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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第二十二話 十日目 罠の先で

 屋敷へと入ると、驚くほどに静かだった。後ろで扉が閉まり、これで全員が中へと入った。魔石の明かりが何度か明滅してこそいるが、室内を見通すには十分だ。

 入り口は広間のようになっている。

 そこからいくつかの部屋へと道が伸び、二階へとあがる階段もあった。途中の踊り場の壁には、現当主と思われる絵も飾られている。

 どこで、何が起きているのかはわからない。だが、耳を澄ませばわずかな音を拾えた。

 騎士たちもいないことを考えると、すでに逃走したのだろうか。そんな考えが浮かぶ。


 興をそがれたような気分でありながらも、ここ以外に心当たりはないために、俺たちは周囲に警戒しながら進んでいく。


「たー!!」


 階段へと差し掛かったところで、その叫びが響いた。

 男、だと思われるがさすがに声だけでアイメルド・フィルナのものとは判断できない。

 しかし、それでも貴重な情報を得るチャンスだ。アイストたちが先頭を走り、その後を続く。

 だが、アイストたちが階段を上ろうとしたところで、不思議な魔法陣が展開する。


「おまえら走れ!」


 何があるか分からない。しかし、この中でもっとも霊体の展開に慣れている俺は、すでにそのトラップを受けきる自信はあった。

 だからこそ、彼らを突き飛ばして魔法陣から外に出す。

 一応加減したが、二人が派手に吹っ飛ばされたのは見えた。

 同時に、俺の体が光りに包まれる。この感覚は、精霊に召喚されたときに感じたものに似ている。

 転移、だろうか。

 二人が俺のほうへと手を伸ばしてきたが、俺はただ叫ぶだけだ。

 

「俺のことは心配するなっ。無茶だけはするなよ!」


 そう叫ぶと同時、俺の視界が変わった。

 ……暗い空間の中には、うっすらと魔石の明かりがあるだけだ。

 真っ直ぐに伸びた道を観察しながら、とりあえずはそちらへと進む。


 不気味さの中で、俺は揺れる影を発見する。


 視線の先で人を発見した。魔物と交戦中のようで、霊体をまとっている。

 左右から襲い掛かる魔物相手に、器用に立ち回ってこそいるが、それでもさすがに数が多い。

 帽子を深くかぶっているために顔は窺えない。


「あんた、こっちに来い!」


 声をあげると、ようやく人は俺のほうに気づいた。

 俺が剣を構えて魔物へと向けると、意図を理解したようだ。

 近くまできたところで、彼が男であることがわかった。

 

「キミも……ふん、なるほどな。どうせ罠に引っかかったのだろ? バカだなぁ」

「そういうあんたもだろ?」

「ぼ、僕は違うぞ。僕はその……あれだ。偶然迷い込んで」

「トラップに引っかかったんだな。似たモノ同士、仲良くやろうぜ」

「誰が似たモノ同士だい! 話している場合ではないねっ。やるよ!」

「よし! まずはあんたが突っこめ! その隙に俺が駆け抜ける!」

「一緒に戦うんだよ!」


 仕方なく共闘し、剣を振るう。敵が真正面から来れば、受け流しながら脇を切る。姿勢が悪くなっても、力任せに体を扱って瞬く間に数を減らしていく。

 一掃したころには、男はそれなりに疲弊したようで剣を支えに息を乱していた。

 十日の間俺は自分の体を鍛えることも怠ってはいない。地球でも、それなりに運動は好きなほうで怠けきっていたわけでもなかったため、今では十分体力はあった。


「……お、おまえ疲れていないのかい?」

「疲れはあるけど、そこまではね。それよりも、ここは一体どこなんだ?」

「ふふん、知りたいかな?」

「いや、この先進めばわかりそうだしいいや。じゃな」

「置いていかないでくれ! 怖いのさ、僕は」


 情けなく走ってきて、俺の隣に並ぶ。怪しいやつだか、一人よりかはましか。

 ここは地下とかだろう。

 窓がいくつもあった屋敷と比べ、妙に閉塞感がある。しかし、牢獄といった感じではないため、恐らくは逃走経路とかそんな感じだろう。

 もう一つの可能性は、あの場所のトラップからして、魔物を閉じ込めるための空間か何かだ。

 仮に入り口が塞がっていても、力任せの一撃でどうにでもなるだろう。


「……それで? ここは一体どこでどんな場所なんだ?」

「ここは、屋敷の地下さ。たぶんだが、逃走経路として用意した場所なんだろうね。さっき、キミが転移した場所に仕掛けがあり、壁の先にさらに道があるんだ」

「隠し通路か……ところで、あんたは誰なんだ?」


 隣に並び、さも一緒に行動しようとしている彼に訊ねると、彼は不敵に笑った。


「謎の美少年、とでも言っておこうか」

「そうか」

「……何か言ってくれないかい。こうも反応が薄いとつまらないじゃないか。僕はいつだって、刺激を求めているんだよ」


 ……こいつ、面倒くせぇぞ。

 俺があきれ果てて口を半開きにしながら、必要なことだけを伝えていく。


「俺はハヤトだ。これ以上アホに付き合っている暇はないんだ」

「僕は……き――じゃなくて、ただの平民のカレッタだ」

「なるほどな」


 身なりは平民を模して作ったもののようだが、服の質が明らかに違う。

 平民の変装のつもりだが、その格好で平民街でも歩けば疑いの目を向けられるだろう。

 つーか、そもそもただの平民なんて、言わないっての。

 ただ、ここで彼の存在を明らかにするような時間はなかった。この数の魔物をどうにかするほうが先決だ。


「それで? ただの平民がどうして貴族の屋敷にいるんだ?」

「ここは貴族の家らしいから、そこの人でも助ければほら、雇ってもらえると思ったんだ。けど……まさか入ってすぐにある罠にひっかかるなんて、一生の不覚だったね。キミはどうなんだい?」

