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便利屋と冒険者

 翌日、日の出の鐘と共に起きた僕は、冒険者ギルドの講習でも泊まれる準備が必要だと聞いたので、荷物を在庫を調べながらまとめて、少なくなっていた消耗品を買いに行くことにした。

 宿を出て、大通りを歩けば色々な店があった。昨日は魔術師ギルドと冒険者ギルドにしか行っていないので、初めて見る店も多く目移りした。

 露店では安いものや、食べ物、飲み物が売ってるし、その後ろの店舗では武器や防具、本等の値が張るものを売ってる店、品数が多い店、他にも腰掛けて食べれる食堂、酒場も混ざっている。

 僕に必要なのは炭と冒険用の糧食である。一通り見て歩いて、それらしきものが売っている店を見つけた。冒険者の店<ラック>という店で、冒険者に必要なものが全て揃っているらしい。

 中に入ると


「いらっしゃい、冒険者の店、ラックへようこそ。ぼうずは何を買いに来たんだい?」

「冒険者の講習を受けるのでその準備に炭とかを買っておこうかと」

「へえ~、まだ新人さんだ。それじゃあこの初心者セットはどうだい? 今ならおまけもついて金貨一枚だ」


 店に入ると店番をしている男から声をかけられた。欲しいものと講習を受けることを言ったら入口近くにある中身が詰まった大袋を指差されて勧められた。これが初心者セットらしい。

 中身を見ると所々錆びた鉈に短剣、覆いが割れてるカンテラにそれ用の油、炭と穴を塞いだのがわかる鍋、虫食いが所々にある毛皮の毛布。他にもゴロゴロと入っているが、パッと見、がらくたに見える。

 全部、使えないことはないが、恐らく冒険者の使った中古品で、その中でもそのまま再利用するのが難しい品物だというのがわかった。こんなものを勧めてきた店番にうろんな目を向けると


「そんなに睨むなって、こいつらはちょっと古ぼけてるがまだ使えるやつだぜ。それにこの袋の中身を新品で買えば金貨十枚じゃ足りないんだから、金の無い新人にはおすすめってのも本当だ」

「いや、でも、これはいりませんよ。だって炭も湿気ってますし、これなんか一度使ってますよね。火打ち石もあまり良いものじゃないし、水袋に穴が開いてるのは致命的じゃないですか。足せば本当に金貨一枚の価値があるんだとしても、僕には要らないものも多いですし、他の店行きますね」

「いやいや、ちょっと待って。それじゃあ坊主の要らないものを抜いてその分を割り引きして売ろう」


 他の店に行こうとしたら、店番が引き留めて来た。そして要らないものを抜いて割り引きしてくれるそうだ。本当にこの店に並んでるものは要らないんだけど、どうしてもって詰め寄って来るので、仕方なしに初心者セットの中から僕に不必要なものをどけていく。

 とりあえず持ってるもので、短剣、毛布、鉄串。だけど一本だけ良い鉄串があったから袋に戻す。


「これでいくら負けてくれますか?」

「そうだな。銀貨十g、じゃない十三枚だ」

「今、十五枚って言いませんでした?」

「鉄串一本戻しただろその分だ。それで要らないものは全部か?」

「いやまだありますよ」


 今度は魔法で代用できるものを抜いていく。火打ち石、水袋、鉈、カンテラ、

扇子、スコップ。

 全部きれいなものではない。扇子も焦げて黒ずんでいるし、スコップも柄が腐ってる。これなら風や土の魔法で頑張った方が修練にもなっていい。


「これでいくらですか?」

「銀貨二十五枚負けよう」

「意外と安いですね。あそこに置いてあるスコップなんか一本銀貨五十枚なのに」

「あれとこれを比べるな。あっちはまだ丈夫でしっかりしてるんだ。てか火打ち石も鉈も外で焚き火をするときに使うぞ。買わなくていいのか?」

「魔法でなんとかなりますんで大丈夫です」

「魔力が切れたときに使うんだよ。それで買うなら銀貨七十五枚だ」

「十三枚と二十五枚、合わせて三十八枚だから銀貨六十二枚じゃないんですか」

「そんなに割引できねえよ。全部合わせて二十五枚だ」


 僕は最初の短剣や毛布が十三枚の割引、あとのスコップなんかが二十五枚の割引だと思ったら、まとめて二十五枚の割引と言われてしまった。

 それだとこの袋の残りを銀貨七十五枚で買うということになる。そうなるとぼったくりだ。確かに欲しいものもあるが、ここで買わなきゃいけないものもないし、なかったらなかったで別に構わないものも多いのだ。


