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30「世界の果てとロリコンワンダーランド」その7

「姉さんは知ってたのか?」


 まだどこでもない空間。

 僕は尋ねた。姉さんは「なんのこと?」といった風に首を傾げた。


「いや、この能力の名前のことだよ。心世界行ダンジョンダイブ……」


 僕のダンジョン(固有世界を創りだす能力)は他人の心の中に世界を作り出して、そこへ潜り込んでいくものだった。

 ダンジョンとは本来、精神世界の具現化だという。であるなら、西の魔女のダンジョン「幼女理想郷ロリコンワンダーランド」は彼女の精神世界そのものだ。それならば僕の能力で潜り込むことが可能であるはずだという、僕の直感はどうやら当たった。

 ダンジョンに潜行するためのダンジョン……心世界行ダンジョンダイブ。命名としては出来すぎている。この能力の真価を予め知っていたとしか思えない。


「何度も言うようだけど、私はあなたが投影している『自分を管理するもの』のイメージでしかないわけ」


 姉さんは言った。


「本当のお姉さんというのは、ここではなくて元の世界にいるのよ。私はあなた……私は花ヶ崎千洋が知りえていることしかわからないし、花ヶ崎千洋が考えられる範囲でしか考えられない」

「それはおかしくない? 初めて姉さんがこの能力の名前をつけたときは、僕はまだダンジョンが何なのかを知らなかったと思うんだけど……」

「そんなことはないわ」


 姉はかぶりを振った。


「この幼女の世界に召喚された時に、あなたは予め自分の能力を知ったはずなのよ。ただ今は思い出せないだけ……」

「そうなの?」


 全然そんな感じはしないのだけれども。


「そんな気はしないなぁ」

「まあ覚えていたら都合の悪いこともあるからね」

「どゆこと?」


 僕は首をひねった。覚えていたら都合の悪こと? 何を覚えていたら都合が悪いんだ? そして都合が悪くなるのは一体誰だ?


「そんなことより、決めておいたほうがいいわよ。どんな服でダンジョンの中に侵入するか」

「えっ、決められるの?!」


 寝耳に水だった。


「あなた以前私を勝手に裸に剥いたわよね」

「してない! 人聞きの悪い!」

「言ったでしょう。私はあなたが投影したイメージだって。私が全裸であなたの前に現れたのだとしたら、それはあなたが投影したということになるのよ」


 以前この能力を使った時、確かに姉は全裸で現れた。

 いやいやいや!


「姉さんの行動全てが僕の投影だとしたら! 僕が姉さんに首を絞められたのも僕が自分でやったことになっちゃうじゃないか!」

「だからそうなのよ。それもまた、『あなたが自分でやったこと』」


 いやいやいやいやいやいや!


「私の服装をあなたが決めてしまえるように、この空間の中でならあなたは自分の服装や……見た目すらも変えてしまうことができるわ。望むのであれば、別人に変わってしまうことだって可能よ」


 姉は言った。


「どうする?」



ーーーーーーーーーーーーーーー


「やるべきこと、とは?」


スク水パンツ仮面変態少年がマオに尋ねました。


「ダンジョンを内側から破る……! そうすれば、今囚われている人全員をここから救い出せるんだよ!」


 マオが言いました。


「そんなこと可能なの?!」


 変態少年の妻ーーコーネリアス・モンモンがマオに詰め寄りました。エプロン少女だけではありません。地下室内の幼女ショタたちが皆マオを見ました。


「このダンジョンは西の魔女の精神世界そのものだよ。その中に囚われている私たちは、当然西の魔女には勝てない……でも心の中だからこそ、その弱点だってこの世界のどこかに必ずある」


 マオは左手で胸を隠しながら、右手をぐっと握りしめて見せました。


「そこを私たちで倒すの!」


 壁際に陣取っていたメイド服の男の娘が怪訝そうな視線をマオに投げかけました。


「勝てないのに、どうやって倒すっていうんだ?」

「ルールだよ。ルールを把握するの」

「ルール?」

「この世界は心の中の世界だから、ルールは絶対。でもそれは西の魔女側だって一緒なの……自分で決めたルールを自分で破ったら、ダンジョンは存在できないから」

「なんで……そこまで知ってるんだ、あんた」


 マオの顔に影がさしました。


「何度も見たらね、だいたいわかってきちゃうんだ。それより、教えて! この世界のこと! この世界で当たり前に行われていること! それがきっと西の魔女のルールだよ!」



