異世界問答
「いやぁ、大変なんだよ」
「ん?何ですか?」
「いやね、最近人間の異世界行きが止まらなくてね。優秀な人材がどんどん流出してるんだよ」
「はぁ」
「医者やら料理人やら科学者やら自衛隊員やら。高校生ってのもいるけど、みな優秀な人間ばかりだね」
「んー、何が原因なんですかねぇ」
「それだよ、それを考えてるんだけど・・・・」
「・・・・そもそも異世界ってどういう感じなんです?」
「大体はなんか空に浮いてる島があったり妖精とかモンスターとかいる所みたいだね」
「ああ、そういう。詰まりはファンタジーやメルヘンの世界って事ですね。って事は亜人なんかもいるんじゃないですか?」
「亜人?」
「そう。具体的に言えば猫耳とか犬耳とか」
「あー、居そうだね。然し君、マニアックなものを知っているね」
「まぁ嫌いじゃないもので」
「ふむ。しかしそうか、猫耳かぁ。よしじゃぁこうしよう。これから猫耳犬耳、序でに兎耳を生まれるようにしようか」
「ええ。今からですか」
「うん」
「しかしああいうのって、実際居たら気持ち悪いんじゃないんですか?大体元々の耳はどうなるんです?」
「うーん、まぁ四つ耳になるけど元の耳プラス猫犬兎耳でいいんじゃないか?なーに、大丈夫。100年もすりゃみんな慣れるさ」
「でもみんなそうなると別に何とも思わなくなるんじゃないんですか?」
「そうだな、元々の人種も残しとこう」
「ああ、そうだ」
「ん?なんだね?」
「耳だけでなく、尻尾もお忘れなく」
「・・・嫌いじゃないというより、好きなんだな」
100年後
「うーん。流石にみんな慣れた様だな」
「ええ、始めは色々とえぐい事もありましたが」
「まあそんなもんだな、希少性が無くなれば気にしなくなるもんだ」
「いやー、今でも大分差別は有るようですが」
「それもあと100年もすりゃ大丈夫だろう」
「で、どうですか?人間の異世界行は?」
「んー。多少は減ったとは思うんだが、まだまだだなぁ」
「そうですか、変ですねぇ」
「いや、そうでも無いかも知れないね」
「え?」
「その、件の異世界だがね、魔法って概念もあるんだよ」
「はぁ、魔法ですか?」
「そう、魔法」
「ん、それは30歳で童貞だと使えるとか何とかいうアレで?」
「変な喩えを知っとるな、まぁ多分それだろう」
「ええ?まさか今度は魔法を?」
「そうだ、この世界に導入しようと思う」
「そんな無茶な、既存の物理法則がおかしな事になっちゃいますよ?火が燃えるのは精霊の所為だとかそういう事ですもんね?」
「まあそうだね」
「科学者みんな廃業ですね、大丈夫ですか?それ」
「大丈夫だ、人間は順応するよ、きっと」
「うーん」
1000年後
「ほら、順応したじゃないか」
「流石に今回は結構かかりましたね。それに始めは大変な事でしたけどね」
「まあ物理的にも社会的にも力学が変わったからな、多少の混乱は仕様が無い。でも結果オーライだ」
「何が結果オーライですか、私がこっそり立ち回らなきゃ、今でも混乱の只中ですよ」
「なに?君、人間に干渉したのか?だめじゃないか。我々は見るだけだよ」
「混乱の原因作ってる貴方に言われたい事じゃないんですが・・・」
「むむ。・・・・・まぁ良いだろう、しかし未だ忘れている事があったな」
「・・・次は何ですか?もう十分ファンタジーやメルヘンの世界じゃないですか」
「ほらあれだ、最初に話たろう。空飛ぶ島とか妖精とかモンスターとか」
「なんだかまた大混乱が起こりそうですが」
「なに、魔法があるのにコンクリートジャングルがある今の方が余程変に違いない。みんなだって、なんか変だな?位思ってるはずだ」
「うーん、まあここまで来ましたからね、いいんじゃないんですか」
「よしやってみよう」
100年後
「急に消えた今までの生き物と、急に出てきたモンスターやら妖精やらに割と早く順応しましたね。やっぱり魔法があるってのは大きいですかね」
「うむ、そうだな。むしろ元々居た動物に違和感を覚え始めてたのかもしれんな」
「で、異世界行の件なんですけど」
「ん?なんだっけ?」
「いやいや、元々の動機ですよ。人間の異世界行き」
「ああ、そうそう。や、忘れてた訳じゃないんだよ」
「まったく。んで、結果なんですが」
「うむ」
「一時は随分減ったんですが、今は1200年前、詰まりこの計画を始めた当初と変わりませんね」
「ええ、何故だね。島は浮かんでるしモンスターは徘徊してしてるし、魔法だって使えて妖精までいるんだぞ」
「それがですね、奥様になったりアイドルになったりというのもいますが、大抵は高校生を求めての異界入りの様です」
「は?」
「だから高校生ですよ、世界を変える前にあったあれです。やっぱり皆高校生の制服が好きなんですね」
「君もかね?」
「あれはロマンなんですよ。それにラブコメと言ったら制服が必須です。ああ、詰まりみなラブコメを求めての事のようで」
「あれもファンタジーだと思うが」
「人は常に幻想を求めるって事ですかね」
「うーん、また変えてみるか」
「・・・また繰り返します?」