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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第十九話 七日目 成長期

 部屋にアーフィを残したところで、俺は熱くなった頬を冷ますようにアスタリア迷宮へと歩いていく。

 昨日一度通った平原であったが、アーフィがいないとなると一人で警戒するべき範囲が増えて、非常に大変だ。

 どうにかアスタリア迷宮に到達したけど、すでに疲れてしまった。

 この調子で迷宮の攻略ができるのだろうか……。アーフィは勘も良く、常に魔物の脅威を意識してくれていた。

 いうなれば、迷宮での警戒の八割はアーフィが行っていた。

 ……まったく。人はどうしてこうも便利なものを見つけると、すぐに頼ってしまうのだろうか。

 自分の甘さを自覚しながら、俺は迷宮の五階層まで、探索者のスキルを使い進んでいく。


 迷宮での移動先は、必ずその階層の入り口となっている。そのため、魔物が待ち構えているということは滅多にない。

 たまにあるらしいが、魔物がそれを理解しているわけではないので、お互いに驚きあうだけである。

 昨日到着した五階層へとやってきて、まずは魔物を探しに向かう。


 この階層で一人で戦えるのかどうか。それの実験だ。

 迷宮内は薄暗く、時々聞こえる魔物の声が不気味に反響する。

 大人が三人は並んで通れるような通路には、雰囲気を作るためか、人間の頭蓋のようなものが転がっている。

 アーフィならば本物かどうか触ってみるような勇気を持っているかもしれないが、あいにく俺は触れる気も起きない。

 と、空間に歪みが生じ、前方の広間に魔物が出現する。


 その数は三体だ。四角い石を敷き詰めたような石のゴーレムは、右目の部分だけが魔石で出来上がっている。

 その魔物が三体いたのだが、こいつらはそれほど強くはない。


 胸に、魔石とは別の赤い石がついている。これを破壊すれば、ゴーレムは即座に崩れ、魔石だけを残すのだ。

 まだゴーレムたちは気づいていない。

 慎重に、魔物三体が背中を向けたところで、走り出す。

 広間に入ると、ゴーレムたちが気づいた。

 こちらに体を向けるのまでは予想済みだ。その胸元を剣で突く。


 腕を戻し、二体目のゴーレムの胸を斬る。浅く斬ったつもりでも、筋力600が砕け散らせる。

 最後の一体がのそのそと腕をあげる。

 足に霊体をまとって、そのゴーレムの胸元を蹴る。

 壁まで吹き飛び、爆発でもするような勢いでゴーレムの身体が崩れ落ちた。


 周囲に魔物がいないことを確認してから、落としたアイテムの回収を行う。

 ……この回収の間がまた忙しい。ステータスカードを取り出してしまうため、その間が完全な無防備な時間となってしまうのだ。

 剣を鞘へとおさめながら、俺はステータスカードの技術について考えていく。


 俺の剣が剛だとすれば、アイストのは柔だった。

 この違いについては、語るまでもない。ステータスを見た限り、アイストのほうが剣を自分のモノとして扱えているように見えた。


 俺はただ、力任せに振っているだけだ。それこそ、魔物のように。もしかしたら、魔物のほうがよっぽど上手に剣を使えるかもしれない。

 やはり、技術もあげていったほうが良いか。

 あげるとして、どのくらいがいいのかな。


 筋力も割り振りたいと思っているため、技術はあくまでもサポートしてと考えている。

 筋力の半分程度にしようか?

 それとも、アイストくらいか?

 

 アイストのように剣を自在に扱えるようになれば、例えば、筋力だけでは戦いにくい相手にも勝てるようになるはずだ。

 もしくは有利に進められると思う。


 階段を下り、踊り場にて休憩しながら、俺はステータスカードとにらみ合い、そして決める。

 今あるすべての技術を使用しよう!

