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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第一章 異世界(ハイファンタジー)
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第十二話 四日目 やっぱり仲間

 アーフィは頬をひきつらせ、諦めるように眼帯を手に持つ。

 その右目に射抜かれた瞬間、ガーデンズの体がびくりとはねた。

 ガーデンズは……おい、どうしたんだ。

 うつろな目をして、ぼーとした様子でアーフィを見ていた。


「……さっきまでのこと、忘れてちょうだい」


 アーフィが冷たい声で言い放つ。

 それに何の意味があるんだ。訳がわからないが、ガーデンズはこくりと首を縦にふる。


「……わかりました」


 ガーデンズがそう呟き、そのまま意識を失ったようにしゃがんだ。

 まだ、目を閉じて彼は動かない。

 ……どうなってんだよ。


 状況をまとめよう……。

 アーフィは……霊体をまとわずに力を行使し、瞳には星の形がある。間違いなく、星族だ。

 危険な種族……と本には書かれていたが、それだけで俺は彼女に怯えるつもりはない。

 彼女に聞くまでは、おいそれと答えを焦ってはいけない。焦りは、過ちを選択してしまう。

 ……かといって慎重すぎるのも危険だ。慎重さは手遅れを生んでしまう。


「アーフィ、何をしたんだ?」


 俺の警戒を察したようで、アーフィは悲しそうに目を伏せた。

 それから、ふっと笑みを作り、髪をかきあげてみせる。


「私の目と声でこいつの記憶を封じたのよ……それで、これからあなたも、ね。どう、怖いかしら? 私は星族よ。人間からしたら、 恐怖の対象……って感じじゃない?」


 アーフィが近寄ってきて、俺の頬を掴んできた。

 ……その両目が俺を覗き込んできたが、俺は逸らさない。

 そんな恐怖の対象のあんたが、どうして手を震えさせているんだ。


 彼女と目を合わせるのは危険なのかもしれない。もっといえば、声を聞くことさえもアウトだって可能性がある。

 アーフィは仕方なく、力を行使したのだと思う。恐らくは、星族としてその存在をばれないようにするために。


 そして……俺たちはアーフィの力に気づいてはいなかった。少なくとも、先ほどの戦闘までは。

 アーフィは、戦闘のときに力を隠し、適当に逃げることだってできたはずだ。

 なのに、俺たちを助けるために力を使ってくれた。

 ……今も俺の目を見たまま、その先へ行動を移さない。

 だから俺は……アーフィの目をしっかりと見た。


 何より、目撃者を殺そうとしていない。まあ、これについては色々ある。ガーデンズが死んだとなれば、色々と疑われ自由に国を移動できなくなるしな。

 星が刻まれた瞳とじっと見つめあう。


「力を使うんじゃなかったのか?」

「……そう、ね。あなたには感謝しているわ。とりあえず、この先にいけば街があるというのもわかったしね」

「けど、その先はわかっていないだろう? これから先、どうやって生活するのかもね。何より、俺はお金を貸したままだ。俺は金にはうるさくてね。それを忘れることはないんだから、俺はアーフィを忘れることはできないよ」

「なら、金についても……私はあなたに力を使うわ」

「よし、少しリラックスしようか。アーフィはステータスカード持っていないのか? 別に警戒する必要はないよ。ただの……そうだな、それこそ世間話のようなものだ」


 俺の意図が読めないのか、アーフィは困惑している。

 別に何かを仕掛けるつもりはない。純粋な興味からの質問だ。


「そうよ。精霊に嫌われた種族なの。だから、あなたみたいな霊体を使う人間は、私のこと大嫌いでしょう? 精霊様を信仰しているあなたたちが私を嫌うのも無理はないわ。だって、私はそういう種族なのだもの」


 ステータスカードを持たない、か。

 つまり、だ。

 ……俺はニヤリと口角をつりあげ、それからアーフィの両手を掴む。

 頬を押さえていたアーフィは口を半開きにする。

 俺の突然の行動を、反撃と捉えやがった。俺の体をくいっと捻るようにして倒してきて、俺は慌てて声をあげる。


「俺は……おまえと一緒にいてやれる。いや、むしろいてほしい!」


 疑いを晴らすために、叫んだ。

 体を押さえていた力が抜け、俺は痛む腕を休めながら体を起こす。

 アーフィはきょとんとした顔をしている。それから、意味を理解したのか……顔をかあぁと赤くする。


「ど、どういうことかしらね。私、言っておくけど星族よ。私なんかと一緒にいたら、あなたも精霊に嫌われてしまうかもしれないわ」

「それは好都合だ。俺も精霊は大嫌いだからね」

「い、意味わからないわ。人間にとって精霊って大切な存在でしょう? う、嘘だわ。あなたは私を騙して、利用しようとしているのね!? 私を捕まえて、奴隷の首輪をつけてどこかで見世物にするのだわっ。そうっ、『絶滅危惧種の星族がここにいます! さあ、どうぞ見てください!』って感じで私でお金儲けをするつもりね!?」

