さぁ、パーティーの始まり……だ?
中々定期更新が出来ずにすみません、飽きずにお読み頂けたら幸いです。
ハロウィンの準備は雰囲気出して!
「たっだいまー!」
どのくらいの時間が経過したのか定かではないまま、晃は三人(正確には二人と一体)を出迎えることになった。
「ん? 晃、どうしたの? 顔色が悪いわ……」
「あ、いや、別に……って、理奈、何か変わったことはなかったか?」
「? 別にないと思うけど」
あくまで普段通りの理奈の顔に、安心と不安、そして疑惑とある種の恐怖という様々な感情が入り交じって沸き起こる。理奈はかなり複雑な表情を浮かべたが、やはり心配そうに晃の顔を覗き込む。
「どうしたのよ?」
「いや、何もないなら良いんだ」
どことなく芝居じみた口調だったが、みさが買い物袋を広げてはしゃぐ声が聞こえて来たので、理奈はそれ以上追求できなかった。
「ねえ晃おにいちゃん、これどう?」
「何だそれ? ……LEDライトのジャック・オ・ランタンか……これも百均で買えるのか」
「晃、考え方が年寄り臭いわよ」
「ゔ……放っといてくれ」
最近では百円均一で安くとも良い品が手に入る。しかも結構性能が良かったり、アイディアに溢れていたりして侮れない。
みさが取り出して見せたのは、陶器と思われるオレンジ色のかぼちゃの置物。その顔はファンキーに笑っている。中は空洞になっていて、小さな蝋燭を模したライトが明滅しながら夜を彩るというものだ。その他にも子供用の服飾品がある。悪魔の尻尾や黒猫の耳、白いお化けのかぶり物などなど、ほとんどの品は百円均一らしい。
「飾り物ばっかりなのか?」
「ううん、お菓子造りの材料も買ったよ! あとは、ジャック・オ・ランタンを作るんだ!」
みさは嬉しそうにサイズの違ったかぼちゃを取り出す。中身をくり抜いて顔を象り、中からキャンドルで照らす、アレを作るつもりのようだ。
「これが一番大きいから晃おにいちゃんが作ってね。それから……」
一つ一つ丁寧に取り出しては、テーブルに並べる。みさを見守りながら、必要な道具を取り出しているのは理奈だ。理奈は片腕にリタ(何度も言うが、人形だ)を抱えている。
「あ、そう言えば晃おにいちゃん」
「ん?」
一番大きいかぼちゃを手に取り、何やら考え込んでいる晃に声をかけるみさ。
「うさうさ、起きてこなかった? 今日は朝からずっと寝てるのよ」
「あれ? さっきまで居たんだがな……」
言われてはじめて、うさうさが傍にいないことに気付く晃。二人が買い物に行くと同時にやってきて、帰って来るといなくなっている。
「リタちゃんのこと、うさうさなら分かると思ったのにな」
「あ、ああ……そうだな」
歯切れの悪い晃。やはり不思議そうな表情で晃を観察していた理奈に、目線だけで何かを合図しようと試みる。が、そもそも何を合図したら良いのか分からず、結局、不可思議な空間を演出しただけだった。
「ちょっと様子を見てきましょうか」
理奈がリタをテーブルに置いて提案する。
「うん」
何となく、三人連れ立って二階にいるはずのうさうさの様子を見るため、階段に向かう。
現在の時刻は午後四時。この時季は日が沈むのも早く、外はすでに夜の帳が落ちようとしていた。不気味なほど鮮やかな変化を見せる空の色に、細く細く光る月が顔を出していた。
「すみませんですぅ……何やら不思議な眠気が襲って来ておりまして……」
みさのベッドにちょこん、と踞り、もはや目も開けていられない様子。無理に連れ出すのも悪い気がして、寝かせておくことにした。
「どうしたんだろう? うさうさ……」
「んー……本人も不思議がってたな」
心配そうなみさに答える言葉もなく、うさうさが言っていたことを思い出す。朝から、と。
間もなくキッチンへと戻ってきた三人だが、そこに有り得ない光景を見た。
パチン――
すっかり辺りが暗くなっている。電気を付ける音がやたらと響き、蛍光灯の白い光がいつもより冷たく室内を照らす。
……そう、感じただけかもしれない。
『………………』
晃をはじめ、皆言葉が出ない。魔法を信じてリタを受け入れていた理奈も、みさも。
「おい……」
「り……リタちゃん……?」
三人の目に映ったのは、テーブルに置かれていたかぼちゃ。ランタンを作る予定だったものだ。それに、顔が描かれている。――くり抜いた穴で象られた顔だ。その傍に、リタが立っている。――果物ナイフを携えて。
テーブルの上にはくり抜かれたかぼちゃの実や皮、そして形を整えたのだろう細長い切れ端がきちんと積み上げられている。結構なクオリティだ。
「り、リタちゃんが、それを作ったの……?」
呆然と理奈が問うが、さすがに言葉は発しない。リタはぎこちなくナイフを抱えたまま佇んでいる。
「〜〜っ!」
みさが思い切ったようにぶんぶんと頭を振る。ふんっ、と鼻で大きく息をすると、つかつかとリタに歩み寄る。
「もう! リタちゃん、ダメじゃない! 子供が一人で包丁使ったら危ないのよ」
妹を叱るお姉ちゃんよろしく、みさはリタに御説教。……若干声が震えているが、それは致し方ないところだろう。
「そ、そうね。みさちゃんの言う通りだわ」
理奈もそれに加わる。こちらは顔色が悪い。
しばし、何とも奇妙な沈黙が降りる。
「そ、そうだ……お前たち、何かお菓子とか作るんじゃなかったのか……?」
晃が沈黙を破る。その言葉に理奈とみさは助けられたようだ。何とか気持ちを立て直すことに成功した。
「そうだったわね! さ、準備して始めましょ!」
少しばかりわざとらしいくらいに明るい声を張り上げた理奈は、買って来ていた材料を見直して、みさと共にキッチンに向かう。
「うん! 晃おにいちゃんはかぼちゃをくり抜いてね!」
「ああ、やってみるよ」
晃もまた、テーブルに並べられたかぼちゃに向かう。……やたらと出来の良い小さなかぼちゃをお手本にしながら、作業に没頭する。理奈もみさも、先ほどの出来事を忘れたかのように、お菓子や夕食を作ることに夢中になっていた。
かぼちゃを練り込んだクッキーやチョコレート、カップケーキも美味しそうに焼けた。温かいシチューもかぼちゃ風味。パーティーに相応しく、パンやサラダも凝ったデコレーションだ。
……何かに取り付かれたかのように、傍目からは見える。が、それを指摘する者は誰もいない。
それぞれに没頭しているうちに、時間が過ぎて行く。
いつしか、テーブルを埋め尽くす量の料理が出来上がり、ハロウィンの飾り付けも完璧。ショップの広告にでも出てきそうな完成度だ。
外は完全に、闇に支配される時間。細長い月が不気味に嗤う――。
晃が作ったランタンに、キャンドルの火が灯される――直前。
ふっ……!
『〜〜っっ?!』
お読み下さりありがとうございます。
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