 レベルがあがりにくくなっているとはいえ、アーフィが復活すれば効率もあがるはずだ。

 

 何より、リグドと戦うことを考慮すると、技術は絶対にほしい。

 あのときも、技術さえあげていれば、たぶんあそこで勝つことができた。

 メニューを開き、ステータスポイントをとりあえず、100あげる。

 そして、霊体をまとい剣を握る。

 ……なるほど。


 今までは感じることのできなかった、剣を握ったときの感覚が、より鮮明になった。

 剣を腕の延長のように扱う……とか聞いたことがある。技術をあげることで、それがより強くなると言った感じだ。

 これは確かに素晴らしいが、当たり前すぎてなかなか気づきにくい。

 技術というのは、剣の扱いレベルだな。


 達人が何年も剣を振って手に馴染ませるとすると、この技術が上昇すれば、短時間でその域にまでたどりつくことができる。

 いうなればこれは、経験のようなものだ。

 だから、長く戦闘を行う人ほど、この重要さには気づかない。だって、自分の剣の扱いが上手になったのだと勘違いするだろう。


 俺のように、一気にステータスを上げられる人が、ようやくそこで、この重要性に気づくのだ。

 こうなると、今まで自分がどれだけ稚拙な剣の振り方をしていたのかと恥ずかしくなってくる。

 100でこれほどとは思わなかった。技術をあげる価値は、十分にあるな。

 これだけ実感できるのならば、さらに技術をあげてしまおう。

 俺は残りの数字のすべてを技術に割り振り、生まれ変わったような体に、感動さえも覚えた。


 剣を握るだけで、その感覚が鋭くなり、剣の多くを知ることができた。

 早く、試してみたい。もちろん、油断はしない。あくまで細心の注意を払いながら、俺は第六階層へおりていく。

 第六階層も似たような造りだ。注意を払うことは忘れずに、魔物を探していく。

 広間にいた魔物へと詰め寄り、俺は剣を抜く。その動作でさえも、前よりも早い。

 ピンポイントでゴーレムの胸を貫き、背後から殴りかかってきた拳を、剣で受け止め、そして横へと流す。流しながら、その腕に剣を走らせ、真っ二つに胸を斬りさいた。

 そして、剣を鞘へと戻し、短く息をはく。


 ……凄いな、これは。

 今ならば、剣で切り結んだとしても、そう簡単に負けるとは思えない。

 調子に乗らないようにと意識しても、魔物と戦いたいと体が欲してくる。その感情に身を任せすぎるのも悪いが……たまには、はしゃいでもいいよな。



 ○



 レベルが11になったところで、俺は迷宮から出た。 

 今日探索できたのは、第十階層までだ。

 昨日よりも深い階層で狩りをしていたこともあってか、レベルの上昇はまずまずだ。

 しかし、十階層にもなると、魔物が集団でいることが当たり前だ。その集団が前後に出現して、身の危険を感じたこともあった。


 とりあえず、レベル10のときにステータスポイントのすべてを筋力に振ったことで、今のステータスがかなり見栄えが良くなっている。


 Lv11 ハヤト・イマナミ 職業 無職Lv1 メイン 勇者Lv1 サブ 斧使いLv1、格闘家Lv1、剣士Lv1

 HP1 

 筋力738 体力11 魔力1 精神1 技術333 

 火1 水1 風1 土1 光1 闇1

 職業技 筋力アップ 筋力アップ 技術アップ 


 まだ、ステータスポイントが120残っている。技術に振るか、筋力に振るかを考えているところだ。

 どちらも今の迷宮ならばまるで必要ないんだよな……。

 街へと戻り、今日消費した水、食料を再びステータスカードに入れていく。迷宮での稼ぎをギルドに行って売却すれば、お釣りがくるほどだった。


 宿へと戻ってくると、ちょうどアイストたちと合流した。彼らの顔には疲れがにじみ出ている様子だった。

 それは俺も同じだ。一人で長い時間戦闘を行うことができたと自分を褒めたい。

 とりあえず、夕食は一緒にとるということになり、部屋に戻る。

 ベッドで横になっていたアーフィが、満面の笑みを浮かべる。……さぞかし暇だったのだろう。すぐに立ち上がって近づいてきた。

 

