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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第五十二話 二十二日目 予定

 ベルナリアと同室の人は、ベルナリアが一言大事な話をしたい、といっただけですぐに出ていった。

 なんという圧力だ。

 彼女たちの関係の悲しさに涙を流しそうになりながら、ちらといつも通りのんびりとした顔をしているアーフィを見て俺は落ち着く。


「な、なに……?」


 視線に気づいたアーフィが恥ずかしそうにはにかむ。

 頬を染める顔に、俺は落ち着くことができなかった。

 そんな俺たちを見て、ベルナリアは舌打ちしながら窓のほうを見る。


「見せ付けなくていいんだけど」

「別に俺たちはそういうのじゃない。それよりも……ここに一体何の用事があって誘ったんだ?」

「わかんないの?」

「わかるかよ。俺とおまえは旧友か? 察してほしかったらアジダでも呼んだらどうだ?」

「わかってんじゃない」

「アジダ関係なのか?」


 問うがベルナリアはぶすっとしたまま腕を組むだけだ。

 なんだよこの面倒な生物は。

 俺も彼女に対抗するように黙っていると、アーフィが小首をかしげた。


「アジダが……どうしたの?」

「……アジダの件よ。アジダの」


 だからそこから先が知りたいんだが。

 俺が追及しても厳しくにらんでくるだけだし、アーフィに任せてみようか。


「アジダについて、何か知りたいというの?」

「あたしはあいつの知り合いよ。あんたに聞くまでもないわ」


 聞くまでもない、か。

 知り合いというときのベルナリアのどこか強気な顔。

 ……今のアジダについてもそれなりに知っている、ということか。


「それでは……アジダの件とはなに?」

「……わかんない?」

「わからないわ」


 ベルナリアが苛立ったように眉間に手をやって揉み解す。

 それから、耳を真っ赤にして、顔をうつむかせる。


「……仲直りする手伝いをしてほしいのよ」


 ぼそりと彼女は言って、アーフィは良く聞こえなかったようだ。


「うん? どうしたの?」

「だ、だから……その……仲直りのきっかけというか」

「後半をもう少し大きく言ってくれない?」

「わ、わざと言っているの!? 言いづらいの! 察してよ!」

「最初からそのくらいで言ってくれれば聞き取れるわ!」

「俺は初めからちゃんと聞けたけどな」

「ならあんたが代わりにいいなさいよ!」


 顔を真っ赤にして、その尖った耳の先を弄るようにしてベルナリアはそっぽを向く。


「……ハヤト。仲直りというけど、喧嘩でもしていたの?」


 耳元で囁くように聞いてきた彼女の吐息から逃げるように離れる。


「ベルナリア、簡単に話してもいいか?」

「……な、何を?」

「過去にあったこと。アジダの心に引っかかっていることをだ」


 言うとベルナリアは嫌そうに顔を顰めたが、それから顎に手をあてる。

 そして、アーフィを見て何かを考えたようだ。


「……彼女、アーフィだったかしら?」

「ああそうだ」

「彼女にもちょっと手伝って欲しいことがあるのだけど、それを手伝ってくれるのならいいわ」

「もちろんよ!」

「一応付け足すなら、変なことをさせたら俺が怒るからな?」


 射抜くように睨むとベルナリアがこくこくと僅かに震えながら頷いた。

 ならいい。そんな、脅すようなつもりで言ったわけではないんだが。

 アーフィに簡単に話をしてから、さて……とベルナリアのほうへアーフィは顔を向ける。


「仲直りなんて……謝ればいいんじゃないの?」


 その通りだ。しかし、アーフィの言葉にベルナリアは即座に首を振った。


「そんなことが出来るなら、始めからしているわ。けど、あたしにはそれが出来ないの」

「ど、どうしてだ? まさか……アジダに気持ちを伝えると体が溶けてしまうとか?」

「そうじゃないわ……。彼を見ると、どうしても素直に気持ちを伝えるのが出来ないの。気恥ずかしいわ。あなたはそういうのないの?」