「それだとちょっと高いですね。やっぱり他の店に行きます」

「いや、それじゃなくてもいいけど何か買ってけよな」

「それじゃあこの鉄串を下さい。さっきの割引の言い方だと銀貨二枚でいいんですよね」


 何か買ってけと言われたので、初心者セットの袋からさっき戻したきれいな鉄串を取り出した。銀貨二枚でいいはずだ。


「単品だったら銀貨三枚だ。これ以上は負けねえぞ」

「じゃあその壁にかかってるロープも下さい。銀貨三枚のやつです。これで合わせて銀貨五枚でどうですか?」

「買ってくれるのはありがたいがそんなに安くはできねえな。銀貨五枚と銅貨九十枚だ」

「せめて銅貨五十枚くらいで」

「いや、これ以上は一銅貨足りとも負けねえよ」

「じゃあそれでいいです」


 一応値切ってみたけどあまり安くならなかった。だけど荷物を縛るロープも買えたしよかったと思う。銀貨六枚を支払い大銅貨一枚をお釣りで受け取ったあと、ロープと鉄串を鞄にしまう。


「今度来たときはもっとたくさん買ってけよな。あともう使わなくなったものがあったら買い取るから」

「それでも必要なものしか買いませんよ」


 そう言って店を後にした。まだまだ欲しいものはあるし、他の店を見て探してみよう。そう思い露店を眺めながら通りを歩く。

 さっきの<ラック>は冒険者に必要なものが全て揃っていたが、露店を見てると売っている品物が細分化されていて色々な店を見ないといけない。

 炭の店を探すと三店ほどあったが、炭の材料が竹や杉等でそれぞれ違った。値段は一番安い杉の炭で新品が小袋一つ銀貨三枚。倍の量が入っている中袋は銀貨五枚。更に倍の大袋は銀貨八枚だった。ちなみに袋を持参すると銅貨三十枚安くなるらしい。

 僕が持っている炭入れの袋は小袋のサイズだったのでいっぱいに詰めてもらい、銀貨二枚と半銀貨一枚、大銅貨二枚を払う。

 旅用の糧食を扱っている店は更に多いし、値段もばらつきがある。味が付いていたり、サイズにこだわっていたり、店ごとの特徴もあって見ているだけで楽しい。僕の村では商隊が季節に何度か来るだけで店ごとの違いなんて考えられなかったからなおさらだ。

 それぞれの店で試食もできた。薬みたいな苦いやつ、パサパサで口の中が乾き水を飲みたくなったやつ、油を固めたようなギトギトのやつ。どれも美味しくない。店主によれば美味しいのは飽きるから最初から不味いって思えるやつの方が良いらしい。僕は美味しい方が良いと思うけど旅をしてればわかるそうだ。

 結局、果実の風味がするビスケットタイプのものにした。口の中が乾くけど水をすぐに用意できる僕にはもってこいだ。味も不味くはなかったし。

 他にも干し肉やちょっと奮発して瓶入りのジャムを買った。ジャムは小さい瓶でも銀貨八枚の贅沢品だったが、糧食に付けて食べれるので味気ない糧食も美味しく食べられるだろう。

 試食もしてお腹いっぱいになったところで太陽も上がり鐘が鳴った。僕は急いで冒険者ギルドに向かった。



 扉を開けて入ると昨日よりは人が少なかった。僕は昨日と同じ受付に行く。するとやはりフィアが受付にいた。ディアナさんの姿が見えなかったので少し不安になったがフィアに話しかける。


「いらっしゃいませ。えーっと、グリンさん。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「講習を受けに来たんですが」

「ああ、初心者講習ですね。でしたら右手の倉庫を入って左にある休憩室に行ってください。そこでディアナさんが準備してます」

「わかりました。ありがとうございます」

「あなたの冒険がうまく行くようお祈りいたします」


 受付ではない場所が集合場所だったらしい。昨日、別れるとき教えてくれてもよかったのに。そして最後、フィアが祈ってくれた。昨日、ディアナさんも祈ってくれたけど流行っているのかな?

