12「パンツと勇気とマオの剣」その2
騒ぎを聞きつけて、ランプを手にした幼女たちが集まってきた。
ずいぶんと可愛らしい格好の幼女が多かった。
不安そうな表情で、こちらから距離をとっている。
「わたしのけんーー!! ユエからもらったのにーーー!! わたしのーーーー!!」
マオがリュシンをマウンティングしたまま泣き叫んでいた。
村の代表らしき幼女がおずおずと前に出てきて、僕らに言った。
「旅の冒険者さまとおみうけしました。村を助けていただいてありがとうございます」
ーーーーーーー
村の代表らしき幼女の案内で、僕らは村はずれにある村一番の屋敷に案内された。もっとも、村一番の屋敷といってもそこまで大きな家ではなく、単なる平屋建ての家に庭が少しついただけであったが、それでも村一番の大きさの屋敷であった。
「少しほこりをかぶっているのですが、どうぞ今夜はここにお泊まりください」
「えっ、でも、いいのですか?」
リュシンの問いに、村の代表らしき幼女が頷いた。
「だいじょうぶです。この屋敷に住んでいた人は、今は西の魔女につれさられてしまっているので」
「ええと、ではあなたは」
「この村の代表を、かわりにやっています。……今夜は何もできませんが、明日の昼になったら是非村の中心の宿まできてくださいね。お礼をさせてください」
そう言うと幼女は去っていった。
「宿があるならそっちに泊めてくれればいいのに。なぁ、リュシン」
「たぶん、警戒しているんだと思います。ボクたちを村の中心に置きたくないんですよ」
マオは古びたソファに横になって、そうそうに眠ってしまっていた。きびだんごの副作用で、酩酊状態になっていたようだ。
「ボクらも今日は寝ましょう。明日になったら、早くマオの剣を探さないと……」
僕は頷いた。
「大切なものみたいだったからな」
「そうですね……。あれは、マオにとって何より大切なものなんです……」
リュシンが窓から空を眺めた。僕も窓の外に目を向けた。月が空に輝いている。
「あの剣は、マオの……いいえ、ボクらの師匠の……形見なんです」
「二人の師匠?」
「そうです。大陸随一の剣の使い手にして、同時に魔術師でもあった冒険者……ボクらの師匠、ユエ・クエスタ。その形見が、マオの剣と……僕の杖です」
「ユエ……クエスタ? マオのお父さんなのか?」
「直接血はつながってはいません。ユエはボクら二人を拾ってくれたんです。マオは、自分の名字もわからないくらい小さい時に」
ソファで眠っているマオに目を向けた。月明かりが、マオの横顔を照らしている。
死んだ師匠の……育ての親の、形見。
ーーーーーー
薄暗い壁に、多くの剣が飾られていた。通路の奥の方で、風が唸り声をあげていた。地響きが続いている。
傍らにはリュシンがいた。
いや……ずいぶんと、幼い。リュシンと「僕」の前には、銀髪の少年が立っていた。黒いローブを身にまとい、右手に持っているのはマオの剣だった。
そうか……これは、夢だ。
なぜかはわからなかったが、そのときはっきりと僕は認識した。これは僕の見ている夢なのだ。しかし……なんだろう、この夢は。
「ユエ……わたし……こわいよぉ」
視界にはいないが、マオの声がした。
銀髪の少年が振り返って答えた。
「心を強く持たなければいけないよ。このダンジョンは……人の恐怖心につけこむ」
「でも……わたし……ひゃっ」
足元から何かが這い上がってくる。
恐怖で「僕」は固まった。
「ユ……ユエっ」
「マオ、動いちゃダメだ! グラムスレイヤー!!」
ユエの剣が、足元の何かを切り裂いた。
「僕」は頭を振った。
「違うっ! 後ろっ!」
ユエの背後から、宙に浮いた無数の剣が迫っていた。
「ユエェェェェェェ!!」
ーーーーーー
誰かの絶叫で僕は目が覚めた。
今の夢は、いったい何だったんだ。
