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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第二章 地球(ローファンタジー)
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第十話



 土曜日の休日に俺は何をやっているんだか。

 あくびをしながら、朝早くの電車に乗って東京へと来ていた。

 もちろん、大精霊を探すためだ。あのわけのわからんメモを信じて、こうしてここまで来たんだ。


 ……それからメガフロート行きのバスに乗り換えた。メガフロートへとまっすぐつながる道があるのだが、そこは渋滞でしばらくはここにいることになりそうだ。


 みんな、メガフロートの冒険者学園に用事があるのだろう。

 スマホをいじり、情報を集める。……一般人による冒険者学園への押しかけは、迷宮が発見されてからずっと続いている。

 冒険者学園、などと言われているが、普通の生徒も通っているために、その被害についてあれこれニュースになっている。


 そのため警察が出動するようなほどに、学園周囲は警戒されてしまっている。

 ……本当に俺は冒険者学園で情報を集められるのだろうか。

 最悪、大精霊のこと知っていますか? なんて叫びながら学園に突っ込むとかしないといけないのか? それは避けたいな。

 

 バスから外の景色を眺める。進みは緩やかで、歩道があるのなら走ったほうが速い気がする。

 ぐーと腹がなる。現在時刻は十二時をすぎたところ。

 予定では十一時につくはずだった。

 だから、朝食は軽くしか食べていない。


 昼飯をメガフロート内で食べる予定だったのに、色々とくるってしまった。

 俺の隣に座っていた男が、バスの真ん中の通路をはさんで話している。


「なあなあ、冒険者学園って何してんだろうな?」

「本当、俺も早く魔法とか使ってみてぇよ! あいつらだけ、ダンジョンに入っててずりぃよ!」


 やっぱり、世の中の人からすれば「ずるい」のか。

 ネットやニュースでは、ひとまず迷宮攻略に関する情報は落ち着き始めた。

 一か月後……おおよそ三週間後には、冒険者資格というものを作り、数日の講習に参加することで迷宮攻略ができるようにする、と国は発表している。

 

 直近で数年、仕事がないような人を優先で集め、冒険者育成を始めていく、らしい。

 簡単にいえばニートたちに仕事を用意するということだ。もちろん、その中から候補者を集って、ではあるが。

 そう発表したせいで、国民のゲームが好きな人間が騒ぎだした。

 ……自分たちも迷宮に入りたい、と。

 一週間たった今、冒険者になりたいという人間たちは、毎日のようにあちこちで声を大にしている。

 

 まあ、国の対応が悪かったのかもしれない。

 国は迷宮に関して動画を交えて、攻略情報や魔法などの能力を発表していた。

 ゲームでいうなら、いい場面を抜き出したPVみたいな感じだ。

 それを見れば、自然期待してしまうだろう。自分たちも、動画のように戦闘ができると。


 国はどう考えているのだろうか。

 迷宮の資源が豊富で、それを確保するために国民の多くが冒険者に憧れの立場にしたいはずだ。

 そうでなければ、迷宮攻略者が増えてくれないからな。

 ……けど、今の状況も想定済みなのだろうか。


 やがて、メガフロート内が見えてくる。バスがしばらく進んで、それからバス停でとまった。

 ……まあ国のことはいいか。俺としては、沙耶が心配だ。

 ちょいちょい迷宮に入っているようなんだよな。怪我はしていないようだし、それとなく訊ねてみて順調そうなことはわかっているのだが。


 メガフロートの街は、俺のいる田舎よりも、先ほどみてきた東京よりも発達している。

 近代的な街を意識して作られたこともあり、降り立った俺はなんというか異世界にきたときのような感覚を味わう。

 未知の場所とも思えるそこでも、スマホがあれば問題ない。

 マップを開いていきたい場所を入力すれば、あとは勝手にナビをしてくれる。

 異世界になくて、現代にある便利ツール。これさえあればどこでも旅に行ける。


 それから徒歩で十分。

 俺は目的の冒険者学園に到着した。

 高校一年のときに、大学見学で来たことがあるな……。あのとき、すでにこの学園には迷宮があったのかと思うと、不思議な感覚だ。

 

