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08「幼女の匂いを嗅げ!」その3

「ええと、この先しばらく道なりだよ」


 マオが地図とにらめっこをしながら案内していた。

 

 『迷わせの森』はその名に違わない自然の迷宮だった。薄暗い森の中は、かなり均等に整備されていてどの方向も似たような景色に見えた。こんな場所では方向感覚も役に立たないだろう。道も微妙にカーブを描いている。まっすぐ進んでいるつもりになると、おそらく完全に迷ってしまうだろう。


「なんというか、やっかいな森だな」


 僕が言った。


「この森はアンファンスの街を守るための防壁でもありますからね。元々迷いやすい地形に、さらに『方向感覚喪失』の加護もかけられていますから、外部からの不用意な侵入は不可能だと思います」

「でも私たちは地図があるから大丈夫だねっ」


 そう言いながら、マオは地図を横向きにしたり逆さにしながら道を確認していた。不安だ。


「万が一だよ。万一この森で迷ったらどうなんの……?」

「地図があるから大丈夫だよ! あっ、次のT字路を右ね」


 見えてきたのは十字路だった。


「……この場合はどっちに?」

「右……だよ、うん。ええと……その次がT字路なんだよ」


 見えてきたのは十字路だった。


「……この場合はどっちに?」

「左……かな」


 しばらく進むにつれて、次第にマオの表情が陰ってきた。

 さっきから同じ場所を歩いているような気がしてならなかった。

 もしかしなくとも迷っているんでしょうね。



「……ごめん……迷った……」


 小一時間ほど無言で歩き続けた後、マオが深くうなだれながら言った。

 小一時間くらい前には気がついていたので、僕は何も言わなかった。

 

 リュシンがマオから地図を借りて、目を通した。


「ううん……」


 唸るリュシン。僕も横から覗いたが、パッと見てずいぶんと省略された地図であることが見て取れた。

 よく正確な距離などを省略して、主要な道との位置関係のみにしぼった簡略地図を見ることがあるが、それと似たような地図だった。

 目印が存在しない森の中では、一度迷ってしまうとこの地図ではたどり着けなくなってしまう。


「これはもう、地図は使えない……かな」


 リュシンが言った。


「ごめん……」

「いや……方法がないわけじゃないよ」


 うなだれ続けるマオにリュシンが声をかけた。


「何パターンか思いついたんだ。まず一つ目……ボクの召喚魔術を使う」

「召喚魔術? 何かこう、迷った時に役に立つ系の呪文はないの?」

「あるにはあるんですが、使えないんです。ボク召喚魔術しか使えないので」


 そういえばそうだった。


「でも、召喚魔術でもなんとかなります。『犬』を召喚したらいいんです。匂いを追って脱出できます」


 召喚魔術って……悪魔とかが呼び出されるわけではないのか。普通に僕がいた世界から何かを引っ張ってくるということなのか。


「『犬』! 私犬好きだよ、前召喚した時かわいかったもんね」

「うん。犬なら何度も召喚に成功してるから大丈夫だと思うし。ただ問題は」


 問題?

 あっ、わかった。


「抜けられることは抜けられるけど、もと来た道を辿れるだけってことか」

「そうなんですよね……反対側に抜けたいんですけど」


 僕の世界からなら召喚魔法で呼べるのか。であれば、アイディアがないわけではない。


「じゃあさ、鳥とか召喚したらどうなの」

「どうなんだろう……やったことあったんですけど、言うことを聞いてくれなかったんですよね。ボクまだ1日1回ぐらいしか召喚魔術を使えないので……それで失敗するとまる1日使えなくなっちゃうんです」

「なるほど……けっこう難しいんだなぁ……」

「最初に何パターンか思いついたって言ってたよね。他のパターンは?」


 マオが聞いた。


「チヒロにイレギュラーズスキルを使ってもらうってことです」


 リュシンが僕を見て言った。


「チヒロ?」


 マオが首をかしげた。


「ああ、僕の名前ね。言ってなかったね」

「確か、他の場所がどうなっているかを見れるんですよね。その能力で、とにかく高いところから森を見下ろせば行く方向がわかるんじゃないでしょうか」


 ああ、と僕は心の中で相槌を打った。確かになんとかなるかもしれない。なんで思いつかなかったんだろう。


「いけるかもな。やってみるよ」


 僕はイレギュラーズスキル『神の視点(ディ・オーバービュー)』(命名したはいいが、口に出すのはどうにも恥ずかしい)を発動した。

 体からすっと魂が抜けるように、視点が自分の体を離れていく。


 今は、とにかく上だ。この視点で上を目指すんだ。


 上へ行くことを意識すると、視点が次第に上昇していった。

 屋根上の木々をぬける。青空が見えてきた。見渡すと、ひたすらに木々が広がっていた。もっと上に登らないと、状況がわからない。

 僕はさらに上を目指した。


 ーーが、視点の上昇が止まった。


 視点を動かすのに、強い負荷を感じた。どうにも上へ登れない。

 もしやーーと僕は思った。視点を一度自分の近くまで戻す。そして今度は平行に動かしてみる。視点が自分の体の前方に移動していく。


 がしかし、今度もある程度から先に動かせなくなった。

 うん、だいたいわかった。


「どうですか?」

「うん……悪い、方向はわからなかった。ただわかったことが」

「わかったこと?」

「この能力だけど……どうも視点移動にも限界があるみたいなんだ。だいたい僕を中心に……半径がそこの大きな木に届くくらいまで」

「……10mくらいかな?」


 マオがだいたいの距離を概算した。


「とりあえず、木の上には出れた。でも多分、ここ森の真ん中あたりに近いんじゃないかな。森の外れに近いところだったら、わかると思うんだけど」

「じゃあ……こうしましょう。とりあえず歩けるだけ歩いてみて、チヒロの能力で出口を探す。どうしてもダメになったら、ボクの召喚魔法で『犬』を召喚して一旦街に帰る」


 僕とマオが頷いた。



ーーーーー



「本当なんにもねーな、この森」

「んなーー」


 ウルフィーが言った。ダゴンが頷いた。


「ジェンシーちゃんもモンスター使いが荒いよ。たった俺たちだけで、西の魔女がやられたっていう奴を倒せって言うんだから。たまったもんじゃねーぜ。なあダーゴン」

「んなーー」


 ダゴンが何度も頷いた。


「普通に待ち構えて迎撃したほうが楽なのにーーん? あれ、ちょっと待て! なんか匂うぜ!」


 ウルフィーが鼻をひくつかせた。体勢を低くして眼を細める。


「あの茂みの先だ……! 奇襲するぜダーゴン」


 一気に駆け出すウルフィー。ダゴンがその後に続く。ダゴンも遅くはないのだが、ウルフィーは早かった。

 ウルフィーが茂みを一気に突き破った。

【次回の幼女ワールド】


追うものと追われるもの。森の中で繰り広げられる2つの物語。

森の小人・コロポックリ達の悲しすぎる生態とは? マオのおなかはどんな匂いがするのか?


次回! 09「幼女の匂いを嗅げ!」その4

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