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オール1から始まる勇者  作者: 木嶋隆太
第二章 地球(ローファンタジー)
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妹視点 第四話



 第二階層に下りるが、景色に変化はない。

 一瞬、戻ってきたのと思ってしまった。

 これが、ダンジョンの特徴なのかな。

 何か、さっきと違うものはないかな? きょろきょろと歩いていく。

 魔物は、やっぱりでない。ダンジョンの目の届くところまでに、魔物の影は一切ない。

 早く、魔法を試したいのにっ。


「沙耶、あんまりかわいい顔をしないでほしいね」

「……別に、不満なだけだよ。ダンジョンって魔物が出ない場所なの!?」

「……とりあえず、サーチエリアでこの階層も把握したよ。今日は急いで第三階層まで行って、それで終わりでいいんじゃないかな?」

「うーん……そうだね」


 ここ二日で、ゆっくりとだけでダンジョンの攻略はできている。

 ……攻略、というのかな。あたしの攻略のイメージは、襲い来る魔物と戦いながら進むというものだ。

 咲葉のおかげで、第三階層にはすぐ到着する。

 結局、そこでも魔物は出現しなかった。……戻るしかないね。

 部屋に戻ってくると、タイミングよく玄関が閉まる音がした。

 あたしが急いで下りると、兄貴がいた。


「ただいま、っと」

「ああ、お兄さん、こんばんは……でいいのかな?」

「あれ、これから帰るところか?」


 あくびを片手で隠していたが、アホ面はばっちり見られている。

 友達の前なんだからぴしっとしてほしい。

 

「兄貴、今日の夕食はどうすんの?」

「適当に肉でも焼いて食べればいいんじゃないか?」


 最近の鉄板メニューだ。兄貴が肉をたくさん買ったとかで、最近のおかずは肉ばかりだ。


「咲葉も食べていく? お父さんとお母さんの帰りが遅いっていっていなかった?」


 咲葉は一人で夕食をとることが多いらしい。

 前に愚痴っていたから、誘ってみた。


「兄貴、いいでしょ!?」

「俺は別にかまわないぜ。……んじゃ、肉焼いてくる」


 桃お姉ちゃんは自宅でごはん、と朝に言っていた気がする。

 兄貴が制服の上着だけを脱いで、キッチンへ向かう。

 それにしても今日も帰りが遅かったね、兄貴。

 兄貴がのんびりしている間に、あたしたちは確実に強くなっているのだ。

 内心で自慢するように笑ってから、咲葉を見る。

 彼女は、悩むように顎へと手をやる。


「いいのかい、私がお邪魔しても」

「あたしは全然いいよっ。兄貴だって、ああいっているんだし! 兄貴あれでむっつりだから、美少女と一緒に食べられればそれで満足するし!」

「だれがむっつりだ。余計なこと言ってないで、手伝え!」


 リビングから顔を出して、兄貴が叫ぶ。


「うへー、はい咲葉もね!」


 あたしは彼女の手を握って、リビングへと引っ張っていく。

 取り出した肉を、兄貴がフライパンにのせていく。今日も焼肉みたいな感じなんだろう。

 昨日食べた夕食も肉だったけど、あたしは肉が好きだから毎日でも飽きない。

 咲葉がテーブルを拭いていき、あたしが食器を並べていく。

 ちらと彼女の顔色をうかがうと、よかった、さっきよりも明るい表情だ。


 咲葉を夕食に誘うことはたまにある。

 ……咲葉の両親は、ちゃんといるのに、もっと咲葉のことを考えてあげてほしいものだ。

 仕事が忙しいのはわかるけどね。



 


 水曜日。

 今日の夕食は、桃お姉ちゃんが作ってくれる。

 兄貴と桃お姉ちゃんがスーパーによってから帰ってくるため、その前に戻ってこなければならない。

 具体的な時間を教えてくれなかった二人に、何度も訊ねた私に隙はない。


「今日の帰り時間は六時半! それまでに魔物と戦うよ!」

「二人ともしつこく聞いてきた沙耶を疑っていると思うけど」

「そ、そんなことないよ!」


 ……いい加減、現状を打破しなければならないんだよね。

 魔物の姿を一度も見ていない。これをどうにかしないと。


「今日の目標は魔物を討伐すること! いままでまったく出てこなかった魔物だけど、いい加減あたしたちの前に姿を見せてほしいものだよね!」

「それはそうだね……。ネットでも調べてみたけど、やっぱり魔物がまったくいない階層なんてありえないみたいだよ」

「それじゃあ咲葉、第三階層にワープお願い!」

「いや、その前に。この前開けた宝箱がそろそろ再生しているんじゃないかな?」

「あっ、そうだった。ちょっと見てみよっか」


 あたしたちが見つけた宝箱は四十時間に一度、開けることができる。

 鑑定での時間表示は、次に再生するまでをあらわしていたのだ。

 だから、この前の宝箱が開けられるはずだ。

 この前と同じように時間をかけてリトライしていくが、今日は十分くらいでタートルソードを引き当てた。


「……これはなかなかずるい魔法だよね」

「ず、ずるいってなにっ。人聞き悪いよ!」

「だって、普通に考えたらソシャゲ―のガチャを何度も引き直しているようなもんじゃないか」

「あたしの魔法なんだから別にいいんだよ」


 そりゃ確かにずるいかもしれないけど……。そこまではっきり言われると少し落ち込む。

 でも、リセマラとかいって、何度もアプリ入れなおして引き直す人もいるんだ。

 あたしのこれだって似たようなもの。ずるじゃないし。


「咲葉、第三階層に移動しよっか」

「そうだね……。と、その前に」


 彼女はもそもそと手をこちらに差し出し、それから手元に一つの箱を出現させる。


「わー、なにそれ?」

「昨日新しい魔法が一つ見つかったんだけど、これの使い方がわからなくてね。アナライズで調べてみてくれないかな?」

「えーと……アイテムなどを入れる箱、だって。アイテムボックス、かな?」

「なるほどっ。剣とかもこれにしまえる……みたいだね」


 彼女が即座に試してみると、剣が飲み込まれた。

 取り出すときもそれほど難しくはないみたい。

 咲葉は楽しそうに出し入れを繰り返す。咲葉はどんどん魔法の実践ができて、いいねー。

 

