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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第六十六話 二十五日目、二十六日


「宰相さんが、ねぇ?」


 ホテルの一室――。窓から差し込む光はなく、外を闇が支配している時間に、リルナは大きく目を見開いていた。

 ……この話の内容が、それほど彼女の心に深く響いたのだろう。


「……それで、どうだったの? 何してた?」

「わからない。仮面をつけていたから顔は見られていないと思うが……」

「本当に宰相さんだった? あの人……あんまりいい噂は聞かないけど、パパは信頼しているんだよ?」


 疑いたくなるのも無理はない。

 けれど俺は彼女にこくりと頷くことしかできなかった。

 一瞬寂しげな表情を作った彼女は、しかしそれから顎に手をやる。


 リルナの横顔には賢そうな様子が窺える。

 一生懸命に思考を重ね、今彼女は状況を飲み込もうとしている。

 邪魔をしないよう俺はじっと横顔を見ていると、しかしリルナはあっけらかんといった。


「まだ、あの人の可能性が百とは限らないかな。あの人、忙しいからこんな場所に来る暇もないと思うんだけど」

「……ああ、そうかもね」


 俺はあの男が何かを企んでいるのではないかという疑いを持ち続けている。


「宰相さんに似た別人、それかハヤトの見間違いー! ってのもあるよね?」

「見間違いじゃないだろうね。けど……変装はありえるかもね」


 ……職業技でそんなものがあるってのは聞いたことがあるし。


「とにかくだ。残り五日だし、城に戻ろうと思うんだ。リルナはどうする?」

「うーん、あんまり戻りたくないかな」

「どうしてだ?」

「……国は今荒れているよ。精霊の使いを自分の手駒にしたい貴族、その手駒にした精霊の使いを材料に、貴族同士は結託をして、問題が山積みしているの。お姉ちゃん、お兄ちゃんも……王の座を狙ってあれこれとやりとりしている」

「王ってのは、長男が引き継ぐとか決まっているんじゃないのか?」

「ううん。王家の中から、貴族の投票で決めることになっているんだ。……貴族からすれば、どれだけ自分の考えを通しやすいか、自分にとって都合の良い国となるか……そこに重点を置いて選ぶことになっているの」


 ……選挙、みたいなものか。

 となれば、リルナもそこに入っているだろう。

 しかし、彼女はふるふると俺の考えを理解したように首をふる。


「私はもともと女王になんて興味なし! みんな仲良く出来ればそれでいいの! だから、私は馬鹿っぽーくしているんだ! ……この私を、城に良くくるような貴族のみんな知っている。お姉ちゃんも、お兄ちゃんも、みんな私のこれを知っているから、私をライバル認定なんてしないの。今ものんびりと学校に通っているしね。私賢い!」

「……色々、大変なんだな」


 笑顔をふりまいているリルナだが……王女なんだし色々と抱えていることもあるだろう。


「うーん、そうかな? けど、楽しいからいいよ。……過去には、家族同士で殺しあったなんてのもあるんだ。そういうのは……嫌だから、出来るかぎり穏便に決まってくれるといいんだけどなぁ」


 そんな風に憂う彼女に、今回の件について相談したのは間違いだったかもしれないと思ってしまった。

 ……何もなければそれでいいのに、無駄に心労を重ねてしまった。

 頭をかいていると、リルナが顔を寄せてくる。


「それで? アーフィとはどんな感じなの? チューした?」

「……してねぇよ」

「え、したんだ? どんな感じだった!?」


 ……そんなに分かりやすい?

 何度も聞いてくるリルナが鬱陶しかったので、逃げようとするが、扉のほうに先回りされる。


「教えてよー!」

「おまえだって、好きな人の一人か二人いるだろ? 試してみたらどうだ?」

「いないよ、そんなの。私、自分の恋愛には興味ないのっ。王女だし、下手な相手と結ばれても相手に迷惑かかるしね」


 ……リルナって、考え方がシビアというかなんというか。

 それでも俺は彼女にこのことを伝えるつもりはない。だって恥ずかしいしな。

 どうにかリルナを引き剥がし、部屋から脱出する。自室へと戻ってくると、疲れた顔のアジダがベッドに腰かけていた。


「よっ、ベルナリアから解放されたのか?」

「……そういう言い方をするな。ベルナリア様も、きっと怖かったんだ。だからわざわざ俺にあそこまで……あそこまで……」


 顔を真っ赤にして、彼は首を振る。

 ……こいつも大変そうだな。

 彼の隣のベッドに腰掛け、俺は横になる。アジダが電気を消し、それからぽつりともらした。


「助かった。おまえのおかげでどうにかベルナリア様を助け出すことができたんだ」

「……あいつは強かったか?」

「ああ、強敵だったさ。それはもう――」


 そこから彼は他の楽しそうに語っていく。

 それを子守唄がわりに、眠りについた。



 ○



 いよいよこの迷宮都市ともおさらばだ。

 短いはずの日にちだったが、濃い時間だった。

 迷宮都市外で待機していた竜車に乗り込み、俺たちは学園へと向かっていく。

 横に滑っていく景色の中で、俺はカレッタとポーカーを楽しんでいた。

 そうしながらも話すことはこれからのことだ。

 

「キミはこれからどうするんだ? 学園への用事ももうないだろう?」

「そうだな。……ちょっと用事があるし、しばらくは別行動をさせてもらうよ」

「そうかい。寂しくなるね。ファリカもいなくなって僕はまた学園で一人ぼっちだよ。……なあ、旅に出るのなら僕もつれていってくれないか? キミといると色々と楽しめそうだ」

「やめておく。俺の旅についてこれるか? それに、おまえは……公爵として色々あるんだろ?」


 迷宮都市について、カレッタの発言は重要となってくる。 

 彼は椅子に深く座り、それからカードをテーブルへと投げる。


「……僕も平民のように自由に世界を移動したいね」

「平民になるなら、旅をしながら金も稼がないとだぜ?」

「なら、お金持ちの平民になりたい」


 ……強欲な奴だな。

 ただ、カレッタの発言も理解できる。俺だって、自由と金が両方とも手に入るなら、それが最高だ。

 通路を挟んで隣に座っている桃たちのほうをチラと見る。

 ……アーフィ、桃、リルナと話をしている。


 アーフィも、俺と一緒に城まで連れて行くのか?

