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冒険者ギルドの魔法講座

 魔法講座を始めてから一年が経ち、冬と夏の講座も終わった。受講者は冬の火魔法は十八人。夏の水魔法は二十五人という結果で収支的には成功と思われる。

 後の素材採集の依頼も増えてギルドマスターからは概ね成功という評価をもらった。その代わりに商会組合に売る品が少し減り、市場価格が少し高くなっていたけどこちらに文句を言われるほどではなかった。

 しかし問題もある。魔法の習得率は四割を切る人数となっており、習得出来なかった者達からの苦情はすごかった。金を返せ、メンバーが欠けて依頼がこなせなかった分を補填しろ。全て断ったが必要以上に恨まれる羽目になった。

 だがそれと同時に魔法を覚えたパーティーの躍進もすごく、火魔法だけでも稼ぎが二割増し、水魔法は倍になったパーティーもあった。やはり全体の荷物が減るのが大きいみたいだ。その噂が広がると金貨一枚に満たない額で魔法を覚えるのは安い、と筋肉で物を考えているやつらにもわかったようで、苦情は鳴りを潜めた。

 そして今後はどのように受講生を集めるかを考える必要がある。次の講義はまだ人が集まるだろう。だけどパーティーに一人、魔法が使えるようになれば他のメンバーは魔法を覚えようとしないだろう。そうすれば講義毎に人数も減っていくことが予想される。

 そうなると赤字の事業となってしまう。別の方からの利益が転がり込むので一概には赤字とは言えないかもしれないが表面が赤字では外聞も悪いのだ。

 とりあえず次の講義の様子を見て考えないといけない。まだ二回目だから受講生をそれなりに見込めるはずだ。

 さてもうひとつの大きな問題がある。パーティーに魔術師が入ってもて余しているというものだ。

 この場合の魔術師とは講義で魔法を覚えた冒険者と魔術師ギルドで受け入れられなかった新米魔術師だ。

 魔法を覚えた冒険者は前衛だった者が後ろに下げられてしまい守られる状況になって仲間と喧嘩してしまったり、逆に態度が横柄になって仲間に対して威張り散らして更に報酬の金額で揉めたりといった問題が報告されている。

 この問題は彼らの魔力が少ないことと水魔法の重要性が原因だ。戦闘時には無意識に身体強化を使っている者も多く、休憩すれば回復する程度とはいえ休憩時に魔法を使って欲しい仲間からすると不要な魔力の消費は避けたいのだ。そして水魔法を覚えた冒険者を仲間にしているパーティーは水袋を最低限しか持たない。これが魔法に依存することになり、魔法の使える者の発言力が強まる。よって他の者に対して優越感を抱き、自分は特別だと思い込んでしまうのだ。

 新米魔術師の問題は戦闘はほとんどできないことだ。始めは最初の訓練を希望のパーティーに任せていた。彼らは近接戦闘ができない者を訓練することに慣れてはいたが、魔術師の場合は本来は近接戦闘を行う以外にも役割がある。そこの匙加減が掴めずに甘やかすか厳しくしすぎるかで向上心も育たず、結果として足手まといとなってしまうか、魔法の成長がなくただの戦士となるかだった。

 せっかくの冒険者ギルドに来た魔術師の半分以上は魔術師として使い物にならない状況に魔術師ギルドからも注意されたので冒険者ギルド内で魔術師の訓練について見直すことになった。

 魔法が使えることで増長してしまった冒険者は元々上級魔術師のいるパーティーに魔法の研修として訓練を行い、プライドを折ることになった。魔法しか使わなくなった冒険者は武器の扱いも錆びているし、更に魔法での作業も上級魔術師に全て行われて何もできない状況で上級魔術師にパーティーとの関わりかたを説いてもらうのだ。

 新米魔術師も訓練を任せるのは同じ属性の中級魔術師以上のいるパーティーにすることになった。これで魔法の向上と戦闘から夜営までの技術も教えられる。しかし魔術師のいるパーティーでの魔術師の囲いこみということでやっかみも予想されたので一季節を目安に訓練を終えて他のパーティーに移ってもらうことになった。しかしそう決まったとはいえ問題は解決しない。今度は魔術師のいるベテランパーティーで新米の訓練をすることができるパーティーが足りないのだ。結局魔術師ギルドから魔術師を借りてきて即席パーティーを作り、当座を凌ぐことになった。

 他の問題も山積みでこれだけに構っているわけにもいかない。この問題は魔法の使える冒険者が増えたら自然と解決するのがわかっているのでこれ以上の対策は必要ないのだ。

 新人で来た事務員の教育や、仕事の割り振り、昇級試験の取り計らい、依頼の陳情書と強制依頼の指名、報酬の決定。普通の事務仕事の決済だけでもこれだけあるし、何かしらの問題があったら責任者として現場に出る必要もある。魔法講座はある程度軌道に乗ったので少しずつ下に仕事を任せていこうと思ってもいる。


 そんな忙しい日を過ごすうちにまた面倒な案件がやって来た。魔術師ギルドからの速報で今度の新人魔術師は全属性持ちの便利屋で更に治癒術も辛うじて使えるらしいのだ。普段はこちらがお願いして訓練を行ってもらうが彼ならば繋ぎを作るために色々なパーティーからの引きがあるだろう。これはこちらから強制依頼として処理してしまおう。しかしどこのパーティーに任せようか。それはあとで考えることにして登録と拠点変更の受付に急いで向かう。

 もうフィアが応対していた。彼女は新人らしき子からギルドカードを引ったくり後ろに駆けていくところだった。受付にいた少年はフィアの方に手を伸ばしていたが机が邪魔して届かなかったようだ。

