妹視点 第十四話
第七階層と第八階層は、属性の違うウルフだった。
第七のほうはアイスウルフで、特に問題はなかったんだけど……。
あたしは対面しているフレイムウルフをアナライズした。
うーん……火属性激減かぁ。
試しにヒートバレットを放つ。こめた魔力もそれほどではないけど、スケルトンや低階層の魔物たちが怯むような一撃なんだけど。
フレイムウルフに効いた様子はない。
「二人とも、ちょっとお願い!」
これじゃ、あたしではどうしようもない。
……すっかり忘れていたけど、フンガを倒したあと、あたしは魔法を一つ習得していたんだ。
アナライズを発動する。水の鋭い魔法を生み出す、と簡単な説明がみれた、
そう、これだこれ。眠る前にちらとみて気になっていたけど、ここまで出番がなかった魔法だ。
使い方は変わらない。あたしはアクアスライサーの準備をする。
少しの時間のあと、片手を向ける。
「アクアスライサー!」
まずは、どんな魔法なのか自分の目で確かめないと。
下敷きでもなげたような、水色の魔法がフレイムウルフへと襲いかかる。
弱点の水であることが、ウルフにとってはだいぶ、面倒なようだ。
大げさにかわし、生じた隙へ咲葉とゴブッチが仕掛ける。
「新しい魔法、覚えていたんだな」
「うん」
二人はまだみたいだけど、そのうち何かしら覚えると思う。
そこそこ範囲もあるし、速度もあるから改良次第で色々とできそうだ。
「というか沙耶は完全に魔法ばっかりになったね」
「うーん……」
「不満なのかい? 火力は十分あるし、何より派手じゃないか」
「いや、魔法は好きだけどあたし、剣士としても魔法使いとしても最強になれると思っていたからね」
あたしの言葉に咲葉が苦笑する。
「まあ、なんでもできたら私はいらなくなるからね。今くらいがちょうどいいよ」
それでもなんでもできるというのには憧れがある。
魔法剣士とかかっこいいじゃない。そういうのがあたしもやりたいの。
「それじゃあ、残りの時間で第九階層でいいかな?」
「うん、あたしはおっけーだよ!」
「あっしも問題ないっすよ」
「わたくしももちろんですわ」
咲葉に掴まるようにして、あたしたちは第九階層へと移動する。
この階層の問題点は、やはり複数の魔物が組み合わさることだ。
下手に組み合わさると、予想外の連携をしてくることもある。
けど、あたしたちの連携を鍛えるということも考えると、ここは悪くないんだよね。
戦闘経験が乏しいあたしたちには、こういう場所での戦闘が貴重だ。第十階層のボスに挑むことを考えると、ここでの戦闘訓練が一番いいと思う。
第九階層を、あたしたちは歩いていく。
それにしても、どこの階層に行っても、似たような造りをしている。
一応茂みとかの位置は変わってるけど、それでもよくみていないとわからないようなものばかりだ。
咲葉の能力でダンジョンの移動ができないと、たぶんあたしは迷子になる。
「沙耶、そういえば今日はお兄さんがいないといっていたけど、どこかに泊まりにいくのかい?」
休日にわざわざ兄貴が外に出るなんて珍しいこともあるものなんだよね。
「詳しいことはいってなかったけど、家に戻れないって。まあ、家にいないならずっとダンジョン入れると思ったから深くは聞いてないんだよね」
あんまり色々聞いて、やっぱり帰ってくるとかなったら嫌だしね。
これなら自由に何時間も入っていることができる。ああでも、桃お姉ちゃんが来る可能性もあるかも……。
「まさか、女かな? 最近彼女ができたといっていたが……」
咲葉の興味がありそうな声にあたしも笑顔を浮かべる。
「アーフィお姉ちゃん? おっぱい大きいよね」
「ああ、私も一度みたよ。まさか、師匠以外と付き合うなんて思わなかったよ」
「師匠?」
「桃先輩だよ。たまに恋愛の相談をするんだ」
「ええ!? 咲葉、誰か好きな人いるの!?」
だれだれ? あたしが聞きにいくと、咲葉はあたしの頬に手をあてて微笑む。
「沙耶だよ」
「あたしのノーマルだからね!」
「まあ、冗談だよ。具体的には、学校で告白された時の対処法で相談したことがあるんだよ」
告白、告白かぁ。あたしはそんなのされたことないかな。
咲葉は黙っていれば美人だ。口を開くと、結構幻滅する人がいるみたいだけど、あたしは嫌いじゃない。
まあ、たまにこういうことしてくるのはやめてほしいと思っているけど。
「それで、告白されたときってどうしているの?」
「今は沙耶にしか興味がないからって断るようにしてるよ」
「初耳だよ! あたしまで変な噂流されるからやめてよ!」
だからたまにあたしも学校とかで視線を集めるのかっ。
咲葉を睨むと、彼女は肩をすくめた。
「そういうと、残念ながら冗談だも思われるんだ。本気なのにね」
「あたしは冗談が良かったよ!」
聞きたくもないことを聞かされてしまった。
そうこうしていると、あたしたちの眼前が歪む。
歪みは、四つだ。四体の魔物……結構苦戦するかもしれない。
「これは初めてだね」
「そういえばあたしが寝てるとき、二人は何階層で狩りしてたの?」
「私たちは八階層だよ。フレイムウルフよりは、アイスウルフのほうが危険は少ないからね」
ウルフが魔法を使ってきたのをあたしはみていないけど、彼女の口ぶりから使用するんだろうな、と予想できた。
確かに、火を放たれるとうっかり掠っただけでも火傷の危険がある。
四つの歪みから現れたのは、フレイムウルフが二体で、スケルトン、アイスウルフが一体ずつだ。
まずは、魔物自体の個数を減らすところから始めたほうがいいかな。
スケルトンが比較的狩りやすいしし、真っ先に倒さないと咲葉の能力が激減したままになっちゃう。
サークルフレイムとヒートバレットを構えながら、魔物たちの陣形を観察する。
フレイムとアイスがそれぞれ一体ずつ後衛にいる。まさか、魔法で援護するんじゃないよね。
一抹の不安を胸に抱きながら、あたしは片手をスケルトンに向ける。
「ヒートバレット!」
こちらはあたしが改良した特別性だ。
勢い良く放たれた一撃は、しかし割り込んできフレイムウルフに阻まれる。
うへぇ、火属性激減のウルフに邪魔されるとあたしが仕事しにくくなる。
フレイムウルフがそのまま飛び込んでくる。
……これはまずいかも。
背後にいた二体のウルフが魔法を構えるのがわかった。
フレイムウルフの魔法がどのくらいかはわからないが、危険な行動は控えるべきだと思う。
「咲葉、一度逃げるよ!」
「そのほうが良さそうだね!」
「ゴブッチ、ギリギリまでお願い!」
「任せるっすよ!」
あたしがゴブッチを戻せばいいだけなので、殿のようなものを任せる。
咲葉がこちらに来てあたしの手をつかむ。フレイムウルフが飛びかかって来たのを、器用に剣でさばく。
「バーイ、ゴブッチ!」
あたしが叫ぶと同時に、咲葉の魔法が重なる。
気づけばあたしたちは一階層の階段前にいた。あたしたちはすぐに中へと入り、軽く息を吐いた。