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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第十七話 七日目 事情


「……私たちはここから少し西に行った場所にあるフィーノスっていう小さな街にいたわ」

「そこで事件が発生したってことか。貴族が、魔斧を持っていこうとした……だっけか?」

「……そうよ。ギースバーヤは街を守る魔器なのよ。祭壇に刺さっている間は、地中に魔力が流れる。その影響で食物の成長は早くなるし、おいしいものができあがる……特に大事なのは街には結界が張られるのよ。ランクAの魔器よ」

「今は大変だろうね」


 今街を守るものはないということだ。

 彼女の表情の悪さからもそれが窺える。

 下手したら、あの魔斧にやられて、街にも満足に動けない人が多いのかもしれない。

 そうなると、自体は俺が考えている以上に悲惨だろう。


「あの貴族さえ……こなければっ!」


 苛立ったようにアイストが叫び、そこに俺は口を挟む。


「けど、魔器の回収自体は間違いじゃないんじゃないか? 貴族が持っていたほうが、使う機会も多いだろうし。何より、これから大きな敵が襲い掛かってくるだろう?」


 災厄については彼らも理解しているようで、納得出来る部分もあったようだ。

 そこで、レッティは言葉を紡ぐ。


「……過去にも、一度やろうとして失敗しているのよ。自分の先祖たちがやろうとして、命を失っているのに、またやって、こんな事件になってしまったのよ」


 前例があるというのに挑戦したのは、自分なら大丈夫だとか……そんなうぬぼれだろうか。はたまた、戦力がどうしても欲しく、失敗の恐れはあってもすがりたい気持ちがあったのかもしれない。

 ……一ヵ月後のハマミレーナを恐れてか? それとも、そこで活躍し、勲章を得たいとかだろうか。

 何にせよ、民を思っての善意からの行動……とは考えられない。


「……一番むかつくのは、その貴族が私たちのせいにしたことなのよ! 街の人たちが、貴族に反発して魔斧を使って攻撃してきた……なんて、アリもしない嘘を吐いて……長が責任をとって、貴族につれていかれたわ。今はもう、どうなったかもわかんないのよっ」

「それはまた、自分の失敗を上手くもみ消したものだね」


 俺の冷静な態度が気に食わないようで、彼女は顔に力を込める。


「貴族は、だから大嫌いなのよっ。精霊の使いって奴も大嫌い! 貴族は所詮、自分しか見えていないのよっ。騎士なんていても、自分を守るためだけにしか使わないっ。こんな国……災厄に飲まれてしまえばいいのよ!」

「……レッティ、落ち着くんだ」


 レッティの様子に、アイストもすっかり怯えてしまっている。

 気の弱い人間ならば、彼女の前に立つこともできないだろう。


「今のは少しいいすぎたかもね。貴族なんて、全員災厄に飲まれてしまえばいいの」


 暗い顔でぼそりと呟き、席についた。


「……魔斧は、どうしてリグドさんにとりついたんだ?」

「毎日深く祈っていたからだと思うわ。長が連れて行かれて……その身勝手さに魔斧が怒ったのよ。貴族に復讐するための力を求めながら、今もあの貴族を探していると思うわ」

「その貴族の名前は?」

「……フィルナ家の侯爵、とか言っていたはずだわ」


 ……あいつ、か。

 あまり思い出したくはない名前だったが、その貴族の名前ならわかる。

 侯爵家がどうたらいって、桃を口説いていた男だ。

 確かにあの無駄に自信家な点や、変な勘違いをするところなどから、魔斧を抜きにいったときは英雄気分でふわふわしていたのだろう。


 失敗して反省しているのならともかく、桃を口説いていた様子から、失敗は忘れてしまうタイプなのだろう。

 都合の良い脳を持っていて羨ましい。


「それじゃあ、問題は魔斧だ。あれをどうするか考えないといけないな。あいにく、こっちで一番強いアーフィがあの様になってしまったし、このまま黙って見過ごすわけにもいかないんだよね」


 ……それに、この国の最高戦力が騎士団長としたら、彼一人でも手におえるかどうか。

 それ以上の戦力を隠し持っている可能性もあるが、少なくとも俺は知らない。

 そもそもだ。

 約一ヵ月後に災厄がくるのだ。

 そんな状況で、この街の事件に本腰をいれて対応してくれるとも思えない。

 

