表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

09「幼女の匂いを嗅げ!」その4

「なんていうか、すごく静かなんだな、この森」


 僕が言った。


「街を守るための森ですからね。危険なモンスターはいないーー」


 その時だった。

 不意に背後の茂みから音がした。

 マオが振り返りざまに剣を引き抜く。

 茂みの中から何かが飛び出してきた。


「ポッ」「ポポッ」


 それは小人だった。

 小人? 

 いや、それは小さな人形ひとがたの何かだった。身長は30㎝ほど。大きな丸っこい球体を頭にした、3頭身の生物。頭は赤のものがいたり青のものがいたり、黄色い奴もいたりとカラフルだった。1つ〜6つぐらいの穴が顔には空いていて、ちょうどボーリングの球のようにも見えた。


「コロポックリだ。ここにもコロポックリがいるんだ」

「なにそれ」


 感心したようにマオが言っているので、僕は聞き返した。


「好きにさせておいたら悪さはしないよ。森が豊かなしるし」

「なんだそれ……」


 コロポックリ達が列をなしてこちらに向かってくる。顔の穴が3つの奴は人の顔にも見えるが、5つ6つともなるともうよく分からない。正直、かわいさ半分不気味さ半分という感じだ。

 

「ポポポー」


 どうやら歓迎されているらしい。

 先頭の1体が小走りにこちらに近づいてきた。が、足元を見ていなかったらしく、木の根につまづいてころんだ。


 転んで頭を地面にぶつけて、コロポックリは動かなくなった。瞬間、コロポックリは青っぽい光に包まれて、砂のように崩れ落ちた。


 ……死んだのかよ、今ので。


「コロポックリ達は本当に些細なことで死んじゃうの。びっくりしても死んじゃうし、寂しくても死んじゃうの」


 何その悲しい生物。


 マオがそっと青っぽい結晶に手を伸ばした。コロポックリの亡骸でもあるそれを、マオはそっと自身の胸に押し当てた。


「はぅぅ……」

「え、何してるの?」

「え、だって皆んなお腹空いたでしょ? せっかく経験魂レベルオーブがあるから使ったほうがいいよ」


 え?

 ……食べちゃったのコロポックリ?!(の亡骸だけど……)


「モンスター達はね……神様が、私たち人間に与えた『試練と慈愛』なんだ。だから襲ってくるモンスターは倒していいし、死んだモンスターから得た経験魂レベルオーブは人間のために使っていいんだよ」


 なんだかSYUKYOみたいだね。


 リュシンもためらわず、コロポックリの亡骸に手を伸ばした。僕は一瞬躊躇したが、たしかに腹が減っていたし、『郷に入りては郷に従え』ということで、青い結晶を手に取った。



ーーーーー


 ウルフィーが茂みの中に突撃して見つけたのは、コロポックリの一団だった。一団は驚きのあまり、すぐに倒れて死んでしまった。


「……コロポックリか。ここにもいたのか……」


 一団は家族か何かだったのだろうか。そもそもコロポックリに家族という概念はあるのか。ウルフィーにはわからなかったが、胸をチクリと刺す罪悪感が心地悪かった。


「……匂いだ。俺たちが追っているやつらの匂いさえわかればこんなことにはならなかったんだ」

「しょうがないよ〜〜ウルフィー」

「……こいつらの死を無駄にはできねえぜ。同じモンスターとしてな……」



ーーーーー

 

 茜色の日差しが注ぎ始めていた。

 途中休憩が挟まれる回数も増えてきていたし、その時間もだんだん長くなっていた。


「……一旦街に戻ったほうがいいですね、これは」


 リュシンが言った。

 僕たち二人が力なく頷いた。


「じゃあとりあえず『犬』を召喚しまーー」


 その時だった。

 不意に背後の茂みから音がした。

 マオが虚を突かれて剣を構えるが遅れた。

 茂みの中から何かが飛び出してきた。


「犬っ?!」


 犬っぽい何かが飛び出してきたので、僕が思わず驚いて声をあげた。


「犬じゃねえぜっ」


 犬っぽい何かが言った。飛び出してきたそいつは、剣を構えようとするマオに頭から飛び込んで地面に抑え込んでしまった。


「きゃっ」

「これでもう逃がさねえ! 匂いを! 覚えてやる!」


 ふがふがと鼻を鳴らしながら、犬男がマオの腹の匂いを嗅いでいた。ちょっとした地獄絵図であった。


「はーなーれーてー! いやぁぁ!」

「どうなんだろ! コレ今絵的にヤバイかな?! 絵的にヤバイかなコレ?!」


 犬男が不安そうに叫んでいたので、「ヤバイです」と素直に教えておいた。


「ちくしょう! だが俺は嗅ぐぜ! あの悲劇を繰り返しはしないっ」

「何それーー! はなれてーー!!」

「陽だまりに置いておいた布団みてーな匂いがするっ」

「いやぁーーー!! は な れ て え え え え え」


 茂みの奥から、2mを超える二足歩行するタコが歩いてきた。『緑のおっさんの悲劇』を思い出してしまい、僕は思わず後ずさった。


「あーー、見つけたんだねーーウルフィ〜」

「これでもう、この女の匂いは覚えたぜ! どこへ隠れたってもう無駄だぜ!」

「うーーんーーー。でももう見つけたんだからーー嗅ぐ必要あるのーー」


 犬男の動きが止まった。

 そっとマオを放すと、タコ男の隣におもむろに戻っていった。


「はっはっはーー!! ついに見つけたぜ、魔女を倒したとかいう冒険者ども!」

 

 何事もなかったかのように犬男が仕切り直した。

 「あ、バカなんだな」と僕は思った。


「お、お前達もっ……西の魔女の手下っ?!」


 リュシンが声をひっくり返しながら尋ねた。


「そうだぜ! 俺は狼男のウルフィー。で、こっちはダーゴン」

「よろしくーー」

「よろしくじゃねえダーゴン! 敵だぞこいつら!」


 狼男・ウルフィーが腰の後ろから短刀を引き抜いた。

 マオも剣を引き抜いた。


「マ……マオ……どうしよう……上級モンスター2体相手は厳しいよ……」

「大丈夫だよ。こっちには戦えるのが2人いるから、2対2で戦えるよ」


 ちらり、とマオが僕を見た。

 え〜〜、マジか〜〜。いやだ〜〜。


「あんたの相手は私だよっ。許さないからねっ!」


 マオが狼男の前に立ちはだかった。

 そうなると、必然的に僕の相手が決まってしまうわけで。


「ええと、僕の相手があなたなのでしょうか……」


 恐る恐る僕が尋ねた。タコ顏の怪人が、不気味にでかい瞳を僕を見据えた。


「そう〜〜〜」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