ込んでいるのか。それは、おまえがそこそこに何でもできたからだろ? 運動も、勉強もそれなりに出来る。……だからこそ、桃は勘違いしてしまったのさ。その幻想を取っ払うために、俺はおまえに投票したんだ」

「……おまえが、俺をオール1にしたのか?」

「少し違うね」


 苦笑するように、彼がいうと光一郎と純也も笑い出す。


「オレも投票してやったぜ? 桃も諦めると思ってな」

「僕もだよ。弱いキミを見れば、きっと桃も目を覚ますと思ってね」


 ……彼らはそのまま笑い出す。

 全員が、犯人か。……考えていないわけではなかったが、まさか本当にそうだとは思わなかった。


 確かに、大精霊の言っていた内容では、二票以上あればオール1になってしまう。

 一票以下ならば、オール三倍のボーナス。ああ、単純なルールの中で、彼らの票が俺に集まっただけだ。


「……そうか。最初から、俺はおまえたちの何でもないってわけか」

「ようやく気づいたかい? そして、これから俺の剣の錆となるんだ! 俺たちに貶められ、何もできない無力さを噛みしめるんだな」

「……おまえら、本気でやるっていうのか?」


 ……殺すつもりはないが、出来る限り痛めつけることになるだろう。

 だから、最後の確認だ。ここで、少しでもひいてくれるのならば、霊体を破壊したところでやめてやる。


「当たり前だよ。俺はね、おまえが憎いんだよ! 桃にいつも好かれている! どうしてだ! 顔だって性格だって俺のほうが何倍もマシだ! なのに、どうしてだ!」


 知るかよ……そんなこと。

 彼の激怒に対して、俺は顔を歪めるしかない。

 剣、拳、鞭……それぞれがそれぞれの武器を構えた。


「な、何をしている!」


 騎士団長が野次馬をかきわけるようにして飛び出してくる。

 ……ちょうどよかった。


「騎士団長さん、悪いけどここから先は子どもにはちょっと刺激が強い。血になれていない、貴族たちもすぐに避難させるようにしてくれ」


 騎士団長に一方的に伝え、それから明人たちを見る。


「裏切られたなんて考えなかった。全部、大精霊が仕掛けた罠だってなっ。信じなければよかったな!」

「はははっ! 能天気な奴だね!」


 明人が大声で笑うと、光一郎たちもつられて笑みを浮かべる。


「もういいだろう? 始めようか、一方的な虐殺をね!」


 明人が剣を構えて突っこんでくる。光を纏いながら、彼の剣が振りぬかれる。


 襲い掛かってきた明人の剣を片手で掴む。……霊体なしで止められる程度か。霊体をまとい、その剣を握りつぶす。


「なぁ⁉︎」


 驚愕の顔へ拳を叩きつけると、派手に吹き飛ぶ。

 右から伸びた鞭を剣で切り裂き、その霊体へとつきたてる。

 背後からの拳によって霊体が崩れる。


「てめぇら! 油断するんじゃねぇ! 所詮は雑魚だぜ!?」


 それでも俺は生身の体で固めた拳を、光一郎へと振りぬいた。

 彼の拳と正面からぶつかり、光一郎の体が吹き飛ぶ。


「お、おい……今の霊体をまとっていなかったか?」


 貴族がぼそりと呟く。

 ……さすがに、生身の体の力まで異常だと怪しまれるか?

