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16「パンツと勇気とマオの剣」その6

 幼女が走った。

 剣を片手に。パンツを頭に。


 パンツ幼女が村の防壁までたどり着いた。崩れた防壁を踏みにじり、緑色の巨体が姿を現した。トロールだった。トロールが、パンツ幼女を見つけてにたりと笑った。


「ひっ」


 パンツ幼女が尻餅をついた。

 剣を震えながら構える。

 トロールがゆっくりと近づいてくる。


褒め殺しの魔剣(グラムスレイヤー)!」


 マオの声が鳴り響いた。

 トロールが防壁の外に興味を示し、戻って行く。


 パンツ幼女が胸を抑えていた。頬に脂汗が滴っていた。


「グラム……スレイヤーっ!」


 マオの声が響いている。

 パンツ幼女は剣を支えに立ち上がると、おそるおそる崩れた防壁に歩み寄った。


 村の外では、炎の中でマオが剣を振るっていた。トロールが3体も集まっていた。


「100倍褒め殺しの魔剣(グラムスレイヤー)!!」


 赤の竜巻が巻き起こった。

 竜巻はトロールを巻き込み、3体とも蒸発させた。


 剣が赤いオーラを纏っているのが、ここからよく見えた。


「あの剣の……力……?」


 パンツ幼女が生唾を飲んだ。

 トロールを蒸発させた剣が、地面に投げ出されている。


 そろりと近づこうとして、パンツ幼女が何かに気がついた。


 モンスターが1体、生き残っていたのだ。生き残りのモンスターも、マオに気がつかれないように近づこうとしていた。



ーーーーーーー



「はぁ……はぁ……」


 サンジュが宿に駆け戻り、盗み取ったマオの剣を見た。


「これさえあれば……私も……」


 サンジュはそれを、寝室のベッドの下に押し込んだ。



ーーーーーーーー


 

 サンジュの寝室で、パンイチのサンジュが目を丸くして僕の方見ていた。


「えっ……い……いつ入ってきたんですか……」


 僕は振り返ったが、誰もいなかった。


「あなたです! あなたに言っているんです!」


 サンジュが言った。毛布を自分の体に巻きつけて、肌を隠した。顔が赤面していた。

 なんだろう、この状況。激しく犯罪臭がする。


 現実世界に戻ってきた、ということなのか?

 しかし僕は部屋の外からサンジュの部屋を覗いていたはずだ! 何もやましいことはしてないはずだ! それがどうして急に部屋の中にいるんだ?!


「も、もしかしてあなたも西の魔女と一緒なんですか?! わ、わたしにいたずらを……」

「イヤ! チガウヨ! ソンナンジャナイヨ!」

「いやぁぁぁぁ棒読みぃぃぃぃぃぃ!」


 騒ぎを聞きつけてマオとリュシンが乱入してきた。


「チ……チヒロ……?! ね……ねえ、何してるの……」


 マオが青ざめながら聞いた。最悪だ。


「裸だったのに、急にその人が入ってきて!」


 サンジュが僕を糾弾した。最悪だ。


「チ……チヒロ……?」


 マオの顔がさらに青ざめていく。

 もう、本当のことを言うしかなさそうだ。


「違うんだ。その……神の視点(ディ・オーバービュー)で部屋の中を見てて……」

「部屋の中を見てたの?!」

 

 サンジュが驚いて声を上げた。続ける。


「それで……」

「それで裸を見て思わず飛び込んじゃったってことなの?!」

「違うよ! 最後まで聞いてくれよ!」


 僕はサンジュに目を向けた。サンジュが毛布を抑えた。


「……そのベッドの下に何があるか、それを見てしまったんだよ、僕は」


 幼女の顔から血の気が引いた。


「え……な……なんのことでしょう……」

「君が……それを盗んだ気持ちは、なんとなくわかる。でもすまない。それは……マオにとってかけがえのないものなんだ」


 幼女がうつむいた。しばらく誰も無言だった。


 幼女が毛布を巻きつけたままベッドから降りて、その下からマオの剣を引っ張り出した。


「……わたしにも……大切なものがあります」


 サンジュが言った。


「この村です。この村は……パパとママが大切に守ってきた村なんです。だから……だから、この剣は返せません!」

「えっ……サンジュちゃん?!」


 サンジュがこちらに剣をつきつけた。


「ここでこの剣を返しても! あなたたちがずっとこの村を守ってくれるっていうんですか! この村の人たちは、食べ物を食べられないんです! 経験魂レベルオーブを集められないと死んじゃうんです! この村で武器を持てるのはもうわたしだけだから……力が……わたしには力が必要なの!」

「サンジュちゃん! だとしても……その剣はだめだよ! その剣はーー」

「うるさいです! 早くこの部屋から出てってください! わたしは裸ですよ!」


 そのとき、村にけたたましい鐘が鳴り響いた。


「モンスターだ! また大群で攻めてきたぞぉ!」「モンスター! また大群で攻めてきたぁ!」


 宿の外で、何人もの少年たちが声の限り叫んでいた。


「どいてください、わたしが戦います!」


 マオを押しのけて、サンジュが部屋を飛び出していった。


「サンジュちゃん!」

「マオ、ボクらもいこう!」

「でも剣が……」


 僕は先ほど、サンジュの過去回想の中で見た武器このことを思い出した。


「櫓の近くに武器庫があったはずだ。そこに行けば」



ーーーーーーー



 僕たちは大急ぎで、村の隅に建てられた物見櫓に向かった。

 村人が道を逃げ惑っていた。しかしこの村の中に逃げ場などあるはずもなかった。このままモンスターの侵入を許せば、容易に村は崩壊するだろう。


 物見櫓のたもとに着くと、マオが武器庫、僕とリュシンは物見櫓にそれぞれわかれた。


 櫓の上に駆け上ると、一人の男の娘が頭を抑えてしゃがみ込んでいた。


「どうした?! 大丈夫か?!」

「もうだめだよ……おしまいだよ……」


 モンスターの方を見ていたリュシンが驚きの声を上げた。


「ドラゴン?! ドラゴンなんで?!」


 僕も、村に近づいてきているモンスターたちを見た。

 トロールが十数体。コボルトは数え切れないほど。そしてその後ろの方に、真紅の巨体が歩いていた。巨大な翼。凶暴なフォルム。長い首。鋭い爪。


「ドラゴンか……! めっちゃ強くて、火を吹いて、空を飛ぶヤツだろ!」

「知っているんですか?!」

「うん。よく見るし」

「よくは見ませんよ! よく見たら困るじゃないですか!」 


 リュシンが召喚の杖を握りしめた。


「絶滅したはずなのに……!」

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