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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第三十九話 第十五話 少し違う

 まるっきりその返答を予想していなかったわけではない。

 けれど、そうだ。アーフィはこういう奴だった。


 悩みを口にし、自分の気持ちをそのまま伝える。それがアーフィだ。

 だからこそ俺は今までも一緒に行動してこれた。

 ……だが、いまはその素直な感情を向けられ、答えに窮するしかなかった。


 少し考えてみれば、アーフィの気持ちには迷いがあるように感じた。

 本人も自覚できていないその感情は……つまり、彼女もまだ確信が持てないのだろう。

 そして、たぶんアーフィの気持ちは男と女の好きというものとは違うと思う。


「……わからないのよ。私は、あなたのことが好きなの? 人は人を簡単に好きになるものなの? 好きって、どんなものかわからないのよ」


 答えに困っていると、アーフィがさらに言葉を続けた。


「……あのモモというのは、地球にいたときの友人かしら?」

「……ああ」


 そう返事をしたところで、アーフィは誤魔化すように笑う。


「いいわね。……私も地球に行ってみたいわ。あなたが知る世界を、私も見てみたい。一体、どれほど、違うのか……話を聞いていてもわからないしね」

「そうだな。あの精霊でもぶん殴ればこっちの世界に来れるかもしれない。次に会ったときに頼んでみるよ」

「本当に、できれば嬉しいわね……っ。地球に行ったら、おいしいものたくさんあるの?」

「ああ、たくさんな」


 しばらく笑っていたが、アーフィは段々と顔を歪めていく。


「……わからないの。昨日、ファリカと話したのは、好きという感情について、よ」

「好き、か」

「私は今まで人と関わるなんてほとんどなかったの。だから……良くわからなかった。ファリカに聞いたけど、異性で、凄く一緒にいたい相手が好きって話だったのよ」

「まあ、確かにそういうところはあるかもしれないけど……」


 必ずしもそれざ正しいというわけではない。


「最近は、あなたと他の誰かがいると、なんだか苦しくなる。……それは、友達だからなの? あなたが誰かと一緒にいると嫌なのは、私の友達ではなくなってしまうように感じるからなの? それとも……」


 考えても俺はわからない。

 どういった返事をするのが適切で、何を伝えれば良いのかもまるで分からない。

 頭の中に泥でもまとわりついたように、思考が定まらない。


「……俺もそれについて断言できることはないよ。けど、もしかしたらアーフィのそれは誤解かもしれない」


 アーフィはくしゃっと顔を歪める。

 それはどんな感情を潜めてのものだろうか。人を好きになったことがないため、良く分からない。


 ……こういうのは明人なら全部わかるのだろうか。

 彼は良くモテていたし、彼を好きな女子が、俺に相談をしてくることもあったくらいだ。

 だから、恋愛の対象から自分を外してしまうことはよくある。


「そうなの?」


 アーフィの気持ちは正直いって断定はできない。だから、俺は自分が思う彼女の中にある感情の可能性をあげていくしかない。


「俺しかアーフィに手を指し伸ばす人間はいなかった。人は、絶望的な中での救いに大きな勘違いをする生き物だと思う。だから、俺に対する感情は、感謝が歪んだもの、だと思う。けど……まだ分からない。答えを出すには少し早計だと思う」


 アーフィは悩むように腕を組んでから、こくりと頷いた。


「そ、そうね。……たぶん私は勘違いをしていたのよね。ごめんなさいっ」


 両手をあわせたあと、アーフィはにこりと笑った。


「大丈夫だよ」


 ……どうして、そんな作ったような笑顔を浮かべたのだろうか。

 俺の彼女への指摘は、間違いだったか? 俺の中にはいくつかの感情が渦巻いてしまう。

 明確な答えなんてないはずだ。


 けれど、間違えているのではないか、という疑念だけはあった。

 アーフィはとりあえずは吹っ切れたのだろうか。共に並ぶ彼女の表情に迷いの一切はない。


 アーフィとともにカレッタの屋敷へと戻る。

 リルナには自由に来て良いといわれていたが、正直あそこにいると他の生徒たちに見つかったときに色々と噂されそうなので勘弁したかった。


 カレッタの屋敷へと到着し、身体を洗い流してから夕食の時間となる。汗でぐしょぐしょだったので、随分と開放的な気分になれた。

 食堂で合流したアーフィが明るい笑顔で近づいてきて、隣の席に腰かける。


「今日は一緒に食べられるわね」


 にやりとアーフィの顔に笑みが生まれ、それから自慢するように胸を張る。


「昨日食べたものにね、なんと大きな魔物の肉があったのよ! あれはうまくてうまくて……食べらなかったのは運が悪かったわね!」

「どんな肉だったんだ?」

「凄いうまい肉よ!」


 ……肉が具体的にどのようなものかはよくはわからないが、アーフィは笑顔で食堂を賑やかにしている。

 俺の右隣に、澄ました顔のファリカが腰かける。

 こいつはこいつで、ここが自分の特等席とばかりの顔だ。


 そうなると、残ったカレッタはどこに座ろうかという顔で、こちらを窺うばかりだ。

 やがて、諦めるように俺の対面に腰かけた。


 食事が運ばれ、カレッタが礼儀正しくフォークとナイフをもち、俺たちは自分たちの食べやすいように口へと運ぶ。

 食事が一段落ついたところで、カレッタが口を拭いながらこちらを見てきた。


「今日は参加しなかったようだけど、どうだったんだい?」

「ああ、結構狩りができたね。けど、さすがに二日目から学園を休むなんてのはやめたほうがよかったかな?」

「それはどうだろうね。ファリカ、教室の様子はどうだったんだい?」


 カレッタがファリカに視線を向けると、彼女は持っていた方フォークを置いた。


「昨日の王女様の一件があったし、何より本人がいなかったらからあれこれみんな噂していた。ハヤトの実力からして、王女様の影の護衛、とか。それにしてはあれだけ目立つ行動はおかしい、王女様の恋人では? なんて声もあった。あとは、ハヤトの実力を疑う声とかも、他のクラスではあるようだった」