 そして僕は案内通り、休憩室にやってきた。すると中では武器と防具で装備を固めた冒険者達がいた。部屋に入る僕のことを皆が注目しているのですごく気まずい。なにもしていないけど悪いことをした気分になってきた。

 身を縮めながらディアナさんを探してみる。すると壁際で誰かと話しているディアナさんが見えた。恐る恐る近づくとディアナさんと話している冒険者が僕に気づいたようで、ディアナさんも振り返って僕を見た。


「やあ、昨日振りだね。準備はちゃんとしてきたかい?」

「お昼まで買い物をしていました。一応外で泊まれるようにしたつもりです」


 ディアナさんは僕の背負ってるものを頭越しに一瞥する。他にも僕を見る視線が集まってくる。特に僕のことをしっかり見ているのはさっきまでディアナさんと話してた男だ。そこまで背が高くなく、肩幅が広いその体つきに厚手の鎧を着ている姿は塀みたいだ。背中には大きな盾を背負っており、腰には剣を穿いている。年齢は自分の父とそんなに変わらないように思えたが、厳つい顔で魔獣も一睨みで逃げそうだった。


「こいつか?」

「そうよ。今日の新人さん。グリン、こっちが今回の君の講習をしてくれるエッボよ。それで彼の後ろが彼がリーダーを務める『ブラッドローズ』の人ね。自己紹介して」


 ディアナさんと講習かと思ったら他の冒険者にお世話になるらしい。ちょっと怖いけど大丈夫かな。


「グリンです。よろしくお願いします」

「エッボだ。それでお前はなにができる? 一応ディアナから聞いているが確認だな」

「魔術師です。全属性の魔法は使えます」

「攻撃はどうなんだ? あとは身体強化は」

「中級が風と火と光使えるので攻撃できます。身体強化は少しだけ使えます」

「まあいい、早く闘技場へ行って試してみようぜ」

「遊興ギルドには話し通しているよ、闘技場の訓練室使えるから行こうか。魔物も少しだけ貸してくれるよ」


 なんか物騒な話が聞こえた。しかし特に説明もなくエッボさんとその仲間達は休憩室から出ていき、ディアナさんも僕についてくるように言って休憩室から出ていった。僕も彼らを追いかける。そして歩いてるときに、詳しく闘技場についてディアナさんに聞くと、闘技場は人対人、人対魔物、魔物対魔物の試合を見せてどちらが勝つか観客は賭けができる施設らしい。

 なぜそんな施設に行く必要があるのか疑問に思って更に聞くと、戦闘訓練を行うために冒険者ギルドのやつより広い闘技場の施設を借りるらしい。

 そうこうしてるうちに闘技場に着いた。人も少なく閑散としている。


「今日は試合がないみたいね。だからこそ借りれたんだけど」

「それで訓練室に行けばいいのか」

「そうね、私はここの職員と話を詰めるから彼の対人戦を鍛えてあげて」


 そう言ってディアナさんは受付の後ろの扉に入って行った。


「よし、グリン。ついてこい。こっちが訓練室だ」


 ついていくと大きな広間に出た。奥行きもあるが天井も高い。壁も木ではなく石でできており丈夫そうだ。気になるのは目の前にあるとても大きい鉄製の扉だ。天井と同じくらいの高さと、人が十人腕を広げても足りない位の幅がある。閂も僕の身長の二倍位だ。それに見とれてると、エッボさんは入ってきたのとは違う扉に入り、中から木製の武器が詰まった籠を持ってきた。


