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23「ドキドキ! 敵と入る露天温泉」その6

「だとしたら……だとしたら君は、ボクと、似てるんだね」


 リュシンが、言葉を絞り出すように呟き始めた。


「ボクも……住んでた村から追い出されて……マオと、マオの師匠に拾われて……」


 マオが振り向いて、リュシンの方を見た。


「ボクらの師匠……ユエ・クエスタは冒険者だった。ボクはユエに冒険者としての生き方を教わったから……そうできてる……」

「そう。それで? 何か変わったの? 冒険者になって……周りの目は変わった?」

「あんまり変わらなかったかな……」


 リュシンが諦めたようにつぶやいた。

 僕は以前の村での村男の娘(むらびと)たちの反応を思い出していた。

 遠巻きに怯えたような目で、僕とリュシンを見ていた村男の娘(むらびと)たちの目。あれがきっと、この世界での現実なんだ。


 魔術とは、かつての『魔王』を起源とする力なのだとリュシンは言っていた。だとすれば『魔』術師とは、その『魔王』の力を望まずして受け継いでしまった存在なのだろう。


「誰も私たちのことを受け入れてくれたりはしないよ。なんでそんな人たちのために命をかけるの? 私には全然わからないよ!」


 リュシンが赤毛幼女(幼女じゃない)の方に顔を向けた。


「ユエも……マオも……チヒロも……ボクのことを受け入れてくれたよ。君にとっての西の魔女と同じに」


 赤毛幼女が鼻を鳴らした。リュシンのことを睨みつけた。


「だったら何? その人たちが命じるから、私と戦うってこと? もも姉と戦うのもその人たちのため?」

「君は……西の魔女に命じられてボクたちを倒しに来たの?」

「違うよ! 私はただ、あなたたちを倒して、もも姉の笑顔が見たかったんだよ!」

「じゃあやっぱり……ボクと同じなんだ。ボクも……ボ、ボクもね……ボクもマオの笑顔が見たいんだ!」


 言ってしまってから、リュシンは顔を真っ赤にさせた。

 それでも赤毛幼女を見据え続けた。赤毛幼女が毒気を抜かれた顔になった。


「さっきみたいな……落ち込んだ顔なんて見たくないんだよ! ユエを失ったときみたいな……悲しい顔も見たくないんだ! ボクは……ボクはマオが好きなんだもん!」


 反響が、遠くの山に響いて微かに帰ってきた。

 湯煙の中に、少年はその顔を隠した。


 一部始終を見ていた僕のほうが真っ赤になった。

 おいおい、やってくれたなリュシン……。男だな……。


「そ……それは……さっきそっちの子が言ってたみたいに……家族、だから?」


 赤毛幼女が聞いた。


「えっ? あっ……うん……。そ、そう……マオとボクは家族だから……」

 

 ヘタれるの早っ。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「なんでこんな夜遅くになってもジェンシーが帰ってこないわけ?! どこに行ったのよ!」


 所変わって西の魔女の拠点。根城となっている古い城塞の玉座の間。

 西の魔女ーー人々からそう呼ばれているゴスロリ女子・東川 桃香は怒っていました。


「コボォ?」「コボォ?」「コボォ!」

「なんでコボコボうるさい奴らしかいないわけ?! 人語が話せる奴らはどこにいったの?! タコは?! 犬顔は?!」


 一体のモンスターが、状況を説明するために前に出ました。


「ガフゥ!」

「あんたじゃないわよ! あんたも大して変わらないじゃない!」


 西の魔女・東川桃香は玉座から立ち上がり、黒い外套を羽織りました。立ち上がると、その長身が露わになります。


「もういいわよ、私が自分で探してくるから。あなたたちは城を見張ってなさい」

「コボォ」「コボォ」「コボォ」「ンガフゥ」

「だからなんて言ってるのか全然わからないわよ!」


 西の魔女は玉座の間を後にして、下層へと続く長い長い階段を下り始めました。降りるにつれて、空気が湿っぽくなっていきます。途中まではカーペットが敷かれていた階段も、岩肌を直接削り取っただけのものに変わっていきました。その最下層の暗闇で、何かが呻いていました。


「ウグアァァァァァァ……聞こえたゼェェェェ…………ジェンシーちゃんがいなくなったんだってェェェェ? 俺様なら居場所が音でわかるし……人の言葉だって話せるしよォォォォ」


