02「西の魔女との決戦!」その2
「あのですね、わたくしめは別にあなた様と戦おうという気はないんですよぉ」
緑色のでかいおっさん(3m)相手に、僕は決死の説得を試みていた。こちとら命がかかっているわけで、そんな状況なら人間はいくらだって下手に出れるのである。
「いやぁ、それにしても御立派な体つきですねぇ。どこで鍛えていらっしゃるんですか?」
「ガフゥ」
緑色のでかいおっさんが「ガフゥ」と言った。
というかこの人(人?)、言葉通じるんですかね。
でかいおっさん(鬼みたいな顔をしている)が棍棒を下からすくい上げるように振り上げた。棍棒は僕の左脇腹に激突し、そのままの勢いで僕を空中に吹き飛ばした。
【今日の教訓】
緑色のでかいおっさんに言葉は通じません。
僕はしばしの空中遊泳を楽しんだ。
眼下に広がる街並みは、僕が予想した通り中世ヨーロッパ風の街並みだった。茶色というか橙というか、赤っぽい屋根が広がっていた。石とレンガの街だ。
これは落ちたら痛いに違いなかった。
しばらくして上昇が止まり、今度は加速して地面に落ちていく。すぐに地面に叩きつけられた。体を高速で石に叩きつけられたかのような衝撃! 驚きの激痛を僕に!
しばらく息が止まった。
しかし痛みを感じるということは、まだ死んではいないということらしい。そして痛みを感じるということは、僕の見ている夢ということでもないらしい。まったく、とんだ悪夢だぜHAHAHA。
僕は地面に横たわった僕の姿を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
ん?
いや、コレは死んだ? 僕がお亡くなりに? 人間逝く時はあっさりと逝くものなのですなぁ、ああ、身体中が痛い。
身体が痛い? 僕の身体が痛いよ。おかしいよ。これは。
僕は横たわった僕の姿を斜め上から見下ろしていた。いつもの学ラン姿だ。ひとついつもと違うのは、見覚えのない白の首輪がはまっているということぐらいであり、あああ、痛い。集中できない。
これは一体どういうことだろうか。
「だ……大丈夫ですか?!」
少年が心配そうに(倒れている方の)僕に駆け寄ってきた。
「うん、大丈夫じゃないよ」
と僕が答えた。僕の体で。その光景を見ている僕。何これ。
ためしに左手を上げてみた。左手が上がる感覚を感じた。僕はその光景を見ていた。何だこれ。
「ガフゥ」
緑色のでかいおっさんが「ガフゥ」と言った。そして棍棒を振り上げた。
そのとき僕を直感の稲妻が貫いた。
この景色は、僕がよく遊んでいるゲームの光景に酷似しているではないか。
そうだ、これは『神の視点』だ! 俯瞰の視点だ! 相手の動き、自分の動き、それだけに留まらない周囲の状況! 見える! 見えるぞ!
今なら例え真後ろから不意打ちを喰らおうとも、見切る自信が僕にはあった。まして前からなんて楽勝だ!
棍棒が僕の左脇腹に激突し、そのままの勢いで僕は空中に吹き飛ばされた。
【今日の教訓】
攻撃が見えたって避けられるかどうかは自分の瞬発力次第です。
壁に打ち付けられ、僕は地面に崩れ落ちた。地面が近い。
息も絶え絶えに起き上がると、いつも通りの視界に戻っていた。
これは強い衝撃で能力が解除されたとか、何かそんな感じのアレかもしれない。
「だ……大丈夫なんですかっ?!」
少年が心配そうに僕に駆け寄ってきた。
「ぼ……僕はもうダメかもしれない。ここは君に任せて先に僕が逃げるんだ!」
「ふつうそれ逆じゃないですか?! ムリですムリですボクではトロールは倒せません!」
「なんかないの?! 攻撃呪文的なサムシングが!」
「召喚魔法しか使えないんです、ボク」
「じゃあその召喚魔法で、ドラゴン的なエニシングをさ!」
「ムリですよ! 1日1回しかボクの魔力じゃ召喚できませんし、ボクが召喚できる中で一番強いのがあなたのはずなので……」
はい詰んだ。
このまま死ぬまで空中を遊泳させられるんだ。そうに違いない。
「ガフゥ」
緑色のでかいおっさんが「ガフゥ」と言った。そして棍棒を振り上げた。
どうやら『死ぬまで遊泳パターン』に入ってしまったようだ。
頑張れ、僕の左脇腹!