「じゃあ木剣で俺と試合をしてもらう。属性魔法は禁止な。身体強化は構わない」

「いや、僕、魔術師なんですけど」

「身体強化を使えるなら武器を持ったことぐらいあるだろ。それにへなちょこでも坊主くらいの年頃だったらすぐに上手くなるさ。ほれ、どの武器がいい」


 ドサッっと籠を置き皆さん武器を取る。長剣の人が多いけど槍や片手剣二本の人もいる。僕も村での訓練に使った長剣を取った。


「ほう、魔術師なら棒を取るかと思ったが長剣か。とりあえず最初は俺とだな。それで強さがわかったらそれに合わせてやる」


 エッボさん以外の人は下がり、広間の真ん中には僕とエッボさんが残った。


「先手はやるよ。かかってこい!」


 僕は身体強化を体に纏って突進し剣を振り上げる。しかしエッボさんの持っていた剣で軽々と止められる。そして剣を押し返されて体が浮き尻餅をつく。首元に剣を突きつけられて負けた。勝てるとは思ってなかったけどこんなにすぐに負けてしまうなんて思わなかった。


「全体的に軽いな。体重もそうだが上手く身体強化がいかされてない。全身を使って剣を振らなきゃ身体強化使っても威力は出ねえよ」

「やっぱ勝てるわけないですよ」

「そうだな。お前みたいな新入りには負けねえよ。だけど魔物は新入りだからって手加減はしてくれない。今のお前じゃ呪文を唱えてるうちにお陀仏だ。それでどうやって町まで来たんだ? 魔物の少ない街道沿いを来たんだろ。冒険者が採集行くのは街道から外れた森の中、山の中だ。もう少し鍛練しないと死ぬぞ」

「だけどお金がないから早く仕事しないと」

「それだったら今日みっちりしごいてやるよ。イリス、こいつはお前より弱い。だけどお前もまだまだ弱い。身体強化を使われたらわからないぞ。とりあえずやってみろ」


 エッボさんは自分のパーティーに向かって声をかけた。すると一人の少女が出てきて僕の前に立った。他の人たちとは雰囲気も違い、優しそうな人だった。そしてローブのフードを脱ぐと青い髪が背中に垂れ、同じく青い目が少し不安そうに瞬いてる。年はたぶん僕より少し上だけど村の幼馴染みなんかとは比べ物にならないくらいの美少女だった。その黒いローブを着た彼女の武器は魔法使いの杖であった。


「はじめまして。私はイリスよ。上級の水の魔術師ね。手加減はしないからグリン君も頑張って。もちろん属性魔法は使わないわ」

「よ、よろしくお願いします」


 この少女と戦うらしい。どうしようか考えていると先手を取られた。距離を詰められ杖を横に薙いできた。身体強化はなかったみたいで僕でも避けれる。後ろに飛んで避けると薙ぎ払われたと思った杖が僕に向かって突きつけられてくる。思わず剣で弾くが更に突きつけられて突きの連打は止まらない。右に左に飛んでかわしながら足に魔力を集中させ爆発させる。杖の届かない場所まで跳んだあと目の前から僕が突然消えて戸惑っているイリスさんに向かって突撃した。

 しかし僕が振るった剣は間一髪で杖に受け止められてそのままイリスさんの後ろに流されてしまった。そして後ろから杖でガンッと殴られた。視界が霞み、体に力が入らない。そのまま僕は倒れた。


