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27「世界の果てとロリコンワンダーランド」その4

 幼女剣士マオ・クエスタが目覚めたのは『幼女の世界』でした。


 『幼女の世界』は、幼女の世界というからには幼女しかいない世界なのです。実物大のおもちゃの家が立ち並ぶ中に、浮かない顔の幼女たちが家の中でぼうっと座っているのです。なぜ家の中のことが分かるかというと、どの家もある一面の壁がごっそり取り除かれているからなのです。

 幼女は家の中だけでなく、街の往来にもいました。しかし街を歩く幼女達は服装こそフリルが多いかわいらしいものでしたが、例外なく虚ろな顔で、歩き方もなにか不自然な感じがするのでした。


『幼女の世界』は箱庭でした。巨大な木材の壁がそこを取り囲んでいました。上には何かが抜け落ちてしまったかのような虚空が広がっています。


「ここが……西の魔女のダンジョン……」


 マオが辺りを見回してつぶやきました。マオが立っているのは道の往来。虚ろな幼女達が、マオを一切無視して通り過ぎていきます。リュシンやチヒロ、西の魔女やジェンシーの姿はそこにはありませんでした。

 マオはほっと息を吐きました。


ーー良かった。リュシンもチヒロもこのダンジョンには巻き込まれていないーー


「どうしてけんなんかもっているの?」


 マオを無視して道を歩いていたはずの虚ろ幼女が一人、マオの目の前にやってきました。

 マオは自分の手元を見ました。マオの服はダンジョンに入った時のままでした。つまり防具を着て、剣を手に持っていました。


「どうしてそんなふくをきているの?」


 虚ろ幼女がもう一人増えました。


「だめだよ。そんなふくだめだよ」


 また一人増え


「いいつけるよ。おかあさんにいいつけるよ」


 もう一人増えました。


 マオは青ざめた顔で剣を抜きました。直感的に、目の前にいるのが人ではないと感じたのです。


「あなたたちは……何?! モンスターじゃないみたいだけど……」

「いいつけるよ」「いいつけたよ」「いいつけちゃったからね」


 マオの周囲に影が落ちました。はっとしたマオが上を向くと、虚空のもやの果てから巨大なふたつの手が迫ってきていました。


誉め殺しの魔剣(グラムスレイヤー)!!」


 剣を巨大な手に向かってふりました。しかし何も起こりませんでした。


「なんで?! 誉め殺しの魔剣(グラムスレイヤー)!!」


 何も起きません。虚幼女たちがくすくすと笑います。


「そんなのむだだよ」「ここではつかえない」


 巨大な左手がマオをつかみ上げました。


「放して! 放してよ!」


 マオがもがいても手はびくともしません。巨大な左手はマオの体をがっちりと掴み、右手がマオの持っていた剣を力ずくで取り上げました。取り上げた剣を、右手が放り投げます。地面に刺さったその剣を、虚ろな幼女が引き抜いてしまいました。


「返して! その剣は大事なものなの! 返してよぉ!」

「ぼっしゅう」「ぼっしゅう」「これぼっしゅう」


 剣を取り上げた右手が、今度はマオのスカートに手をかけました。


「え?! 何する気なの?! やめてよ!」


 右手はスカートを力任せに脱がせてしまいました。巨大な手が今度は、マオの鎧に手をかけました。マオは手の意図を察しました。


「や、やめて……やだぁ! やめて! やめてぇっ!」


 鎧も簡単に剥ぎ取られていきました。今度は上着に手がかけられました。


「やめて……助けてよ……リュシン……ユエ……」



ーーーーーーーー



 ショタ魔導師リュシン・ヴァンデルクは、間一髪のところで西の魔女のダンジョンの射程から逃れました。すぐ目の前まで迫った桃色の領域は、その中にいたはずのマオともに消えてしまいました。


「マオ……マオっ!」


 リュシンがダンジョンの射程から逃れられたのは、直前にマオに突き飛ばされたからでした。

 ダンジョンを展開し終えた西の魔女は、その場に膝をつきました。


「大丈夫?! 桃ねえ!」


 西の魔女にジェンシーが駆け寄りました。


「やっぱ……これちょっと疲れる……」


 西の魔女が言いました。


「あとは任せたよ、ジェンシー。先に帰る……あんまり遅くなっちゃだめだからね……」


 西の魔女が去って行きました。


「待ってーー」


 後を追っていこうとするリュシンの前に、ジェンシーが立ちふさがりました。


「通して……ジェンシー」

「ダメ。通せない。だって……あの子は……リュシンを守ろうとしたんじゃないの?」


 そう言った後で、ジェンシーははっとしたように目を丸くしました。


「……ごめん。なんで通したくないのか……私わかんない……。でもダメだよ。こっから先でリュシンと会ったら、そのときは私、リュシンと戦わなきゃいけなくなる」


 そう言うとジェンシーは踵を返して歩き出しました。

 途中で狼男のウルフィーに声をかけて、一緒に去って行きました。ウルフィーはチヒロを肩に担いでいました。


 去っていく途中、ジェンシーは何度も振り返ってリュシンを見ました。



ーーーーーーーーーー



 分断されていくーー


 僕は思った。マオは異空間ダンジョンに連れ去られ、僕は今狼男にどこかに運ばれている。唯一自由なのはリュシンだが……しかし解決しなければいけないことが多すぎて、何からすればいいのかもわからないのが現状だった。


 それでも一つわかったこともあった。


「ジェンシー、ジェンシーはやっぱり、リュシンたちと戦いたくないんじゃないのか?」


 リュシンに呼びかけた。僕を担いでいる狼男の肩越しに、逆さまのジェンシーがこちらを見た。


「わかんないよ! そんなの!」


 ジェンシーが言った。

 僕にもわかる。ジェンシーは動揺しているんだ。ジェンシーはもう気がついている。自身が西の魔女を想う気持ちと、リュシンとマオが互いを想う気持ちが同じだということに。

 それでもジェンシーは……容易にはそれを受け入れられない。一線を超えてしまっているからだ。つまり、どうしたってジェンシーはリュシンたちと対立せざるをえないということに、ジェンシー自身も気がついているのだ。


 もし、今のジェンシーを救う手立てがあるのだとすれば……


「ジェンシーちゃん。それでこの人間は、いったいどこに運べばいいんだ?」


 狼男がジェンシーに尋ねた。


「わかんないよ! 桃ねえに聞いたら!」


 ジェンシーの言葉にはっとした。


 西の魔女。彼女だ。ジェンシーを命がけで救った、西の魔女であればジェンシーを救えるかもしれない。


 西の魔女のところまでなら、この狼男が案内してくれるらしい。そこから先に、きっと僕のやるべきことがあるはずだ。

【次回の幼女ワールド】


強制脱衣こうかいしょけいに幼女憲兵! 自由のない幼女の世界に囚われてしまったマオの運命やいかに!


次回 28「世界の果てとロリコンワンダーランド」その5


次回の更新は明日ですよ。

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