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22「ドキドキ! 敵と入る露天温泉」その5

 悪魔の子だと罵られた。

 あいつは化け物の言葉がわかると恐れられた。

 ボクのまわりには誰もいなかった。



 本って素敵だ。

 見たことのない世界。

 聞いたことのない物語。

 まだボクの知らないことわり


 なんでもボクに教えてくれる。

 絶対にボクを責めたりしない。


 読んだ。

 読んだ。

 たくさん読んだ。


 そのうちに、書かれていることを試してみたくなった。

 書かれていることを実践するのは簡単だった。



ーーーーーーーーーーーーーー



 月明かりの秘湯というべきだろうか。

 あるいはコロポックリの湯か。


 息を飲んでその幻想的な光景を見つめていると、リュシンがクシュンとくしゃみをした。


「せっかくの温泉なんだ。服も乾かさなきゃいけないんだし、入ろうよ」


 僕が言った。


「「え」」


 リュシンと赤毛幼女が声を上げた。


「は……裸になるの?! マ……マオの前で……?」

「あー、そうだな。さすがに男女一緒ってのはーー」


 僕の隣で、マオが服を脱ぎ捨てた。視界に突如現れた肌色成分に、僕は対応を強いられた。見ちゃダメだ! 見ちゃいけない! 僕は顔をそむけた。目をつむった。いくら自分からあっぴろげに見せつけたからといって、だからといっていたいけな少女を視姦するのがゆるされるわけが神の視点(ディ・オーバービュー)!!


 服を脱ぎ捨てたマオ(裸)が赤毛幼女の前に立ちはだかった。マオ(裸)が剣を振り上げた。


「ひっ」


 赤毛幼女が尻餅をついた。

 マオ(裸)はーー剣を自分の足元に突き刺した。


「今は休戦だよ。お互い戦える状態じゃない……そうでしょ?」


 赤毛幼女が、顔を真っ赤にさせてマオ(裸)から目を背けた。

 

「あなたには聞きたいことが山ほどあるの。だからここからは……温泉で裸の付き合いってことにしよ?」


 マオ(生まれたまま)が赤毛幼女に手を差し伸べた。休戦の握手といったところのなのだろう。


「わかった……わかったから! む……向こう向いてて!」

「ふえ?」

「だ……だから裸を見ないでよ!」


 赤毛幼女がマオ(はだか)から頑なに目を背けたまま言った。

 んおやぁ? この流れってーー


 マオ(略)が顔を曇らせた。


「え……なんでーー?」

「だって……だって私……おとこだもん……」


 水しぶきが上がった。

 マオが温泉に飛び込んでいた。

 


ーーーーーーーー


「ポポポー」「ポポポポー」


 コロポックリ達が温泉を泳いでいた。気持ち良さそうだ。

 

 僕たちは服を近くの岩の上で乾かしながら、温泉に浸かっていた。

 お互いがお互いを見ないで済むように、円陣を組むような形で座っていた。


 時計回りに、僕、リュシン、マオ、赤毛幼女(女?)という並びになった。


「な……なんで女の子の格好をしてたの……」


 マオが消え入るような声で聞いた。


「女の子みたいに振る舞うともも姉が喜ぶから」


 赤毛幼女(違う)が答えた。

 リュシンが尋ねた。


「もも姉? 西の魔女のこと?」

「そうだよ! もも姉は最強なんだ。あなた達じゃ絶対に勝てないから!」

「そんなこと! 試してみなきゃわからなうわぁぁぁぁ!」


 マオが反射的に立ち上がってしまい、あわててしゃがみこんだ(らしい。音から察するに)。


「どうして私にはそんなに反応するのに、そっちの二人には裸を見せても平気なわけ……?」


 赤毛幼女(?)が言った。ごもっともである。確かに、マオがリュシン君のリュシン君に反応するそぶりは見ていない。逆にリュシンや僕に裸を見られても、少しも反応していない。


「チヒロはイレギュラーズなんだから、別に見られてもどうってことないよ」


 なんだか複雑だな。


 は! 逆に僕はイレギュラーズなんだから、いくら裸を見てもいいってことですかマオさん?! いや、さすがにそんなことダメだ! マオが許しても僕のプライドや「小説家になろう」のガイドラインが許してはくれない! 神の視点(ディ・オーバービュー)!!


 乳白色の温泉のせいで、期待していたものは見れなかった。


「じゃあ、そっちの魔術師の男の子には? 見られても平気なの?」

「平気だよ、別に」

「どうして?」

「家族だもん」


 マオさん……見えてないだろうけど、リュシン君露骨に落ち込んでますよ。


「家族……?」


 赤毛幼女が、不意に声を低くした。


「家族なんて……ろくなもんじゃないよ」

「何か……あったの?」

「ねえ、そっちの魔術師の人。あなたにも覚えがあるんじゃないの? 魔術師として目覚めてしまったとき……まわりが、どんな反応をするかってこと」


 リュシンの顔が強張った。


「魔術は……その名の通り『魔』なるもの……。そんな力は、誰も受け入れてはくれない。誰も……親だって……。もも姉だけだよ。ボクを受け入れてくれたのは。助け出してくれたのは。誰にも受け入れてもらえないなら、もうそれでいい。この世界を支配して、ボクらのために作り変える。もも姉なら……もも姉とならそれができる!」


 赤毛の少年は、最後には立ち上がっていた。


「それが僕らの……理想郷なの!」

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