「あっ、寸止め忘れてた」


 意識を失う前に聞こえたのはイリスさんの声だった。



「おーい、大丈夫か? イリス、どんだけ強く殴ったんだよ。水をぶっかけてやれ」

「いや~、つい、彼が勢いよく来たから受け流して後ろから本気で殴っちゃったんですよ。それと水をかけるのはさすがに彼に悪いですよ」

「荒削りだけど戦えないことはないみたいね。これだったら次の課題も大丈夫かしら」


 話し声で目が覚める。ゆっくり首を振るとエッボさん達に囲まれていた。


「目が覚めたか。ここがどこだかわかるか?」

「えっと、闘技場の訓練室でイリスさんと戦っていて殴られたまでは覚えています」

「ごめんね。怪我は治しておいたから。ホントは寸止めするつもりだったんだけど」


 エッボさんの後ろからイリスさんが顔を出して謝ってきた。美少女に申し訳なさそうにされるとこちらも怒る気がなくなる。


「立てるか? すまんがまだ課題が終わってないんだ。あと二試合戦ってもらう」

「えっ? あと二試合ですか?」

「まだ坊主の魔法の腕前も見てないしな。その腕前を見せてもらう。そしてもう一試合はこの闘技場に来た最大の目的だ。楽しみにしてな」


 エッボさんは楽しみにしてろって言うけれどあまり良い予感がしない。そして魔法有りの戦いなんて僕は死ぬんじゃないのか。


「そんなに怯えるなって、魔法の腕前はあそこに用意してる丸太に向かって打つだけだ。それをイリスの記録と比べるから坊主に魔法が向かってくることはないよ」


 エッボさんが指差した先では腰ぐらいの高さの丸太が二十本、無造作に並んでいた。あれに向かって魔法を打つらしい。


「魔法で倒せばいいってことですか?」

「そうよ。得意な魔法によっては倒せないのもあるから正確には全部に攻撃を当てればいいのよ。こんな風に」


 イリスさんが手を振ると指先から握り拳程の水の塊が生じ、丸太に向かって飛んでいった。それは丸太に当たったが丸太は濡れただけでびくともしない。

 そしてもう一度イリスさんは手を振る。すると今度は氷柱が飛んでいった。氷柱は丸太に刺さって倒した。

 最初は中級。次は上級の水魔法だった。中級は属性をそのまま出す魔法で、初級と違うのは射程距離だ。そして上級になるとさっきの水が氷になったように属性に変化をつけられる。広範囲に広がる変化をすれば範囲魔法になるし、土の塊が鉄の塊になるような強化もできる。ただ、このイメージが難しいので上級魔法を使える人の魔法を見て練習するしかない。


「じゃあやってみて。ルールは使える魔法は二十回。当てて一点、倒したら更に二点。すべての丸太に当てれたときまでに残った魔法の打てる数が一回一点ね。逆に二十回打っても当たってない丸太があったら一本につき一点減点ね。あとちゃんと丸太に傷をつけるなりして魔法が当たったのがわかるようにね。すごい人は上級魔法一発で全部の丸太を倒しちゃうから、そうすると七十九点で最高点になるのよね。ちなみに私は四十九点が最高かな。君の目標は二十点ね」


 イリスさんの魔法を見て考えている間に倒れた丸太は起きていた。

 そして僕の番らしい。この距離から当てるとなると中級じゃないと届かない。そして自分の使える中級は重さがないので丸太は倒れないだろう。イリスさんが言っているルールだと一発で複数の丸太に当てるといい点数になるみたいだ。ただ僕の中級では恐らく無理だ。雷で分散すれば複数に当たるか? だけど威力がないから丸太は倒れないだろう。それにイメージがわかないから上手く行く気がしない。風を広げるのも同じか。イメージは沸くけど丸太に傷をつけるほどの威力はない。無難に火魔法かな。


「わかりました。やってみます」


 精神を集中して指先に炎の塊を作る。そして狙いを定めて打つ。すると走るより少し早い位の速度で丸太に向かって飛んでいき当たった。中心を狙ったが右寄りの丸太に当たったので次はもう少し意識を高める。

 そして十発の炎弾を放ったが、同じ丸太に当たるなどして、まだ七つの丸太にしか当てれてない。しかし運良く倒れた丸太も一本あったので、これから先、ミスがなく、丸太が二本倒れたら二十点になる。