自分の左脇腹に念を送っていると、どこからともなく騎士の姿をした子供たちがやってきて、緑色のでかいおっさんを取り囲んだ。
その数10人。
スカートを履いているので、どうやら全員幼女のようだ。皆思い思いの武器をかまえている。剣、槍、斧、丸太、エトセトラエトセトラ……。何だろう、ここは。子供しかいない国か。『こどもの国』か。僕が聞いたら泣いて喜ぶよ。わーい!
あんなに背が低くて(緑のおっさんの腰までもない)、おっさんに敵うのだろうか。
「今ですっ」
リーダーらしき幼女が叫ぶや否や、ロリの騎士たちがいっせいに緑のおっさんに飛びかかった。にたり、と嫌な笑みを見せるおっさん。
一瞬の出来事だった。剣ははじかれ槍まっぷたつ、斧は刃が欠け丸太が宙を舞った。刃が立たないとはこのことだった(漢字は違うが)。
「ンガフゥ!」
おっさんが棍棒を横薙ぎに振ると、幼女たちが宙に弾き上げられた。
圧倒的なパンツ!
間違えた、圧倒的なパワー!
「きゃああー!」「うあーーん!」
吹き飛ばされ、地面に投げ出されるロリの騎士たち。やはり人類は巨人には勝てないのか? 鳥籠の中に囚われていた屈辱を、思い出すしかないというのか?!
「だ……ダメです……逃げましょう、逃げるしかないですよぅ」
少年が言った。奇遇なことに僕も同意見だった。
「狼藉は、そこまでだよっ!」
と、そのとき頭上から声が聞こえてきた。凛とした少女の声。見ると図書館の赤い屋根の上に軽装の女の子が立っていた。金のツインテールが逆光の中ではためいていた。
少女が銀の剣を緑のおっさんに突きつける。
「リュシン! 他の皆んなも! さがっててね!」
ロリの騎士たちがおっさんから逃げるように距離をとった。
「はなれましょう!」
少年が僕を建物のすぐそばまで引っ張った。
何かの影が頭上を横切った。少女が屋根を蹴り宙に舞ったのだ。きりもみながら落下していく。銀の剣が赤いオーラのようなものを纏い、空中に赤の軌跡の螺旋を描いた。
『トロールさんって本当にお強いですね!』『どんな攻撃もはじき返す皮膚! まじぱないっす!』『棍棒もふっとくて頑丈そうですねぇ!』
なんだろう?
頭の中に直接声が響いた。
いろいろな意味で意味がわからない。
少女の剣がおっさんに迫る。おっさんが棍棒で応戦しようとする。
少女が叫んだ。
「ムダだよ! 誉め殺しの魔剣! グラムスレイヤー!!」
剣が棍棒を小枝のように叩き斬った。赤い閃光の螺旋が、ドリルのように緑のおっさんを貫いた。
瞬間! 緑のおっさんが青っぽい光に包まれて、砂のように崩れ落ちた。
【幼女ワールド2.0の世界①】
誉め殺しの魔剣
所持者:マオ・クエスタ
能力 :例えば原子核が中性子過剰になり大きくなると、とたんに不安定になり崩壊してしまう。このようにエネルギーは大きくなると不安定になるのである。
誉め殺しの魔剣は刀身から『陽の言霊』、つまり『褒め言葉』を放出している。このエネルギーが相手の長所を『言葉でっかち』の状態にするので、不安定になった所を斬ることができる。