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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第二章 地球(ローファンタジー)
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妹視点 第二十五話


「え、と確か……冷歌さん、だっけ?」

「ああ、そうだぜ。その、こんにちは」

「うん、こんにちは。それでその、そうだ、兄貴は!?」


 彼女と朝は一緒にいたのだ。つまり、もしかしたら兄貴もいるのでは。

 しかし、彼女の後ろには誰もいない。冷歌さんは申し訳なさそうにほおをかいている。


「は、勇人はその……次元のはざまで、残っちまって。えと、どこから話せばいいのやら」

「一から話してくださいまし。もしかしたら何かできるかもしれませんわ」

「わっ、ハエ!?」

「大精霊に向かって何をいいますの!?」


 大精霊!? と彼女は驚いた様子であった。けど、それからすぐに納得はしているから、存在自体は知っているようだ。

 冷歌の事情を聞いて、なんとなく状況がわかった。こちらの事情も伝えると何度も頭を下げてくる。

 兄貴も兄貴なりに動いていたんだ。てっきり何もしないで遊び呆けていたのかと思っていた。


「次元のはざまなら、クワリなんとかできないの?」

「難しいですわね。次元のはざまなんて、言ってしまえば宇宙の星のようなものですわ。ですから、その中から一つの次元のはざまを見つけ出すなんてまずできませんの」

「そうなんだ……」

「こ、このままだと勇人が消えてしまうんだ。だから、早くお兄ちゃんを倒さねえと」

「お兄ちゃん?」

「う、うん。あたしのお兄ちゃんが、この世界を破壊しようとしてて……だから、止めないと」


 あの人が言っていた助けたい奴って、この人のことだったのか。

 けど、だからってこの世界を破壊してまで、助けるなんてそんなのおかしい。

 難しいかもしれなくても、この世界でできることだってあるんだ。


「冷歌さんの言葉なら、届かないかな?」


 あたしの言葉じゃ届かなくても、冷歌さんならもしかしたら……。


「……あたしも、もう何度も止めたんだ。けど、言葉じゃ無理だった」

「そう、なんだ」

「だから、もう倒して……止めるしかねぇんだ。……この世界が、また同じように壊れるのも嫌だ。兄貴が、あたしのためっていっても、あたしはそんなの望まねぇよ」


 冷歌さんはこちらをじっと見てくる。


「兄貴の居場所は、わからねぇのか?」

「これから、向かうところだよ……。クワリ、お願い!」


 クワリに声をかけると、彼女は重苦しい顔をこちらに向けてくる。


「おそらく、あのものは今度は本気でくるはずですわ」

「……うん」

「すでに咲葉を捕えている以上、わたくしたちは必要ありませんわ。だから、殺されるかもしれませんの」

「……わかってるよ。それでも、やるよ」


 その言葉にぶるっと体が震える。

 ……もう、あたしの知っている世界ではない。

 覚悟はすぐに決める。咲葉を取り戻すためならなんだってやる。


「あたしたちで止めないと、結局世界は壊れてみんないなくなっちゃうんだよね? だったら、行かないと!」

「あっしも、もちろん協力するっすよ」

「うん……ありがと」


 ゴブッチがいても、あたしたちが勝てるかはかなり望みが薄い。

 けど、やるしかない。

 準備はできた。魔力が回復しきるまではいかなかったが、それでも時間がない。


「クワリお願い」

「わかりましたわ……必ず、世界を救いますわよ」


 うん。クワリに頷いた瞬間、あたしたちの体はふわっと浮遊感に襲われる。

 紫色の空間には、白い足場がまっすぐに伸びていた。その先は大きな城だ。

 城はぽつんとただたっているだけだ。

 何か、あるわけでもない。まるで何も感じないほどに無機質だ。


「あそこが、わたくしの拠点ですの。あの城の内部に、世界を管理するわたくしの部屋がありますのよ」

「うん……」


 そこに向かえばいいんだよね? あたしが頷きかけると、突然影が落ちた。

 空を見ると、こちらへと向かってきている男がいた。

 ……冷歌の兄、啓という男らしい。


「……来たか」


 場所はよくわからない。

 暗い空間だ。夜のように、あたりには星ににた明かりがある。

 足場は……ないはずなのだが、なぜか私たちはそこにいる。

 奥には城のような場所がある。


「あの城の中に、咲葉の力を感じられますわ」

「……そっか」


 ただ、あたしたちを邪魔するようんい啓がたっている。


「お兄ちゃん! この世界の未来は知っているのか!? こんなことしたって、結局どうにもならないんだよ!」

「この世界の未来……ああ、知っている。オレがこの世界を破壊して、大精霊の力をわが物にする。……そうすれば、別の世界で生きられるように冷歌だって作り直せる。……新しい世界で、未来におびえなくてもいいように生きられるんだ」