「そういう利用はしないよ。対等な関係で、協力してもらいたいことがあるだけだ」


 彼女が、例えば極悪人だとしても、今の俺には関係ない。

 今、アーフィは俺の協力者となりえる可能性を秘めている。声をかけるにはそれだけで十分だ。


「……意味がわからないわ。あなたは、一体何がしたいの?」


 とりあえず、話を聞いてくれる状態にはなったみたいだ。

 そこで俺は自分の思考をまとめるように彼女へと伝えていく。


「ステータスカードを持たないってことは、レベル上げの必要がない。つまり、一緒に戦っても問題ないんだろ? 俺にだけ経験値を集めることができる。……つまり、仲間は増えるが経験値は一人分っていう環境ができるんだ。本を読んでからずっと星族っていうのを仲間にしたかったんだよね。ステータスを持たない忌み嫌われた種族? 結構だ。俺も精霊が嫌いだ。むしろ、仲良くできるんじゃないかと思っていたんだよ」


 ぽかんとした顔をしていたアーフィの手を握る。

 俺が仲間を作りたくなかったのは、経験値を独占したかったから。

 少しでも霊体、職業のレベルをあげたかったからだ。


 それしか、オール1の俺がみんなに追いつき、抜かす術がないと思っていたからだ。

 だが、彼女は仲間として一緒に行動して、俺が経験値を独占しても、文句を言ってくることはない。

 彼女にレベルの概念はないからだ。


 これほど、魅力のある話はない。

 星族は、話のわからない狂人的な種族と書かれていた。あの本の著者に会い、断言はいけないと説教したい気分だ。

 こんなに素直で、少し思考が暴走気味ではあるが、それでも俺と話しをしてくれる。

 どれだけ本で知識を得たところで、現実は違う可能性もある。


「……協力ってことは私と一緒にいたい、ということなの?」

「ああ。俺はおまえと一緒のチームになりたいと思っている」

「……嬉しい、わ。そんなことを言ってくれる人間は、いなかったわ。私たち星族は……人間たちから嫌われるだけの存在だった、もの」

「そいつらに考える力があれば、別の答えを出していたと思うよ。みんな、星族への勝手な恐怖の想像を膨らませているだけにすぎないんだ。アーフィみたいな、可愛らしい少女がまさか、人間を取って食うわけないじゃないか」

「か、可愛らしい……。わ、私を褒めても何も出ないわ、ありがと」

「別に何かを出して欲しいとは思っていないよ。ただ、もっと皆が耳を傾ければいいのにな、と思っただけだ」


 そういうと、アーフィは真っ赤な頬を触り視線をさげる。

 次に顔をあげたとき、アーフィの両目は疑うような、探るような目だった。


「……一緒にいると、迷惑をかけるかもしれないわよ?」

「俺はおまえと一緒にいたい。いれば、強くなれるんだ? それに、俺もおまえに隠し事をしている……その隠し事に協力してもらいたいから、俺はおまえと一緒にいたいんだ」

「……隠し事? なにかしら」

「ああ。まだしばらくガーデンズは寝ているのか? なら話そう。俺がどうしてここにいるのか、どうしておまえと一緒にいたいのかについてね」


 そこから彼女に伝えたことは、まずは俺の立場だ。

 精霊の使いであることを伝えると、多少警戒されてしまう。

 とはいえ、精霊に良い感情がないことを伝え、またその理由であるステータスカードを見せる。

 そして、後は簡単に彼女に伝えた。それらを終えると、アーフィはようやく納得した様子をみせた。


「つまり、あなたは私の力を使い、レベルアップをしたいというわけね? 私のことを自分の目的のために、利用したいというわけね?」

「まあ、そんなところだ。一緒にいても、おまえなら経験値を必要としない。もちろん、迷宮で手に入れた素材などは山分けだ。生活していくための場所、金を確保するために一緒に行動するのも悪くないと思ったんだ。どうだ?」


 後は生理的に俺を受け付けない、とかではない限り、アーフィにもそれなりにメリットがあると思っている。

 俺だって、一撃だけならばかなりの強敵にも通用する攻撃力を持っている。

 アーフィの力とあわせれば、様々な戦場に対応できるだろう。


「もちろん、私は……頼みたいくらいだわ。まだ、この国については全然知らないし、常識もないと思うわ。……異世界からきたというあなたよりもね。だから、まともに生活できるまでは、あなたと一緒にいたいわ」

「なら決まりだ。改めてよろしく、アーフィ」

「……いいの? 私は星族よ。あなたが望んでいたとしても、周りにばれればただではすまないわ。一緒にいるあなたにまで、迷惑をかけるかもしれない」

「おまえは身を守る以外で、人前で力を使わない。基本は、人の少ない迷宮で使えばいいんだ」

「……迷宮。聞いたことはあるわね」


 苦笑してしまう。確かに、こんな状況じゃ一人で生活するのも難しいだろう。むしろ、よくここまでたどりついたと褒めたいほどだ。


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