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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第四十八話 二十二日目 到着

 午後――迷宮の第十九階層へとおりて、騎士学科の人間たちは軽く狩りをしていた。

 草原の中で、たまにある木々の間を風が抜け、肌を撫でる。

 獣のうめき声もそれにのって届き、あちこちで戦闘が繰り広げられているのがわかった。


 騎士学科の人間たちによる戦闘訓練だが、俺たちからすれば本当に準備体操程度のものでしかない。

 トーナメントに生き残るような人間たちは、総じてステータスが高い。レベル的には十五程度でも、それ以上の能力を持つ人がほとんどだ。

 それらがチームを組んで連携をとっているのだから、迷宮攻略がそこまで苦労するものではないというのも確かだ。


「ハヤト! 右から魔物がくるぞ! 私は正面のをひきつけるわ!」


 アーフィが後ろを見ずに声をあげ、魔物を適当にひきつける。

 彼女の勘というか魔物探知の才能は本当に感謝しかない。

 おかげで、俺の霊体の不意打ちに弱いという短所を完全に補ってくれている。

 彼女の言葉の通り、右から襲いかかってきた人型の魔物を切り裂く。

 一撃のもとに切り伏せ、アーフィが後退しながら俺が入れ替わるように仕留める。

 

「いやー、やっぱり凄いねぇ……弱点は明白だけどね」


 と、語るのは、今大会でも一位だったレキナだ。


「その弱点はあんまり口外しないでもらいたいんだけどね」

「ふふーん、それはどうしようかな?」


 ……レキナは調子よく笑いながら、拍手をしてきた。

 俺はあの事件による戦闘をレキナにバッチリと見られ、俺のステータスの特徴を理解したのだ。

 彼女とトーナメントでぶつかったとき、レキナはその弱点を理解しての攻撃を行ってきた。

 ……結局、掠って敗北してしまった、というわけだ。


 俺たちのグループは、クーナ、レキナ……と後は俺たちによる四人だ。グループの決め方は自由で、アーフィと組んでいた俺のもとに彼女らが来たという形だ。


 レキナはあくびをしながら、俺たちの戦いを後ろから見ているだけだ。

 そして、レキナの隣では丁寧な拍手をしているクーナもいる。

 彼女は貴族学科の指名で、こうしてこの場にいる。


 この二人の前であまり戦闘をしたくはなかった。アーフィの存在がばれる可能性もあるほどに、レキナの観察眼は素晴らしい。

 ファリカ、アジダあたりと組む予定だったのだが、ファリカは迷宮都市についてから、すぐに旅人地区へと向かってしまった。

 騎士学科の授業に参加しなかったことについて指摘もされ、後で何かしらの罰が与えられる可能性もあるというらしい。


 ファリカ……竜車ではいつもの調子に見えていたが、今考えてみるともしかしたらおかしかった部分もあったかもしれない。

 後で、話を聞いてみようか……なんて考えていると、レキナとクーナが武器を構える。


「それじゃあ、次はボクたちのコンビでの戦闘をお見せしようかな」

「そうですわね」


 ……こいつらの強さはもう十分分かっている。

 鍛冶師であるクーナと、騎士であるレキナ。

 珍しい職業ではなかったが、やはり人によってステータスの伸びが違うらしく、彼女たちもかなりの力を持っているようだ。


 ステータスこそ見せてはくれなかった――というか、異性に対してステータスを問うというのは、一種の告白に近いものもあるらしい、時と場合によるが――けど、彼女らが強いのは身をもってしっていた。

 巨大な槌が轟音をあげて魔物をつぶし、レキナの華麗な剣が敵を翻弄する。

 魔物との戦闘では、クーナが攻撃役を務め、レキナが援護、陽動といった感じだ。

 見事な連携にしばらくアーフィが息を飲む。


 彼女らに言葉というものはなかった。お互いの心が通じ合っているかのように、軽い視線のやりとりだけで行動が作られていく。

 これだけの連携が出来れば、ある程度格上でも、連携が取れないような相手なら勝てるだろう。阿吽の呼吸って奴か。


「私たちもあれくらい出来るかしら?」

「無理だろうね。俺たちが視線でちょっと見たとしても、たぶんお互い首を捻るだけだろうね。危険ばっかり増えるよ」

「……ふむぅ、もっと仲良くしないといけないわね。そのためにも……ほら、もっと近づいていいわよ」

「遠慮しておく」


 ……そういう問題だろうか?

