11「パンツと勇気とマオの剣」その1
集落の周りに、大量のモンスターが集まっていた。緑色のでかいおっさんや、コボコボ言っている人たちの姿も見えた。
「大変! あの村、襲われてる!」
村の異変に、マオが真っ先に気がついて駆け出した。リュシンと僕がそれに続いた(犬は契約履行終了で、元の世界へ戻って行きました)。
村の周りにある防壁は石造りではあったが、トロールの棍棒の一撃で簡単に粉砕されてしまった。
防壁上部の篝火が、地面に落ちて枯れ草に燃え移った。炎の明かりが辺りを照らした。
「狼藉はそこまでだよ!」
マオが剣を引き抜きモンスターの群れに突入する。すぐに何体かのコボルトが青い結晶に変わって倒された。
「誉め殺しの魔剣!」
マオの剣を赤いオーラが包み込む。マオがそれを横薙ぎに振るうと、マオを台風の目とした赤い旋風が巻き起こった。多数のコボルトが吹き飛ばされていく。
しかしそこへトロールが4体、コボルト達を盾にするようにして飛び込んだ。振り落とされる棍棒の雨の中を、マオが間一髪のところで避けていく。しかし最後の1発がマオの右手を掠めた。
「うあっ!」
衝撃で地面に投げ出されるマオ。しかしそこは上手い! 投げ出された拍子に地面に転がっていたコボルトのレベルオーブを拾い上げると、すぐさま右手に当てた。出血が止まった腕で、再び剣を振るった。
「誉め殺しの魔剣!」
トロールが1体倒れた。
しかし残り3体。マオの息は上がっていた。無理もない。今日1日かけて森を抜けてきたのだ。しかもモンスターとの戦闘もあった。疲労は確実に、マオの体を蝕んでいる。
「どうしよう……どうしよう……」
リュシンと僕は木陰から様子を覗くことしかできないでいた。緑色のでかいおっさんに僕が敵わないのは、前に証明されてしまっている。それが3体もいるのだ。西の魔女と戦ったときのような、卑怯な心理攻撃が通用する相手とも思えない。
リュシンもリュシンで、杖を握りしめていた。1日1回の召喚魔術はもう使えない。そもそも召喚魔術ではトロールに対処ができない。
「グラム……スレイヤーっ!」
マオが剣を振るった。
ーーしかしダメだ。放たれた赤い衝撃波は、トロールの棍棒に弾かれた。もう限界なのだ。
「マオっ……マオーー!!」
リュシンが木陰から何かを手に飛び出した。
トロールがリュシンの方を向き、にたりと笑った。まずい!
僕もあわててリュシンの後を追った。
間に合えーーーー!
「リュシン! ダメ、こっちにきちゃ!」
「マオっ、これを使って!!」
リュシンが手に持ったそれをほうりなげた。空中を放物線を描いて飛んでいくそれは、巾着袋であった。
「これはっ」
受け取ったマオが、巾着袋の中から乳白色のそれを取り出した。
あっ……思い出した。『きびだんご』だアレ。
マオは手にしたきびだんごを一口に飲み込んだ。
手にした剣の、赤い輝きがひときわ強く輝いた。
「100倍誉め殺しの魔剣!!」
赤の奔流が吹き荒れた。3体もいたトロールが一瞬にして蒸発した。
すごいや! 『きびだんご』は本当にあったんだね! 父さんはうそつきじゃなかったんだ!
青い結晶と炎が光る戦場に、マオが立ち尽くす。その姿にはどことなく哀愁すら漂ってーー
「たおしたーー! たおしたよぉーーーリュシーーーーン!」
惚けた表情のマオが走ってきた。剣を投げ捨ててリュシンに抱きついた。勢いで倒れる二人。
押し倒し? もしかして……押し倒しですかぁーー?!
「ほめてぇーーー! ほめて〜〜〜〜〜!」
「マ、マオ、どうしちゃったの?! 様子が変だよ?!」
「え〜〜?! 変じゃないよぅ〜〜普通らよぅ〜〜〜」
普通じゃない。
「えーーい! くすぐりこうげきらぁーー!」
「マ、やめて……あはははは! やめっ……マォ、あははははは!!」
マウンティングポジションからの少女の全身くすぐり。
リュシン、ちょっとそこかわれよ!
「コボォ……」
そのときだった。マオの後ろから、こっそりと近づいてきていたコボルトに気がついたのは。
1体、生きていた!
「マオっ! あぶな……あはははあ」
「リュシン〜〜! リュシンリュシンリュシン〜〜〜!!」
マオの背後から振り降ろされる棍棒。
あわてて駆け寄ろうとする僕だが、100メートルを16秒で走りきる僕の俊足をもってしても、一歩間に合わない!
「コボォ!」
無情に振り下ろされた棍棒は、しかし途中で動きを止めた。
固まるコボルト。
静かに、コボルトが崩れ落ちた。
その背後には、小柄な人影があった。
全身に黒い鎧を身にまとい、頭にだけ目深におぱんつを被った幼女の姿が。
パンツ?
「た……助けてくれてありがとうございます! あなたは?」
リュシンがマオにマウントされたまま、パンツ幼女に礼を言った。
しかしパンツ幼女は何も答えなかった。パンツが表情を隠しているせいで、何を考えているのかが読めない。
さすがに後ろの人影に気がつき、マオも振り向いた。
「わーーー! パンツマンら! パンツマン〜〜〜!」
マオがはしゃいで立ち上がろうとした次の瞬間ーー
恐るべき素早さで、パンツ幼女はマオの傍に落ちていた剣を拾い上げると、踵を返して夜の闇の中へと走り去った。
「ああっ! わたしのけん! かえしてよぉ〜〜〜! それわたしのらよぅ〜〜〜!!」
【次回の幼女ワールド】
次回はお風呂。