 もうリルナは連絡をし、学園に竜車を用意してくれている。

 まだ、アーフィには話していなかったな。


 問題は山積みだ。けど……リルナなら、アーフィのことも任せられるような気がする。

 俺が地球に戻ったあと、アーフィ一人では不安だ。リルナの護衛……とかそんな役職につけるのなら、それは最高だ。


 後で、リルナにさりげなく聞いてみるか。他種族について、とか。

 竜車に揺られながら……今日で別れが多くなりそうだな、と外へ視線をやった。

 学園へと到着し、すぐに街へと向かっていく。

 

「カレッタ、色々と世話になったよ、ありがとな」

「いやぁ、それは僕のほうだね。キミがいなかったら僕たちは今もたぶんあの迷宮で人質となっていたよ。キミには感謝してもしたりない。困ったことがあったらこの屋敷でも、本宅のほうでもいいよ。両親にはキミについて色々と話しておくからさ」


 にこりと微笑んだカレッタが、軽く抱きついてくる。

 ……こういった挨拶はなれない。俺も軽く力を入れて別れを伝えるように背中を一つ叩いた。

 カレッタが貴族街へと消えていき、残っていたアーフィ、リルナ、桃と合流する。


 と、そこに混ざるように、ベルナリアと一言話したあとに、アジダが慌てたようすで走っている。

 ベルナリアもアーフィに用事があるようで、彼女のもとに近づいている。


「おい、ハヤト。おまえどうした? 学園には戻らないのか?」

「……ああ。俺はちょっと用事があって、リルナたちとしばらく行動するんだ」

「……そうか」


 アジダは考えるように桃を見て、それから俺へと視線をずらしてきた。

 彼の視線は俺の目と髪に注目している。……何かを察したのか、彼はこくりと頷いた。


「何があるか断定はできないが、まあ、頑張れ。それと、いつかおまえには再戦を申し込むからな? それまで、精々強くなっておくんだな」

「いいのか? 現状維持でもおまえの成長が追いつくとは思わないが」


 あおるようにいうと、彼はその場で地団駄を踏んだあと、腕を組む。


「おまえを越えるくらい強くなってみせるさ。だから、おまえはそれ以上になっていろ。……貴様は平民だが、俺にとっては一つの目標にしてやる。感謝するんだな」

「……そうか。ああ、もっと強くなっておくよ」


 アジダは満足したようで、一つ頷いて待たせていたベルナリアと合流する。

 ベルナリアたちから一歩ひいていたレキナ、クーナの二人も控えめに手を振ってきたので、片手をあげた。


 ……別れの挨拶はこのくらいか。

 もしかしたら、俺は二度と会わないかもしれない。そう考えると、寂しい気持ちが生まれた。

 風が一つ吹き、体の体温を奪ったところで、アーフィのきょとんとした目が俺を捉えた。


「ハヤト。次はどこに行くの?」

「アーフィ、俺は城に戻る予定だ。おまえも、来るか?」

「もちろんよ」


 明るく微笑んだ彼女に、俺は頷く。


「というわけだリルナ。俺の付き人として、一人くらい増えても大丈夫かな?」

「そのくらいは問題ないかな。あなたちのクラスメートの人とか……それはもう付き人多いしね」

「……そうなのか?」

「……モモー、話してあげて」


 ぴらっとリルナが紙を桃に渡す。

 この国では珍しい綺麗な紙には、王家の紋章が入っている。


「勇人くん、現在の城に残っているクラスメートの状況について、騎士団長から手紙が届いていたそうです。帰りの竜車に乗って状況を把握しましょうか」

「よろしく頼むよ」


 そして、リルナたちについていき、しばらく平民街を歩いていく。

 平民街にある竜車へと向かうと、騎士数名が敬礼をしてくる。


「……そちらの方は確か」

「はい。精霊の使いの方です。あなたたちが良く、馬鹿にしていたオール1の一人ですよ」

「……そ、そんなことはございません」


 くすり、とリルナがからかうように笑う。

 ……へえ、そうかい。

 騎士たちは俺を見て慌てて首を振っている。


 ……それでもどこか顔には小馬鹿にした様子があった。

 こりゃあ、城に戻ってからの評価が気になるところだ。

 グラッセが通信用に使用していた水晶の魔石を見ていたのは、王様だけか?

 

 力、というのは安易に人に見せないほうが良いとも思っている。

 下手に力をさらし、相手に隙をつかれてはたまらない。

 実際俺は、学園の大会でレキナに敗北している。


 ……あれはルール的な問題もあったが、彼女は俺のHPが限りなく低いというのを見破っていたからこそ、最初から全力で仕掛けてきた。

 そういう対策をとられかねないんだ。グラッセのように、魔法連打というのも辛いしな。




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