表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/39

35「幼女ワールド」前編

 ちっちゃい子は


 かわいい服を着れなきゃいけない。

 友達と遊べなきゃいけない。

 大人に守られてなきゃいけない。

 命の危険なんてもってのほか。


 そうでしょ? 間違ってないでしょ? 私は正しいよね? 『あなたよりも』正しいよね? 『お母さん』!

 

 幼女が、静かに私の手を取った。


「くるしかった。つらかった。ぜんぶ『お母さん』に決められて、悲しかった。でももういいの……わたしのために、私がくるしまなくてもいいんだよ」


 私は困惑した。うわごとみたいに繰り返した。


「くるしかった? つらかった? 悲しかった? 私が……?」


 体が震えはじめた。震えが止まらなかった。

 そのうちどうしようもなく悲しくなった。俯いて歯を食いしばった。

 しゃがみこんだ私の肩を、幼女が抱き寄せた。


「どうしても、その子をあなたに会わせたかった」


 顔を上げると、例の少年がいた。少年は申し訳なさそうに視線を落とした。


「ここは僕の世界ダンジョンです。同時に、あなたの心の中でもあります」

「……なんだかあんたって、いっつも唐突で、いっつも失礼よね……」

「ごめんなさい」


 幼女をーー幼い日の私をーー抱きしめた。この子がやってきて、私にもわかった。私の世界ダンジョンの中で何があったか。どうして彼がここに来たのか。

 

「謝って済む問題じゃないわよ。心を読むなんて、パンツを見たどころの話じゃないじゃない」

「ごめんなさい。でもこれしかなかったんです」

「わかってるわよ……わかってる……」


 彼は本当に、本当の意味で、この世界の子達を助けようとした。それが痛いほどわかってしまって、それは本当に痛いほどで、そのことがたまらなく嫌だった。


「謝って済む問題じゃないのは私の方よ……もうおしまいだわ……」

「だいじょうぶ」


 わたしが私に言った。


「ささえてくれる人がいるよ。いっしょに『ごめんなさい』って言ってくれる人がいるよ。私はもう、わたし一人じゃないの!」


 ……そうか。

 あの子のためにも、私は私の罪と向き合わなくちゃいけないのか。あの子の思いに応えるために。

 ジェン・ジェン・ジェンシー。

 私の、こんな私のそばにいると言ってくれた、小さくてかわいい男の子。


 そうだ。そうだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ダンジョンから帰ってきた僕は、そういえばそうだったのだが、全裸だった。全裸のままダンジョンに突入した、その当然の因果の帰結として、全裸であった。

 ダンジョンの中では自分のイメージする自分の服(学生服)を着ていたわけなのだが、どうやらダンジョンから解放されると、もとの服装の状態に戻るということらしい。その証拠に、ダンジョン内でパンイチだったマオは、元の装備に戻っていた。これが逆であれば言うことはなかったのだが……。

 リュシンが僕に、城のカーテンだったと思しきベージュの布を渡してくれた。それを体に巻くと、ちょうど『古代ローマの民衆』のような出で立ちになってしまった。まあ贅沢は言えない。

 

 僕たちが解放された場所ーー玉座の間には、多くの幼女ショタが溢れかえっていた。皆ダンジョンから解放されたのだ。そして服装も、おそらくこの世界の標準的な服装に戻っているようだった。どれも古いヨーロッパを思わせる出で立ちであったが、少なくとも紀元前の服を着ている僕よりはまともであった。

 

「どうやら……呪いが解けたらしいね」


 武装した少年が言った。

 一瞬誰なのかわからなかったが、よく見るとサンジュの父親だった。パンツを被っていないと、本当に誰なのかよくわからない。隣にはサンジュの母親もいた。

 リュシンが彼らに歩み寄った。


「あの……もしかして、サンジュちゃんの両親ですか……?」

「そう……だけど?」


 不思議そうな顔をして、サンジュの父と母が頷いた。


「これが、マオとボクたちをこの城まで導いてくれたんです。サンジュちゃんからの……預かりものです」


 リュシンが二人に差し出したのは、『対の指輪』だった。サンジュと、サンジュの両親とで1つずつ持っていたものだ。片割れに向かって、おぼろげな赤い光の筋をのばす指輪。リュシンの手の上にある指輪から伸びた赤い糸が、サンジュの母親の手元まで伸びて、繋がった。


「そうか、君もマオ・クエスタの仲間なんだな? ありがとう。本当に……なんとお礼を言えばいいのかわからない」


 サンジュの父親はリュシンから指輪を受け取り、深々と頭を下げた。リュシンは面食らった様子だった。


「そ、そんな。ボクはたいしてーー」

「リュシーーーーーーーン!!」


 マオがリュシンに、助走をつけて飛びついた。

 決まり手、押し倒し。


「マオ! よかった! 無事だったんだね!」

「リュシン! 無事だって信じてた!」


 それはほぼ同時だった。

 そう言って、マオが押し倒した体勢のまま、二人は微笑みあった。


「ふふふ、お熱いねぇ」


 サンジュの父親が言った。その言葉に、マオとリュシンは顔を赤くして跳ね起きた。あまりに同時に跳ね起きたものだから、二人はおでことおでこをぶつけてしまった。サンジュの両親が笑った。


