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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第四十八話 二十二日目 移動

 街はすっかりいつもの状態に戻った。

 まだ、不安視する声はそれなりにあったが……大会は再開となった。

 俺はリーグ戦を無事一位で通過し、その後のトーナメント戦では二回戦で敗退。


 再戦することになったレキナによって、俺は敗北してしまった。

 まさに、ルールをついた上手い一撃によってな。

 人によってはやる気が感じられなかったとか言っていたが……それは俺のステータスがばれていないことの証明であるためにただただ聞くだけだ。


 まあ、迷宮でのレベル上げに時間を割きたかったのもあるし、ちょうどよかったところだ。

 アーフィと二人でアグドサマル迷宮に潜り、深い階層での狩りを繰り返して行き、さらに自分のレベルをあげていく。

 二日ほどそのような生活を送っていた。学園もないのだから、ラクでよかった。



 それからさらに数日がすぎ、カレッタの迷宮都市の発表の手伝いをしたり、リルナの手伝いで色々と街の中をさまよっていたりと過ごし……比較的平和な日々を送った。

 そして、いよいよ……今日。

 俺たちは迷宮都市へと出発することになる。

 学園には、精霊特殊部隊の人たちがいて迷宮都市についての簡単な話をしている。


 初日は、旅人地区と呼ばれる場所の高級ホテルで泊まり、二日目には旅人地区とは別の階層に造られた遊園地で遊び、三日目は自由行動……。四日目に学園へと戻る、という内容だ。


 その内容に、日々の訓練で疲れている騎士学科の試験を突破した人たちは、盛り上がっている。

 事前におおまかな説明を受けてこそいたが、やはり出発の日になるとより喜びも増すようだった。


 俺は桃、リルナ、アーフィ、ファリカ、カレッタ、たちとともに街から出発する予定の竜車に乗り込む。

 学園が管理している巨大竜車であり、一度に三十人近くも乗れるもののだ。

 ……竜車内の空気は修学旅行のときに似ている。これから起こることへの期待が膨らんでいるのだろう。


 カレッタが用意したカードで、簡単にポーカーに付き合う。

 俺が無理やりに誘われた、といったほうが正確か。今いるメンバーだとルールを知っている人が少ないのもある。

 別に金をかけるわけでもなく、俺とカレッタはただ一対一で運を競い合っていた。

 

「また僕の勝ちのようだね」


 彼の出したカードには同じカードが三枚ある。スリーカードか。


「上手なイカサマの方法を教えてくれないか?」

「僕は運が良いだけだよ!」


 俺にはどうにもこういう賭け事はあわないらしい。

 勘のようなものが働かないため、さっきからほとんど負けている。

 たまに勝てるときもあるが、それは本当にまぐれというやつでしかない。

 こう負けっぱなしというのも嫌だったので、あまりルールの分からないアーフィや、ルールはわかるが詳しくはしらないリルナ、桃も混ぜて勝負する。

 