「おかえり。どうだった、一人の迷宮は? 私がいなくて寂しかった?」

「やっぱり、アーフィがいないとつらいね。目があと二つ背中に欲しいよ」

「そ、そう……」


 まさか素直に返されるとは思っていなかったようだ。……俺も恥ずかしいけど、こういうほうがからかいモードのアーフィには効くようだ。


「一緒に食事をしよう。アイストたちに誘われたんだ」

「……また、食べさせてもらうことになるけれど、大丈夫?」

「次はレッティに食べさせてもらったらどうだ?」

「あら、まだ慣れていないの?」

「レッティと仲良くなる良い機会じゃないかな?」


 誤魔化すように伝えるが、アーフィは確かに……と納得する。

 これをきっかけにレッティと話す時間も持てるだろう。

 彼女を誘導するように前を歩く。万が一障害物があって転んだときに、俺がすぐに支えられるようにする。

 階段をおりていき、食堂で既に席を確保していたアイストたちと合流する。

 席につき、レッティに目配せするとこくりと彼女は頷いた。


「……あ、アーフィ。私が食べさせてあげる」

「……ありがとう」


 アーフィが笑い、レッティは居心地悪そうに視線を下げる。 

 ……こうなった原因はレッティたちの街にあった魔斧だ。だからこそ、負い目を感じているようだ。

 アーフィは強がりでこんな顔をしているのではない。本当に嬉しいから笑っている。

 指摘したい気持ちもあったが、そういう難しい人の心の機微を理解するのもアーフィの経験になるしな。

 自分の食事に意識を向けながら、アイストに声をかけた。


「レベルはあがったか?」

「ふふん、1レベルあがったんですよ。基本ステータスが全部で10くらいあがったので、今朝までの僕とはまるで違うと思いますよ」

「結構あがるんだな」

「たぶん今の僕は成長期になっているからだと思います」

「ああ……本で読んだな。確か、人それぞれ、成長期なるものがあって、ある一定のレベルの間でステータスの伸びが著しく上がるってやつだったかな?」

「そうですね」


 俺のレベルアップ時の伸びは変わっていない。

 それでも数値が多いのは、職業による補正と、本来ならば割り振られるはずの属性ステータスまでもポイントになっているからだな。

 アイストもたぶん属性ステータスなんて使う機会滅多にないだろう。

 それを俺は、自由に基本ステータスに割り振れるんだからその分の数字は大きいはずだ。


「俺はレベルが2あがったよ。狩りが上手く行ってよかったね」

「そういえば……ハヤトさんってレベルいくつなの?」

「俺は今日で11になったよ。ステータスは、筋力と技術ばっかり伸びていくから……前とは随分変わったと思うよ」

「ていうか……ハヤトさんってどこで狩りをしていたの? アスタリア迷宮では見かけなかったけど」

「俺もアスタリア迷宮だよ。あそこの5から10階層でやっていたけど、二人は?」

「……本当ですか!?」


 口に物を入れたまま汚く叫び、身を乗り出してくる。

 顔を押し返すようにすると、彼は席に座りなおす。


「そんな驚かれることなのか?」

「……迷宮って普通はレベルと同じくらいの階層で狩りをするのが基本なんだよ?」

「……ああ、そうか。わかったよ」


 アイストの言うことは正しい。本で迷宮の歩き方、なるものも読んだから知っていた。

 ただ、あれには書かれていなかったが、迷宮は普通四人から六人で攻略するのが基本だ。

 ていうか、これは本に書く必要もない、常識なのだ。


 迷宮の構造上、役割分担が必要になる。ステータスカードに持ちきらないアイテムを管理する人、迷宮移動のための探索者は、当然必要だ。

 そこに、さらに前衛、後衛なども用意して……こんなことしていると、最低でも四人程度にはなる。

 パーティとして組めるのは最大六人だ。経験値の分配はこの六人で行われる。

 アイストが言いたいのはつまりこういうことだな。


「迷宮の階層=レベルっていうのは、六人パーティーの話なんだね」

「……うん。だから、ハヤトさんのように一人で……そもそも通用すること自体がおかしいんだよ。……本当にレベル11なの?」

「ああ。どうやら俺は職業に恵まれたようだね。これだけは、あれに感謝しようか」

「……どんな、職業なんですか?」

「……ものまねだよ。聞いたことあるか?」

「初めて、ですね。ものまね……ですか」

「俺の職業は珍しいらしいんだ。だから、あんまり他言はしないでほしいんだけど……」

「大丈夫です! 必ず守りますよ!」


 ばんと胸をはるアイストに頷いて、俺たちはのんびりと夕食をとった。

 そして、これから風呂にでも入りにいこうかと部屋に戻って着替えの用意をしていると、アーフィが口を開いた。


「……わ、私も風呂に入りたいのだけど。何かやり方ないかしら?」

「……そうか。そうだったな」

「ふふ、一緒に……入ってくれてもいいのよ?」


 顔を真っ赤にしながら言うなっての。

 目と喉ばかり、効果が強くて忘れていたが、そういえばアーフィのわきの下にも星模様があるんだったか。

 弱ったなこりゃ。


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