「……だそうだ。どうだいハヤト?」


 おおかた予想通りの反応だ。


「あとは、明日の大会が発表された。申し込んだ人間は三百で、そのうち三十人が、迷宮都市に入る権利を得られるらしい」

「……結構な人数だな」

「それもそうさ」


 カレッタがフォークをたてるようにして得意げに笑う。

 公爵とは思えない行儀だ。


「この大会はそのまま祭りにもなるからね。盛大に行い、毎夜には舞踏会も開かれる。貴族の振舞い方を学び、また騎士学科の人間も貴族との交流について知ることができる。これらをまとめて、『霊祭』と呼ばれている。精霊様に捧げる、騎士と貴族の祭りって意味だ」


 カレッタが得意げに語り、手元のカップを口に運ぶ。

 盛大な祭り、か。

 俺たちの国でいう、文化祭みたいなものだろうか。


 明日から大会が始まるのだから、コンディションは整えておくべきだろう。

 レベルは16になったが、ステータスポイントの割り振りはひとまず置いておき、部屋に入る。

 机には大会に関する注意事項が書かれた紙があり、それらに目を通し、頬がひきつった。

 

 大会では、苦戦することはないだろうと思っていた。

 だが、ルールに目を通してさすがに驚いた。


「……大丈夫か、これ」


 霊体が削られたところで、敗者となる。

 ……つまり、普段の俺の戦法が使えなくなる。脳内で緊急会議が開かれる。

 戦闘では常に霊体をまとっている必要があるのだ。

 一撃でもくらうと即敗北だ。

 ……まあ、けど魔法や職業技の使用は禁止だ。単純に、それぞれの技術や力を試すためのものだ。

 

 だから、敵に一度も攻撃を食らわなければ負けることはないが、それにはもっと技術のステータスをあげたほうが良いかもしれない。

 とにかく、気を引き締めて望まなければならなくなったのは確かだ。


 部屋で大会についてイメージをしながら過ごしていると、扉がノックされる。

 扉を押し開けると、もう一度ノックしようとしていたのか、ファリカが片手をあげているところだった。


「入っても良い?」

「ああ」


 風呂上りだろうか。火照った肌をした彼女が小さく微笑み、部屋の中へと入ってきた。

 椅子についた彼女をちらと見た後、俺はベッドに腰かけた。


「何か、苦しそうな顔をしている」

「おかげさまでな」


 その言葉ですべてを察したようにファリカが頷いた。


「悪かった、とは思っていない」

「俺も悪いと言うつもりはないよ。人の感情なんて様々だ。それに、アーフィにそういった女にしか分からない難しい部分を教えてくれたのは感謝しているよ。ただ、その相手が俺かもしれないというのは少し驚いたけど」

「本気で言っている?」


 表情は変えない。


「言っているよ。アーフィも言っていたが、そんなに簡単に人が人を好きになると思うか? 男は単純な生き物だ。少し優しくされれば勘違いされることもあるけど、女ってのは違うだろ? 狡猾でいて、賢い生き物だ」

「それはあるかもしれない。けど、男も女も、誰かを好きになるなんてきっかけ一つ、時間少しあれば十分なはず」

「そういうものかな」


 膝に肘をつきながら、俺は彼女の言葉に耳を傾ける。

 ……こんなことで悩んだことがない。

 他の人の恋愛相談を受けたことはあっても、俺が直接その対象になったのは初めてだ。

 それもまた、環境が特殊だ。……いや、特殊な環境にいるからこそ、今のようにモテるようになったのかもしれない。


「私がここに来たのは別にあなたの相談を受けるためではない」

「それは酷いね。今俺は結構悩んでいるんだ。これから先、どうしたら良いと思う?」

「なら、私を選ぶと良い。全部解決する」


 ファリカがにやりと笑う。俺の悩みのすべてを理解しているようで憎たらしい奴だ。

 苦笑しながら、俺がベッドで横になると、ファリカも俺のベッドへと移動してくる。

 そして、じっと顔を覗きこんできて、たまらず横を向いた。


「……やっぱり、少し違う」

「何がだ?」

「眉間に傷がない」

「……傷?」

「そう。私が出会ったあなたには、眉間に傷があった。けど……それ以外のすべてがあなたは同じ」

「……そうか。なら、やっぱり違うんだろ。おまえの知っている相手は俺じゃない。……たぶん、あーあれだ。ドッペルゲンガーとかなんだろ」

「違うと思う。……これだけは絶対に間違えようがない」

「だから、結局どういうことなんだよ?」

「私はたぶん、今のあなたには会ったことはないと思う」

「それは少しばかりおかしな発言だけど、今は気にしないであげようか。それで?」

「……もっと、あのときのあなたは違った顔をしていた。だから、未来のあなた、だと思う」


 思わず、彼女の言葉に口を半開きにしてみてしまう。

 彼女の瞳に映る俺は、相当にアホ面であった。

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