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竜の娘 2

 飛び降りたのは町の城壁から少し離れた草原だ。そこからは歩いて行こうとジークフリートの背から降りる。しかし町の方からは矢や魔法が飛んできた。ジークフリートは咄嗟に翼で私を囲い庇ってくれる。距離があるのでほとんどが外れているが、夜中から今まで休憩もせず逃亡をしていた私は考えがまとまらずどうすればいいのかわからなかった。

 しかしジークフリートの体力は多少回復していたようで、また私をくわえて森の方に引き返すように身を捻って飛んだ。舞い上がると矢は届かなくなり、魔法も風に流されて当たらなくなった。まだ本調子ではないジークフリートを心配しながらも、森の燃えている部分を迂回しながら来た方向を戻る。迂回している影響からか眼下には来るときには上空を飛ぶのを避けていた街道が見えた。

 ここで私はキャラバン隊を探し始めた。誰かに相談するとなると団長たちしか思いつかなかったからだ。幸いに燃えている部分が後ろに見えるようになった辺りの広場で、見慣れたキャラバン隊を見つけることができた。上空を旋回しながら高度を落としゆっくりと静かに着地する。警備をしている人たちはこちらを見つめるが、降りてくるときに私たちとわかっていたようで武器を向けられることはなかった。一人が近寄ってきて


「珍しいなお前がキャラバンに来るなんて。明後日に町で合流予定だったろ」

「ちょっと団長に相談したくて、団長はどこにいます?」

「あのでかい天幕にいるが、ちょっといま客人が来ててな、通していいか聞いてくるからそこで待ってろ。ああ、なんだそのぼろぼろの服は。キャリーがあっちの天幕にいるから服もらってこい。後でそっちに呼びに行く」


 こんな町でもない場所で客人とは何だろう? あと今の服装を見ると確かに色々なところが破れてぼろになっていた。だけど身体の方には目立った傷は無い。あれだけの矢弾の中で服がぼろぼろなのに傷はないなんて変だなと思いつつも警備さんが言った天幕に歩いていく。

 天幕に入るとキャリーさんが裸で寝ていた。寝床の下では脱ぎ散らかされた服が散らばっている。黒く波打ったロングヘアがこげ茶色の体に巻き付いていて大きな胸やお尻を隠す状況は、まるで蛇にからめとられた美女のようにも見える。そんな彼女のキャラバンでの役割は衣装の準備だ。だからこそさっきの警備さんも彼女のところに行くようにと言ったのだろう。

 ゆさゆさと彼女の体を揺らして起こす。目が覚めていないのか焦点があっていないが次第に頭もはっきりしてきたようで


「オデットじゃん! あれもう町に着いていたんだっけ!?」

「町に着くのは明後日だよ。ちょっと団長に相談したくてこっち来たの」

「へぇ、オデットが相談ね。どうしたの? 何かあった?」

「森の中で襲われたの。それで町に急いで逃げたら町の人からも襲われてとりあえずキャラバンまで飛んで来たの。服もぼろぼろだからキャリーさんにもらおうかなって」

「襲われたって誰に?」

「冒険者か盗賊みたいな人たち」


 キャリーさんはもしかしたらと呟いていたがそれよりも服のことが気になったらしい。


「てか服が服の役割をなしてないじゃん。オデットの服はそれなりにいい素材なのにもったいない。てかせっかく竜騎士風にデザインしたのにまた作り直しかぁ。オデットも怖かったね」


 ここに買われた私の言葉や習慣の教育係でもあったキャリーさんはこのギルドの中で私の名前を呼んでくれる数少ない人でもある。私にとっては人のお姉ちゃんやお母さんのようなそんな人だ。私の服の状況を見て落ち込みながらも、私を抱きしめ撫でてくれた。大きいおっぱいが頭を包んでくれて気持ちいいがそれ以上押しつけらると呼吸ができなくなる。気が済んだのかようやく解放してくれて