 メガフロート内にはほとんど学校がない。そのため、ここに移り住んだ人を受けいれるために、冒険者学園は小中高の一貫校である。

 学園は、非常に大きい。国立で、非常に金がかかっているのは知っていた。

 その理由が冒険者を育成するためとはさすがに知らなかったが。


 すべてを拒むような高い塀が人を拒む。

 中へとつながる門には、警察が立ち中に入れないよう警戒されている。

 ……暴言を放つ国民もちらほらと見える。それらすべてに対応していれば、警官がさらに必要になるだろう。

 ……ニュースでみた画像と同じだな。

 裏門も同じだ。こちらは表ほどではないが、やはり人が多い。

 試しに聞いてみようか。


「これってやっぱり中に入れないんですよね?」

「もう、本当にそういう人が多いんですよね。……現在、一般への開放は行っていません。入場するには学生証が必要になります」


 学生証か……。

 盗んで侵入、とか異世界ならやってもよかったんだが、こっちだと犯罪者になるしな。

 となると、何かしらで俺の力を証明する必要があるというわけだ。


 ……この警官は恐らく、迷宮経験者だ。

 警察と国が指定した警備会社の人間は事前に迷宮で肉体を強化している。

 こうなったときを想定していたらしく、例え迷宮内で強化した人間が事件を起こしても対応できるようにだそうだ。


 まずは、一般人に開放する前に、開放してから起こる問題にどうやって対処するか。

 それらの法が整備されてから、ようやく迷宮と一般人の関係が出来上がっていくはずだ。

 とにかく、ここからの突破も無理。さてどうするか……。

 電話で大精霊の存在を知っていますよ、と意味深な発言をしてみようか。


 最悪の手段としてそれを用いるとして、とりあえず、飯でも食べにいこう。空腹では何もいい考えが浮かばないからな。

 スマホで近くのおいしい飯屋を探しにいく。事前にいくつか調べておいたんだよな。

 と、裏門からたまに生徒が出ると人がそちらへと向かおうとする。さっと生徒は走って逃げていき、警官たちが人を押さえる。

 ……あれに聞いてみるか。俺は、生身の体でも体力に自信がある。魔物狩りをしてレベルアップもしたし、眷属としての肉体強化もある。

 彼女が入った裏路地へとぐるっと大回りで移動する。さすがに警官も対応できないだろう。


 俺に気づくと、女性は立ち止まる。口をわずかに開いた彼女は、それから胸をなでおろすようにした。

 派手な格好だな。黒のタンクトップからは健康的な腕が見せつけられるように出ている。

 確かに今日は夏日和と思えるような快晴であるが、まだそれでも肌寒いときがある。

 膝元までのジーンズ、それらをまとめるようにスニーカーをはいている。非常に元気そうな印象を与えるし、実際そうなのだろう。

 きれいな子なのだろうとうかがえるが、顔にはマスクとサングラス、帽子までも身に着けているために非常に顔が見えにくい。

 ちょっと聞きたいことがあったから、彼女に声をかけようとして、先にサングラスが外された。


「勇人、だよな?」

「……おっ、こりゃあラッキーだな」


 サングラスを外した冷歌を見て、俺は思わずそうつぶやいた。苦笑気味の彼女が、それからポケットにサングラスをしまった。

 一応、テレビに映っていたし変装するのは当然か。

 怪しすぎて目立つんだけど。


「ちょうどよかったぜ。あたし一人だとなぜか注目されんだ、あんた一緒に行動してくれねぇか?」

「飯おごってくれるか?」

「女にたかるなんてなかなかいい根性じゃんか。いいぜ、あんまり高いのだったら怒るけどな」


 冗談だっての。さすがに彼女に払わせるつもりはない。

 そう伝えてから歩いてきた彼女の横に並ぶ。


「それにしても、あんたもこういうのきたがるタイプなのか? 興味ないタイプだと思ってたぜ」

「いや、まあ。それとは別の要件でここに来たんだよ。おまえ、どうにか俺を学園内に入れることはできないか?」


 冷歌が小首をひねる。訝しんだ目をしていたが、彼女はぽつりとつぶやく。


「電子機器であったり、メモ帳であったり、カバンであったり……念入りな身体検査をしてもらうことになるけど、それでいいなら、一応あたしの友人で中に入れるぜ」

「物の出入りがないようにするってことか……」

「そうだぜ。海外からもかなり注目されて、ここの警備体制は厳重なんだよ。……学園の一人がどこかの国に誘拐された、なんて話もあるんだからな」

「そりゃまた物騒だな」

「……まあ、どこの国も迷宮について情報が集めたいんだぜ。日本政府が制限しながら海外にあげているんだけど、やっぱり直接狙ってくる輩も多いってわけだ」

「そりゃまた。こんだけ平和なのにな」

「平和? アハハ。全然全然平和じゃないっての。そりゃあもう、毎日いろいろな組織の人間に狙われて……それもかねての、この変装」

「けど、逆に目立つな」

「そ、そうか? あたし完璧な変装だと思ったんだけど……ほら、日本のアニメとかでよくこんな感じで変装してるしさ」

「……それ、ネタのほうなんじゃないか?」

「うえぇ? ……いや、確かに今みたいに突っ込まれていたような気がするぜ」


 冷歌は肩を落として、それから俺のほうにびしっと指を向けてくる。


「まあつーわけで、あたしはあんたを中に入れることをオススメしないぜ。出入り自体に問題はなくても、そのあとどうなるかは保障できない。なのに、みんな中に入ろうとしちゃって……死にたがりが多いのこの国は?」

「この国の?」


 言葉を拾うと冷歌は一瞬だけ、顔をしかめる。さっきも、日本のアニメ、という表現をしていたし、もしかして海外の人間か?


「ああ、あたし、ハーフなんだよ。だから、ちょっと日本語のほうがへたくそな部分もあるだろ」


 確かに、こうして長く会話をすると、ところどころイントネーションが違うような気もする。


「へぇ、髪は黒だし、目も黒だから気づかなかったよ」

「髪は、地毛が水色なんだ。この先っぽのところ、ちょっと青いだろ? これ、ファッションとかじゃなくて、黒に染めたからこうなっているんだよ」

「……水色」


 彼女は肩までのびた髪をこちらへと向けてくる。

 確かに、先のほうが透き通るような青になっている。そちらが地毛なのは、見ているとなんとなくわかった。

 ただ、水色なんて初めて聞いたな。


「ここ、あたしがよく利用する食事処だぜ」


 うどん、そばと書かれた看板を見ながら、俺たちは戸を開いて中へと入った。

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