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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第二章 地球(ローファンタジー)
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第十八話

 黒い影はやがて人の形をとっていく。

 デュラハンと、表示されていた。黒塗りの全身鎧は生半可な攻撃では傷一つつきそうにない。彼の右手に握られている剣は俺のと同じ幅広の長剣だ。

 それをやすやすと持ち上げて見せた。


 ボスは完全に姿を見せた。

 デュラハンは頭がとれるような魔物だと思っていたが、彼には頭の部分はない。

 脇に抱えていることもなければ、どこかに落ちている様子もない。


 それで、完成のようだ。長剣を水平に構えた彼はいつでも動けるようにこちらをにらんでくる。顔はなくても、そうみられているような気分になる。

 俺は軽くその場を踏みつける。

 頑丈そうな遺跡を確認したところで、冷歌が後退しながら片手を向ける。


「戦闘開始、でいいのか? 頭がないんじゃ、見れるものもみれないだろ?」

「……」


 試しに声をかけてみたが、彼は返事もなく走り出す。

 鎧の迫る圧力は空気とともに俺の体へと襲いかかる。

 剣がぶつかる。生身だけではその力に押し切られる。剣を受け流すように左へと向ける。すっと、彼の剣は手元に戻る。

 体も剣も流れない。彼の剣は本気ではなかったのだ。

 俺は慌てて剣を戻し、返す一撃にぶつける。


 氷が浮かび始める。俺とデュラハンの戦場で、デュラハンの身体だけに氷はまとわりつく。

 ちらとデュラハンが冷歌をみた瞬間に、霊体を展開する。

 先ほどまでの打ち合いから一転攻勢と俺が踏み込む。


 デュラハンは下がりながら、片指を鳴らす。

 彼の背後に黒い渦が出現する。その渦がどこにあるのかは一瞬でわかる。冷歌の背後だ。デュラハンが剣で背後を突き刺すよりも先に、冷歌のほうへと剣を放り投げる。


「冷歌、後ろだ!」

「なに!?」


 俺の剣をよけるように冷歌が頭を下げると、ちょうど背後に出現した彼の黒い剣とぶつかる。

 弾かれた俺の剣に視線を向ける。冷歌が氷の手を作り出し、それで俺の剣をつかんでくれる。

 デュラハンが俺に黒剣を振りぬき、それをどうにか素手で受け流そうとしたが、軽く霊体を切られる。


 ……さすがに、このレベルの相手に無手はきついか。

 霊体の衝撃に戸惑った様子を見せながらも、デュラハンは即座に足を出す。

 蹴りをガードで受けると、氷の拳が剣を振りぬく。デュラハンはその力任せの剣をあっさりと受け流して見せる。

 冷歌の目的はそれではない。

 氷の散弾がデュラハンへと降り注ぐ。同時に、氷を砕いた衝撃で俺の前に剣を落とす。


 剣をつかみなおし、両手で水平に持ち直す。氷の散弾は、動く俺に対して一切当たらない。当たりそうな直前で、その氷のすべてが消滅する。

 冷歌がこの一週間でどれだけ氷の操作を磨いたかはよくわかる。

 氷の雨の中、俺には一切当たらない。堂々と走りぬける。


 デュラハンに振りぬくと、彼は黒い闇を作り出す。

 俺の剣がその中を通過し、別の冷歌の背後へと作り出される。

 ……即座に俺は剣を引き抜く。同士討ちを狙った、なんつー恐ろしい技だ。


 さっきの氷の魔法に使用しなかったのを見るに、俺のこの一撃に対しての奇襲として用意していたのだろう。デュラハンが距離を開け、俺も一度後方へと跳ぶ。


「……あいつ、かなり賢いな」

「頭がないくせにな」


 冷歌が魔法をいつでも発動できるように構えている。デュラハンもじっくりと考えているようだ。

 この後に、冷歌の兄貴にも用事があるのだが……出し惜しみをしている余裕はなさそうだ。

 俺は剣を地面に突き刺して、デュラハンを観察する。

 ……短時間でさっさと決めたいが、デュラハンのあの防御を突破しきるのは至難の技だ。

 問題はあの転移させる黒い渦もある。攻撃、防御の両方に活用できる万能すぎる技だ。

 あれをどうにかしない限り、俺たちに勝ち目はないだろう。


「まずは、どのくらい使えるのか、限界を調べるしかないな」

「……けど、どうするんだ? あたしの魔法だって、下手をすれば利用されちまう」

「それを恐れてたらどうしようもないからな。利用されるの覚悟で、魔法がどれだけ使用できるのか調べていくぞ」


 デュラハンは魔法を広範囲に使用したり、連発などをしたりはしていない。

 つまり、魔法にある程度の制限がある可能性が高い。

 まあ、そう誤認させるのが目的の可能性もある。彼ができる境界線を見つけ、できない場所をついて仕留める。

 戦いなんてそんなものだ。苦手な場所へと入り込み、相手が何もできなくなれば勝利だ。


「まずは、再使用までの時間を調べるぞ」

「具体的に何をするんだ?」

「あいつは捌ききれなくなったときに、攻撃あるいは防御で転移魔法を使用しやがる。だから、畳み掛けるように処理の難しい攻撃を放つ」

「要するに?」

「全力の魔法をぶちこんでくれ」

「へへ、わかりやすくていいぜ」