「とりあえずいま着る服ね。どうしようか。ジークフリートに乗るならスカートはやめた方が良いし、この小姓セットかな。あまり可愛くなくてごめんね。また今度服作ってあげるから」


 白のブラウスと黒のズボンというオーソドックスな服を与えられた私はボロになった服を脱いでそれに着替えた。キャリーさんも籠を物色して服を選んでいた。私とキャリーさんの着替えが終わっても団長の方から呼び出しがなかったので、キャリーさんに昨日から今までのことを話していた。火事の原因だと言ったときはちょっと顔が曇っていたように思えたが、外からのドスンッという大きな音と地響きでそれどころじゃなくなった。慌てて天幕から出ると見ただけで怒っているのがわかるジークフリートと団長の前に立つ剣を構えた冒険者らしき人達が見えた。

 ジークフリートのそばに寄りたいが尻尾を左右に振り回しているので下手に近づいたら私でも危ない。名前を叫んで見ると私の方を振り向いてくれて、多少落ち着いたらしいがそれでも怒りは収まらないみたいだ。

 何を怒っているのか気になりジークフリートと対峙している冒険者を目を凝らして見る。すると夜中に襲って来た連中が見えた。団長の隣には昨日、一番に切りかかってきた男も見えた。彼らに対してジークフリートは怒っているのだ。しかし彼らも団長に言い寄っている。何を言っているのかはわからないがそれでも私たちのことを悪く言っているのはわかる。団長も困った顔をしていた。私もどうすればいいかわからないがこのままではダメというのもわかる。


「ほら、行くよ。オデットは悪いことはしてないんだろう? それじゃあちゃんと団長に説明しないと。私も手伝うからさ」


 そう言って私の背中を押してくれたのはキャリーさんだった。キャリーさんに励まされながら団長の元に向かう。


「来たか。オデット、お前からも説明してくれ。途中で口出しはせんから昨日から今日までのことをありのままにな」

「だから言ってるだろ、俺らはあの竜に襲われたんだ。仲間もみんな死んじまった。その小娘が竜の飼い主なら責任取ってもらわねえとな。所属しているギルドにもだ」


 その男は嫌らしい笑みを浮かべながら私に詰め寄る。キャリーさんが前に出て私は隠されたが、それでもあの物を見て価値を測るような笑みは当分忘れないだろう。

 団長にも昨日の夜に襲われたこと、町まで逃げたが町人にも襲われてここまで逃げてきたことを伝えた。すると逆に襲われた位置や、襲ってきた人数を聞かれたので、襲ってきた位置は森が燃えている辺りで、人数はたくさんとだけ答えた。暗くてよく分からなかったし人数なんて数えている余裕もなかった。それでもあの矢の数と魔法の数ではそれなりの人数がいたのだろうと思う。


「ギルマスなら、メンバーの言葉を信じないといけないな。それにお前さんたちの言うことには不思議な点がいくつもある。どうしてそんなに森の奥でしかも大勢でいたんだ?」

「おいおい、ガキの言うことを信じるのか? それはだな、大勢で行けば楽に獲物が狩れるからだ」

「冒険者とは精鋭で出来るだけ少ない人数のパーティーで討伐をするものだったと思うが。そんな人数はギルドもパーティーとは認めないだろう」


 団長がおかしいと思ったことを冒険者に問うと、冒険者はにやけた顔のまま説明を始めた。


「そうだよ。普通はもっと少ないパーティーだ。しかし何事にも例外があってな。ギルド支部が認めた依頼なら認められるんだぜ」

「ほう、それはどんな依頼だ?」

「ええっとだな、あ~、……森の中に巨獣が現れたので速やかに討伐するようにという依頼だ」

「そうか、それはどんな巨獣と聞かされていたんだ?」

「それは、……大きい獣とだけ」


 団長からの質問が始まると冒険者たちは視線を彷徨わせながら歯切れ悪く答えていた。明らかに嘘をついているのが私でもわかる。他にも団長は質問していたが冒険者たちははっきりとものを言わない。団長の質問も終わると微妙な空気が流れる。彼らも最初ほどの勢いはなく一部の人に限ってはいつの間にかいなくなっていた。