 そう思ったが、まだ当ててない丸太が丸太の影に隠れて狙えなかったり、一本だけを確実に狙う必要があったりで後半の方が難しかった。

 結局二十発打った結果が、命中は十三本、倒れたのは四本という結果になった。得点は十四点で目標には届かない。

 魔力も使ったし、狙いを定めるのが精神的に疲れた。それでこの結果だと愕然とする。


「そんなに落ち込まないで、初めて挑戦したらこんなものよ。だけど狙いをつけるのが苦手みたいね。あと魔法の打つ間隔も長いわ。それだと動く的には当たらないわよ」


 イリスさんに慰めと問題点を一緒に言われてしまった。ちょっと悔しくなって


「じゃあイリスさんはどうやるんですか!?」

「それじゃあ参考にならないと思うけど見せてあげる」


 倒れた丸太を起こすのを待ち、準備ができた。


「いくわよ」

『アイスストーム』


 丸太の周りが凍りつき、竜巻が起こる。竜巻は氷を巻き上げて、その氷で丸太を削る。そして何本かの丸太は倒れた。しかし全ての丸太に当たった訳ではなく両端の数本は無傷だ。そこにすかさず大きな氷の塊を左右で一発ずつ打ち込んだ。無傷だった丸太は全て倒れて終わった。


「六本倒れて魔法は三発だから四十九点ね。やっぱり五十は難しいな」

「氷塊で倒せばもっといくのじゃない?」

「魔法の数が多くなるし、倒れる本数もそんなに増えないから変わらないのよ。やっぱりアイスストームの威力と範囲を大きくしないと高得点はでないわね」


 僕は今のやり方を見て参考にならないと言われた理由がわかった。複数の丸太を倒すことを前提に魔法を使わなくてはいけないのだ。中級だけでやろうとすると魔力の効率が格段に落ちるから、上級の技術が必要になる。

 今の僕にはできない技だ。中級魔法を上手く使えばもう少しは点数を伸ばせるかもしれない。それでも四十点はいかないだろう。

 やはり範囲攻撃でまとめて吹き飛ばさないと高得点は出ない。または一発一発確実に当てて倒すでもいいのか。


「考えてるけど、考えすぎてもだめよ。それぞれの得点にも意味があるのだし。魔法行使回数が少ないなら範囲魔法が得意。倒れた丸太が多いなら一発の威力が高い。行使回数が多くても全ての丸太に当ててたら命中精度が高いとかね。だから総合点だけで判断するのはやめてね。それに中級で丸太を倒すのはすごいことよ。結構重いんだから」

「それでも上級使えないと意味がないんですよね。中級だとすぐに壁にぶつかるし」


 全属性を広く浅く学んでいた弊害だ。やっぱり得意な属性で上級まで使えた方が良かったんじゃないか。今から上級を誰に教えてもらう? 昨日の魔術師ギルドの言い方だとお金はすごくかかるし、覚えるのには時間もかかる。そうしたら冒険者でお金を稼ぐこともできない


「そんなにいじけんなって、坊主。まだあと一つ課題が残ってるんだから。戦う準備しとけ。イリスは危なかったら援護な」

「課題ってなんですか? それに危ないんですか?」


 課題と言われても何をするのか聞いていない。しかしエッボさんは鉄の剣を僕に渡し


「まあ、簡単だ。ただの実戦だ。闘技場のある町の新人しかできない課題だ。坊主は運がいいな。それじゃあ、ディアナさん頼む」


 エッボさんはこの部屋にいないディアナさんに向かって頼むと言った。そして僕の背中を押す。あの大きな鉄の扉の方へ。そして鉄の扉がゆっくり開く。

 閂はいつのまにか外れてた。そして現れたのは


「キュウ~」


 ウサギだった。体毛は茶色で目は黒。頭には角が生えている。そう、角が生えているのだ。ということはただのウサギではない。ウサギが魔獣化した角ウサギだ。角ウサギはウサギと違い雑食性となり、ウサギの瞬発力で迫ってくる角は一撃で獲物を仕留める。生息数は多いので草むらからの奇襲に注意しなければいけない。


「魔獣ですね。あれを倒せと」

「そうそれが課題だ。それに即死じゃなければなんとかなるから心配するな。それに魔法で仕留めても構わんぞ」


 即死じゃなければって、だけどよそ見してる暇はない。ウサギが突撃態勢になってる。魔法を打つ暇はないから足に魔力を貯めて、身体強化で跳んできたウサギを避ける。振り向くとウサギの背中が見えたので炎弾を放つが狙いが逸れて外れた。