 いや、精霊の使いとして特別な力を与えられていた、とでもいっておけば騙せるだろう。


「人が手加減してやったら、これかい!?」


 明人が取り出した剣を振り下ろす。

 俺が剣を振り上げると、明人の剣が弾かれた。

 がらあきの体へ剣を振り下ろすと、明人の霊体が崩れる。

 ……時間はそれほどないんだよな。


 光一郎と純也もすぐに立ち上がる。

 倒れた明人の両肘、両膝を逆方向へと折り曲げる。


「ぐっべ!?」

「これで、終わりだ」


 それで明人を騎士団長のほうへと放り投げる。どうせ城には優秀な薬がいくつもあるだろう。

 リルナも秘薬とか持っていたしね。


 それでも飲ませれば、すぐに回復するだろう。

 明人の悲鳴はさすがに優秀なだけあるな。貴族たちの悲鳴にまざってきちんと聞こえる。


 光一郎と純也はそれぞれ顔を合わせ、息を飲む。

 まさか敗北するだなんて考えもしなかったのだろう。いまさらになって、焦りがあるようだ。

 もう遅い。


「お、おい。おまえ、本気でやるわけじゃねぇよな?」


 言葉は必要ない。とっくに、謝罪で終わるときは過ぎているっての。

 光一郎が逃げるよりも先に、俺は彼へとぶつかる。すぐに霊体を再展開し、彼の霊体をはぐ。


「や、やめろ!」


 霊体に頼り切った彼の拳が、俺を捉えることはない。彼の両腕を浅くきりつけると、予想以上の叫びが耳を破る。

 ……体が高揚する。このままもっと痛めつけていたい感情が出てくる。


 なるほど、これがステータスに飲まれるということか。頭は冷静に、それはいけないと命令を送る。そうして俺は最後の一人純也をみる。

 彼のペットが俺をみて唸る。さすがに、こいつを痛めつけるつもりはない。


 強く睨むと、ペットは全身を逆立てるようにして、後退する。


「お、おい! やれよ! 僕の命令を聞け!」


 しかし、ペットはそれ以上の反応を返さない。賢いのだろう。俺とやりあっても、勝てる見込みがないとわかっているようだ。

 ゆっくりと近づいていくと、彼の鞭が俺の体をかすめる。


 俺の霊体はその一撃で消滅する。途端に彼の顔に笑みが浮かび上がる。


「はっ、はははーっ! 霊体の体力も考えずに突っ込むからだ馬鹿め!」


 ……どうやら、さっきのを見ていないようだ。彼の鞭をかわし、再度霊体を展開する。

 彼はそれを見て、壊れたように笑う。


「う、嘘だ。どうして僕たちがこんなに一方的にやられているんだ……ずるしたに決まっている! どうしてすぐに霊体が治るんだ! おかしいだろっ!」


 彼の言葉はもう無意味だ。俺は見下ろすようにして、彼へと拳を振り抜いた。何度か殴っていると、慌てた様子で背中から押さえられる。この感触はアーフィか?


「……もう、気絶しているわ。殺すつもりはないのでしょう?」

「そうだったな」


 ……なるほどな。

 この感覚に身を任せているのは悪くない。なんでも出来るような全能感がいまの俺にはあった。


 感情の暴走ではないな。

 ……たぶんこれは力に溺れさせ、その力をさらに得たい、見せびらかしたいという気持ちだ。


 つまりは大精霊は、これを意図的におこし、より成長させるために使っているんだ。

 大精霊からすればなんでも良いのだろう。力をつけ、災厄を撃退、討伐してくれればそれで。


 周囲のギャラリーたちが今もまだ静かに俺たちを見ている。

 振り返り、右手を軽く動かす。その瞬間、貴族たちが逃げるように動き出す。


 さっきの明人たちが脳内に浮かんだのだろう。


「あー、こいつらの手当てしてくれ」


 騎士に伝えると、怯えながらこくこくと頷く。

 ……殺したくもない。地球人を殺すのと、異世界人を殺すのは……俺の中で少し違う。

 彼らを殺して地球に戻ると、嫌なことを思い出す。


 と、俺たちの騒ぎを聞きつけてか、リルナの姿もあった。

 そんな中に黒羽がいた。

 彼は驚いたように目を見開いていた。

 振り返り、俺は両手を広げ、出来る限り落ち着かせるように伝えた。


「これが俺の今の力だ。これくらいあれば、災厄に向けて、少しは可能性もあるんじゃないか?」

「……俺が考えていた戦力よりもはるかに越えている。一体どんな訓練を積んだんだ?」

「一人で迷宮に入っていたから、経験値が多く入っていたのもあるだろうな。それと、アーフィの協力もあってな」


 そう簡単に伝えると、黒羽がちらと彼女を見た。

 彼の顔も少しだけ優しさが見えた。


 竹林たちを見る。……彼らはさすがに頬をひきつらせていたが、それでも逃げ出されるようなことはなかった。


「それじゃあ、少し邪魔が入ったけど、迷宮に行こうか」

「……おまえ、すげぇつえーんだな。こりゃあ、予想以上だったぜ」


 竹林が駆け寄って来て、のんびりとした声をあげる。彼なりに気を遣ってくれたのかもしれない。

 

「なんだ、まだ俺をオール1だと思っていたのか?」

「へへ、少しな」


 お互いに冗談をいいながら、歩いていった。

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