「お兄ちゃんが、その未来通りに世界を崩壊させちまっていいのかよ!? それにな、世界が作られればその世界の歴史だって生まれちまうんだよ!」

「それがどうした! その歴史だって、オレが作り直すっ! それで、おまえを守れるのならオレは……っ」


 啓が大声を上げ、それから頭に手をやる。

 

「ぐ……っ」

「……大精霊の力を、そんなに長く人間の体で持っていたら、体が耐えられませんわよっ」

「それが……どうした。たとえ、あと少ない命だとしても、オレは理想の世界を作り出すまでは死なないっ」


 啓が槍を構える。空中からまっすぐにこちらへと向かってくる。冷歌さんが剣でその攻撃を受ける。

 力差は歴然だ。

 冷歌さんの体が弾かれ、啓はまっすぐにこちらへと向かってくる。


「おまえも世界精製の、玉となれ」

「ならないよ! 世界はね、あんたが言うように崩壊の未来になんて向かってないんだから!」


 あたしはヒートバレットを足場に放つ。土煙が舞いながら、あたしは自身の周囲にヒートバレットを大量に生成する。

 槍が触れる。攻撃に反応してヒートバレットがそちらへと飛ぶ。彼がさばいていくが、あたしのヒートバレットの衝撃に弾かれる。


「世界の崩壊者はオレだ。そのオレを止められる人間はもはやこの世にはいない! この決まった終わりにオレが導き、新たな世界を作り上げる!」

「新しく作っても、未来は自動で決まっちゃうんだよ! そんなことしても、無駄、なんだよ!」

「無駄、ではない! 大精霊によって導かれる未来よりかは、ずっとましだ!」


 彼が煙の中から突っ込んでくる。


「あっしの姉貴は、命に代えても守るっすよ!」


 ゴブッチが間に入り、その攻撃を剣で受ける。受け流そうとしたのだが、啓の体をまとう赤い光から弾丸の攻撃が放たれる。

 ゴブッチの体が弾かれ、こちらにもそれが数発飛んでくる。


 即座に、ヒートバレットを展開する。

 火の弾で相殺しながらも、彼の体が突っ込んでくる。打ち抜いた攻撃の数々は、駆けながらおそいかかる彼のやりに弾かれる。


 その攻撃が届く前に、あたしと彼の間に氷の壁が出現する。


「邪魔、だぁぁ!」


 啓が大声をあげて、その体の光がひときわ強くなる。

 槍をふりぬくと、氷の壁はあっさりと破壊される。しかし、その氷が砕けると同時、氷の破片が地面に落ちてつららのようにいくつもの尖った氷が形成される。


 ……壊れた魔法に、再度干渉して、残っている魔力で新たな魔法を作ったんだ。

 なるほど、魔法にはそんな使い方もあるのか。感心しながら距離をとる。


 啓が足場の氷を破壊しながらこちらへと走り出す。

 振りぬかれた槍をかわし、ゴブッチが剣を背後から降りぬく。体をひねりながら啓はかわし、ゴブッチに槍を振りぬこうとしている。

 その槍へあたしがヒートバレットを放つ。


 槍が一瞬止まり、ゴブッチがその隙をつくように剣を突き出す。

 啓は足を振りぬいて、ゴブッチの体を飛ばす。彼の背後から剣を振りぬいた冷歌だが、その一撃は片手でつかまれる。

 遠くへと放り投げられた冷歌だが、その姿勢のまま氷の矢をいくつも放つ。槍を回すようにして、啓はすべてを受けきる。


 あたしは片手を振りぬく。

 最強の一撃。あたしがためたヒートレーザー。

 最大の魔法が放たれると、啓は槍を放り投げる。


 魔法と槍がぶつかる。打ち負けてたまるか……っ。魔力をさらに固めて、膨れ上がっていく。

 全身が悲鳴をあげる。それでも、ここでひるんでいたら何も変わらない。

 この一撃を突破して、あたしは咲葉を救い出す。

 槍が弾かれる。魔法が彼の体へとぶつかる。


 耳に届く轟音、彼の体も考えるつもりはない。加減なんてしては、きっと勝てない。

