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ハロウィンの恐怖  作者: 芹沢一唯
3/5

依頼主……登場?!

ようやく依頼主登場。……誰か(何か?)をイメージして頂ければ。



  ピンポーン

『!』

 三人が同時に反応した。ベビーシッターの依頼人だろう。

 出て行こうとする理奈を制して、晃が前に進み出る。後ろに理奈が控え、さらに後ろから覗き込むように、みさがいる。

  がちゃり……

 何故か恐る恐る、といった雰囲気で、晃が玄関ドアを開けた。相手の顔を確認する。そして……

  がちゃん……

 閉めた。

『……………………』

 沈黙。

「ちょっと晃! 何閉めてるの?」

「あ、ああいや悪い……つい」

 気を取り直して、もう一度開ける。

 そこに、一人の男性が立っていた。一度開けられたドアを閉められたにも関わらず、微動だにせず。

 改めてドアが開けられ、閉められる気配がないと見ると、男はゆっくりとした口調で話し出した。恐ろしく低い声だ。腹に響いて来る。

「初めまして。神楽大地さんの同僚で、屋敷という者です。この度は、娘の面倒を見て頂けるようで、感謝します」

 ゆっくりと、どこか機械じみた単調な口調。これが真夜中の訪問者であったなら、十中八九通報されること請け合いだ。

「あ、ああ、いえ、別にたいしたことでは……」

 何とか平静を保とうと務めつつ、晃は屋敷を招き入れて自己紹介をする。次いで理奈とみさを紹介する。

「日付が変わる頃にお邪魔することになると思うが、どうかご容赦頂きたい」

「大丈夫ですよ。今夜は家族でハロウィンパーティーをするつもりでおりましたので。人数は多い方が楽しいですし、眠くなったらベッドもちゃんとご用意できますから」

 屋敷の雰囲気に圧倒されたのも一瞬だったのか、気を取り直した理奈はいつもの優しげな口調で対応する。

「で、その娘さんは?」

 晃が問う。現れたのは屋敷一人だけだったからだ。

「車で待っているのだ……リタ、おいで!」

 玄関先からは見えない位置に止めているらしい車に向かって叫ぶが、姿を見せるどころか返事もない。

「照れているようだ……連れてこよう……」

 言うと、屋敷は一度外に出る。……何気なく顔を見合わせる三人。

 ほどなくして、屋敷が戻ってきた。連れていたのは、親に似ずに可愛らしい少女。……ではなかった。

「ええっと……その、その子、は……?」

「娘のリタだ。照れ屋なんだ」

「で、でもそれ……」

「何か、問題でも?」

 男は至極当然というように、『それ』を胸に抱いている。男の凄みに圧倒され、三人は言葉が出ない。

「ここに……気を付けて欲しいこと、出来ればやって欲しいことをリストにしてきたのだが」

「あ……はい」

 理奈がそのリストを受け取る。そして屋敷は、「いい子にしているんだよ」と言い残し、一礼して去って行った。

 後に残された三人の口からは、未だ沈黙しか出てこない。

 『その子』を受け取ったのは晃だったのだが、彼が一番不可解な表情をしていた。

 何せ、預かった娘さんというのが……どこからどう見ても、『人形』だったからだ。

 シリコン製だろうか、滑らかな肌は、ほのかにピンク色をしている。整った顔立ちに、ふわふわした琥珀色の長い髪。ひた、と目の前の者を見据える不思議な光沢を持つ瞳は、深い藍色だ。口元は可愛らしく笑っているようで、ほんのりと色づいている。

