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04「西の魔女との決戦!」その4

「いくよっ、みんな!」

「おー!」「いえー!」


 マオが号令をかけた。リネット以下ロリの騎士団もそれに答えた。


「ふわっ……」


 リュシンが膝をついた。

 僕は慌てて支えた。


「えっ、どうした? 大丈夫か?」

「だっ、大丈夫です……。ボクらもいきましょう……」


 マオ達はすでに走り始めていた。

 この様子では、少年の足で追いつくのは無理だろう。


 僕は腰を落とし、背中をリュシンに向けた。


「え」

「おぶるよ」

「ええっ」


ーーーー


 たどり着いた大通りは凄惨たる有様であった。

 泣き叫ぶ幼女達をモンスター達が両脇に抱えてどこかへと連れ去っていた。


 1人の女がそれを監督していた。女ーーそう、女だ。幼女じゃなく。

 背が高く、ゴスロリ服で黒髪長髪。メガネと前髪で表情はよくわからない。目立ちたいのかそうでないのかはっきりとしない。


「あれが……西の魔女だね!」

「も……もう降ろしてください……」


 マオが憎々しく吐き捨てた。

 ロリの騎士団が弓を構えた。

 リュシンは地面に降りることを要求した。


 女がこちらに気がついた。

 ゆっくりとこちらへ向かって歩き始めた。


「ねえ、ゼノンのパラドックスって知ってる……?」


 女が何かを問いかけてきた。

 ゼノン?


「撃てぇ!」


 リネットの号令で一斉に矢が放たれた。

 次の瞬間、僕は自分の目を疑った。

 

 矢が空中で減速していったのだ。


 それはまるでスローモーションのようであった。僕はまた何か見え方がおかしくなってしまったと思った。訓練されたボクサーは相手のパンチが超スローモーションで見える……とか言うアレだと思った。


「矢が……!」


 僕の後ろでリュシン少年が息を飲んだ。

 それを聞いて、僕は目の前の光景が現実であると理解した。


 矢が空中で、止まりそうなスピードにまで減速していく。

 それでいて地上に落下するでもなく、ただただ動きが遅くなっているのだ! 無限に!


「ふふふ……飛ぶ矢は、飛ばないのよ……!」


 女がまた何か妙なことを呟いた。厨二病かな?


「飛び道具は無効みたいです! レベルを上げて物理で殴りましょう!」


 騎士団長のリネットが剣に持ち替えた。

 威勢良く飛び出す幼女の騎士達。

 しかしその動きは、一歩踏み出すごとに急速に遅くなっていく。重い空気にでも絡め取られるように、全身の動きが怠慢になっていく。


「無駄よ……あなた達の攻撃は私には絶対に届かない。これが私のイレギュラースキル……名付けて『パラドックス オブ ゼノン』」


 あいたたたたたた


「み、みんな!」


 幼女達の窮地に、マオが慌てて飛び出そうとした。

 リュシンがその二の腕を掴んで引き止めた。


「だ、だめだいマオっ。まだあの能力がどんなんかもわかってないのに!」

「でもみんなが!」

「全滅したら誰も街を守れないんだよ! こらえて!」


 マオはやりきれなさそうに唇を噛み締めた。リュシン少年の言っていることはもっともだ。まだ向こうの女は何もしていないというのに、こちらの戦力のほとんどが無力化されてしまっている。

 強すぎる! なんだあの能力イレギュラースキルは。


 それに引き換え僕の能力はどうだ。

 「いつもと違った視界をお楽しみいただけます!」程度の能力じゃないか。僕がものすごい運動神経を持っていれば別だろうが、残念なことに『敏捷:E-』『筋力:E-』の僕には使い道がない。


 不公平だ! 不公平だよ! 異世界に来てまで不公平感を感じるとは思わなかったね!