 ベルナリアの問いにアーフィは悩むように首を捻る。


「……確かに少しはあるかもしれないけど……それでも気持ちを伝えずにもやもやしているよりかは伝えたほうが良いと思うわ」


 それは正しいのかもしれないが、凄く難しい生き方だ。

 人間なんてのは本心を大なり小なりかくして生きていく。でなければ、どんな世界でも利口に生きて回るなんてことはできない。


 素直に、本心をさらけだして生きれば、恐らくはぶられていくことになる。

 はぶられなくとも、利用され、ボロボロにされてしまう可能性も少なくはない。

 アーフィはそのあたりをまだ理解していない。それだけが、俺にとっては凄い心配だ。


「あんたは……素直に生きていてもそれを受け入れてくれる人がいていいわね」


 そういって俺の方を睨みつけてくる。

 彼女の考えは間違えている。アジダならば、恐らくベルナリアが謝ってきたら、多少疑いながらも受け止めるはずだ。

 というよりも、彼のほうからさらに謝罪をするかもしれない。


 それほどまでにアジダは自分を責めるような発言をしていた。

 アーフィが難しそうな顔をしている。

 それから、ぽんと手を打った。


「もやもやとしているのか?」

「……そうね」

「それは、アジダのことが好きだからか?」

「はぁぁ!?」


 指摘されベルナリアの顔がぼんっと赤くなる。

 ……えっ? アジダのこと好きなの? 両想いじゃん、と喉まででかかった言葉を飲み込む。

 まずい、アーフィならすぐに伝えてしまうだろう。俺が彼女の口を押さえる気持ちで近づくと、


「違うの?」

「違うわよ! 次にその話したら、殴るから!」

「な、殴られるのは嫌よ。わかった、もう疑わないわ!」


 ……アーフィは別に相手の気持ちなどを察することなどは出来なかったな。

 心配ごとが増えながらも、今だけはホッとする。

 本人たちがお互いの気持ちを理解するのは、お互いが気持ちを伝えたタイミングのほうが良いはずだ。


 恋愛としてみれば、お互いに相手の気持ちがわかれば安心できるかもしれないが……それでは、あまり感動もないだろう。

 苦しんで、相手の気持ちが分からない状況で告白が成功すれば、それによって大きな感動が生まれる。

 少なくとも俺は、そっちのほうがお互いにとっても良いと思っていたから、口を閉ざす。


「それで、ベルナリア。結局おまえはどうしてほしいんだ?」

「……だから、その。アジダと話をする機会が欲しいのよ」


 ……話か。

 俺としても二人にそのような機会を設けたいと思っていたから、ちょうど良い。 

 ただ、その方法が問題だな。アジダに明日ベルナリアが呼んでいるから行ってこい、といっても、彼は怯えながらに行動するだろう。


 それに、ベルナリアのこの面倒な性格だ。彼女がアジダと二人きりになったところで、何か思いを伝えられるとも思わない。

 ……となると、どうするか。


「さっきアーフィに手伝って欲しいことがあるって言っていたけど、具体的に何を?」

「あたしの……話をするときに何か助言をくれないかなって思ったのよ」


 そうか。


「明日は暇か?」

「ええ」

「なら、明日アジダと一緒に遊園地に遊びに行くってのはどうだ?」


 言うと、途端に彼女の顔が真っ赤になる。何かを思いついたのか、顔を真っ赤にしてそれから変な笑いを浮かべる。

 けれども彼女は、途中ではっと気づいたように俺たちを見て、むすっとした顔でそっぽを向いた。


「……嫌に決まっているでしょ。アジダだって、せっかくの楽しい時間を潰すことになるのよ」

「潰すまではいかないだろ。あいつだってたぶんおまえと一緒に過ごしたいと思っているはずだ」


 ……というとぱっと目を輝かせたが、すぐに彼女はそっぽを向いた。


「そんなわけないし。あたしが……どれだけ酷いことをしてきたのかわかる? アジダを馬鹿にしてばっかり……。言いたくなくても、どうしても顔を見ると正直に話せないし……どうしたらいいのかわかんない」