 だから、吠えるように。体の奥底から魔力をひねりだして、あたしは何度も長く魔法を放つ。

 限界が来たのは魔法だ。予定以上の力の放出に、魔法が砕け散った。

 過ぎた場所に残ったのは、無傷の啓の姿であった。


「……まさか」

「どれだけの魔法を叩き込まれようが、オレは倒れるつもりはないっ。新たな世界を作るまで、死ぬつもりはないっ!」


 彼の体が一気に加速する。駆け込んできたゴブッチの胸にその槍が突き刺さる。


「……くっ」


 あたしは後退しながら、魔法を放つ。

 それでも啓はあっさりとさばいていく。ゴブッチの体が崩れ落ちるのが視界に映る。

 ……勝てない。


 これだけやっても、まだ力の差はある。

 経験が違うんだ。今のあたしでは……咲葉を助け出すなんてのも、無理だ。

 気づけば倒れていた。体を踏みつけられ、その槍が首元に突き付けられる。


「殺しはしない、せいぜい、世界の贄になれ」


 兄貴……っ。

 次元のはざまにいるん、だっけ?

 ゴブッチがいるみたいな世界に……けど、契約をしていないんだから、そのつながりはない。

 ……だけど、あたしと兄貴にはそれ以上の深い絆があるんだ。

 もう、頼れるのは兄貴しかいない。一度世界を救ったんなら、妹のピンチくらい救ってみせてよっ!


「お兄ちゃん!」


 とびかかってきた冷歌が彼に剣をたたきつける。啓が後ろに後退しながら、その連続の一撃をさばいていく。


「……もう、おまえはじっとしていなさい。あとは、オレが全部やっておくから」

「たくさんの人を犠牲にした先の世界じゃ、あたしは生きられねぇよっ!」


 振りぬいた剣が彼に届くことはない。

 けど、時間はある。

 立ち上がると、冷歌の体が弾かれたところだった。こちらへと迫ってくる啓をにらみながら、強くおもう。


「……あたしは、ここに召喚してやるんだ。あたしと兄貴の絆……なめんな!」


 荷物持ちをしてくれたり、学校の宿題を手伝ってくれたり……そんな軽い気分で、今もあたしを助けてよね!

 片手を振りぬく。召喚のイメージはゴブッチと同じだ。

 魔力を放出するようにして、次元のはざまに干渉する。


 次元のはざまにいくつもの小さな世界があるなら、その全部に干渉すればいい。

 あたしの魔力なら、絶対にできないことではない。クワリも力を貸してくれているのがわかる。

 啓の片手が首をつかむ。力が入り呼吸もうまくできない。

 それでも、啓をにらみつける。顔に力を入れて、彼を射抜く。


「次元のはざまにどれだけの世界があると思っている? あの世界に干渉など、もうオレにもできない」

「どれだけの世界であっても関係ないよっ、それができるから、あたしと兄貴はちゃんとした兄妹なのっ、一方的な押し付けだけの、あんたとは違うの!」


 首をしめる手にさらに力がこもる。

 意識が遠のいていく。それでも、あたしは願い続ける。


「兄貴! さっさと来てよ! 妹が困ってるの!」


 何度も何度も強く叫び、そして干渉し続ける。

 いくつもの世界が見えた気がする。

 平坦な、広大な、無機質な……。何もないその世界のすべてがあたしの中に流れ込んでくる。


 ――なら、もうちょっとだけ、穴を大きくしてもらいたいもんだったな。


 景色と一緒に、そんな声が響いた。

 剣が伸びて、啓の体を吹き飛ばす。

 穴をぐりぐりとねじるようにして、それからよっと身を乗り出してくる。


「……なんだ、この状況は」


 頭をかきながら、あくびをするように、兄貴がそこからはい出てきた。



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