今日は何の日?
時季を過ぎてしまいましたが、作者様の了承が得られましたので……。
ラブラブで一見平和な生活を送る神楽晃・理奈・みさ・大地。
ファンタジー世界と通じたり、羽根があって喋るうさぎがいたり、ちょっと不思議な体験もする彼らですが、今回は、彼らの家で起こった不思議な夜のお話です。
「ねえねえ」
「ん?」
いつもと変わらない、土曜の午後。
……『ゆとり教育』などと言われて毎週土曜日の登校が無くなって久しいが、実はちらほらと土曜日の半日授業を行なっている学校も少なくない。みさが通う学校も、『ゆとり教育』が生んだ学力の低下を取り戻すため、本来休んで良いはずの土曜日に登校しなければならないわけだ。
学校から帰って来るなりみさが可愛らしい声を張り上げる。ソファで読書をしていた晃が、開いたままの本を胸に置いて顔を上げる。
「今日はなんの日でしょうかっ?」
満面の笑みで晃の顔を覗き込み、目を輝かせる。
「…………十月……今日は……三十一日……。ハロウィン、だな」
「当ったりー! ねえ、皆でパーティーやろうよ! 仮装パーティー!」
「か、仮装?」
ガバッと起き上がって眼鏡の位置を直しつつ、突拍子も無いことを言い出したみさに改めて向き直る。そこに理奈が通りかかった。
「あら、みさちゃんお帰り。楽しそうね、何か良いことあったの?」
「理奈おねいちゃん、ただいまーっ! あのね、今日のハロウィンでね、皆でパーティーしようよ、仮装パーティー! いいでしょ?」
テンションは高いまま、今にも飛び跳ねてきそうな勢いで、みさが理奈の顔を覗き込む。キラキラと輝くその瞳には、純粋さ以外の何者もなく、すでにそこにはパーティーの仮装さえも映っていそうだ。……この顔にこうも可愛くお願いされたのであれば、拒否する理由の有無にかかわらず従うしかない。……晃と理奈は二人だけでこっそりと肩を竦めてみせた。
「ねえ、大地おにいちゃんも、今日は土曜日だからお休みだよね?」
ふと、みさがこの家のもう一人の住人の名前を口にした。視線を彷徨わせるように何かを思い出したのは晃だ。
「そう言えば見てないな……大地兄さんは?」
「自分のお兄さんのことなんだから、もう少し関心持ってあげたら?」
「俺の関心ごとは理奈だけだ」
「ええ〜みさは〜?」
「おお、みさは理奈の次だ!」
「ちょっと晃! 偉そうに恥ずかしいこと自信満々で言わないでよ!」
みさの前でイチャイチャモードになる訳にも行かず……理奈の一喝で、晃はかろうじて理性を保つことに成功した。
「大地さんは出張よ、残念だけどね」
言いながら、理奈の手には大地の物と思われる着替えが抱えられていた。
「……んー……そんなことを言ってたような言ってなかったような……。ところで理奈、お前何持ってんだ?」
「だから、大地さんの出張の準備よ。朝一度会社に寄るって言ってたでしょ? 空港に行くなら家の前を通って行った方が早いから、って。荷物を取りに戻って来るはずだから、それまでに準備しないと」
「う〜……ん」
記憶の狭間に放り込まれた晃。しかし理奈は、出張先で珍しいものを発見し次第、こちらに送ることを約束させていた晃と大地の会話を忘れていなかった。
「……あれ。そんなことあったっけ?」
理奈の指摘にも、あくまでシラを切り通そうというのか。若しくは、本当に記憶にないのか。
「ええ〜大地おにいちゃん居ないの〜? せっかく大きなシーツお化けかミイラ男になってもらおうと思ってたのに」
理奈の言葉を素直に聞いていたみさが、さすがに残念そうな声を上げる。
「みさ」
ふと何かを思い出したように、晃がみさに向き直る。
「なに?」
「せっかくのパーティーなのに、家族でやるのか? 学校の友達とかも誘ったら良いんじゃないか?」
もっともな疑問だった。
「ううん、今年はね、みんな家族でパーティーするの。それでね、あとから報告会をしようってことになって……別な日に、遅れてもう一回だけハロウィンパーティーをするつもりなの」
「ん? そうなのか……?」
何だか良く分からないが、今年は誰がどんな楽しいハロウィンパーティーを過ごしたのか、それを競い合う(?)趣向らしい。みさが熱弁を振るう。
「と言ってもな……もう昼過ぎだぞ。これから準備するにも……」
晃が渋る。うーん……と考え込むみさだったが、そこに理奈の助け舟。
「さあさあ、みさちゃん、お腹空いてない? 今日は給食無い日でしょう? 食べながら考えましょ」
「そうだね! お腹空いた!」
切り替えの早いみさは、半ば駆け足でダイニングへと向かう。その後を苦笑しながら、晃。ハロウィンの仮装は避けられそうもない。
お読み下さってありがとうございました。
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