「ここで話していても埒が明かねえ、これ以上の話し合いは冒険者ギルドでだ。よっし、前の町まで戻るぞ。準備しろ! こいつらも一緒だ」


 団長が周りにいた団員が驚きながらも出発の準備を始めた。それを聞いた冒険者たちは


「向こうのエリシンよりこっちのウォルターの方が近いぜ、旦那」

「戻るにしても一度ウォルターの方で備蓄を整えてからの方がいいんじゃないのか?」


 とっさにウォルターに行けと説得を始めた。どう考えても怪しい。それは団長も同じようで


「どうしてもウォルターに連れてきたいみたいだが、ウォルターの町はうちの団員を攻撃した。ならばエリシンで情報をまとめた方がいい。状況によっては飛ばすことも視野に入れてな」


 そうして前の町、エリシンに戻ることになった。状況を説明するために彼らも連れて行く。火事の性で街道に魔物や獣が飛び出してくるということで私とジークフリートもキャラバンの列に付いていく。実際に歩いて行くのは初めてでちょっと楽しい。前は檻の中でじっとしているだけだったし、空を飛べるようになってからは別行動だったから。

 冒険者たちは私たちとは離されて一番前を警備さんと歩いていた。犯罪者ではなく説明を協力してもらう立場だから縛って猿轡をして馬車の中とはいかないらしい。時々こちらを見てくるが気にしないように心掛け、ジークフリートにも落ち着くように頼んだ。結局いなくなった人たちは戻ってこなかったし、恐らくリーダーだった人もどっかに逃げてしまったのだろう。その件もエリシンに着いたら確認するらしい。

 そしてその夜、広場で宿泊の準備をしているとエリシンの方から騎馬が何騎かやってきた。騎馬に乗っていたのはエリシンの騎馬隊の隊員で森で起こった火事の原因を調べに来たらしい。ジークフリートジークフリートのブレスが原因だったと知られたらどうなるのだろうか? キャリーさんは大丈夫と言っていたが私は気が気でなかった。そしてそれは起こった。


「あいつだ! あいつの竜が火を点けたんだ。大事な森を焼いたあいつには相当な罰を与えなくては! あの連れている竜にもだ!」


 叫んだのは連行していた冒険者だった。彼が指さしたのはもちろん私たちで、騎士の剣も私とジークフリートの方に殺気と共に向けられる。ここまで武器を向けられることが多いと慣れてしまうし、今回は警戒だけで実際に攻撃してくる様子はなかったのでいささか余裕があった。キャリーさんの後ろには隠れてしまったが。


「詳しい話を聞かせてくれ。お前が、その竜がこの火災の原因というのは本当か?」


 迷った。どのように話せばいいのだろう。森で襲われ、撃退するためにブレスを放ったのが原因だと言えば納得してくれるのだろうか? それとも知らないと言って誤魔化せばいいのか? 言葉に詰まっていると


「どうした! 黙っていてはわからんぞ!」


 声を荒げ返答を求めてきた。キャリーさんの後ろで震えていると


「それを詳しく話そうとエリシンまで戻っていたところなのです。騎士様。町でこの子の話と彼らの話をそれぞれ聞いてください」


 間に入ってくれたのは団長だった。最近本当に私に対しては甘い気がする。この間までは目にも入れなかったのに。庇ってくれたのはありがたいがそれでもこんなに対応が違うと戸惑う。


「わかった。彼らにも火事の原因をなぜ知っているのか聞けばいいのだな」


 兜でわからないが声の感じは挑発しているようにも嘲っているようにも聞こえた。お見通しなのかもしれない。

 ここからは騎士の人たちとエリシンを目指した。そしてエリシンで私を待っていたのは冷たい牢獄での生活だった。


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