03「西の魔女との決戦!」その3
「レベルオーブ!」
「レベルオーブだぁ!」
「しかも大量だよう!」
緑色のおっさんが倒れた場所には、青く光る結晶がいくつも転がっていた。
「リュシン! よかった、無事だね!」
緑色のおっさん(のようなモンスター)を一撃で倒した少女がこちらに振り返り、表情を緩めた。
金のツインテールーーツインテールというよりも位置的にはおさげ髪だろうか?ーーが肩にかかっていた。目を引くのは大きなまん丸の金の瞳だ。
ちょうど自宅裏の猫の目があんな感じ。
少女は銀の剣を腰の鞘に収めた。
僕の隣にいた少年が今にも泣き出しそうな顔で駆け出した。
「マオ〜!」
少年が少女に抱きついた。こうしてみると少女の方が背が高い。
髪の色こそ全然違うが、姉と弟のようにも見えた。
ロリショタだね! 実に結構じゃないか!
「なんとか街の中心部の方はすっきりさせたよ。リュシンも……成功したんだね!」
チラリと少女が僕の方を見た。
少女の後ろの方で、ロリの騎士たちがフラフラと青い結晶に近づいていた。横目に何度も少女を盗み見ていた。
「オーブだよ……」「大量だよ……」「大量にあるよ……」
ロリ騎士の一人がそろりと結晶に手を伸ばした。
「やめなさい!」
手を伸ばした幼女を叱りつけたのは、リーダーらしき騎士の幼女だった。
「そのオーブはその人のものです!」
リーダーらしき幼女がこちらに歩み寄って兜を外した。
黒のおかっぱ頭だった。背は低かった。
「さあ、早く。レベルオーブが消えてしまいます」
少女が頭を振った。
「ありがと! でもそのオーブはあなた達がとった方がいいよ」
「どうして。あのモンスターはあなたが倒したんですよ」
「うん。でも……『西の魔女』はまだこの街にいるから。私だけじゃ倒せない……あなた達の力も必要なの」
「私たちの力」
おかっぱ幼女騎士が繰り返した。
「私はまだあんまり疲れてないし、武器も無事。だからあなた達でそのオーブをとって、武器や体力の回復に使って欲しいの」
「なるほど……わかりました。みんな! たくさん怪我した人からオーブをとってください! 順番です!」
リーダーの号令で、ロリの騎士達が一列に並んだ。
何となく、小学校の体育の時間を思い出させる光景だった。
一番負傷したらしい幼女が、びっこを引きながら青い結晶を手に取った。それを胸に押し抱くと、結晶が青い光に変わって幼女の胸に吸い込まれていった。
「はわぁぁ」
弛緩した表情を見せる幼女。ぶるぶると足を痙攣させている。
ん?
列の次に並んでいた幼女が、前に出て結晶を手に取り、胸に押し当てた。
「はぅん」
蕩けた表情を見せる幼女。
危ないぞ。何やら絵図らが危ないぞ。
なんだ。なんだアレ。あの青い結晶なんだ。
「あの……もしかして、怪我してないですか……?」
リュシンと呼ばれた少年が、僕の方を見上げて尋ねてきた。
怪我。
確かに、外傷こそないけれども、腰や首には動くたびに痛みが走っていた。
だがしかしだ……本来であれば、こんな痛みだけで済んでいるはずがない。何せ2回も空中遊泳(意に反する)をしたのだ。普通であれば、初回でお亡くなりになっていてもおかしくはなかった。
それでもピンピンと生きているわけだ。多分僕、かなり頑丈になっているな。
僕だけではない。あの子達だって、あの緑のおっさん(様のモンスター)に殴られて平気だった。
この世界の人間は、きっとデフォルトで丈夫なのだろう。
でもうん、動くたびに痛みが走るわ。
先生! 僕、怪我してるみたいです!