 晃が胸に抱えられるくらいのサイズで、指先や足先まで、かなり精巧な作りの、『お人形』だった。

 何度目かの沈黙が、しばし空間を支配する。遠くで、車が発進するエンジン音が聞こえた気がした。


「ど、どうなってるの? 何なのあの人? 怖いよ、晃おにいちゃん!」

 みさが口火を切った。

「俺だって怖いわ! 何なんだあいつ? ごく自然に人形を娘とか言って置いてったぞ!」

 晃は抱いていた人形——リタをテーブルに放り出すようにして置くと、思い出したかのように両腕を抱えて、いかにも寒いといった素振りを見せた。

 比較的落ち着いていたのは理奈だ。……さすがというべきなのだろうか。まあ、内心では皆と同じようにかなり動揺しているのは確かだが。

 理奈は受け取ったリストに目を通している。晃とみさの視線が自分に向けられると、おもむろに声に出して読んだ。

「リタにして欲しいこと・気を付けて欲しいこと」

 ごくり、と誰かの喉が鳴った。

「汚れたら、お風呂に入れて下さい。着替えは持たせてあります」

「?」

「着替え? 預かったか?」

「いえ私は……って、晃。あなたの足元……」

「え?」

 言われて視線を落とした晃が、その姿勢のままで固まった。……置いてあったのだ。小さな、人形用のトランクが。

「い、いつの間にっ? うわっ!」

 そして、テーブルに置いたはずのリタが、そのトランクに寄りかかるようにして、そこに居たのだ。

 晃の顔から血の気が引いていく。それを横目で見ながら、理奈はリストを読み上げる。若干声が震える。背中に一筋冷たいモノが流れて行くのは極力無視。

「テレビは二時間以上見せないようにして下さい。お手伝いできることがあれば、積極的にやらせて頂きたい。楽しい時間が過ごせるように、ご協力をお願いします」

 読み終えた理奈は、これ以上ないくらいの複雑な表情。

 未だ流れ続ける気まずい雰囲気を打ち破ったのは、みさだった。子供は何でも受け入れるのが早い。

「ねえ、この子も魔法みたいな感じなのかな? 今自分でそこまで行ったんだよね?」

 晃の足元にあるリタのトランク、そしてそれに寄りかかるようにしていたリタを抱き上げると、無邪気にそんなことを言う。

「ああ……まあ……確かに…………」

 歯切れが悪いのは晃。足元に瞬間移動してこられたことがトラウマになりそうだった。

「そ、そうね……うさうさちゃんとは違うけど、魔法とか、そんな風に考えたら、案外大丈夫かもしれないわね」

「お、おう……理奈」

「ん?」

「受け入れるの、早いな」

「まあね。魔法の所為だって言われた方が納得できるもの。それに」

「今日はハロウィンだしね!」

 理奈の言葉を引き継いだみさが、元気な声を出す。『ねー』と二人ですでに馴染んでいる様子を見て、晃は一人眉間に寄った皺に手を当て、揉みほぐす。

(まあ、二人に任せておけば大丈夫そうだな……)

 二人はすでにリタのトランクを開けて勝手に着せ替えを楽しんでいた。……さすがに切り替え早すぎだろう……。

「お買い物、一緒に行くんだよね?」

「そうね、楽しい時間を、って書いてあったもの、お留守番じゃ可愛そうね」

 かなり楽しそうだ。放置された気分ではあったが、さすがの晃もお人形遊びには入って行けず、そのまま傍観者を決め込んだ。

「さあできたよ、リタちゃん! お買い物に行こう!」

「みさちゃん、ちゃんと抱っこしてあげてね」

 二人(と一体)は外出着に着替え、買い物リストも作って準備万端だ。ちらりと晃の方を見やると、晃は留守番、とばかりにソファに腰掛け、先ほどまで読んでいた本の続きを読み始めた。

「気を付けて行って来いよ」

「ええ、行ってくるわね」

「行ってきまーす!」

 可愛らしい声を見送ると、しばらくは晃の一人時間だ。といっても、特に何をするでもなく本を読みふける。

 と、そこに一つの気配が。……神楽家のもう一人の住人だった。

「パパ、一人なのですぅ? ママやみさは?」

「買い物に出かけたよ。あれ、珍しいな……みさと一緒じゃなかったのか」

「はいですぅ……今朝から身体が動かせなくて……さっきも急に眠気に襲われたのですぅ……」

 言いながら階下に降りて来たうさうさは、まだかなり眠そうだ。歩きながら寝てしまいそうな程にふらついている。そう言えば朝も声が聞こえなかった。単に寝坊しただけかと思っていた。

(みさも何も言わなかったしな……)

 朝から何かあったのだろうか。奇妙に思う晃。

「珍しいな、いつもはみさと同じくらい元気なのに……?」

「誰かが来たことは分かってるですぅ……その後、もう一人……妙な……気配……が」

 必死に眠気を堪え、重い瞼をこじ開けるように頑張って話す。その言葉の中に、引っ掛かるワードが。

「ちょっ、うさうさ……」

 知らず、声が上ずる。

「何ですぅ?」

「妙な気配……って言ったか? 大地兄さんのあとで家に来客があったんだが、それには気付かなかったのか?」

 晃の質問に首を傾げるうさうさ。来客には気付かなかったというのだ。……ドアが開いた音と話し声は聞こえたので妙だと思ったらしい。

「……ちょっと待て」

 眠そうに説明するうさうさに、待ったをかける。頭の中を様々な考えが駆け巡り、あらゆる可能性を模索した結果、晃の顔色が鮮やかなまでに変わった。

「…………っ…………」

 だが、言葉にはならなかった。いや、したくなかったのだ。

 そのままで、静かに時は流れて行く。


お読み頂きましてありがとうございました。『らいぶぽけっと/わたちゃん様』もよろしくお願いします。


あ、うさうさは喋るうさぎちゃんです。羽根もあります。魔法(?)属性アリです。かわいいのですよ♪

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