「ふふふふ……かわいいなぁ……ちっちゃくてかわいいなぁ、みんなぁ」


 動きの遅くなった幼女の騎士達を、ゴスロリ女が物色し始めた。あからさまだった。全身を舐めるように見ていた。

 女が1人の幼女の前で足を止めた。騎士団長、リネットの前だった。


「そーれ」


 動きが止まっているのをいいことに、女は頭の甲冑を無理やり取ってしまった。取ってすぐ、にへらっと笑った。笑い慣れていない感じの、卑屈な笑みだった。


「うふふ……うふふふふふふふふふ」


 剣を振り上げたままの姿で止められているリネットが、足をがくがくと震わせた。怖いのだろう。僕だって怖い。


「な……なんですかっ。なんですかあなたっ」

「かわいいわね、あなた……おかっぱ幼女ね……。でもダメよ……女の子がこんな重そうな服を着たら……もっとかわいい服をお姉さんが着せてあげるね……ぬぎぬぎしましょーね……」


 女がリネットの甲冑に手をかけた。


「ふざけないでください!」

 

 リネットが声を張り上げた。そこには恐怖は感じられなかった。

 びくりと女がたじろいだ。あわてて手を引っ込めた。


「街を守るのに男も女もありません! この鎧は! 騎士のほこりです、さわらないでください!」


 女が後ずさった。

 後ずさって、口元を歪ませた。


「つ、強がっていられるのも、今のうちだけよ……!」


 強烈な違和感を感じた。

 この『場』への違和感というか……。妙な感覚だった。

 一番近い感覚だと『霊感』とかいうやつだろう。いや、僕持ってないけどね『霊感』。


「ダンジョン!」


 女の足元にピンク色の光輝く何かが現れた。ピンク色の領域がみるみると増えていき、女を中心としたピンク色の円はロリの騎士団全員を呑み込んでしまった。


 呑み込まれた騎士達の武器が、防具が、溶けるように消えていく。

 そして下着姿になった幼女達に、今度はフリフリの白や水色やピンク色のロリータ服が着せられていく。


 これは何だ?

 これは一体何なんだ?!


「よ……よろいは……? 剣は……? わ、わたしの……」


 装備を失った団長リネットがへたり込んだ。

 リネットのみならず、幼女騎士団全員がその場に呆然と立ち尽くしてしまった。


「あれがダンジョンなんです……!」


 リュシン少年が呟いた。


「自分の周囲の空間を、自分にとって都合のいいルールで支配してしまう能力……それが『固有世界ダンジョン』なんです!」


 女はどんどんと近づいて来ていた。

 通った場所にピンク色の道が残されていった。

 

 まずい。

 これ以上近づかれるのは、何かやばい気がする。


「私の領域にはいった者は……ロリだろうとショタだろうと……みーんな私好みの『かわいい服装』になるの……。武器なんて無粋なものは持ち込ませないわ……。そして私はかわいい幼女といつまでも楽しく暮らすの! これが私のダンジョン! 私だけの桃源郷! 『幼女理想郷ロリコンワンダーランド』!」




【幼女ワールド2.0の世界②】


イレギュラースキル『パラドックス オブ ゼノン』


使用者:西の魔女

能力 :ある地点Aからある地点Bまで移動するためには、その半分の地点までまずは移動しなければならない。半分の地点まで移動するためには、そのまた半分の地点まで移動しなければならない。半分の半分の地点まで移動するためにはそのまた半分のーー

このように、ある地点AからBまで移動するためには、この操作を無限に行う必要があり、無限の点を通過しなければならないので、有限の時間で到達することは不可能である。


これと同じ理屈で、『西の魔女』に対する『攻撃』は『西の魔女』に到達するまでに無限の点を移動することになるので、絶対にたどり着かない。

これが『西の魔女』のイレギュラースキル『パラドックス オブ ゼノン』である。


ちなみに「ゼノンのパラドックス」の正しい英訳は「Zeno's Paradoxes」なので、良い子のみんなは注意しようね。


※次回の更新は9/19(土) シルバーウィークは毎日更新しますよ

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