 そして攻撃したこちらをウサギは敵と見なしたのかエッボさん達には構わずこちらに向く。もう一度向かい合ったので剣を構え、跳んでくるウサギを叩き落とそうと睨み付ける。全身に身体強化をかけて待ち構えているとウサギはさっきと同じように跳んだ。狙い済まして剣を振ると、ガンッと当たる手応えがした。しかし勢いが強すぎて僕は剣を手放してしまう。剣は横に飛んでいった。ウサギは剣が当たった衝撃で怯んでおりそこに炎弾を放った。今度は足元だったので外れることもなく当たり、ウサギは火だるまになった。そして止めとばかりに風の刃も放つ。それも当たり、ウサギの首を切った。


「頑張ったな。ウサギの突撃に対してタイミング良く剣を振れたのは良かった。だけどな、あれが角に当たらなかったらウサギが真っ二つにはなっただろうが坊主も角で怪我してたぞ。角はそのままの勢いで跳んでくるからな。あいつは突撃のあと、後ろから倒すのがコツだ」


 エッボさんに労われたが、剣を落としたことを注意されるかと思ったらウサギの倒しかただった。言われてみれば確かにあのまま切れば角が体に刺さっただろう。相討ちの危険もあったのだ。そう思うと今更ながらに体が震え、へたりこんでしまった。


「魔法の命中精度ももう少し頑張らないとね。今回の訓練で自分の足りないところもわかったでしょ」


 イリスさんの言葉に頷く。この訓練で僕は結構自信がなくなっていた。魔法も剣も甘かったし、考えもしなかった危険もあった。本当に僕は冒険者としてやっていけるのだろうか。


「まあ、普通は一人で冒険者しないさ。仲間と助け合って補うものだ。足りないものは学べばいいし、逆に教えることもある」


 後ろからディアナさんの声がした。振り向くといつのまにかディアナさんが立っていた。隣には知らない人がもう一人いた。見た目は三十歳くらいで短い茶色い髪のお兄さんという感じの細い人だった。


「初めまして、新人冒険者さん。私は遊興ギルドのフント。ここの管理人の一人だよ。君の訓練は見させてもらったよ。まだまだ荒いけどウサギを倒せたし期待してるよ」

「どうだったんだい。訓練してみて。私も見てたけど魔法を打つのになれてない感じがするね。発動までが遅いんだ。そこも練習するしかないけどね」

「それじゃあまだ時間もあるし、やりたい訓練をしよう。剣か魔法かそれとも他のか。存分に付き合ってやるぜ」


 エッボさん達とそのまま夕方まで訓練を続けた。

 そして夕方になったら町の外に出て野営の訓練だ。こちらは僕の初級魔法が役に立った。火も起こせたし、水を汲みに行くこともなかった。まあ水はイリスさんの方が氷を出せたりしてすごかったけど、それでも褒めてもらえた。

 焚き火を囲みながらエッボさん達の武勇伝を聞き、また戦い方や魔法についてもいろいろ質問した。

 イリスさんは水と風の魔法しか使えないから僕の火魔法はありがたかったらしい。火打ち石で火を着けるのはコツがいるし、地面が濡れてると上手くいかないんだそうだ。

 だからもし良かったら訓練が終わっても一緒に冒険者をしないかと誘われてしまった。そうしたら剣や魔法も教えてくれるんだそうだ。

 僕は二つ返事でそれを了承した。だってもっと強い魔法を教えてくれる人がいたらいいなと思ってたところだったし、ただで教えてくれるなんていい人たちだ。

 僕が強くなったら他のパーティーに移るのも自由らしい。その代わりに簡単な火の魔法を教えて欲しいそうだ。

 ただではなかったが、僕が教えてもらうものに対しての対価としては安いのだと思った。

 そして次の日、ギルドに帰ると僕はエッボさんのパーティーの一員として登録した。

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