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憂鬱な文学少女  作者: あら不思議、油汚れがこんな簡単に!
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3.「全部同じでつまらない!」

「だから世間ではそれを引用と言うんじゃないか。」


そうでなければ誰も何もできなくなってしまうからな。

そうは思っても今の彼女は聞く耳を持たないので言わないでおこう。


「引用……そうね、そうでなければ辞書や言葉など成り立たないもの。

私が言いたのはそういう事ではないの。」


そう言ってから彼女は一呼吸置き


「引用、テンプレ、王道と言いつつ実質それは土足で上がり踏み荒らしているに過ぎない。

即ち『努力しない人が努力した人を踏みにじっている』ということなのよ。」


窓の外に視線をやりながらポツリと彼女はもの悲しげに言った。

そんなことより、夕日や少女という組み合わせは似合うな。

恐れ入った、いやいや、これは参った参った。


「何も全部が全部ダメなわけでも盗作と言っているわけではないのよ?」


私に背を向けて話していた彼女はクルリと一回転をし私の方を見た。


「ちょっと!貴女また聞いてなかったでしょ!」


あっ、バレた。

隠す気は元々なかったけど。


「聞いていないわけじゃないが容量を得ない話程つまらない物はないと思うのだが。」


まぁ、真面目に聞いていなかったがな。


「『活字狂い』の癖にせっかちの上飽き性だなんて救いようがないわ!」


彼女は私が何を言っても怒らないと思っているのか?

そうだとしたら恐れ入った、見事なお馬鹿さんじゃないか。


「五月蠅い放っておけ。」


しかし、言われっぱなしも癪だったので文句は言っておく。


「もっと話していたかったけれど時間も迫ってきているし仕方ないわ……。」


やっと終わりか。座りっぱなしだったから腰が痛いな。

そう思いながら私を席を立とうとしたのだが


「話はまだ終わってないわよ?」


と言いながら私の肩を押さえつける彼女に阻止されてしまった。

読みたい本やオンノベがあるのに全く持って解せぬ。


「結論から言うと、王道もテンプレも私は好きよ!」


彼女は……いや、この文学少女は何を言っているのだ、やはり頭がかわいそうな子だ。


「その残念そうな子を見る目やめて頂戴!人の話は最後まで聞けと教わらなかったのかしら!」


テンションが高いな。

私には到底真似出来ない。

それより帰りたい。


「もう……!私は文字が好き、だから本が好き。日常がつまらない、だから他者の世界が、物語が好き。

小説を書くということは簡単で難しいわ。一から十まで思いついたって五までしか書けない、表現できない。私だってそう、他者の事をどうこう言えない。けど、最近の小説は読んでいて悲しくなるわ。」


私は何度目か分からない溜息を付いてそして二度目の言葉を口にした。


「そうか、結局のところ君は何が言いたいんだい?」


文学少女は子供のような目をして


「全部同じでつまらない!」


と言い放った。


「そうか、そうか。時に『文学少女』よ。」


キョトンとした後に


「何かしら?」


そう聞き返す文学少女。


「世には素晴らしい格言があるのだが知っているかい?」


そこで一度区切り私は満面の笑みで


「嫌なら見るな。」


と言ってやった。

傷ついた顔をする文学少女だが知ったことではない。

嫌なら読まなければいいだの話だ。ただそれだけのことだ。


「ち、違うの。そうじゃないの!そうじゃないのよ……。」


これは予想外だ。

まさか泣き始めるとは思いもしなかった。

ハラハラ落ちる滴とそれに反射する夕日の淡い光景に私は心を奪われた。


「嫌じゃないのよ、でも、面白いのが、読みたいの、だけど、全部同じだと、つまらないのよ、面白くてもつまらないのよ、食傷気味なの。」


泣きながら話しているせいか単語区切りで分かりづらい。

でもそれを面倒だとは、不快だとは感じない。

どうやら私は文学少女に惹かれてるようだ。

だからなのだろうか?


「ほら、泣かないで。」


手を差し伸べてしまっていた。

そのせいか、驚いた顔をする文学少女。

どうやら涙は止まったようだ。


「もう日が暮れている、今日は帰るべきだ。」


私の言葉にまた泣きそうな顔をする彼女。


「何を勘違いしているか知らないが、今日はもう終わる。だが明日もある。」


そう言ってやったら文学少女は花のような笑顔になり


「そうよね!また明日あるものね!それじゃあ今日の議題はもう終わりにしましょう!

 また明日、別の議題をすることにしましょう!」


私の頬はこれでもかというくらい引き攣った。

何かもう、いろいろ早まった気がするけど時既に遅し。


「それじゃあ『活字狂い』さん、また明日!」


そう言い文学少女は去って行った。


これを境に文字だけだった私の日常は少しだけ色づいた。


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