ーーーーーーーーーーーーーー



 西の魔女のひどい狼狽具合を見て、ジェンシーも焦り始めていました。


「いなくなったってどういうこと?! 桃ねえ!」

「しっ、知らないわよ! 捉えてたあいつが消えちゃったの!」


 温泉で目の前で消えた時と同じだ、とジェンシーは思い、心の中で自分を責めました。そういう能力が彼にはあると、ジェンシーは知っていたはずでしたから。なぜそれを伝えなかったのかと自分を責めたのです。


「とにかく桃ねえは最上階にいて! ぼ……私があいつを見つけ出すから!」

「ジェンシー……」


 ジェンシーは西の魔女と別れると、大声でモンスター達に集合を呼びかけました。ジェンシーはモンスターと意思疎通することができるのです。たとえ相手が人語を解さなくとも。


 ジェンシーの招集に、まず足の速い小鬼のモンスター・コボルトたちが応じました。


「コボ?」「コボ?」


 コボコボと鳴く彼らにジェンシーが指示を出していきます。


「とにかくこの城をくまなく探して人間を探して! 他のモンスター達にも伝えて!」

「コボォ?」

「見つけたら? ……気絶させた状態で、私のところまで連れてきて。私は大広間にいるから」



ーーーーーーー



 城がにわかに騒がしくなったことをリュシンは感じ取りました。おそらくチヒロが西の魔女と接触し、首尾よくダンジョンを発動させたのだろうとリュシンは思いました。


「今度はボクががんばんなきゃ……」


 リュシンは物陰に隠れながら、対の指輪に目を落としました。対の指輪ーーマオが救った男の娘の村で、マオが村の子サンジュ・モンモンから託されたものです。ついの指輪はその名の通りペアでつくられ、互いの場所を指し示しています。そしてそのもう片方は、西の魔女のダンジョンに囚われたサンジュの母親が持っていてーーつまりこの指輪は、今は西の魔女の居場所を指し示しているのです。


 指輪の光は今、リュシンの斜め上方を示していました。上の階に西の魔女がいるのだということは明白です。しかし入り組んだ城内では、光が指し示す最短ルートを歩めないのも事実でした。


「まずは見つからないように……」


 息を殺して、リュシンは物陰からはい出ました。壁際をできる限り音を立てないように早足で移動していきます。

 リュシンの目の前に、曲がり角が迫ってきました。


「コボォ」「コボボ」


 コボルトのペアが曲がり角から飛び出してきました。急いでいるらしく、驚きのあまり急停止したリュシンの横をすり抜けていきました。バカでした。

 しかしそんなバカなコボルトたちも、すれちがったものへの違和感から振り向きました。そして自分達が、人間を捕まえる任務を与えられていたことを思い出したのです。


「コボォ!」「コッボー!」


 リュシンは大慌てで手に握りしめていた「きびだんご」を一口だけかじりました。きびだんごーーこれも以前にマオが助けた騎士団長・リネットからのもらいもの。多少の理性と引き換えに、食べた人間の身体能力などを増強する合法スイーツです。

 マオがひとつ食べきった時は、巨大なモンスターを何体も倒せるほどの力をマオに与えましたが、リュシンはもともと戦闘能力がありません。ですがそれでも、コボルトを簡単に撒けるほどの走力・持久力は手に入ったのでした。


 リュシンはモンスターたちが来た方向へ全力疾走しました。きっとその方向に、上階への階段もあるはずでした。


「マオ! 今! 行くから!」


 顔を赤らめながら、リュシンは走って行きました。



ーーーーーーーーーーーーー


 

 人間を探せと命を受けたコボルトが一体、下層への階段に迷い込みました。彼はまだ、上階で侵入者が見つかったこと知りませんでした。


「コボォ」


 最下層の暗闇で、人影が動きました。

 コボルトがそれに気がついて、階段を駆け下りていきました。


次回の投稿は明日(1月2日)です。

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