「ええと、うん、ちょっと腰と首が」
「たいへん! レベルオーブを使った方がいいよ!」
不意に少女が、僕の腕をとって引っ張った。
「えっと、何? レベルオーブって……」
「経験魂っていうのは、モンスターを倒したときなんかに得られる……なんて言ったらいいんだろう……『努力の結晶』? みたいなものです」
リュシン少年が僕に説明してくれたが、今ひとつよくわからなかった。要はあの青い結晶がそうなのだろうが……。
「はい、これ」
少女が小さなカケラを拾い上げて、僕に差し出した。
受け取ると、硬くひんやりとした手触りこそあったが、重さというものをまるで感じなかった。
「レベルオーブを使う……って何?」
「胸に当てながら、使い道を願うんです。『足の怪我を治したい』とか『お腹が空いた』とか『武器を修理したい』とか」
少年に言われた通りに、胸に押し当ててみた。
半信半疑ながら、『痛みがなくなるように』と心の中で願った。するとどうだ。胸に当てた結晶が光に変わって体に溶け込んでいくではないか。
胸から、首と腰にじんわりしたものが広がった。
ほっとするような温かさ。
気がつくと結晶は綺麗さっぱりなくなっていた。痛みも感じなくなっていた。
「痛み、なくなった?」
少女が僕に問いかけた。
「……うん、ありがとう。大丈夫になった」
「よかった!」
おかっぱ頭の幼女騎士が、また少女の所にやってきた。
見ると、ロリの騎士団は回復を終えたようだった。レベルオーブがなくなっていた。
「ありがとうございます。私はアンファンス自警団騎士長リネット・ガーファース・アンファンスです。あなたの名前を教えてください」
「そんな、名乗るほどの者じゃないよ」
おかっぱ幼女のリネットが悲しげに眉を下げた。
「わ! ごめん! えっとね、私の名前はマオ・クエスタ! それで、そっちの魔法使いがパーティーのリュシンだよ」
おかっぱ幼女のリネットが、嬉しそうに目を輝かせた。
右手をマオにむけて差し出した。
「よろしくお願いします、マオ・クエスタ様!」
「さ……様? う、うん、よろしくね、リネット」
少女・マオも答えて手を握り返した。
「とにかく、今は『西の魔女』を街から追い出さなきゃね。力を貸してもらえる?」
「もちろんです! マオ様!」
リネットはロリ騎士達のもとへ駆け戻り、点呼を始めた。
マオがリュシンの横に立って、二人で僕を見つめてきた。
どきりとして、僕は立ちすくんだ。
「異世界からの転生者様。見ての通り……この街は今、『西の魔女』によって襲われてます。いえ……この街だけじゃないんです。この周り全部が、『西の魔女』の侵略を受けているの」
少女マオ・クエスタが切々と語った。
「私たち人間の力だけでは、もう止められないの。『イレギュラーズ』の力が必要なんです。どうか力をお貸しください」
少女が僕に頭を下げた。
まずい。
期待値が高い。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕にそんな力はない……気がするよ? 少年もほら! 見てたでしょ! モンスター1体だって倒せなかったじゃんか!」
少年が頭を振った。
「それはまだ『契約』が不完全だからだと思うんです。『契約』さえ交わせれば、『固有能力』と『固有世界』を操れるようになるはずです」
「イレギュ……? ダンジョン……?」
何か厨二的な単語が聞こえた気がした。
その厨二的な力が僕にも秘められているとでも言うのか!
う、静まれ僕の右腕!
「『西の魔女』もダンジョンを使うと聞きます。ダンジョンが使えなければ、おそらく勝ち目はないんです……!」
すがるような目で僕を見上げるロリとショタ。
やめろ! やめてくれ! そんな目で僕を見ないでくれ!
「今から契約の呪文を唱えますが……あの……命令口調なんですが、怒らないでくださいね……? 呪文がこうなっちゃってるので……」
少年が僕に杖を向けた。
杖の上部に埋め込まれている紫の宝石が輝いた。
「理の彼方より来たりし者よ! ここは狭間の世界なり! 我が願いを聞け! 我の願いは『西の魔女の討伐』! この願い叶えるならば、この世は汝に再び命を与えるべし! リュシン・ヴァンデルクの名の下に命ずる! 我に従え、イレギュラーズ!」
輝きが僕の体を包んで行く。
僕は……
僕の答えは決まっていた。
困っている子供を放って帰れる訳がない。
何よりも僕自身が……子供っぽいとは思うが、この状況にワクワクしているのだ。
答えは決まっていたのだが……
なんて返せばいいのだろう?
呪文に対する返答だ。何か気の利いた返し方をしたいところである。
「我が剣に誓おう!」とかか? だが、あいにく剣を持っていない。
「我が名に誓おう!」……いや、これもダメだ。僕の名前が「花京院典明」並みにカッコよければ別だが、あいにくそこまでカッコのつく名前ではないのだ。
まずい! 光が弱くなっていく!
「ええとっ! はい! 従います!」
こうして、ちっとも格好のつかないまま僕の契約が完了したのだった。
【次回の幼女ワールド】
「これが私のダンジョン! 私だけの桃源郷!」
『西の魔女』の凄まじい力に圧倒されるリネット率いるロリの騎士団。それでも立ち向かう幼女たちを、西の魔女のダンジョンが容赦なく呑み込んでゆく。
刮目せよ! これがロリコンOLの力だ!
次回 04「西の魔女との決戦」その4