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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第十三話 四日目 彼女の力


「迷宮ってどんなものなのかしら?」


 アーフィが迷宮についての強い興味を持っていたが、それを今ここで語れるほど俺も深く理解しているわけではない。


「まあ、後で説明するよ。それじゃあ、もういいか?」

「……その、待って。あと一つだけ話しておいてもよいかしら?」

「なんだ?」

「……私たち星族というのは、その生まれつき人間を従えるような種族なのよ。だから、そのたまにあなたに命令的な発言や、高圧的な発言をすることがあるかもしれないけれど、そのときは無視するなり、注意するなりしてくれていいわ。むしろ、私もそういう指摘をしてくれたほうが、自覚しやすいから……」

「そうか。けど俺幼馴染と妹に結構命令されて、あれこれ手伝わされていたからさ……。もしかしたら、普通に従ってしまうかもしれないぞ?」


 ……あの二人は、休日出かけるとき必ずといっていいほど俺を荷物持ちに連れ出していた。

 何も買わないのに、連れていかれることもあったが、そういった経験が多いために俺は結構自分がパシリ体質になってしまっていると思っている。

 だから、アーフィに命令されても喜んで受けるかもしれない。

 何より、美少女に命令されるというのは興奮するものだ。


「とにかく……私がその、たまにあなたに強い口調になるときもあるけど、気にしないでくれると嬉しいわ。今も……だいぶ押さえているのよ」

「もしかして、さっきの俺の頬をつかんできたときのが地か?」

「そう、ね……。あれはまだ少しってところね」


 なんというか、目が獲物を狩るヘビのような感じで俺は背筋がぞくぞくした。

 あのくらいなら喜んでだ。


「まあ、それについてはまた後で話そうか。そろそろガーデンズも目を覚ます時間か?」

「……あと五分程度は寝ていると思うわ」


 そういえば、アーフィの力というのはどんなものなのだろうか。


「アーフィはさっき、何をしたんだ?」

「私たち星族は、星が入った部位によって様々な力を得るのよ。例えば、腕に星があれば、普通よりもさらに筋力が高くなるの」


 今のアーフィも十分強いんだけど、あれよりもか? それってやばくないか?

 アーフィが手を出してきたので、握手をする。力を入れてもらうと、骨が折れそうになった。

 