 前向きな彼女に苦笑していると、レキナたちが戻ってくる。


「そういえば、二人はどんな関係なの? 良く一緒にいるよね、特にハヤトくんは女の子と」


 トゲのある言い方をしやがって……。

 からかうような、疑うような視線にアーフィがまた変なたくらみをするかもしれない。

 アーフィはちらと俺を見て目元を緩める。


「私はハヤトを好きなだけの友達よ」


 堂々と言い放ったアーフィに、二人が目を合わせてそれから覗き込んでくる。


「それじゃあ、ハヤトくんはどのような返答を」

「しましたの?」


 二人がばっちりに質問してきて、俺が答えに困っているとアーフィが言う。


「ハヤトは私のことを好きではないようね。だけど、私はまだ諦めたわけじゃないの。これからどんどんアピールしていくって感じよっ」

「……へぇ、そんなに想われてハヤトくんは幸せものだなー」


 ……このままずっとこの空気の中にいるのは嫌だ。

 こほんと咳払いをし、人差し指をたてる。


「男女の色恋といえば、俺の友人にちょっとばかり女性に興味を持っている奴がいるんだ」

「……女の子同士の恋愛って奴かな?」

「俺にも男の知り合いはいるっての」

「カレッターズ様ですの?」

「あれは……違う。あれじゃない」

「まあ、男は誰でも良いですわ。それで?」


 二人は興味津々のようだ。いや……正確にいえばアーフィもだ。

 

「そいつの気になっている相手ってのは、ベルナリア・レベスって人らしい。うちの学園にいる人なのか?」

「……もしかしてハヤトくん。ツッコミ待ちかな?」

「有名人なのか?」

「それを聞いてきたのがわたくしたち、というところに……なんていうか、笑ってしまいそうですわ」


 二人が顔を合わせて、それから堪えきれなくなったように笑い出す。

 俺とアーフィは状況がわからないままに首を捻る。

 と、しばらくして二人の笑みが治まり、レキナにいたっては目元を拭いながら言う。


「その人は、ボクたちのご主人様だよ」


 ……確かにそりゃあ、そんな反応もされるよな。



 ○



 ご主人様、というのは、俺たちとカレッタとの関係のようなものだ。

 騎士が仕えている主様……みたいなところだそうだ。


 二人に話を聞いてみたところ、ベルナリア・レベスという人間はエルフ族らしい。

 この世界、人族が圧倒的に多いから他の種族を見たことがほとんどない。

 なんて話を冗談交じりに伝えたら、レキナとクーナは一応獣人族とのクォーターらしく制服の下から小さな尻尾をみせてきたときには驚いてしまった。


 そんなこんなで、とりあえずの情報を確保できた。

 これで、カレッタに聞く必要もなくなった。

 ホテルに着くと、疲れた様子の騎士学科の人々がいた。先に到着したようで、アジダがだらしなく座っていた。


「……お、おまえは疲れていないのか?」

「あのくらいの狩りはな」


 ……もっと過酷な環境の迷宮にしばらくいたし、むしろラクだったっての。


「それじゃあ、先に戻るな」

「ま、待て! 貴様に負けるつもりはない! 俺も一緒に帰る!」


 アジダが気合で立ち上がり、ふらふらになりながらも俺の横に並ぶ。

 壁に手をあてるようにしてどうにか歩いている。

 よし、震えている足をつついてやろう。


「何するんだ貴様!」


 俺が足の先でつつくと、アジダが血相を変えて吠えた。

 逃げるように先を歩いていく。

 と、自室前に行くと、なにやらかっこつけるように壁に背中を預けているカレッタがいた。

 こちらに気づくと、輝くような笑みともに片手をあげる。


「ずっと待っていたんだ」

「……俺たち騎士学科の日程くらい知っているだろ? アホか」

「知っているさ! けど、暇でしかなかったんだ! それよりも、少し中に入って計画をたてようじゃないか」

「……計画?」

「そう。このホテルには、覗きスポットがあるそうなんだ。さっき、ここに泊まっている旅人からその情報を購入してね……そこに行こうではないか」


 ……こいつ、本当に貴族か?