「一緒に、戦ってくれるってこと?」


 アイストが顔を向けてきて、俺は深く椅子に座る。


「当たり前だ。こっちは仲間がこの様になってしまっているんだ。これじゃあ、どうしても俺の旅は続けられない。魔斧を止めれば、どうにかなるんだろ?」


 アーフィが嬉しそうな目を作ってくれる。

 ……とはいえ、全部は俺自身のためなんだ。そんな目で見られても反応に困るな。


「……それもあるわ。あとは、目的の達成が果たされればそれで済むわ」

「なら、目的の貴族を殺すまで放っておくのも一つの手か」


 アイストがぷるぷると首を振る。

 それから彼は真剣な目を作って、こちらを見てきた。


「ダメだよ。確かに貴族は憎いけど、あの魔斧も本当はそんなこと望んでいないと思うんだ。……それに、父さんを人殺しにはしたくない」

「そうか。なら、それを実現するために、具体的に策を練っていく必要があるね。俺はギースバーヤについて知識はほとんどないに等しいんだ。まずは、その性能を教えてくれないかな?」


 こくりと頷いて、レッティが唇を震わせる。


「……近接殺しの斧、と言われているわ。斬った相手の部位の動きを奪うっていう力よ。封印、しているっていうのが正しいらしいけど、私たちも知っているのはそれだけね」

「……つまり、あの力に勝つにはこっちもそれ以上の力で挑むしかないってことだね」


 馬鹿正直に戦うならの話だ。

 俺がもっと自由に戦闘できるのならば、力以外の戦闘も考えられるのだけど……。


「それに、魔斧は封印した相手の筋力のいくらかを、自分のものにできるのよ。だから、放っておけばどんどん強くなっていく」

「それは最悪な奴の力がとられちまったな」


 頭をかいて、アーフィを見る。

 アーフィも事情を理解してか、申し訳なさそうに目を伏せる。


「悪い悪い。アーフィを責めるつもりで言ったわけじゃないんだ。アーフィの力はどうにか俺が取りもどすよ」

「……ごめんなさい。私のせいで、ハヤトに迷惑をかけてしまったわね」

「気にしないでくれ。これ以上の迷惑をつい六日ほど前に体験しているんだ。いうなら、今の状況だってそいつのせいみたいなところもある」


 苦笑しながらアーフィと話していると、アイストが顔に笑みを浮かべる。


「いいなぁ、二人とも凄い仲いいんですね」

「出会って二日くらいだけどな」

「えっ?」

「まあ、時間なんてものは関係ないか。良い友人だよ」


 それだけを伝えて、立ち上がる。

 いつまでもここにいたところで意味はない。

 別に俺たちを狙って敵も来るわけじゃない。


「宿に戻るの?」

「まあ、今日の分の金は払っているしね。金だけ払うっていうのももったいない」

「……は、はは」

「それと、明日からの夜は勝手に行動しないこと。……まさか、犯人を探して夜の街を探索するなんていう無謀な行為もしない。いいな?」

「……わかりました」


 探したところでそれなりに広いこの街の中だ。見つかるかどうかは難しい。

 俺たちは、宿の場所だけを伝えると、彼女たちが明日には合流したいと言ってきた。

 俺としても、一人でこの事件にあたるつもりは毛頭ない。

 とはいえ、戦闘については俺がやるしかないだろうな……。力だけなら、アーフィに次ぐ強さだし。

 