「そこは頑張るしかないだろ。けど、俺とアーフィでおまえのために時間を作ってやる。だから、後は自分で話す内容をしっかりと考えて、それで相手するんだ」


 ベルナリアはそれでも決心が出来ないようである。

 まったく……ずばずば物事を言うわりに決断力はないのか。

 それか、アジダのことを本当に思っているせいか。

 どちらにせよ、俺は明日の計画を伝えていく。


「明日は、俺、アーフィ、ベルナリア、アジダの四人で行動をする。まあ……ベルナリアが護衛を二人連れてきてもいいが、きちんと事情を伝えておくように。それで、どこかで俺たちはおまえたちから離れて、ベルナリアとアジダの二人きりにさせる。後はベルナリア、おまえがアジダに伝えたいことを伝えるだけだ」

「……なるほどっ。確かに環境は良さそうね。けど、問題はたくさんあるわよ」

「なんだ?」

「まず、あたしが絶対その状況になったらダメになるってことよ」

「偉そうにいうなっ。そこは……アーフィ! 素直に気持ちを伝える方法を教えてやれ」

「心にあがった言葉をそのまま口に出すと良いわよ」

「……心にあがった。……例えば、あんた馬鹿そうね? って感じ」


 俺のほうを見ながらベルナリアが言ってくる。

 俺はこくりと頷きながらも、拳を固めてしまう。


「……けど、これでどうにかなるの?」

「なるかはわからないけど、これしかないだろう」


 そういうと、ベルナリアは諦めるように頷いた。


「わかった、わ。あたしは明日、アジダに今までのこと全部……謝罪できるように頑張ってみるわ」

「……そうか。出来るように頑張れよ」


 俺はそれだけを伝えることしかできない。

 ベルナリアは顔を赤くしながらも、明日に対しての期待もあるようだ。

 ベルナリアの部屋を後にする。とりあえず、一つの問題は去ったが……明日色々と考えないとだな。

 俺が考えていると、アーフィが道を塞ぐように移動してくる。

 彼女は迷いを含んだ笑顔を浮かべていた。


「明日、私とも……その、デートをしてくれない? アジダたちと離れたときでいいから」

「……デート、かどうかはわからないけど、一緒には行動するよ」

「そうね。……ありがと」


 返事をすると、途端に彼女の顔には笑みが飾られる。

 と、ホテルの一階まで降りてしばらく彼女と話をしているとファリカが戻ってきた。

 彼女はどこか疲れた様子の顔であったが、こちらに気づくと途端に笑みを浮かべて近づいてくる。


「二人とも久しぶり。相変わらず一緒にいる」

「ふふん、好きな人と一緒にいたいものでしょう?」

「……あんまり大声で言わないでくれ」


 ……恥ずかしいんだよ、そういうの。

 アーフィは感情をぶつけてきすぎだ。


「そういえば、おまえ、騎士学科の先生たちが怒っていたぞ。明日はいるのか?」


 話をそらすようにファリカにいうと、こくりと頷いた。


「うん。明日の遊園地楽しみ。一緒に行こう」

「……えーとその」


 ちらとアーフィを見ると、ファリカはすべて悟ったようだ。


「既に約束済みだった?」

「私の方が先だったわね」


 からかうようにアーフィが笑うと、ファリカがむっと頬を膨らませて俺に抱きついてくる。


「私のほうがきっと楽しませてあげられるはず。だから、一緒に行こう」

「わ、私と行くわよね、ハヤト!」


 不安げにアーフィが俺を見てきて、頷いた。


「悪いなファリカ。明日は他にも用事があって、アーフィと二人でそれにあたっていくつもりなんだ」

「そっか。私も忙しいし……仕方ない」

「……何かあったら、相談してくれ。無理だけはするなよ」

「わかってる。ありがとう」


 ファリカはこちらに視線を向けながら歩きさっていく。


「二人とも、楽しんできてね」


 ファリカの言葉を浴び、アーフィも笑顔で手を振る。

 楽しみな部分も僅かにある。

 だが、ここは迷宮都市だ。ファリカのこともあるし、やはり油断は危険だ。


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