「咲葉、第三階層!」

「ああ、そうだったね。ごめんごめん」


 だからいちいち頭をなでてくるなっ。

 あたしが、それを払おうとしたところで第三階層へワープした。


「ダンジョンワープには、相手の頭をなでる必要があってね」

「違うよっ、触れていればいいんでしょ!」

「私は、沙耶の頭をなでていないとワープする気が起きないんだ」

「……むー」


 それなら、まあ仕方ない。……うん? 仕方なくないよっ。

 疲れてしまったので口には出さない。

 第三階層でもやはり魔物がいない。

 仕方なく、咲葉の魔法で次の階層の場所を見つけてもらう。

 一気に第四階層へと向かうことにする。

 ……なんで、こんなに魔物が出ないのだろうか。


「昨日、ダンジョンについて調べていたんだけどね。……まず、ダンジョンは五階層ごとにボスモンスターが出現するっていうのは知っているよね?」

「うん、このままだと一切戦わずにそこに行っちゃうよね」

「五階層のボスモンスターを倒したときに、第一から第五までのダンジョンの管理権が手に入るんだ。最初に倒した人にね」

「……最初に倒した人?」

「そう。……だから、もしかしたら私たちがいるこのダンジョン、実はすでに誰かが攻略して魔物の出現数をいじっている、という可能性もあるのではない?」

「……けど、ほかに誰がいるの? あたしの部屋からしかこれないんだよ?」

「それは……わからないけどね。ただ、もしかしたら……勇人さんがすでに攻略をしている、という可能性もあるんじゃないか?」

「え、兄貴が? いや、兄貴確かに結構強いけど……さすがに一人でボスを倒せるほどはないと思うよ?」


 魔物とかだって……たぶん、無理だろうし。

 それに、兄貴がダンジョンを攻略したのなら、あたしがのんびり眠っている間くらいしかない。

 ……そんな短時間じゃ無理だと思う。

 ダンジョン出現してからも、あたしは自室で寝ているし。


「……確かに、一人で短時間での攻略は難しいだろうね。そうなると、あとは誰かがどこかから入ってきているか、だね」

「ふ、不法侵入!?」

「いや、それはわからないけど……ダンジョンのトラップで、別のダンジョンから移動する、っていう可能性もあるからね」

「別のダンジョンから……そんなこともあるの?」

「あるみたいだよ。ダンジョンごとにつながっていることもあるらしいしね」


 も、もしも冒険者さんに見つかったら、あたしたちつかまっちゃう?

 あたしの不安を察したように、咲葉が苦笑する。

 

「捕まりそうになったら、顔を隠してすぐに逃げないとだよね?」

「それなら、もうダンジョン攻略をしないというのもいいんじゃないかな?」

「いやだよっ、一度くらい魔物と戦ってみたいよ!」

「なら、とりあえずは第四階層に下りてみようか」


 このダンジョンを攻略している人がいるとしたら、あたしたちはやっぱり入らないほうがいいのかも。


「……魔物でるかな?」

「期待はできないかもしれないけど……ダンジョンは五階層ごとに区切られているみたいなんだ。第一から三では基本的に一種類の魔物が出て、第四階層は今までに出てきた三種類の魔物が出現する。……だから、その三種類の魔物が……もしかしたら出てくれるかもしれない。それに期待して、第四階層に進んでみるのも悪くないと思うよ」

「……なるほど」


 咲葉は本当に物知りだ。

 ていうか、覚えるのが早い。

 あたしにはできないことだけど、そこは役割分担。

 あたしの役割はなんだろう? わかんない。

 

「ていうか、咲葉、やけに詳しいね?」

「そ、そんなことはないよ。……別に私は、それほど興味はないよ」


 ……あれれ? 咲葉が戸惑った様子で頬を染めている。

 散々、否定的な発言をしていた咲葉だけど、やっぱり興味があって調べていたんじゃないだろうか?


「えー、本当にそうなのかな? あたしよりもずっと、ずーっと詳しいじゃない!」

「それは沙耶がバカだからじゃないかな?」

「ば、バカって酷いよ! 物覚えが悪いんじゃないっ、覚えたくないの!」

「ほ、ほらね。……だから私は普通さ。うん、普通……あと、バカっていったけど、あれだよ? バカかわいいってことだから、別にバカにしてはいないよ? 頭なでてあげるから、許して」

「それであたしの怒りは収まらないよ!」


 頭を何度かなでられると、少し落ち着いてくる。

 ……い、いや。落ち着いているだけだから。

 ようやく、眼前に第四階層の階段が見えた。あたしたちはまっすぐに下りていく。

 ぶるぶると首を振ってあたしはそれから、びしっと指を突きつける。

 

「よし、第四階層へレッツゴー!」


 ぴょんと一歩を踏み出す。

 その瞬間、周囲の空間がゆがんだ。

 ……あれ? いつもと違う。


「沙耶! 魔物の出現だ!」


 咲葉がすっと剣を構えて、あたしも遅れて剣を持ち上げる。お、重い!



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