 ふいに、玉座の間を静寂が支配した。

 緊張の糸が張り詰めた。


 玉座の前に、西の魔女とジェンシーが並んで立った。


 視線が集まっていく。猜疑の目、恐怖の目、怒りの目。

 僕は唇をかんだ。

 ここから先は、僕は手出しができない。ここから先の問題に取り組むのは、僕ではなくーー彼女たち、それからここにいる、『みんな』なのだ。


「わ、わたしはっ」


 西の魔女が、裏返った声で言った。


「みなさんに、ひどいことをしてしまいました」


 声が広間に反響した。残響ばかりが虚しく響いた。二人に突き刺さる視線に変化はなかった。


 張り詰めた空気の中に、「いまさらなんなの」と小さな声が響いた。

「そうだよ、負けたから謝ったんでしょ?」声は共鳴した。


「今さらなんなんだよ!」

「でてけ!」「そうだでてけ!」「ばけもののおやだま!」

「あいつは弱っている! 今の間にたおそう!」「たおさなきゃ!」

「「みんなのために!」」


 西の魔女の力なく垂れ下がった手を、ジェンシーが手に取った。


「ーーもも姉は、わたしたちを守ろうとしてたんだよっ!」


 ジェンシーが声を張り上げた。だがすぐに力をなくした。


「……やりかたは……たしかに間違ってたかもしれないけど……」


 その弁解の言葉は、しかし悲しきかな、火に油を注ぐ結果となった。


「「「かってなことを言うな!!」」」

「「「まもるって何から?!」」」

「「「化け物をやっつけろ!!」」」

「「「悪魔をおいだせ!!」」」


 共鳴ーー敵意の合唱。耳をそむけてしまいたいほどの。


「ーーーーーーーーーーもういいだろっ!!」


 声をあげたのは、サンジュの父・アーサーだった。

 皆が静まった。マオがリュシンに耳打ちした。


「サンジュのお父さんは、ダンジョン内部のレジスタンスのリーダーだったんだよ」


 アーサーは、皆と西の魔女との間に歩いて行った。

 そして西の魔女に向かい合った。大きな声で、彼が言った。


「あなたたちは、間違ったことをしたのだと思う! 僕たちに不自由と恐怖を押し付け、家族を離れ離れにした! それに対する僕らの返答は、痛いほど、伝わったはずだ!」


 西の魔女と、ジェンシーはうなだれた。


「ごめんなさい……」

「……償いをする、つもりはありますか」


 西の魔女は頷いた。ジェンシーも頷いた。

 それを見届け、アーサーは振り返った。


「みんな聞いてくれ! 僕たちはともに戦ってきた! ダンジョンから解放されるために! 恐怖と、理不尽と、戦ってきた、そうだろ?! その戦いは、今、終わったんだ! 僕たちは、勝ったんだ!! 自由を取り戻したんだよ!!」


 その言葉に玉座の間が湧いた。

 歓声もまた、共鳴した。


「だからみんな!! もう怖がらなくていいんだ! 彼女たちを、化け物と恐れる必要はない! 悪魔だと、声を荒げる必要はない! 僕らの怒りは、思いは、たしかに彼女たちに伝わったんだ! 伝わったということは、人間だってことだ! 彼女たちは『間違ったことをした』かもしれない! それでも『間違ったことをした』人間なんだ!」


 広間に、静寂が戻った。

 しかしその静寂は、先ほどとは少し違っていた。驚くべき静寂だった。怒りが、恐怖が、空間から引いていくのがわかった。


「だからみんな、話し合おう! これからどうすればいいのかーー」


 そこまで言って、アーサーは言葉を切った。

 はじめは、何故そこで言葉切ったのかわからなかった。僕だけではなく、皆が次の言葉を聞こうと耳をすませた。


 耳をすませると、静かな音が響いていた。

 何かが近づいてくるような足音が。

 それは先程までは聞こえてはいなかったがーーいや、広間の喧騒にかき消されていたのだろうかーー今ははっきりと聞こえていた。


「何か、来るっ……!」


 マオが誉め殺しの魔剣(グラムスレイヤー)を構えた。


 足音。

 足音は複数だった。

 大なり小なり、しかし足を引きずるような音は共通していた。

 

 軋むような音をたてて、玉座の間の扉が開いた。

 

「ガフゥ」


 緑色のでかいおっさん(トロール)が立っていた。

 こちらに襲いかかってくるといった様子ではなかった。うつろな目をしていた。何かが決定的におかしかった。


 トロールは前のめりに倒れた。倒れ、その体はレベルオーブへと砕けた。


 トロールの後ろから、小柄なモンスター・コボルトが複数体やってきた。どれも足を引きずり、うつろな目だった。

 幼女・ショタたちがその尋常ならざる様子に恐れをなして、玉座の間の奥の方へ逃げていった。

 マオ、リュシン、僕、アーサー、その他何人かの武装した少年少女たちがその間に立って身構えた。

 コボルトもまた、僕らのもとまでたどり着く前に倒れ、粒子となった。


「ーーまさか」


 声をあげたのは、西の魔女だった。切迫した声で、彼女が叫んだ。


「みんなっ! 私の近くに寄って!!」


 部屋の隅に寄っていた幼女・ショタたちは困惑した様子だった。もちろん、誰も動かなかった。


「早くっ!! 化け物がーー」


 静かな声が、どこからとなく響いてきた。


「城の主をさしおいて宴会とはなぁぁぁ……まあおかげで余計な邪魔はされずにすんだがなぁぁぁぁ?」


 僕のすぐ隣にいたアーサーが、壁まで弾き飛ばされた。

 わけもわからず隣を見ると、2mほどはあろうかという白いのっぺらぼうのような化け物が、そこにいた。





【次回の幼女ワールド】


次回、幼女ワールド・最終回。


牙をむく最強最悪のモンスター! 倒れていくロリの戦士達! 最悪の前に立ちはだかる、ロリコンOL西の魔女!


マオ、リュシン、「僕」、そしてみんな

それぞれの勇気が、愛が、できることが重なっていく!


勇気と愛と、幼女がいっぱいファンタジー!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