 アーフィにいたってはまったくルールがわからないため、さすがに負けることはないだろう……と思い、ビリではないだろうと期待したのだが……。


「これはなにかしら?」


 ……アーフィは天性の運の持ち主だったようだ。

 揃っている役について、カレッタが教えるだけで、それ以上のことはしていなかったはずだが……。

 俺の世界でいうストレートやらフラッシュやらをばしばしと出してくる。それが最低ラインで、さらに上の役も作ってくるのだから、俺にはどうしようもない。


 そして本人はいまいちそれを理解していないのが、悔しい。

 ……結局、桃とリルナに何回か勝てただけだった

 ファリカ? ……あいつはあいつで強すぎるから絶対にやらない。


 そんなことをしながら竜車で揺られていく。俺はその途中、休憩の合間にステータスカードを見る。


 Lv17 ハヤト・イマナミ 職業 ものまねLv1 メイン 勇者Lv1 サブ 斧使いLv1、騎士Lv1、剣士Lv1

 HP1 

 筋力840 体力11 魔力1 精神1 技術450 

 火1 水1 風1 土1 光1 闇1

 職業技 筋力アップ 体力アップ 技術アップ 


 ステータスカードもだいぶ成長した。残っているポイントが514あるのだが、これについてはとりあえず保留だ。

 苦戦するような敵が出てきたらあげる……ていうので大丈夫だと思っている。


「おっ、あれじゃないか!?」


 カレッタの楽しそうな声が聞こえた。

 外を見ると迷宮の入口が見え、そこへ竜車が向かっていく。

 ……異常な速度であったこともあってか、あっさりと迷宮まで到着したな。その入り口では、すでに探索者の職業を持った人たちが待機している。


「それでは、どんどん送っていきますので。六人程度に別れてください」


 一階層は、広大な草原だった。

 迷宮の構造は大きく変わらない。配置されているものが変わるだけで、結局のところは同じだ。

 探索者の言葉に従いながら、俺たちはいつも通りに手を繋ぎすぐに第二十階層へと転移することになる。


 第二十階層は一階層とはまるで違った。

 遠くまで見渡すことの出来ない迷宮内にはいくつもの建物が所狭しと密集するようにあった。


 しばらくその場で待機し、全員が揃うのを待つ。

 貴族学科の人間と一定の騎士学科の人間たちによる集団は圧巻で、道行く人々の注目の的にさえなっている。


 貴族学科、騎士学科の人の多くは、迷宮都市に来るのが初めてらしい。

 学園が旅行先に選んだのも今回が初めてだそうだ。

 それにしても、注目が多いな。

 あらかじめ主要なホテルや遊園地には報告しているとも精霊特殊部隊の人間は言っていたが、ここにいるだけの旅人や市民は驚きのほうが大きいだろう。

 

 まさに、野次馬のごとく人が集まってきているために、あまり長くいたい場所でもなかった。

 全員が集合したところで、精霊特殊部隊の人たちがホテルまで誘導していってくれる。


「……足が疲れましたね。おんぶしてもらいたいです」


 何てリルナが言ってちらと俺を見てくる。

 おまえ、おんぶなんてされているところ他の誰かに見せるつもりか?

 彼女は本当に面倒なようで、あくびをたまに手で隠している。

 

