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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第四十五話 十七日目 第二戦闘

 リーグ戦の組み合わせが発表され、有名な相手と組むことになった人、弱い相手……または友人と組むことになった人。

 それぞれが、喜び、悲しみといった感情を前面へと押し出し、発言をしていた。

 今回は……それに俺も混ざった。

 

「おいおい……うっかりミスができねぇじゃねか」


 頬をひきつらせるしかない。


 リーグ戦では上位二名が出場ということになっている。

 リーグ戦では、一試合ごとに霊体のHPがゼロになる。だが、霊体のHPは他の霊体によって回復することもできる。

 だから、大会に参加しない人、また一般の人から事前に霊体の回復分のHPを回収していることが多い。


 そのために、リーグ戦であったとしても、霊体のHPはマックスの状態で次の戦いに望むことができる。

 霊体のHPはそのまま相手に譲渡できない。回復に使う霊体は多く必要で、来場した観客から集めることになっている。

 保管できる時間に限りこそあるが、さながら献血のような感じだ。


 一リーグ五名で……学園の校庭、いくつかある闘技場など……あちこちで試合が行われる。

 現在百名がいるのだから、合計で四十名がトーナメント戦へと進める。

 一リーグからとできるのは、二名。つまり、最低でも三勝一敗以上の成績を残さないとトーナメント戦にはいけない。


「よろしく、ハヤトくんだったかな? ボクは昨年度一位のレキナだよ。キミにはちょっと興味があって、ずっと戦いたいと思っていたんだよね」

「昨年度三位の槌姫とか呼ばれている、クーナですわ。よろしくお願いしますわね」


 槌姫と氷鬼と呼ばれる二人組みが俺の前でニコリと微笑むのだから、俺は頬がひきつって仕方ない。

 両名は、それぞれが自己紹介するように昨年度の実力者だ。

 そして……俺のリーグの対戦相手となっている。

 さらに二名平民がいたが、彼らはすでにこのリーグでの勝ち抜きを諦めているようだった。

 だからこそ、レキナとクーナは俺に興味を持っているようだ。

 こうして接触してきたことからも、それが窺える。


 俺たちの試合はメインの闘技場で行われる。

 行われるのは午後からであり、今俺たちはゆっくりと学園の食堂で一緒の席についていた。

 第一位と第三位がいるために、一番客を獲得しやすいのだろう。


 運営側も、恐らくはこの二人が勝ち進めるようにこのリーグを作ったはずだ。

 ……そこに俺を入れたのは、精々引き立て役として盛り上げてくれよ、という意味があるのかもしれない。

 ちなみに、今日から賭けも行われ、各リーグで勝ち抜けるであろう二名を選び、賭けをする人もいる。

 カレッタは俺と第一位のレキナに投票したらしく、負けたら怒ると脅してきたほどだ。


 そして、このリーグだけは賭けにならないのではないか、ともいわれている。

 もしかしたら……俺が勝ち抜けるのではないか? と期待されているのか、他の平民二人よりも評価されているようだが、多くはレキナとクーナに投票している現状だ。


 ……さて、そんな現実逃避はやめようか。

 平民二人はやがて耐えられなくなったのか、トイレと言って俺を放置して逃げ出そうとした。


「俺も少し用事がありますので……」

「敬語じゃなくてもいいよ、ハヤトくん。それに、逃げなくてもいいじゃないか。女の子二人に声をかけられて、逃げるっていうのもどうかな?」

「そうですわ、ハヤトくん。あなた、それなりに有名人なんですのよ?」

「そ、それは光栄だ。二人とも、なかなかに有名な貴族らしいな」

「具体的には?」

「どのくらいですの?」

「……」


 知らんがな。

 二人が貴族という情報は持っていても、それ以上はない。

 途端、彼女らは楽しそうに目を合わせた。


「まず、ボクたちが双子っていうのも知らないよね?」

「は!?」

「まあ、父が違いますけれど」

「……それで、双子か?」


 ……父親違いの双子、っていうのも聞いたことはある。

 今の日本じゃそう起こらないことだろうが、可能性がゼロというわけではない。


「たまにあるらしいんだよね。ま、そんなことはいいんだけど……それよりもボクたちってこれでも、伯爵でかなり有名なんだ。それだけで、色々と見てくる人もいるのに、キミってそういうのないんだよね」

「……それがまた、嬉しいですわ。わたくしたちを普通の貴族として、それも興味ないような視線で見てくるなんて、ゾクゾクしますわ」


 誰かこいつらを引き取ってくれないだろうか。

 俺は背筋がぞわりとしながら、彼女らからどう逃げるかだけを思考する。


「ボクね、キミくらいの子って好きなんだよなぁ。ボクたちの家って強い人を婿にもらえっていうくらい、実力主義なんだ。男の子でボクに対抗できるかもしれない人ってキミくらいだしね」