 頭が痛くなってきて、眉間を揉み解すようにしていると先ほどそこで合流したアジダが反応する。


「か、カレッターズ様!? そのようなことは、いけません!」

「とはいっても、アジダくん。キミも男だ、興味はあるだろう?」

「は……はい!」


 ……いや、はいじゃねぇよ。止めてくれ。


「ハヤト、キミだってたまには裸を見たいときもあるよね? それは僕もなんだ」

「そりゃあ、男としては見れれば嬉しいものもあるけどね。だけど、おまえら貴族は金を積めばいくらでも出来るだろ?」

「このギリギリの緊張感が良いのさ!」


 そりゃあ犯罪だからな、緊張して当然だ。


「俺は言っておくが、貴族といってもそんな権力はない。精々、雇っているメイドに抱きつくふりをして胸を揉むくらいが限界だ」


 アジダが真顔でいって、カレッタもそれに反応する。


「そうなんだよ! 同じ貴族相手にあれこれやると、そのまま結婚問題になるくらいなんだ! 下手したら僕だけの問題ではなくなる! けど、ここでの覗きなら、きっとばれないからね。だから、チャンスなのさ」


 まあ、ばれたらたぶん結婚問題どころではないほどに信用がなくなるだろうけどな。

 そっちのほうがお家からすれば大問題だろうが、俺は彼らを止めることはしない。

 巻き込まれないのならば、俺はどうでも良い。

 ……と、思っていたのだが、確かここの浴場には混浴があるんじゃなかったか?

 迷宮内にある自然に湧き出る……温泉のようなものがあって、そこは一つしかないために混浴だったはずだ。

 

「混浴があるんだし、そっち行ったらどうだ?」

「さっき行ってきたが、ジジイババア、ジジイババアのたまり場だった」


 ……なるほど。だからカレッタの髪は少し湿っているのか。


「確か、時間によっては一般にも開放されているんじゃなかったか?」


 金を支払えば、混浴のほうは冒険者たちでも利用できるはずだ。

 ただ、普通の浴場よりも高いから普通こないかもしれないけど。


「……はっ! なら、夜ならば――」

「いや、カレッターズ様。俺たち貴族は――」


 そう呟いたアジダに、カレッタは敬語をやめるように注意をした後、こくりと頷いた。


「やはり、無理だ。覗きにかけよう」

「どうしてだよ」

「……僕たちはあまりそういう場にはいけないね。特に一般人相手となると危険かもしれないしね」

「だから、なんでだ」


 カレッタのかわりにアジダが答える。


「無理やりに子種を奪われるという人間もいるんだ。優秀な遺伝子を奪うためにな。万が一を考えると……やはり覗きしか」


 万が一でその選択肢が出てくるのはおかしくないか?

 カレッタとアジダは覗きに対して、何か神秘的な魅力を感じているのかもしれない。

 そんなに良いものなのだろうか。ただ、裸を見るだけだし、失敗したときのリスクのほうが高い気がする。

 なんて思考していると、カレッタがこちらに視線を向けてくる。


「決行は早いほうがいい。今夜にやるよ。キミも来るだろう?」

「俺は遠慮しておくよ」

「なぜだハヤト!」


 アジダもすっかりカレッタ側についてしまったようだ。

 

「そんなことをすれば、ただただ信用を失うだけだ。それよりも、仲良くなってその相手と何かしらの関係をもったほうがいいと思うんだけど」

「僕はちなみに、そういう相手はいないんだ。誰でも良いから裸が見たい」


 この公爵をまずは騎士に突き出したほうが良いかもしれない。


「……確かに、そっちのほうが良いかもしれない……だけど、それが難しいんだ!」

「……まあ、それを決めるのはおまえの好きだな」


 というかアジダ。おまえ、ベルナリアとかいう貴族様はいいのか?

 二人はすっかり意気投合し、夜の計画を練っているようだ。


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