「た、たんま! 骨が折れる」

「ふ、ふふ……あぁ、そのおまえの苦しそうな顔……見ていて凄く気分が高まってくるわ」


 頬がうっすらと赤くなり、空いている手で自身の体を抱くアーフィ。

 Sっ気のある細められた瞳に、俺は見とれてしまい、制止の声をあげるのが遅れる。


「あ、アーフィ! ストップだっ。このままおまえに全部破壊してもらいたいような衝動もあるけど、ストップだ!」


 慌ててアーフィに声をかけると、彼女ははっとしたように手を離した。

 それからすまないと頭を下げてきた。

 ……さっきの彼女の快感を得ているような顔に、俺も惹かれてしまっていた。

 だから、これ以上の話は終了だ。


「……た、確かに十分強いね」


 頬がひきつり、俺は赤くなった手を振る。


「おまえとは絶対喧嘩しないよ。……あとはその目の力を少し教えてもらってもいいか?」

「正確には、私は喉と、脇の下にも星があるのよ」

「喉? 脇の下? 神様はまた、マニアックなところにつけたもんだね」


 アーフィの脇か……きっと美しいのだろう。


「なにかしら。脇と喉の星が見たいの?」

「……いや、その」

「なら見せないわ。見たい、といえば見せてあげたのに」


 からかうような彼女の言葉に……俺は注意をしなければと思いながらも、欲に負けてしまう。


「み、見たいです」


 なんで敬語で話しているんだ俺は。

 俺の反応に、アーフィはにこりと目元を緩める。


「嫌よ。さっき曖昧な返事をしたじゃない。まず、それを謝ってほしいわ」

「ご、ごめん。見たいんだ、本当に」


 すっかりアーフィの空気に負けている。

 ……注意をしなければと思いながらも、アーフィに逆らう気力が出てこないのだ。

 アーフィが近づいてきて、俺をしゃがませる。

 そして、満面の笑顔とともに、口をあける。


「どぉ?」


 口をあけたまま、彼女は言葉を発する。

 舌がたまに動き、いやらしくこちらを誘惑してくる。

 ……確かに、その舌を越えたところに星の形が見えた。喉の星形は、他人に見せようとしなければ分からないだろう。


「目と、喉、脇で全部か?」

「そうよ。脇は……さすがにここでは恥ずかしいから、見せないわよ」

「そうか。あ、それと……さっきのはもしかして自覚していたのか?」

「……な、なんであなた注意をしてくれたなかったのよ」


 どうやら、無自覚だったようだ。


「いや……あまりに妖艶で、その無理だ。あんな風に迫られたら俺は絶対に断れない。自信がある」

「だ、ダメよ。私は普通の人間になりたいのよ。だから、注意してくれないとダメだわ。あなたはよくても、あなた以外の人間はそれを許してくれないの。わかるでしょう?」


 わかるが……果たして俺にできるのだろうか。

 彼女にはレベル上げを手伝ってもらうんだ。俺もそのくらいは頑張って協力しないと、だよな。


「わかったよ。……それじゃあ、最後に聞きたいんだけど……ガーデンズを気絶させたのは、その目と声の力なのか?」

「そうよ。私の目と声は、人を惑わす力があるのよ。脇は……右脇なんだけど、左腕よりも力があるわ。まあ、意識しなければ普通だけどね」

「人を惑わす、か」

「ふふ、この力はかなり恐ろしいものだわ。例えば……あなた、こっちを見て」


 アーフィの声が何重にもなって脳内に響いてきた。

 俺は彼女の言葉に従って、すぐにそちらを見る。


「……あと十秒したら、命令をあげるわ。それまで、どんどん嬉しさがあふれてくるの。早く、私の命令が聞きたいってね」


 アーフィがそう言うと、俺の体は早く彼女に命令してほしいという感情があふれ出てくる。

 早く……早く命令をしてくれ。

 俺はそこではっと心に僅かな隙間が出来たような気がした。

 その隙間から、心全体を修復していく。

 ……なるほど、これがアーフィの洗脳か。


「……凄いな」

「あれ? 私の声が解除されたのかしら?」

「どうやらそうみたいだ。たぶん、これも俺のステータスカードの力なんだろうな」


 正確には、精霊の使いたちのだ。

 俺たち全員は、この世界の人たちよりも多少良いステータスカードを持っているのかもしれない。

 それが、こういった洗脳などへ僅かに対応してくれるはずだ。

 アーフィは少しばかりむっとしたように近づいてきて、目で覗き込んでくる。


「私の星を見て。……そうよ。あなたは私の言うとおりになるの。いい?」

「は、はい……」


 頭の中がボーっとしてきた。

 目の前にいるアーフィがいとおしく感じられ、彼女の顔をじっと見続ける。

 アーフィの瞳に映る俺は、間抜けな顔でじっとアーフィを見ている。

 ……段々と、意識がしっかりとしてくる。

 アーフィが数歩離れ、微笑む。


「……けど、やっぱり強く命令をすると通用するみたいね」


 負けず嫌いなのか、アーフィはどこか勝ち誇った顔をしている。


「……まあ、力についてはよくわかったよ。その目と声で、俺の安眠に協力してくれると嬉しいな」

「安眠……。なるほど、私の力って、人を破壊する以外の使い方もあるのね。それと、私の力って一応伝えておくと、万能ってわけでもないのよ。あなたにはかなり本気で力を使って、あれしかできなかったの。あなたが、これからもっと強くなったら……もうまったく効かないかもしれないわ」

「そっか。それはそれで残念な気がしないでもないね」


 まだ聞きたいことはたくさんあったが、ガーデンズが体を起こして唸り声をあげる。


「あれ……二人とも、そういえばどうなったんだっけ?」


 出来事を誤魔化して伝えようとして、アーフィが慌てたように背中をつついてきて、ぼそり。


「……私は記憶を封印しているだけだから、何かのきっかけで思い出してしまうかもしれないのよ。ご、誤魔化してくれないかしら」

「了解」


 万能ではないっていうのは、こういう部分もだね。


「あー、そうだ。すみません。魔物が襲ってきたときに、かなり近づかれてしまってガーデンズさんは驚いて気を失ってしまったんです。すみませんね」

「そ、そうだった、かな? ……うん、まあ無事なようだね」


 竜車のほうへと行った彼はそれから荷物を確認していく。

 やがて荷台から顔をだした彼は、満足げに頷いた。


「確かに何も盗られていないようだ。それじゃあ、荷車に乗って。出発しようか」

「本当は気を失っている間に移動もしたかったのですが、どうにも俺たちは竜車を操るような才能がなくてですね」

「まあ、これ結構難しいからね。地竜ってあんまり人に懐かないんだよ?」

「へぇ……そうなんですか。やっぱり、エルフって好かれやすいんですかね? いやあ、羨ましいです」

「ふふん。そうでもないよ。……それじゃあ、行こうか。荷台に乗って乗って」


 笑顔でせかしてくる彼に、ようやく一息をつけた。

 アーフィとともに荷台へと乗り込み、周囲への警戒を怠らずにしっかりと観察をする。

 魔物が襲いかかってくるのは珍しい出来事のようだ。

 実際、そこからは一度も襲われることなく、目的の街――アヴェンシャへと到着した。

 竜車が街へと入っていき、入り口にいた自警団の人たちに身分証のようなものを見せる。俺たちはそれを持っていなかったが、特に怪しまれることはないようだった。

 自警団の人たちが荷台の中を簡単に確認してから、街の中へと通される。


「はい。依頼の報酬ね。三日くらいは街にいるから、何か入用だったら来てよ。知り合い料金で、ちょーっとだけ安くしてあげるからね」

「そうですね。機会がありましたら、よろしくお願いします」


 頭をさげ、彼が手をふって去っていく。姿が見えなくなるまで片手をあげた。

 改めて街へと体を向け、ざっと全体を見回すつもりで首を左右へと向ける。

 さすがに首都には劣るが、それでも流通地点としてしっかりと人気はあった。

 ただ、やはり騎士の数が少ない。そのために、平民による自警団が騎士の代わりを務めているようだ。


「アーフィ、とりあえず宿を探しに行こうか」

「ああ……よろしく頼む」

「それはむしろ俺のほうだ。色々と宿で話したいこともあるし、早く行こうか」


 街の人に話を聞きながら、宿などがある通りへと向かった。

 




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