 彼女が魔法を展開する。周囲に氷が生まれるが、冷気は発生しない。

 たぶんだが、温度を奪い取ったところで相手はデュラハンだ。

 無機物に対して、温度による攻撃が通用しないという彼女の判断だろう。


 放たれた氷に並走するように走る。

 デュラハンは氷を弾き、俺を迎え撃つように剣を持つ。


 冷歌も遺跡内をぐるりと円を描くように走り出す。止まっているよりかは、転移魔法の餌食になりにくいな。

 冷歌の氷がデュラハンの後ろへと発生する。デュラハンはそれを過敏に察して背後へと手を向ける。


 そちらに、転移魔法を使うつもりか。

 阻止するように踏み込んで剣を振り下ろす。片手で俺の一撃を受け止める。

 舐めるなよ。霊体をまとい、さらに力を込めて振り抜く。


 デュラハンは俺の一撃に後退して、自身の作り出した穴をさらに広げて飛びこむ。

 氷の魔法も数発飲み込み、冷歌がその出力を上げる。

 別の場所に穴が展開する。そこからデュラハンはでてきて、俺の突進を不利な姿勢で受け止めた。その隙を逃すつもりはない。剣を強く叩きつける。

 デュラハンはそれをうけて後方へと逃げようとした。


 逃げるのを読んでいた俺は全力は向けていない。すぐさま、足に力をこめて距離を詰める。

 デュラハンは煩わしそうに剣を振るが、そんな姿勢でまともな一撃になるはずがない。雑な一撃を片手で受け止めて、その腹へと剣を突き刺す。


 デュラハンの身体を地面に縫いつけようとした瞬間、俺の身体を闇がまとう。

 転移魔法か。再使用までにおおよそ八秒か。

 俺は後方へと跳んで冷歌と合流する。


「さっきのは罠か?」


 冷歌が視線を切らさず、問うてくる。


「身体の半分を犠牲にしたんだ、たぶん、八秒があいつの再使用までに必要なインターバルだ」


 強そうな魔法ではあるがいろいろと弱点もあるようだ。

 冷歌だって、連続使用を行えばパフォーマンスは落ちるのだ。

 魔物とはいえ、それは同じなんだろう。

 もう、それほど長くはかからない。次の攻防がラストだ。


「なあなあ、勇人。さっき、あいつが転移した距離は限界かと思うか?」


 距離か。そこまでは考えなかったが確か、十五メートルほどだったか。

 あのときの状況を脳内で再生してみる。

 俺からどうしても距離を開けたかったはずなのに、あの距離を選んだということは、それがデュラハンの限界なのだろう。


「たぶん、おまえの考えているのであってるよ」

「なら、トドメは任せてくれ、

あたしがありったけのやつを叩き込んでやる!」


 そりゃ、頼もしい。彼女のやる気を信じて、デュラハンと向き合う。デュラハンもこちらへよどみのない姿勢を向ける。

 あいつも次で最後とわかっているのだろう。最初からトップスピードではない。始まりは穏やかに……そして駆け出す。


 デュラハンとの距離が詰まり、一、二と踏み出しにあわせ剣がぶつかる。激し衝撃と、音が耳を破る。

 打ち破れるのならば、力に任せてと思ったが、デュラハンがすっと剣を後ろに引く。

 顔の横で、地面と垂直になるように彼が構えた瞬間、その剣に闇が集まる。

 ……また転移させての一撃か。彼が降りぬいた瞬間、眼前に闇が出現する。

 ……何がしたい? 俺の振りぬいた一撃は、闇に飲まれてかきけされる。


 俺からの攻撃は届かない。しかし、デュラハンもそれは同じことだ。

 彼の作り出した闇が壁となっているんだからな。

 一体どんな攻撃を見せてくれるのか。俺は期待とともにその、闇のない場所からデュラハンへと剣を振るう。


「勇人、上だ!」


 上、その言葉は反射のように俺の身体を突き動かす。

 振ろうとした剣を即座に頭上へと持っていく。押しつぶすように衝撃が襲いかかる。


「……斬撃を転移させたってのか!」


 斬撃に体が押しつぶされそうになる。デュラハンは俺へと剣を突き出してくる。


「冷歌、俺をはじけ!」


 デュラハンの一撃目で霊体をはがされる。その一撃は、俺の霊体を理解しての軽くなでるような突き。

 二撃目は、渾身の貫き――。まっすぐに迫るそれを、俺は無理やり体をねじってよける。

 直後、冷歌の氷魔法が俺の背中を殴りつける。痛みはあったがデュラハンへと距離を詰める。


 内臓が曲がったような気持ち悪さを覚えながら、歯を食いしばる。

 真横を剣が通過し、俺は背後からの衝撃を利用して剣を突き出す。

 デュラハンの胸元へと剣が貫かれる。デュラハンが慌てて魔法を展開しようとしたが、それをさせるまえに、剣を振り上げる。


 すんでで、デュラハンは闇を発動する。転移による逃亡、か。

 それは所詮は時間稼ぎにしかならない。デュラハンがでた瞬間に仕留めるために集中していた俺は、黒い歪みを確認して駆け出す。

 しかし、もはや俺は不要だった。

 先ほど、おれがいた場所から十五メートルの距離全てを埋め尽くすように氷がつららのように設置される。


「あとは、あたしに任せな」

「みたい、だな」


 俺が下手に動けば、むしろ彼女の全力を邪魔することになるだろう。

 闇からでたデュラハンの体がつららに串刺しにをされるの。

 俺は剣をしまいながらそれを見守った。

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