 西の魔女のメガネの奥の瞳が、警戒を露わにしました。

 声に構わず下りていきます。


 暗闇の中で、鎖が地面を叩く音がしました。


「だからよォォォォ、この鎖をとってくれよォォォォォ。これさえなければあんたの役にたってやるぜェェェェ」

「ど、どんなに追い詰められたって……あんたなんかの力は借りないわよ。化け物……」

「言ってくれるじゃねぇか……人間のメスがっ」


 暗闇の中を、何かが恐ろしい勢いで西の魔女の頭めがけて飛んで行きました。その物体は西の魔女のすぐ近くの空中で、勢いを失って静止しました。小さな石が、西の魔女の眼前に浮かびました。


「『パラドックス オブ ゼノン』。あなたの攻撃が私に届くことはないわ……」


 西の魔女は、暗闇の中にいる『何か』の前を通り過ぎて行きました。

 空中に浮いていた石が、地面に落下しました。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「……多分……いや絶対、ボクらは似てるんだよ。……ねえ、君の名前は……なんていうの?」


 リュシンが赤毛幼女に問いました。

 赤毛幼女は、リュシンから少し目をそらして答えました。


「ジェンシー。ジェン・ジェン・ジェンシー」

「ボクの名前はリュシン・ヴァンデルク。それでこっちがってゔぁあああ、ごめん!」


 リュシンがマオの紹介をしようとしてマオの方を見てしまい、あわてて目をそらした。だけどリュシン君、多分君の方からだとマオのうなじぐらいしか見えなかったんじゃないのかな。


「……そっちの女の子が……マオ・クエスタ。で、こっちの隣にいるのがイレギュラーズのチヒロ」


 赤毛幼女あらためジェン・ジェン・ジェンシーは、訝しげにリュシンの方を見た。


「たしかに私たちは似てるかもしれない。でもだから? 戦う運命なのは変わらないでしょ」

「……ねえ……ジェンシー。大切な人の笑顔が見たいのって……特別なことじゃないよ」


 リュシンが言った。


「たぶん、みんなみんなそうだよ。自分にとって大切な誰かには……笑っていてほしいじゃんか……」

「何が言いたいわけ?」

「マオ……今、サンジュちゃんからもらった『対の指輪』出せる?」

「う、うんっ! ってわぁ!」


 マオが勢い良く立ち上がって、勢い良くお湯に潜った。何してんだ。


「と、ととと取り出せるよ! とってくるからちょっと待っててね!」

 

 マオがギリギリまでお湯に浸かったまま水辺りに移動し、乾かしている服に手をつっこんで帰ってきた。

 マオはジェンシーの方を見ないようにして、その手を広げて見せた。

 手の上には、サンジュから託された『対の指輪』があった。


「これは?」

「これは……西の魔女に家族を連れ去られた女の子が、ボクたちに託した『想い』だよ。その子だけじゃない。きっとたくさんの人が、西の魔女の手でバラバラになっているんだ。きっとそのみんなが……それぞれの大切な人を想ってる。ボクがマオを想うように。ジェンシーが西の魔女を想うように」


 ジェンシーはじっとマオの手の上を見つめた。その顔には困惑が浮かんでいた。


「ジェンシーはそれでも……戦いを続けるの?」


 ジェンシーは押し黙った。手を震わせて、顔を覆った。


「……ひどいことを……私たちは……ひどいことをしてる……」


 ジェンシーが言った。


「そんなことは最初からわかってたよ! でもひどいことをされたのは私も一緒! わ、わたしは……ぼくは……それでもみんなが許せない! 許せないの!」


 ジェンシーは泣いていた。泣きながら、怒りを瞳に燃やしていた。


 何が


 何がこの子をそこまで駆り立てたんだ?

 この子はきっと……悪い子じゃなくて。人の痛みだって、きっとわかる子のような気がするのに。


 この子は……ジェンシーは、世界への復讐に駆り立てられているんだ。

 西の魔女のため? いや違う。この子はきっと、この子自身の戦いをしているんだ。この子自身の強固な意思で、世界に、人々に、牙を向けたんだ。


 その理由を知りたい。

 知らなければいけない気がする。


 剣でこの子の野望を砕いたところで、それでどうなるというのか。

 西の魔女をこの子から引き剥がしたところで、ますますの孤独にこの子を沈めるだけじゃないのか。


 だからこそ、この子の心の内をーー

 


 そう願った時、突如僕の眼の前に黒髪長髪の真っ裸の女が現れた。


「姉さん?! なにゆえ裸」

心世界行ダンジョンダイブ!!」


 次の瞬間ーー

 僕は僕が願った通り、ジェンシーの心の中に放り込まれた。

【次回の幼女ワールド】


ついに発動した主人公のダンジョン『心世界行ダンジョンダイブ』により、物語は急展開を迎える。

目前に迫ってきた西の魔女の本拠地。そして唐突な分断。突然の幼女。


最終章「世界の果てとロリコンワンダーランド」

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