「王女様が疲れているようだぞ。おまえ、何かしたらどうだ?」


 なんて、ちゃっかりトーナメントの組み合わせが良く勝ち進んだアジダが肘で小突いてくる。


「何か秘策はあるのか?」

「貴族の中にはあえて馬に乗るというのも流行っている。つまりだ、おまえが馬になればいいんだ!」

「それならおまえがやってみたらどうだ?」

「俺は貴族だぞっ? 馬になるなんて嫌に決まっているだろ」

「あの王女様にまたがってもらえるんだぞ?」

「そ、それは……羨ましいかもしれない」


 途端にぐへへとアジダが口元を拭う。

 ……まったくこいつはのん気だな。

 俺はこれでも、あの事件の後から色々と気になって迷宮都市に関することを出来る限り調べたんだ。

 ただ、何もわかることはなかった。歴史だったり、どのような場所だったりとかくらいだ。

 ああ、そういえばファリカに簡単に話しを聞いたこともあったな。

 ……とても悲しい彼女の過去について――。

 市民地区にも行ってみたい気もした。


 ……何もおきずに、四日の旅が終わればそれで良い。

 やがて到着した大きなホテル内で、部屋分けが行われる。

 あちこちが輝いているような清潔さと、明るい色を基本に作られた建物に、なれない気持ちでついつい周囲を見てしまう。


 それはどうやら、俺だけではない。そんな風にキョロキョロしている子はいくらもいて、目があって少しばかり照れくさい。

 一部屋に二人……貴族からすれば珍しいことのようだ。いくら高級ホテルといっても、そこまで大きいわけではない。いや、俺の家のリビング程度はあるらしいけど。


 俺はアジダと一緒の部屋となり、アーフィは桃と。リルナはなにやら知り合いの貴族とで、カレッタもまたまったく知らない人と組んだらしい。

 部屋にて軽く荷物を置く。ほとんどステータスカードに入るのだが、それだと疑問を持たれるために俺は一応リュックサックを持ってきている。

 そういえば……カレッタが泣きついてきたな。絶対におまえたちの部屋に遊びに行ってやる! と叫んでいたような。

 来たら扉を固く閉じて居留守をしようか……なんて考えながらアジダをチラと見る。


「そういえばおまえ、家から何か言われなかったか?」

「……色々言われたよ。けど、おまえが考えるようなことは特にはなかったな」

「へぇ、心配していたけどよかったよ」

「し、心配だと? 平民に心配なんてされたくないわい!」


 顔を真っ赤にして吠えるアジダに苦笑しながら、俺はベッドに腰かけた。


「アジダ。……少し聞きたいことがあるんだ」

「なんだ。変なことだったら無視するぞ」

「せっかくの旅行だ。おまえだって好きな人と一緒に遊園地行ったり、自由行動のときにデートしたりとしたいはずだ」


 やはり、旅行などに来たらこういう話をするに限り。

 アジダは表情に出る分かりやすい奴だ。今、顔を真っ赤にしている。


「ぶべぇ!? お、俺には好きな人はいない!」

「なら、憧れている人とかな。リルナ王女様だっけか?」

「……あの方は、剣を捧げるべき相手であって、そういうのではない」

「なら、別に好きな人がいるっていうのか?」

「……ふん」

「へぇ……。どいつだ? 協力してやるよ」

「そ、そうか?」

「ああ。あいつおまえのこと好きだってとか伝えてやるからさ!」

「そんな直球すぎる協力があるか! 恋愛というものを理解してから出なおしてこい!」


 アジダが叫び、拳を振るう。

 俺は避けるようにベッドを転がっていると、アジダが嘆息がちに腕を組む。


「おまえこそ、好きな奴はいるのか?」

「また、ピンポイントに聞いてくるね。そこでおまえに聞きたいことがあるって話だ」

「……なんだ?」

「俺は正直、今良く分からないんだ。好意を寄せられるっていう経験自体が初めてで……何をどうしたらいいのか。一人の気持ちに答えたら……そこで終わりだ。そうやって考えると、今度は別の誰かの気持ちも考えるんだ。誰に答えるのがいいのか……どうしたらいいと思う?」

「……そこまで悩むこと自体が珍しいのではないか? 俺だってよく分からないが、俺は例え、好きな人以外から告白されも迷わずに断るだろうな。わがままにならないと、たぶん欲しいものも手に入らない」


 欲しいもの……それは自分の好きな人ってことか。


「だけど、俺には明確な答えを伝えることはできないな。アーフィは、胸が大きく可愛らしい。ファリカはたまに見せる笑顔が可愛いし、俺は小さい子も好きだ。モモ様はあの淡々とした感じはあるが、きっと恋愛をしたら凄い盛り上がる。胸がない子も俺は好きだ。……確かにおまえの立場にいると、選ぶのは大変そうだな」


 こいつ、可愛い子ならなんでも良いんじゃねぇのか?

 問題はそれだけじゃない。

 俺はシミ一つ無い天井を見上げながら、後ろに傾くようにして口を開く。


「……おまえはもしも一人別の世界に行ってさ、好きな人が出来たらどうする?」

「どういうことだ?」

「ああ、いや……なんでもないよ。忘れてくれ」


 そう伝えると、アジダは懸命に眉間を解しながら頷いた。


「好きな人がいるなら……俺はそいつに気持ちを伝えるな。例え、元の世界に戻ることになったとしても、気持ちを伝えないのはきっと苦しいからな」

「そうか。貴重な意見をありがとな」

「ふん、気にするな」


 そういってからアジダは思い出したように指をたてる。

 どこかからかうような顔だ。


「ただ、貴族の中には妻だけではなく愛人を持つ人もいる。優秀な血をより多く残すためにな。つまりだ、おまえが貴族になって、有名になればそんな多くを養っていけるようになるというわけだ」

「……それは、俺はあんまりしたくないな。俺の常識だと、男と女は一対一なんだ」

「そうか」


 しばらくの沈黙が流れたあと、俺は彼の顔を見る。


「それで、おまえの好きな人って?」

「……そ、そこに戻るか。俺の好きな人は……というかなぜ貴様に教えないといけないんだ!」

「いいじゃねぇか。こういう場での醍醐味って奴だ。この機会をいかしてアピールしてみたらどうだ?」

「ふん……うるさいぞ。確かに俺には心に決めた人がいる。だがな、その人には決して手を出さないつもりだ」

「どうしてだ?」

「……ふん」


 彼は腕を組んでそっぽを向いてしまった。


「わかった、名前くらい聞いても良いか?」

「……ベルナリア・レベス。レベス家の女性だ……まあおまえは無知だから知らないかもしれないがな」

「へぇ」


 ……確かにわからない。後でリルナかカレッタにでも聞けば良いだろう。


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