「わたくしもそうですわ。この学園には、あまり強い男性がいませんもので……その点」


 といってから、彼女は俺のほうに体を寄せてくる。

 ドキッとするようなクーナの行動に頬の熱を感じていると、彼女はそれがまた楽しかったのか目を細める。


「あなた、好みの顔たちですの」

「ボクもかな。双子だし、似るのかも」

「あら、わたくしが一番目の妻ですわよ」

「ボクが一番だよ」


 二人がすでに、俺を取り合っている。男としては嬉しいが……何よりも恐ろしいのは。

 俺は遠くのほうにいる桃、リルナ、アーフィ、ファリカの視線に頭を悩ませていた。

 彼女らもこの食堂にいて、常に俺たちを監視しているのだ。


 レキナとクーナもそれに気づいているようで、アピールするように俺に身体を近づけてくるのだ。

 ここで中途半端な態度をとると、彼女らも面白がってさらにからかってくるのだ。

 だから、俺は二人を突き飛ばすようにして、言い放つ。


「悪いけど、俺は女に興味がないんだ。男じゃないと満足できない体なのさ」


 考えていた打開策の一つを講じる。俺の演技に、彼女たちは目を丸くし、そして周囲にいた貴族たちからもぎょっとした声があがる。

 何名かの女性貴族がまあ、と声をあげている。頬を染めるんじゃねぇ、演技だっての。


「……へえ」

「そうですの? では……今度興味が持てるようにしてあげますわ」

「そうだねっ」

「そうだねじゃねぇよっ。くそったれがっ」


 心がすさんできたような気がする。

 頭をかきむしるようにしていると、双子の彼女らはそれでもまだ迫ってこようとした。

 そして、視界の端でゆらりと三名が動いた。


「す、少しいいかしら?」


 アーフィがいってから、びしっと指を突きつける。

 アーフィに気づき、レキナたちが顔を見合わせてからそちらを見る。

 アーフィの後ろから桃たちがやってきて、それぞれ好戦的な目を向ける。


「なにかな?」

「ハヤトは私の仲間よっ。変なことをしたら許さないわ!」

「私は勇人くんの恋人です。だから、余計なことをしないでくれますか?」

「私がハヤトの恋人」

「なんですか、ファリカさん」

「あなたこそ、余計なことをいわないで」


 助けにきたわけではない。好き勝手に喧嘩を初め、それぞれが俺の魅力について語りだしやがった。

 待て待て! 聞いていて恥ずかしいだけだからっ。


「まあまあ、みなさん……落ち着いてください」


 リルナが愉快そうに笑って俺を見てくる。

 ……どうして俺は異世界にきてからこんなにモテるんだよ。

 今まで女に大した縁もない生活をしていたから、どんな反応をとれば良いのかわからない。


 頭を悩ませながら、午後の試合までの時間を過ごす。

 ファリカは途中で席を外して、あっさりとトーナメント戦への出場を決めていた。


 午後になり、俺は昼食の後の準備体操を行い、闘技場へと入っていく。まずは参加する俺たち五名の挨拶。

 それから、実況による一人一人の解説だ。


『そして最後に……こちらは今年入学したハヤトくんだ! 彼はなんと昨年度九位のグラッセを一撃で倒してしまったその実力の底がまだ見えない男だ! 何よりも、彼はよく女子を侍らせている好色家とも聞いております!』

「誰だそれを言った奴は……」


 吠えたが観客の声にかき消されてしまう。

 すぐに平民との戦いになる。

 最初は俺と平民の子との戦いだ。


 彼の武器は斧であり、確かに力強さはあった。

 けれど、それは俺以下の力でしかなかったために特に苦戦することもない。


 組み合わせに意図的なものが感じるのもまた事実。

 ……まあ、これは国からすれば一つの興行的なものだし、ある程度見せ場を用意するのは当然か。

 なぜか、俺とレキナ、クーナがぶつかる前に平民との試合のすべてが終わったのだから、意図的なものを感じずにはいられない。


 それでも、観客たちに不満の声はない。

 第一試合として、まずは俺とクーナがぶつかることになる。


 会場の熱は最高潮に達し、これから行われる戦いに皆が興味の目を持っているようだ。

 ……クーナの戦いについては、ファリカからも聞いている。

 槌を使った大振りな一撃は、その風圧にさえ飲み込まれそうになるらしい。

 近接での力勝負は危険……といっていたが、果たしてどうなのだろうか。

 

 クーナが霊体をまとい、ハンマーを装備する。

 俺も剣を片手に持ち、霊体をまとった。


「手加減はしませんわよ」

「俺も同じだ」


 実況の開始の合図に耳を澄ませながら、俺たちはにらみ合う。




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