「だいたい俺もそんな感じだな」

「さて、どうする? キミも平民のようだけど、ここに来たと言うことは腕に自信があるんじゃないかな?」

「まあ、そうだな。それじゃあ、早々に脱出するとしようか」

「たぶんだけど、真っ直ぐ行けば出られるはずだ。さあ、行こうか。僕の血がざわざわ騒いでいるんだよ。事件の臭いがする……ってね」

「もう事件は起きてるだろ」


 俺たちは駆け足気味に移動する。

 ある程度進んだところで、壁へとぶつかってしまう。


「……隠し通路だね。叩くと音が響く」

 

 カレッタが呟き、俺は盗賊の職業技に変更する。

 そして、罠がないかを確認するために罠探知を発動する。

 発動すると、HP1あたり十秒程度の効果があるようだった。

 確かに壁の高いところに、その起動スイッチのようなものがある。


「カレッタ。あの場所にたぶん、罠を起動するための魔法陣がある」

「なるほど……だが、届かないね。どうする?」

「どっちかが足場になるしかないな。……仕方ない、カレッタ出番だ」

「な、なぜ僕なのかな。せめてじゃんけんだろうここは!」

「いやいや。おまえ、正確な位置わかるのか?」

「わ、わからないが……それはほれ、適当にぱぱっとやれば触れられるだろう!?」

「だけど、時間が惜しい。頼む、早く足場になってくれ」

「……くっ、仕方ない。頼むから靴を脱いでくれよ……っ」

「そのくらいはわきまえているよ」


 靴を脱ぐのも惜しかったが、仕方なく脱いでから彼の背中へと乗る。


「ふご!? キミダイエットしたほうがいいよ!」

「筋肉質といえ。ていうか、おまえふらふらしすぎだよ……っと、まるでサーフィンだ!」

「なんかよくわからないが、遊ばないでくれ。折れる!」


 マジで危険で、バランスをとっているだけだ。失礼な。

 なんとか魔法陣へと手をあてると、同時に石の壁が開いた。

 その先は牢獄のようだった。

 通路の左右には鉄格子でわけられたいくつもの牢屋があり、階段付近の場所には、一人の老人がいた。


「老人! 大変だ! 今助けるぞ!」


 正義感に溢れているようで、本気で心配しているカレッタは鉄格子をがんがんとならす。

 もう少し周りを見ないと、助けたいものも助けられないぞ。

 俺は近くの壁にかかっている鍵をとり、彼へと投げ渡す。


 カレッタが急いでそれをあけ、老人の手足につながれた錠の鍵も開けた。

 あまり食事もとっていなかったのか、タダでさえ細いであろう四肢は、それこそ棒のようになっていた。

 たくさんの皺がよっており、見ているだけでも苦しい。


「……大丈夫かい老人さん!」

「……ほ、ほぉすまない……の」

「くっ、水はないのか!?」

「水と、食料だ」


 俺は常に三日分程度の水と食料をステータスカードに入れてある。

 取り出したそれを渡し、カレッタが水筒を老人に飲ませる。

 ゆっくりと彼は飲んで、それから食事をする。

 牢屋にはいくらか食事をこぼしたような後もある。

 まるで食事をしていなかったわけではないだろうし、胃は大丈夫か。


「す、すまない……感謝する。ああ、ギースバーヤ様の慈悲かの、これは」

「……あんた、まさか街の長さんか?」

「……よく、わかったの」


 アイストたちが、長が連れて行かれたと言っていたからな。


「とりあえず、長さん。まだ外は危険だ。捕まっているような気分を味わって最悪かもしれないが、牢屋にいたほうが何倍も安全だ。すべてが終わったら迎えに来るから……それまでここで待つことを勧めるが、どうする?」

「なにやら、事情があるようじゃの。わかった。おいぼれが行っても邪魔でしかないじゃろう」


 長をもう一度牢に戻し、しかし自分で出てこれるように鍵は中においておく。

 螺旋のような階段をあがると、ようやく窓のある部屋へと出れた。明かりがついていないここは、倉庫としても使われているようで、埃の臭いが鼻をついた。

 これならば、牢屋や隠し通路として十分に使えるな。


「あの老人、大丈夫か?」


 カレッタが後ろを見ている。


「上に連れていって、魔物と戦いながらあの老人を守れるか? 俺には無理だね」

「確かに……決着をつけてからのほうがよさそうだな」

 

 扉をおしあけるようにして、俺たちはもとの広間へと戻ってきた。

 上が騒がしい。……アイストたちが戦いを始めたのかもしれない。


「こうしちゃいられない。さっさと上に行こう」

「何か、騒がしいな。キミの仲間か?」

「そんなところだ」

「それは心配だね。相手は……魔斧なんだろう? 怖いね……」

「なら待つか?」

「一人のほうが嫌だね」


 今度はトラップを警戒して階段を大回りしてあがる。一応罠探知で範囲の確認もして、俺たちは音のするほうへと駆けていく。

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