01「西の魔女との決戦!」その1
目が覚めてまず見えてきたのは石の床だった。固く冷たく身体中が痛い。
次に見えてきたのは、白いチョークのようなもので床に描かれた落書きだった。
どうやら僕は、その落書きの上に横たわっているらしい。
上体を起こして周りを見回すと、ロウソクのおぼろげな灯りの中で妙な少年が僕を見ていた。
「成功した……はじめて……」
少年はだいたい10歳前後だろうか。
黒いローブを身にまとい、両手でご丁寧に魔法の杖のようなものを握りしめていた。杖の先端では、紫色の水晶じみた宝石が輝いている。よく見ると、部屋中に分厚い本が所狭しと並べられていた。
なるほど。趣向がだいたいわかった。
僕は立ち上がるなり、威厳を持った態度で両腕を組んだ。
「我を呼び、我が力を欲するは汝か、少年……」
出来うる限りドスを効かせた声で言った。
「ひいぃぃぃしゃべったぁぁぁぁぁ」
喋るよ。人を宇宙人か何かみたいに思っていたのか。
どうでもいいが、自分のことを「我」などと呼んだのは人生でこれが初めてである。
「冗談はさておきとしてさ、いったいここはどこなの、少年」
「リュシン・ヴァンデルクの名の下に命じるっ。わ、我に従え、イレギュラーズ!」
少年が杖を僕に向けて言った。
「ねえ僕の話聞いてた?」
「ひぃぃぃぃごめんなさいぃぃぃぃ」
話が進まない。
「どこなの、ここ」
「え、ええと……図書館の地下室です……日の光が当たると召喚できないので……」
「SYO・U・KAN?」
「魔法陣があっているか不安だったんですけど……合っていたんだ……」
「MA・HO・U・JI・N??」
僕は足元の落書きを見下ろした。半径2メートルほどの円が僕を中心に引かれていて、その中にはひょろひょろとした線で前衛的な図形が描かれており、その中心、つまりまさに僕が立っている場所には『人』という漢字が書き込まれていた。
なるほど確かに言われてみれば魔法陣に見えないこともない、こともない。
いやこれはどう見てもイタズラ書きじゃないですか本当にありがとうございました。
「とりあえず僕は帰るよ。出口そこ?」
地上に出ればグーグ◯マップで今どこにいるのかがわかるはずである。
扉は少年の後ろの方にあった。僕は少年の横をすり抜けて、ドアノブに手をかけた。
「あっ、気を付けてください! 外は今危険が危ないんです!」
扉を開けると幼女が倒れていた。
騎士の如き姿の幼女だった。
「イレギュラーズ……そうか、召喚は成功したのですね……よかっ……た」
気を失った。
「コボォ」「コボォ」「コボォ」
コボコボうるさいと思って顔を上げると、地下室から上へと登る石の階段のその上に、棍棒を持った小さな緑色の鬼のごとき生物が立っていて、下品な笑みを浮かべながら僕を見下ろしていた。
「なにアレ、キモっ」
「コボルトです! 西の魔女の使い魔ですよ!」
「何が起きてんだコレ、どうなってるんです?!」
「平たく言うと、あなたはボクによって召喚されたんです! この世界に! 西の魔女と戦ってもらうために!」
「そんなバカな話が……」
コボコボうるさいコボルトとかいう連中が、階段を僕めがけて駆け下りてきた。
自慢じゃないが僕は運動神経がない。
長いこと卓球をやってきたが(小学校6年から今まで5年間)、公式大会で勝てたことは一度もないんだ! 万事休す!
コボルトが棍棒を振りかぶった。
避ければよかったのに、僕はとっさに腕で顔を庇ってしまった。鈍い痛みが腕に走り、何かの折れる音がした。
おそるおそる目を開けてみると、腕はなんともなっていなかった。代わりにコボルトの棍棒がまっぷたつに折れていた。
「コ……コボォ?!」
コボルト達は困惑した様子だった。だが困惑したいのは僕も一緒だった。
僕の腕がそんなに強度があったとは思えない。だが実際に、木製の棍棒はベッキベッキに折れていた。
コボルト達はあわてて階段上へ逃げ出していった。
「イレギュラーズの力です! この世界では、あなたは超人なんです!」
魔法使いっぽい感じの少年が僕に言った。
「ちょ、ちょっと待とう! さっぱり話が見えないけど! ぜんぜんわからないよ! 異世界に突然召喚されて、モンスターとか魔法とかがあって、僕がここでは『イレギュラーズ』とかいう超人的存在になっているだなんて!」
「わからないって言っている割にはだいたい合ってますよ?!」
「いやさぁ、よくある話だなと思って」
「よくはないですよ! よくあったら困るじゃないですか!」
だいたい状況が飲み込めてきた。
この世界が異世界なのか僕の夢なのかVRMMO(仮想現実大規模多人数オンライン)の世界なのかは釈然としないが、少なくとも俺がTueeのはまず間違いがないようだ。普段の鬱憤(部活・勉強・その他)を晴らすため、楽しめるだけ楽しんでもバチは当たるまい。
ひゃっはー! まったく異世界転生は最高だぜ!と思いながら階段を2段飛ばしで駆け上がると、その上で身長3メートルをゆうに超えるでかい緑色のおっさん(鬼みたいな顔をしている)が僕を待ち構えていて、もしかしたら僕はここで死んでしまうのかもしれないなという気がしてきました本当調子乗ってすいませんでした。
【次回の幼女ワールド】
またしてもブックマークしにくい題名でごめんなさいとしか言えません。
次回、主役格の幼女マオ・クエスタ颯爽登場。