 ○



 次の日の朝になり、問題に気づいてしまった。

 昨日はあのあとすぐに眠ってしまったので気づかなかったが……両腕が使えないのなら、こうなるか。

 宿の食堂……そこで彼女は頬を真っ赤にしながらも、どこか勝気な笑みを浮かべている。

 朝食になったところで、こちらをみる視線が多かった。


「次はこっちが食べたい……わね。ふふ、恥ずかしいのかしら?」

「……当たり前だろ。いちいち言うなよ」

「……女の子に食べさせてあげるくらい、慣れていないとかっこ悪いわよ?」

「そういうなっての。一人でどうにかできる問題でもないだろ?」


 アーフィはこういった感情の理解が早い。

 ……というのも、たぶん洗脳に近い能力を持っているからだろうな。


 スプーンで一口をすくい、彼女の口に運ぶ。

 俺も左手で自分のものを食べていく。よかったよ、両利きで。

 俺たちが魔斧使いに襲われたことは、宿の店主には伝えた。

 そこから、一気に広まったのか、同情的な視線がいくつもあった。


「強く、生きるんだぞ……」

「何かあったら相談しろよな!? 話だけなら聞くから!」


 肩をとんと叩き、そんな声をかけてくる宿に泊まっている冒険者たち。

 それと、ニヤニヤとした視線があるのがまた気に食わない。

 完全におもちゃにしてやがるね。

 俺たちの関係を完全に勘違いしている人たちも多いのだ。


 そんな視線にさらされ、アーフィは照れまくりのなか、俺をからかうことをやめない。

 だが、アーフィもさすがにつらいのか。さっきからは静かになった。

 俺も意識しないように食事をしていき……ちょうど終わったところでアイストたちが入ってきた。

 アイストは宿の管理人に声をかけ、金を支払う。それから俺たちのほうへとやってきた。


「おはよう、ハヤトさん」


 笑顔を浮かべたアイストに、俺はちょっとばかり唇を尖らせた。


「もうちょっと早くきてくれれば、レッティに任せたんだけど……」


 そっちのほうが見ている側も良い絵になったと思う。


「私たちも朝食を食べていて……途中で気づいたのよね。両腕が使えないなら、顔を突っこんで食べるか食べさせてもらうしかないじゃないっ! って」


 なんで楽しそうなんだよ。

 目を輝かせている二人も……俺たちを完全に誤解している側の人間だ。


「俺が非情な人だったら、顔を突っこませていただろうね」


 俺はまだ少し強くいうと、レッティがからかうように目を細めた。


「けど、良い経験になったでしょ?」

「お早い介護体験だったよ」


 介護と言われてもぴんと来ないようだった。

 ……この世界じゃ、介護になるような年齢まで生きている人は珍しいのかもしれない。

 貴族とかになれば、そういうのを多少は理解できるかもしれないが。


 俺たちの部屋に彼女たちも誘う。内緒話をするのに、個室で集まった方が都合が良い。

 二人部屋に四人が入ったことで、窮屈な感じはあったが、それでも話をするにはここが一番だ。食堂では、誰が聞き耳をたてているかわからない。


「今日から俺は、一人で迷宮へ行くつもりだ。少しでも強くなるために、経験値のことを考えると一緒に行動はあんまり得策じゃないしね」

「……そう、だね。僕もそっちの方がいいと思う。もちろん、危険がない範囲で、だけど」


 何か苦い思い出があるようで、アイストが頬を嫌そうに歪めた。

 

「少し、気になることがあるんだ。ステータスに関することで、ああ、嫌なら答えなくてもいいよ。……アイストの技術の数値を教えてもらいたいんだ」


 アイストがリグドと戦う場合、技術だけでどうにかできるのかどうかが気になっていた。

 リグドとの剣で、俺は単純な腕力勝負では互角だった。

 これからさらに被害が増えれば、抜かされることになる。


「なら、これがステータスカードです」


 躊躇なく取り出し、その対応に俺は少し驚く。


「いいのか?」

「……そんなこと気にできる身分じゃないからね。これが僕のステータスです」


 アイストが取り出したステータスカードを見せてもらう。アーフィも気になるようで、腕があたるような距離まで近づいてきた。


 Lv10 アイスト 職業 曲芸師Lv1

 HP120 

 筋力70 体力80 魔力83 精神94 技術180

 火30 水24 風12 土13 光14 闇20

 職業技 ジャグリング


 レベルは思ったよりも低い。

 ステータスもたぶん、レベル1の俺が三倍されていたとしたら、同じくらいのステータスになっていただろう物だ。

 桃のステータスが、確かこのくらいだったからな。

 やはり、職業の影響が多いのだろうか。

 もっといえば生まれたときにステータスの初期値のようなものも違うのかもしれない。


「アイストは普段は冒険者として仕事をしているの?」

「あんまり……ですね。たまに、迷宮に入るって感じで、その一回も満足に狩りができているかっていわれれば疑問がある、くらいですね」

「……なるほどね」


 というか、そもそも迷宮は複数で入ることのほうが多いのだろう。それらを考慮すれば、俺がどれだけ異常な速度で成長できているのかがわかる。

 まだ、一度しか経験していないが、アーフィと狩りをするなら、戦力は何倍にも膨れ上がるのに、経験値を独り占めにできるし。

 

「……ちょっと、やってみたいことがあるんだ。これから空き地まで移動してもいいかな?」

「大丈夫です。剣の勝負ですか?」

「まあね」


 不敵に笑って、彼らとともに宿を出た。


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