 とりあえず向かってくるフィアに足をかけて止める。前のめりになったフィアの襟をつまみ上げ後ろに倒れるようにした。するときれいにフィアは尻餅を着き、手に持っていたカードも手から離れ床に落ちた。それを拾い上げた私は受付にいる少年に一度返し、冒険者ギルドについて説明した。もちろんフィアは後ろに立たせて説明のやり方を覚えさせるのも忘れない。

 その少年は近隣の村から出てきたばかりで魔法が使えればどんなことでもできると思い上がっているようだった。少し自信を潰さないと強い魔物に向かっていって殺されそうで不安だった。支部の管轄エリアで死亡事故は支部の評価とも結び付くので避けれるなら避けたいのだ。

 説明を終えて訓練の日程も明日と決まった。本当はもっと準備の時間が欲しかったがまだ日も暮れていない時間だったのでギルドには人がいる。まずは遊興ギルドに手紙を書きフィアに届けてもらう。そして受付で今現在町にいるパーティーを調べてもらう。その中から上級魔術師がいるパーティーを絞り、目星を付ける。二組しかいなかったが一組もいないことも予想できたので二組もいて良かったと思った。人を向かわせてそれぞれのリーダーを呼んでもらう。

 片方は戦士のエッボをリーダーとした近接主体のパーティーで魔術師はイリスという少女一人だ。彼女は若いながら水の上級魔術師であり、風と治癒術も中級魔法が使える才女だ。歳も新人のグリンとあまり変わらないので鼻っ柱を折ってくれるだろう。

 もう一方は全員が魔術師という変わったパーティーだ。籠って研究するのが性に合わず、外で魔物を狩るのが楽しいらしい。そして只の戦士は魔法の邪魔になるので流れ弾が当たってもいいように近接で敵を引き付けるメンバーは結界魔法を使えることが条件らしい。結果として全員が魔術師という訳だ。うちのギルドの中でも早々にランクがB+に届いた優秀なパーティーだ。しかし普段から彼らはギルドに寄り付かないし、もし来ることがあっても人がいない時間を狙って来るので幻のパーティーといわれている。もちろん全員が上級魔術師であればグリンの自信は打ち砕かれるだろう。

 使いと一緒にそれぞれのパーティーの代表がやって来た。前者のパーティーからはエッボとイリス。後者は黒いフードを被っていたがギルドカードを確認するとアイスとライだ。得意な属性を元にしたニックネームで本名は別にあるが本名以外を通り名にしているのならそちらを呼ぶのが礼儀だ。


「悪いね。突然呼び出してしまって。頼みたいのは魔術師の訓練なんだが」

「一応聞いている。しかしまたか?」

「あたしたちに頼むのも珍しいね。それで二組を呼んだ理由は? いつもなら姐さんが勝手に決めるでしょ」


 エッボはまた新人の訓練をやるのかという表情だったし、男か女かわからない声で私が決めなかった理由を尋ねてくるのはアイスだった。


「まあ今度の新人は便利屋なんだ。それで一応町にいる上級魔術師のいるパーティーを全て呼ぶという建前を作って他のパーティーを牽制するという目的もあるのさ」

「全属性か。確かにどこも喉から手が出るほど欲しい人材だな」

「魔法への冒涜だね。上級も派生も学ばずただの基礎だけをなぞるなんざ。うちは基本六属性は足りてるからいらねえな」


 エッボは頷いてくれたがライは否定的だ。ある意味魔術師ギルドの便利屋に対する反応と同じなんだろう。


「それで訓練は受けてくれるの?」

「最近訓練ばかりで遠征したいんだよな。ただ全属性を一時的にパーティーに入れられるのは大きい。イリスはどう思う」

「新しい魔法を覚えられそうでいいですけどね。火を覚えればもっと便利になりますし」

「イリス、お前も基礎をなぞる気か。火を学ぶなら上級をものにして見せろ。風も中級で止まっていたな。新たな派生魔法を生むなら上級は必要だ」

「ライ、そんな熱くならないで。イリスはあたいの弟子だし時々様子は見てるから。だけど便利屋は私たちが教えることも少ないわね。いくら全部の基本魔法使えても特化してる私たちには及ばないし、戦い方も参考にはできないから。ひとつかふたつだったら快く教えるけど全属性を均等に教えるのは時間の無駄ね」

「それじゃあ悪いけどエッボの方で訓練依頼出すよ。少し報酬は色を付けて置くね」


 訓練のやり方から考えてもエッボの方が良いのはわかってた。そこからはアイスとライには帰ってもらい、エッボと訓練について話し合う。

 まずはグリンの能力を教えて、それに合わせた訓練をざっと考える。

 今日は遅いのでここでお開きとなった。



 そして翌日、朝早くからエッボのパーティーに集まってもらい内容を詰める。近接戦闘と魔法の使い方を調べるテストも用意することにし、魔物と戦う用意も遊興ギルドから了解を取り付けた。

 そうこうしているうちに昼の鐘も鳴りグリンがやって来た。

 訓練の内容はと言えばまあまあだった。中途半端に強い。ウサギも泣きつかずギリギリではあったが倒せたし、丸太を倒す程度の中級魔法が使えるのもすごいとは思う。ただし、最初に自信を打ち砕いていたから増長することもないだろう。



 結局グリンは一季節の間、エッボのパーティーに入っていた。その間に火の魔法もイリスに教えたようでその後のエッボのパーティーの躍進はすごいものだ。そしてグリンはというと、他の町で新しいパーティーに入ったと聞いた。拠点の町を変えられてしまったのは残念だが、冒険者とはそういうものであるので割りきれる。

 そして今日もうちの冒険者達が全員生還することを祈りながら仕事を片付けて行く。

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