僕は頭をひねった。どう考えてもあれは、僕の夢じゃない。
傍らでリュシンが小さな寝息をたてていた。
ソファで眠っていたはずのマオがいなかった。
そっと起き上がり、辺りを見回す。マオは庭に出ていた。
僕は確信した。理屈はまだわからないが、今の夢は……マオの夢だ。
庭へと出る。空気が冷たかった。空は白んできている。そこにはもう、月は出ていない。
「どうしたんだ」
僕が声をかけた。マオが振り返った。泣いていた。
「ううん。ちょっと悪い夢を見ちゃっただけ」
「悪い夢?」
「多分……昨日剣をとられちゃったせいなのかな。久々に思い出しちゃったっていうか……。ええと、実はあの剣ね、私の師匠からもらったものなんだ」
マオが涙をぬぐった。
「師匠は……死んじゃったの。私が、臆病だったせいで」
なんと返せばいいのかが僕にはわからなかった。
彼女はまだ小さいが、明らかに僕より大きい物を背負っているのだ。僕に何が言えるだろうか。
「……なんかごめんね。リュシンが起きたら、村の方に行ってみよう」
ーーーーーーー
村の中心に行ってみると、一軒だけ大きな煙突のたった石造りの銭湯のような建物があった。そこが宿屋のようだった。
出迎えた村の代表者らしき幼女がうろたえた。
「あ、あれ?! お、おはやいですね。ま、まだ食事の準備が整っていませんので……ので……ので、お先にご入浴なさっていて下さいませ!」
ということで、僕らは食事前に風呂をいただくこととなった。
そういえば何日ぶりだろう?
僕はこの世界に来てから、まだ一度も風呂に入っていなかったのだ。
最初の街にいたときに、湿らせた布で体を拭いたのが最後だ。
マオと更衣室に分かれて、僕とリュシンは男性更衣室に入った。脱がれている服はなかった。僕とリュシンで貸切のようだ。
はやる気持ちを抑えて、服を脱ぐ。リュシンの方が早く脱ぎ終えたらしく、さっそく浴場に向かっていった。
「あ、露天風呂になってるみたいですわっ…………うわわぁぁぁ!!」
リュシンが絶叫した。
「どうした?! リュシン!」
慌ててリュシンの元へむかった。
俺は目を見開いた。
露天風呂には、フリルでフリフリの服を着込んだ幼女が、何人もたむろしていたのだ!
「どうしたのっ?! 何があったのリュシン!!」
リュシンの悲鳴を聞きつけて、半裸のマオが飛び込んできた。
「うわぁ!? うわわわわわわ!!」
やはりというか、リュシンが絶叫した。あわてて目と下腹部を覆うリュシン。マオはというと、タオルを腰に巻いているだけであとは生まれたままの姿だった。なぜ腰だけなんだ。おっさんかよ。
「な、何あなた達?! こっちは男湯だよっ! うちのリュシンに何する気なの?!」
マオが男湯にいるフリル幼女達を非難した。
フリル幼女達はなぜか、かたくなにこちらから目をそらしていた。
「え……えっと……僕たち……男です……」
「え?」
「西の魔女の呪いで……この服を脱げないだけで……男です……」
「お……と……こ…………?」
マオの動きが固まった。
風呂につかってもいないのに、体が赤みを帯びていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今度はマオが絶叫して、絶叫しながら男湯と女湯のしきりを駆け上った。なんという身体能力だろう! 3メートル近い垂直の壁を登るだなんて!
あと、マオはタオルを腰に巻いていただけなので、下からはばっちりだった。
【次回の幼女ワールド】
"かつて一度、この世界は滅んだ。"
村人達に恐れられる、リュシンと「僕」……魔導士と来訪者。
それには、世界の始まりの伝説も大きく関わっているのだった。
次回 13「パンツと勇気とマオの剣」その3
それはそうと、大勢にマッパを見られたマオの運命やいかに
※今月の更新は、基本的に22時の予定。




